250 / 282
第四章 6月
体育祭のあくる日は 4
しおりを挟む
一方、常葉学園高等部。
体育祭の翌日の休日であるというのに、長谷川凛子は野暮用で生徒会室にいた。
常葉学園生徒会室は同窓会館内一階にある。
学園敷地内でも、中々の広さの敷地を使って建てられた同窓会館は、理事会の面々も使用していたことがあり、中にはホール、客間から、調理室も設けられており、その管理をする管理人も存在する。ちょっとした催しやパーティなどが出来るように学園内でも豪奢な作りになっている場所である。
卒業生であるOGが主に使用する場所ではあるが、建前上学園内の施設。在校生もどうにか立ち入りやすいように思案した結果、生徒会室が同居することになっていた。
そしてこのことがまた生徒会メンバーが同窓会の世話をする一因にもなっているのだ。
また様々な行事ごとに、同窓会からの口出しを受けるのも生徒会が主になってしまう。
そうして歴代生徒会の悩みの種になっている事柄に繋がっていくのだ。
とはいえ、常時同窓会の人間がいるわけでもなく、普段の出入りは生徒会メンバーが主。
例えば、今日。
体育祭も終わり熱気も収まって、6月を迎え高等部は静かだった。
生徒会長である長谷川凛子は、その静けさに穏やかに文芸部から提出された原稿の数々に目を通している。
秋に行われる文化祭である常葉祭の生徒会の作品制作のためだ。
毎年常葉祭では、生徒会で一つ作品を提出、もしくは発表するのだが、今年は3年に一度の、兄妹校である尭葉校と共同制作した作品にしなければならない決まりの年。
尭葉学園は、元々はお嬢様校であった常葉学園と対になるように作られた男子校で、名門進学校となる。
昔は保護者を含めて、学園同士の交流をさせ、将来の良き伴侶を引き合わせるようなこともあったようだが、今はそういった風習はほとんどない。
かろうじて残っているものの一つが、この3年に一度の文化祭交流なのだ。
メインはお互いの文化祭へ生徒を招待し合うこと、なのだが、男子校女子校という形があるため、中々足が運べないということのないよう、生徒会が先陣を切り交流をし合い、共同作品を制作するのだ。
その作品は出来るだけ生徒たちが、何度も見たいと思うものであることが望まれる。
つまり自校の文化祭と、相手校の文化祭で。
今年度の初めに、二校の生徒会でまずは意見を出し合い、結果的に三年前の常葉祭にて好評であった生徒会作品と同じく『映画製作』をするということになった。
その後、題材を決めるため、文芸部より案としての作品を募集することになったのだ。
当然主演の一人とされてしまうのが生徒会長の凛子である。となれば題材は人任せに出来ない。
だから休日返上でこうして作品選びをしているのだ。
生徒会に並べられた、決して生徒用とは思えなさそうなアンティークな机の上には、その他に文化祭に向けて合同制作をすることになる尭葉学園と常盤学園の使用可能施設、予算申請案、これまでの前例を一覧にした表が並んでいる。
これらの資料も、実際に使用する作品の内容が決まらなければ、まとめようがない。
ここ数日、随分数をこなして読んでいるので、もさや手慣れたように、一つ一つの原稿を速読していき。
やがて凛子は一つの原稿を見てから手を止めた。
「……これ」
読み返して、目を見開いて、驚いた。
作品としては多少中途半端。
恐らく締め切りぎりぎりになったのだろう。
筋書きだけはどうにかまとめてある。
だが、その内容は凛子の心を掴んでしまった。
少し物憂げに外に目線をやって、思案に耽る。
問題だろうか?でも、選んでいいのであればこれがいい。
そう長谷川凛子にしっかり握られた手のには、1年東組春野幸と名前が記された原稿があった。
体育祭の翌日の休日であるというのに、長谷川凛子は野暮用で生徒会室にいた。
常葉学園生徒会室は同窓会館内一階にある。
学園敷地内でも、中々の広さの敷地を使って建てられた同窓会館は、理事会の面々も使用していたことがあり、中にはホール、客間から、調理室も設けられており、その管理をする管理人も存在する。ちょっとした催しやパーティなどが出来るように学園内でも豪奢な作りになっている場所である。
卒業生であるOGが主に使用する場所ではあるが、建前上学園内の施設。在校生もどうにか立ち入りやすいように思案した結果、生徒会室が同居することになっていた。
そしてこのことがまた生徒会メンバーが同窓会の世話をする一因にもなっているのだ。
また様々な行事ごとに、同窓会からの口出しを受けるのも生徒会が主になってしまう。
そうして歴代生徒会の悩みの種になっている事柄に繋がっていくのだ。
とはいえ、常時同窓会の人間がいるわけでもなく、普段の出入りは生徒会メンバーが主。
例えば、今日。
体育祭も終わり熱気も収まって、6月を迎え高等部は静かだった。
生徒会長である長谷川凛子は、その静けさに穏やかに文芸部から提出された原稿の数々に目を通している。
秋に行われる文化祭である常葉祭の生徒会の作品制作のためだ。
毎年常葉祭では、生徒会で一つ作品を提出、もしくは発表するのだが、今年は3年に一度の、兄妹校である尭葉校と共同制作した作品にしなければならない決まりの年。
尭葉学園は、元々はお嬢様校であった常葉学園と対になるように作られた男子校で、名門進学校となる。
昔は保護者を含めて、学園同士の交流をさせ、将来の良き伴侶を引き合わせるようなこともあったようだが、今はそういった風習はほとんどない。
かろうじて残っているものの一つが、この3年に一度の文化祭交流なのだ。
メインはお互いの文化祭へ生徒を招待し合うこと、なのだが、男子校女子校という形があるため、中々足が運べないということのないよう、生徒会が先陣を切り交流をし合い、共同作品を制作するのだ。
その作品は出来るだけ生徒たちが、何度も見たいと思うものであることが望まれる。
つまり自校の文化祭と、相手校の文化祭で。
今年度の初めに、二校の生徒会でまずは意見を出し合い、結果的に三年前の常葉祭にて好評であった生徒会作品と同じく『映画製作』をするということになった。
その後、題材を決めるため、文芸部より案としての作品を募集することになったのだ。
当然主演の一人とされてしまうのが生徒会長の凛子である。となれば題材は人任せに出来ない。
だから休日返上でこうして作品選びをしているのだ。
生徒会に並べられた、決して生徒用とは思えなさそうなアンティークな机の上には、その他に文化祭に向けて合同制作をすることになる尭葉学園と常盤学園の使用可能施設、予算申請案、これまでの前例を一覧にした表が並んでいる。
これらの資料も、実際に使用する作品の内容が決まらなければ、まとめようがない。
ここ数日、随分数をこなして読んでいるので、もさや手慣れたように、一つ一つの原稿を速読していき。
やがて凛子は一つの原稿を見てから手を止めた。
「……これ」
読み返して、目を見開いて、驚いた。
作品としては多少中途半端。
恐らく締め切りぎりぎりになったのだろう。
筋書きだけはどうにかまとめてある。
だが、その内容は凛子の心を掴んでしまった。
少し物憂げに外に目線をやって、思案に耽る。
問題だろうか?でも、選んでいいのであればこれがいい。
そう長谷川凛子にしっかり握られた手のには、1年東組春野幸と名前が記された原稿があった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる