拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

思い出は輝いて 1 ~荻原翔子の思い出~

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「生徒会長になんてならなくてもいいんじゃない?」
思いもよらない言葉に、萩原翔子は驚いた。
もうすぐ生徒会選挙という時になって、その言葉を言い出したのは、現生徒会長であり「全校生徒のお姉さま」と名高い小鳥遊志奈さんだったからだ。

場所は生徒会室にて。
もうすぐ始まる生徒会長選挙に向けて、当然立候補するつもりだった翔子は、アドバイスを受けるために志奈さんに相談していた所だった。
折しも二人きりだったので、翔子も聞きやすかったし、志奈さんも随分率直な物言いだった気がする。
ここに副会長である笹原真美子がいれば、速攻刺さるような視線が飛んできたはずだ。
周りの空気を気にしやすい所のある翔子には、真美子さんの視線は恐ろしく、容易に思考を停止させてしまう自信がある。
真美子さんに比べると、華やかでしっかりものでいながら、笑顔の多い志奈さんは、話しかけやすく憧れの存在だった。

志奈さんは、いつも通り柔らかな笑顔ので言った。
「だって翔子ちゃん、確かメンティがいたわよね」
「ええ、それはそうなんですが」

確かに翔子には1年生にペアがいた。
彼女が入学したての頃から、図書室で顔を合わせることがあり、気が付けば色々話をするようになった。
生徒会役員がペアを作るのはどうかと思ったのだが、彼女自身、助言者制度に色々不安を持っているという相談を聞いているうちに、彼女のことが気になるようになっていた。
翔子は生徒会長には自分がなると思っていたし、そうなればその時点でペアは解消しなくてはならない。
躊躇いもあったが、結局体育祭が終わったすぐ後、自分から申し込みしてペアになってしまったのだ。

生徒会長になるまでの期間限定。
それは相手にも告げていることであったし、その時点で生徒会長にならないという選択肢は翔子の中にはなかった。
多少気になったのは長谷川凛子が出馬の意思があると聞いたことだろうか。
一時は成績の落ち込んでいた彼女は、2年生になるころには首席争いをするところまでになり、生徒会のお手伝いメンバーにもなった。
そこまでの巻き返しをし、目標を持っている彼女は輝いて見えたし、努力をする人のことが翔子は好きだ。
そんな彼女が生徒会長選挙への立候補。応援したくなった気持ちがあることは否めない。
だが、それで生徒会長に立候補するのを止めようとは思わなかった。
誰が最終的にそうなるかは、投票する人達に任せればいい。

本来ならば東組首席である笹原真美子さんは誰よりも生徒会長に相応しいと言える。
だが結局、生徒会長として立ったのは、全校生徒からの支持を持つ小鳥遊志奈さんだ。
その結果はやはり正解だったと思っている翔子は、最後の決定は委ねるくらいの気持ちだった。

だから志奈さんの言葉には頷けないでいると、向こうはじぃっとこちらを見て、拗ねたようにそっぽを向いた。
「いいなあ、羨ましい」
「え?」
思いがけない言葉に、翔子は思わずぽかんとしてしまった。
「羨ましいなあ。可愛いペアがいて」
「何を言ってるんですか?」
まさか志奈さんが自分のメンティである東郷千沙を可愛いと思っている、などとは考えない。
もちろん翔子にとっては特別な存在だが、志奈さんの言い方は千沙個人に対するものではなさそうだった。

志奈さんはその辺の椅子に適当に座ってから、頬杖をついた。
どこか愛らしい仕草に、翔子は目を引き寄せられてしまう。
「この学園生活で、特別な先輩がいて後輩がいて。みんなそうして楽しそうにしてるでしょう?生徒会長は決して手に入れられないものよ。どうしてそれを持っているのに、わざわざ手放そうとするの?」
不満げな志奈さんの言葉に、翔子は戸惑いながら素直に答えた。

「それは、当然のことだと思っていたので」
翔子がそう言うと、ふ~ん、と軽く返事が返った。
それから急に、何かを思い出したように機嫌よく、にっこりと笑った。

「まだ真美子にしか言ってないんだけどね」
「はい」
急に変わった表情に、少しどきどきしながら相槌を打つ。
続いて出た志奈さんの言葉は、翔子が思ってもいない言葉だった。
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