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第四章 6月
お姉さま、予想外です! 7
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生徒会室に入ると、既にそこには生徒会長である長谷川凛子先輩がいた。
「あら、明智さん。こんにちは。幸さんを連れてきてくれたの?」
その隣には並ぶように二人の先輩方がいる。その人達のことは柚鈴もこれまでの式典とかのイベントで知っている。
二人の襟元に光る両翼の銀のバッチ。
副生徒会長である木下瑠。東組の特待生で、ベリーショートの髪と大きな瞳が印象的な人だ。
書記である楢崎和は北組の生徒。まつ毛の長い細い目、そして右にある小さな泣きホクロが妙に色っぽい。こちらは木下先輩とは対照的に、長い髪を後ろで一まとめしていて、大きなバレッタで止めている。
「あら、小鳥遊元生徒会長殿の妹君までいらっしゃる」
どこか芝居がかった物言いで楢崎先輩は柚鈴に声を掛けた。
「こんにちは」
ひとまず挨拶だけすると楢崎先輩は興味深そうに柚鈴に目線を送ってくる。
まじまじと、という言葉じゃ足らないくらい、妙にねっとりとした視線で、柚鈴は冷や汗が出た。
「やめなさいよ、和。妹さんの居心地が悪そうじゃない」
「興味のあるものは仕方ないでしょう」
呆れた木下先輩の言葉に拗ねたように言いつつも、ぷいっと目を逸らしてくれた。
…助かった。
何故か蛇に睨まれた何かになって気がしてしまったのだ。
よく分からないけど、妙な迫力があった。
その様子に凛子先輩は苦笑してみせた。
「柚鈴さんは今日は幸さんの付き添いかしら?」
「そう、でもあるんですけど、ちょっと凛子先輩にお話がありまして」
「話?」
「話、というか相談というか」
ちょっと切り出しにくくて、曖昧な言い方をしていると、目を逸らしてますと言った感じで窓の外を眺めていた楢崎先輩が口を挟んだ。
「察しがわるいわね、凛子。おまぬけさん」
「何か心あたりがあるの?」
「考えてごらんなさい。体育祭のあとの今日でしょう。私でも小鳥遊柚鈴さんに関しては興味深いわ」
「はあ…」
だからどうした、と言う顔を凛子先輩がしていると、楢崎先輩はくるりと凛子先輩に顔を向けて目を細めた。
「なら2年生あたりでも興味持った子たちがいてもおかしくないでしょう。さしずめ、そういった上級生が押し掛けて困ってるとかそういうお話でしょうよ」
どこかどや顔で楢崎先輩は言ってのける。
すごいでしょ!と妙に誇らしげなのが…
「…察しが良すぎる。どうしてそう思うのよ」
木下先輩が胡散臭げに聞いた。
「名推理でしょう?」
「種を聞いてるのよ」
「あら、どうして私が状況から判断したと思ってくれないわけ?」
「普段の行いでしょう」
「ひど~い、瑠ったら信用がなさすぎるわ」
「いいからさっさと白状しなさい」
木下先輩にせかされると、楢崎先輩は口を尖らせて不満そうにした。
しかし観念したように肩を竦めてから、つまらなそうに髪をいじってみせた。
「うちのクラスの子が昼休みに1年東組に見に行ったのよ」
「え」
これには柚鈴もびっくりである。
まさか3年生まで教室に来ていたとは思ってもいなかったのだ。
「それで彼女に会えなかった2年生と随分すれ違ったそうなの」
「ああ、だから知っていたの」
凛子先輩が納得したように頷くが、木下先輩は呆れたようにだった。
「義妹だからって、押し掛けてどうするのよ」
「助言者になりたいってことじゃない?」
「なにそれ」
「小鳥遊志奈さまの妹君ならまあ仕方ないでしょう。お近づきになって家に招待でもされてごらんなさい。そこには志奈さまがいらっしゃるのよ。助言者である上級生に『うちの妹をよろしくお願いします』なんて言われた日には舞い上がってしまうでしょうよ」
「…そういうものなの?」
流石に凛子先輩も眉を顰めるが、楢崎先輩は気にはしない。
「そりゃあ、凛子みたいに昨年の生徒会で可愛がられ、一緒に活動していれば、わざわざそんなまどろっこしいことはしないでしょうけど?志奈さまの周りには副生徒会長である笹原真美子さまやら、ご友人のどなたかがバリケードのようにいらっしゃることが多かったもの。大概の生徒は手紙を渡すのが精一杯。そりゃあ縁遠かったようよ。仲良くなれて、独り占めできるチャンスがあると思えば気持ちは分からないでもないけれどね」
「和が志奈さんにそんなに興味があったなんて知らなかったわ」
