拝啓、お姉さまへ

一華

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第四章 6月

体育祭のあくる日に 6

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何かおかしなことを言っただろうか。
そう幸が疑問に思うと、麗さんは無垢そのものな笑みを唇で作った。
「幸さんは、可愛らしいからもうお相手が出来ているかと思ったわ」
「とんでもないです!」
「本当に?全く?」
ガラス玉のように見透かすような瞳に見つめられて、幸は思わず息を飲んだ。
見えないものを見られているような気がする。
「その様子。何か、心当たりがあるのでしょう?」
穏やかなのに、どこか鋭い眼差し。
幸はふと昨日の体育祭での沢城先輩のことを思い出した。

そういえば、どうして沢城先輩は幸と走ってくれたのだろう。
借り物競争は、ペア推進の為に生徒会が考えた競技。
相手が沢城先輩であることを考えれば無理強いをするとも思えないが、それでも一緒に走ったのは事実だ。

私申し込み受けた、のかな?
夢中でゴールまで向かい、その後も沢城先輩はいつもどおりだった気がする。

寮に帰ってから、あれれ?はて?と気づいたのだが時はすでに遅し。
もうそこでは正しい答えは分からない。
え?あれ?あれってどういうこと??と。
まぬけかもしれないけれど、悶々とした夜を過ごすことになってしまった。

それを心当たり、といっていいのか悪いのか。
「ふふふ、れい様ったら。あんまり幸ちゃんを困らせないでくださいね」
目を白黒させて困っていた姿に、柔らかく笑って香苗さんが止めてくれる。
こちらは棘がない、どこまでも優しい物言いだ。
止められた麗さんは、目を瞬かせた。

「困らせてしまったかしら?だとしたらごめんなさい」
謝られて。魔法にかけられたように思考を巡らせていた幸は我に帰った。
「あ、いえ。あはは」
ごまかして笑うと、にっこり笑ってから香苗さんはメニューを差し出してくれる。
「幸ちゃん。良かったら何か注文してはどうかしら?」
「そ、そうですね」

そういえば喫茶店に入って、まだ何も注文していないことに気づいた。
何故か乾いてしまった喉を潤したい気がする。
2人を見れば、香苗さんの前にはカフェオレ。
麗さんの前には抹茶とあんみつが置かれていた。
「じゃあ抹茶オレを頂きます」
なんとなく間をとって、幸は注文した。
お店の人にお願いをすると、ほどなくして抹茶オレが幸の前に来た。

麗さんは、すいっと匙を動かして、あんみつを口に運ぶ。
甘いものが好きなのか、ふっと顔をほころばせて、幸せそうな顔をするのが幸の目を引いた。
…なんだか、不思議な人だなあ。子供みたいな顔を見せたり、見透かすようだったり。

思わず見ていると、気付いた麗さんはそれをどう思ったのか、ふわり、と笑った。
「私ったら助言者制度というものが、今の生徒の方々にどう受け入れられているのか知りたくて、つい気が急いてしまったみたいね」
それが謝辞を含んだ言い訳だと気付いて、幸はぷるぷると首を振って見せた。
「あ、いえ。提供出来るお話がなくて、申し訳ないです」
「幸ちゃんは、外部からの高等部入学で、まだ2ヶ月だものね」
香苗さんがおっとりとした口調で相槌を打つと、麗さんはそうだったわと頷いてみせた。
「ええ、ちゃんと香苗に言われていたのだったわ。ええと幸さんは確か東組だったわね」
「はい」
幸が頷くと、麗さんは何かに気付いたように、ふふっと笑った。
「春野さんが春の組に入るなんて、縁が深いわね」
「え?」
春の組、と言われて。
幸は意味が分からなくて首を傾げた。

「ご存知なくて?東は春を意味する方角なのよ」
「聞いたことはある気もしますが…」
「常葉学園が東西南北で組み分けされるようになったのは高等部の経営方針が変わってからだけど、それぞれにちゃんと意味があるの。例えば、学力の求められ、常葉学園が新しく力をいれて編成された特待クラスの東は春。物事の芽吹きや成長を願って付けられているのよ」
「そうなんですか」
組分けに方角が使用されるのは珍しいとは思っていたけれど、ちゃんと意味まであったとは。
幸は目を瞬かせた。

「東組は常葉学園で新しい未来を作るためのクラスになるようにというと期待されているのよ。覚えておいてね」
麗さんにそうに教えられて、幸は感動を覚えた。
そんな意味のある東組だったとは!なんて素敵なんだろう。
「はい。ありがとうございます!」
そう元気にお礼を返した。
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