拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

思い出は輝いて 3

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柚鈴がどうにか同窓会テント前に戻ると、志奈さんはいなかった。
いたのは凛子先輩、しのさん、真美子さんの3人。
絵里は、白組の待機場所に戻ったらしい。

今は借り物競争の3年生が始まっている。
志奈さんはこの後のインタビューの為に、放送部に連れて行かれた後だったようだ。

やっぱり余計なこと言わないでくださいって伝えるべきだっただろうか…
志奈さんに何を話されるのか分からない恐怖から、後悔してしまう。
その時戻ってきた柚鈴に気付いた様子で凛子先輩が声を掛けてきた。

「お帰りなさい、柚鈴さん。結果から考えると無事、逃げ切ったのかしら?」
「あはは。3年の萩原翔子先輩のおかげで、どうやら助かったようです」
「翔子さん?」
凛子先輩は目を瞬かせた。
そういえば、凛子先輩と翔子先輩の関係性は少々複雑なのだと遥先輩が言っていたことを思い出す。
とは言え、今は柚鈴も疲れているし、凛子先輩はただ驚いたようにしか見えなかったので、素直な現状を伝えることにした。
「色々偶然が重なったみたいですけど、正直、さっぱりよく分かりません。東郷先輩も別に諦めたわけではないようです」

その言葉に凛子先輩が答える前に。
「まあま、何にしろ良かったじゃない。よく頑張ったわね。褒めてあげようか?」
どこか悪い笑顔を作った、しのさんが会話に入ってきて、柚鈴は慌てて首を振って拒否した。
この人の冗談に付き合う余裕は今はない。

真美子さんは、しのさんの様子にやれやれとため息をついて、特に何も言わない。
思う所はあるのだろうが、口を出しても喜ばれるだけだと分かっているのだろう。
凛子先輩は苦笑してから、柚鈴を見た。

「でも、どうしてここに戻ってきたの?白組の待機場所に戻れば良かったのに」
「いや、そう思ったんですけど」
実は一度は白組の待機場所に向かって歩きだしたのだ。
しかし、途中でふと気づいた。

「…白組に戻ったら遥先輩がいるじゃないですか」
独り言のように呟く。
きっと遥先輩のことだ。志奈さんと一緒に走ったことを指して、質問攻めに合わされるに決まっている。
今まで黙っていた分の反応を想像すると恐ろしかった。
「なるほどね」

凛子先輩は納得したように頷いた。

…なるほど?
その言葉が引っかかって、柚鈴は首を傾げた。
そういえば、凛子先輩は何故、何も聞いてこないし言わないのだろう。
色々気になることがあったため、今の今まで凛子先輩の反応について考えなかったのだが、これはおかしくないだろうか。

え?なんで?

マジマジと凛子先輩を見つめていると、不思議そうに見つめ返される。
「どうしたの?」
「……」

しばし考えて。

え、つまり。
つまり、まさか。

柚鈴は、間を置いてから、様子を伺うように口を開いた。
「凛子先輩、遥先輩に一緒に怒られてくださいね」
「……」
凛子先輩は一瞬、虚を突かれたような顔をする。
それから、天を仰いでから、大きくため息をつきつつ下を向く。

「参ったわねぇ…」

その反応で柚鈴は確信を得た。
「凛子先輩はご存じだったんですね?!」
参った、と思うのは柚鈴の方だ。
黙っていたことに散々罪悪感があった相手の片方が、既に事情をご存じだったなんて考えてもいなかったのだ。

「事情を知っていた、というのは御幣ごへいがあるわ。私は、志奈さんに妹が出来る話を卒業前に聞いていただけだもの。あなたが入学して来て、もしかしてって推察していただけだもの」
「だけ、ねえ」

凛子先輩の言葉に、含みのある言い方をしたのは、しのさんだ。
何か思う所がある、と言わんばかりの言い方に、一瞬凛子先輩は目を泳がせた。

「何か、おかしなことを言いましたでしょうか?」
「嘘は言ってないだろうけど、真実を隠そうとしている」
「何のことですか?」

強く言い返してみせるが、凛子先輩はどこか動揺しているように見えた。
その様子に満足したように、しのさんはニヤリと笑って口を閉ざした。

「…凛子先輩、何か隠しているんですか?」
「べ、別に隠してませんっ!もう、ちゃんと遥の説教は一緒に聞くから、勘弁してちょうだい!」

柚鈴が聞くと、凛子先輩は叫ぶように言い捨てた。
ここまで動揺する凛子先輩は珍しい気もしたが、遥先輩の攻撃を一緒に受けてくれるらしい。
腑に落ちないこともあるが、一先ずこれ以上は辞めることにした。
気になるが、ここで重ねて聞いて答えてくれるような話でもないのだろう。

そう考えることにした時。
借り物競争の3年生の時間が終了した。
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