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第四章 6月
体育祭のあくる日に 7
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抹茶オレを一口飲むと、ほろ苦く、そして甘い。
思わず幸の顔がほわんと緩んだ。
その様子に、香苗さんと麗さんは顔を見合わせてほほ笑んだ。
麗さんはお抹茶飲んでから、口を開いた。
「幸さんは、部活は何か入ってらっしゃるの?」
「私は文芸部でして」
幸が答えると、興味を引いたようだった。
「あら文芸部?今年の文化祭の生徒会作品はどうなるかご存知?」
「文化祭、ですか?」
「ええ。3年前の常葉祭の生徒会作品の原案は文芸部からの提供と聞いているの。とても印象的だったから、今年も期待しているのよ」
3年前、と言われれば、幸にも何の話かピンと来た。
3年に一度、生徒会が大掛かりな作品制作をする。
今年、まさにその年で、幸も文芸部員として作品を1つ提出しているのだ。
3年前の作品のタイトルは確か。
幸は思い浮かべてから口を開く。
「もしかして『お嬢さまの休日』ですか?とても面白く読ませて頂きました」
「読む?あら、では映画のほうは目にしてはいないのね」
幸が答えた言葉に、麗さんは驚いたような顔を見せた。
「3年前の作品なので、それは流石に」
答えるように、幸は眉を下げて見せた。
制作された映画映像のデータは、生徒会が保管していると聞いている。
幸が見れたのは、文芸部が保管している原作の方だった。
生徒会の課題の参考にしようと読ませてもらったのだが、中々面白かった。
映像でも観れるなら、本当は是非みたい。好評な映画だと聞いてるから尚更だ。
そんな幸の表情に、香苗さんは気になったように麗さんに尋ねた。
「どんなお話なんですか?」
麗さんはふふっと笑って答えた。
「『ローマの休日』のオマージュなのですって。こんなお話よ」
麗さんは話の内容をざっくり話し始めた。
時は大正時代。
お金持ちのお嬢様が、外国にお勤めの資産家にお嫁入りが決まる。
箱入りの彼女は世間知らず。
外国に、世間を全く知らないままお嫁に行くことを不満に感じたお嬢様は家出をしてしまう。
家出したお嬢様は、男子校に迷い込み、そこで知り合った男子学生にかくまってもらうことに。
そうして今までほとんど話したことのない同じ年頃の男性と話したり、世間の色んなものをみたりする内に、お嬢様と男子学生の間に仄かな恋心が芽生える。
しかしお嬢様の婚約者はその男子校の優秀な卒業生。
そのことを知った男子学生は身を引くような形で、彼女を見送ることを決めた。
彼に促される形で、お嬢様はとうとう家に帰る。
そしてお嫁入りのため、お嬢様は船で外国に旅立つ日に。
お嬢様は見送りに紛れた彼の姿を見つけた。
とはいえ、もちろん言葉を交わすことはない。
そこに迎えに来ていた婚約者に、故郷を離れるのは寂しくないかと聞かれる。
お嬢様は「素敵な休日の思い出が胸にあるから寂しくない」と答えて旅立っていく。
というストーリーだ。
「なんだか切ないお話ですね」
香苗さんがため息混じりに答えると、麗さんは少し不満そうに口を尖らせた。
「香苗ったら、毎年一緒にいきましょうと常葉祭に誘ってるのに、中々来てくれないんだもの」
「すみません。予定を空けたいとは思っているんですけど」
「今年は幸さんもいるし、一緒してくれるかしら?」
「はい。今年こそ予定を開けるようにします」
二人の様子が妙に微笑ましい。
直接の姉妹ではなくとも、そこには確かに紡がれるものがあるのだろう。
いいなぁ、なんか素敵。
幸は、口元を緩めた。
「今年も映画製作するみたいですよ。文芸部でそういうお話で原稿募集してました」
「そうなの。幸さんも何か作品を出したのかしら?」
麗さんの質問に、幸は思わず目線を泳がせた。
「え、ええと、一応。でも完成まで至ったとは言えない中途半端なもので。文化祭で作る予定の文芸部冊子には間に合わせようと思ってます」
間に合わせたかったのに間に合わなかったのだ。
曖昧に笑うしかない。
麗さんはそんな幸を追求はしなかった。
優しく目を細めて笑う。
「じゃあ冊子は必ず手に入れるわね」
「私も見たいわ。楽しみ」
麗さんと香苗さんの言葉に幸は身が引き締まるような思いになった。
「頑張ります!」
そう叫んだのは、本心からだ。
この後、大変な目に合うと分かっていれば、きっと違う言葉になっていたはずである。