「あら、私は美しいものはなんでも好き。手紙を渡したことはないけれどね」
楢崎先輩は目を細めてにっこりと笑った。
「あら、明智さん。こんにちは。幸さんを連れてきてくれたの?」
その隣には並ぶように二人の先輩方がいる。その人達のことは柚鈴もこれまでの式典とかのイベントで知っている。
二人の襟元に光る両翼の銀のバッチ。
副生徒会長である木下瑠。東組の特待生で、ベリーショートの髪と大きな瞳が印象的な人だ。
書記である楢崎和は北組の生徒。まつ毛の長い細い目、そして右にある小さな泣きホクロが妙に色っぽい。こちらは木下先輩とは対照的に、長い髪を後ろで一まとめしていて、大きなバレッタで止めている。
「あら、小鳥遊元生徒会長殿の妹君までいらっしゃる」
どこか芝居がかった物言いで楢崎先輩は柚鈴に声を掛けた。
「こんにちは」
ひとまず挨拶だけすると楢崎先輩は興味深そうに柚鈴に目線を送ってくる。
まじまじと、という言葉じゃ足らないくらい、妙にねっとりとした視線で、柚鈴は冷や汗が出た。
「やめなさいよ、和。妹さんの居心地が悪そうじゃない」
「興味のあるものは仕方ないでしょう」
呆れた木下先輩の言葉に拗ねたように言いつつも、ぷいっと目を逸らしてくれた。
…助かった。
何故か蛇に睨まれた何かになって気がしてしまったのだ。
よく分からないけど、妙な迫力があった。
その様子に凛子先輩は苦笑してみせた。
「柚鈴さんは今日は幸さんの付き添いかしら?」
「そう、でもあるんですけど、ちょっと凛子先輩にお話がありまして」
「話?」
「話、というか相談というか」
ちょっと切り出しにくくて、曖昧な言い方をしていると、目を逸らしてますと言った感じで窓の外を眺めていた楢崎先輩が口を挟んだ。
「察しがわるいわね、凛子。おまぬけさん」
「何か心あたりがあるの?」
「考えてごらんなさい。体育祭のあとの今日でしょう。私でも小鳥遊柚鈴さんに関しては興味深いわ」
「はあ…」
だからどうした、と言う顔を凛子先輩がしていると、楢崎先輩はくるりと凛子先輩に顔を向けて目を細めた。
「なら2年生あたりでも興味持った子たちがいてもおかしくないでしょう。さしずめ、そういった上級生が押し掛けて困ってるとかそういうお話でしょうよ」
どこかどや顔で楢崎先輩は言ってのける。
すごいでしょ!と妙に誇らしげなのが…
「…察しが良すぎる。どうしてそう思うのよ」
木下先輩が胡散臭げに聞いた。
「名推理でしょう?」
「種を聞いてるのよ」
「あら、どうして私が状況から判断したと思ってくれないわけ?」
「普段の行いでしょう」
「ひど~い、瑠ったら信用がなさすぎるわ」
「いいからさっさと白状しなさい」
木下先輩にせかされると、楢崎先輩は口を尖らせて不満そうにした。
しかし観念したように肩を竦めてから、つまらなそうに髪をいじってみせた。
「うちのクラスの子が昼休みに1年東組に見に行ったのよ」
「え」
これには柚鈴もびっくりである。
まさか3年生まで教室に来ていたとは思ってもいなかったのだ。
「それで彼女に会えなかった2年生と随分すれ違ったそうなの」
「ああ、だから知っていたの」
凛子先輩が納得したように頷くが、木下先輩は呆れたようにだった。
「義妹だからって、押し掛けてどうするのよ」
「助言者になりたいってことじゃない?」
「なにそれ」
「小鳥遊志奈さまの妹君ならまあ仕方ないでしょう。お近づきになって家に招待でもされてごらんなさい。そこには志奈さまがいらっしゃるのよ。助言者である上級生に『うちの妹をよろしくお願いします』なんて言われた日には舞い上がってしまうでしょうよ」
「…そういうものなの?」
流石に凛子先輩も眉を顰めるが、楢崎先輩は気にはしない。
「そりゃあ、凛子みたいに昨年の生徒会で可愛がられ、一緒に活動していれば、わざわざそんなまどろっこしいことはしないでしょうけど?志奈さまの周りには副生徒会長である笹原真美子さまやら、ご友人のどなたかがバリケードのようにいらっしゃることが多かったもの。大概の生徒は手紙を渡すのが精一杯。そりゃあ縁遠かったようよ。仲良くなれて、独り占めできるチャンスがあると思えば気持ちは分からないでもないけれどね」
「和が志奈さんにそんなに興味があったなんて知らなかったわ」
「あら、私は美しいものはなんでも好き。手紙を渡したことはないけれどね」
楢崎先輩は目を細めてにっこりと笑った。
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