だが分かっていなかったからこそ、この麗しい卒業生との時間を心から楽しめたのも、後から思えば間違いない事実なのであった。
思わず幸の顔がほわんと緩んだ。
その様子に、香苗さんと麗さんは顔を見合わせてほほ笑んだ。
麗さんはお抹茶飲んでから、口を開いた。
「幸さんは、部活は何か入ってらっしゃるの?」
「私は文芸部でして」
幸が答えると、興味を引いたようだった。
「あら文芸部?今年の文化祭の生徒会作品はどうなるかご存知?」
「文化祭、ですか?」
「ええ。3年前の常葉祭の生徒会作品の原案は文芸部からの提供と聞いているの。とても印象的だったから、今年も期待しているのよ」
3年前、と言われれば、幸にも何の話かピンと来た。
3年に一度、生徒会が大掛かりな作品制作をする。
今年、まさにその年で、幸も文芸部員として作品を1つ提出しているのだ。
3年前の作品のタイトルは確か。
幸は思い浮かべてから口を開く。
「もしかして『お嬢さまの休日』ですか?とても面白く読ませて頂きました」
「読む?あら、では映画のほうは目にしてはいないのね」
幸が答えた言葉に、麗さんは驚いたような顔を見せた。
「3年前の作品なので、それは流石に」
答えるように、幸は眉を下げて見せた。
制作された映画映像のデータは、生徒会が保管していると聞いている。
幸が見れたのは、文芸部が保管している原作の方だった。
生徒会の課題の参考にしようと読ませてもらったのだが、中々面白かった。
映像でも観れるなら、本当は是非みたい。好評な映画だと聞いてるから尚更だ。
そんな幸の表情に、香苗さんは気になったように麗さんに尋ねた。
「どんなお話なんですか?」
麗さんはふふっと笑って答えた。
「『ローマの休日』のオマージュなのですって。こんなお話よ」
麗さんは話の内容をざっくり話し始めた。
時は大正時代。
お金持ちのお嬢様が、外国にお勤めの資産家にお嫁入りが決まる。
箱入りの彼女は世間知らず。
外国に、世間を全く知らないままお嫁に行くことを不満に感じたお嬢様は家出をしてしまう。
家出したお嬢様は、男子校に迷い込み、そこで知り合った男子学生にかくまってもらうことに。
そうして今までほとんど話したことのない同じ年頃の男性と話したり、世間の色んなものをみたりする内に、お嬢様と男子学生の間に仄かな恋心が芽生える。
しかしお嬢様の婚約者はその男子校の優秀な卒業生。
そのことを知った男子学生は身を引くような形で、彼女を見送ることを決めた。
彼に促される形で、お嬢様はとうとう家に帰る。
そしてお嫁入りのため、お嬢様は船で外国に旅立つ日に。
お嬢様は見送りに紛れた彼の姿を見つけた。
とはいえ、もちろん言葉を交わすことはない。
そこに迎えに来ていた婚約者に、故郷を離れるのは寂しくないかと聞かれる。
お嬢様は「素敵な休日の思い出が胸にあるから寂しくない」と答えて旅立っていく。
というストーリーだ。
「なんだか切ないお話ですね」
香苗さんがため息混じりに答えると、麗さんは少し不満そうに口を尖らせた。
「香苗ったら、毎年一緒にいきましょうと常葉祭に誘ってるのに、中々来てくれないんだもの」
「すみません。予定を空けたいとは思っているんですけど」
「今年は幸さんもいるし、一緒してくれるかしら?」
「はい。今年こそ予定を開けるようにします」
二人の様子が妙に微笑ましい。
直接の姉妹ではなくとも、そこには確かに紡がれるものがあるのだろう。
いいなぁ、なんか素敵。
幸は、口元を緩めた。
「今年も映画製作するみたいですよ。文芸部でそういうお話で原稿募集してました」
「そうなの。幸さんも何か作品を出したのかしら?」
麗さんの質問に、幸は思わず目線を泳がせた。
「え、ええと、一応。でも完成まで至ったとは言えない中途半端なもので。文化祭で作る予定の文芸部冊子には間に合わせようと思ってます」
間に合わせたかったのに間に合わなかったのだ。
曖昧に笑うしかない。
麗さんはそんな幸を追求はしなかった。
優しく目を細めて笑う。
「じゃあ冊子は必ず手に入れるわね」
「私も見たいわ。楽しみ」
麗さんと香苗さんの言葉に幸は身が引き締まるような思いになった。
「頑張ります!」
そう叫んだのは、本心からだ。
この後、大変な目に合うと分かっていれば、きっと違う言葉になっていたはずである。
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