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第四章 6月
お姉さま、予想外です! 8
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「柚鈴さんのお話は、和が言った通りで間違いないの?」
「まあ、はい。すみません、それで…生徒会のお仕事の後で相談できれば助かるんですけど…」
柚鈴が遠慮がちにいうと、すかさず楢崎先輩は不満そうに声を上げた。
「あら、小鳥遊志奈さまの妹君のことだもの。お悩み相談なら、私もご一緒したいわ。一緒に解決したい~~」
まるでお出かけの置いてきぼりをくらう子供みたいな言い方だ。
な、なんでご一緒するんですか…
恐らくはその場にいる楢崎先輩以外の人は、柚鈴と同じようなことを感じたのだろう。
生徒会室が一瞬妙に静かになった。
「黙りなさいっ」
いち早く反応した山下先輩がぺしっと楢崎先輩の額を叩き、凛子先輩は妙に悟ったように頷いた。
「後にさせてもらいましょう。一先ずこっちの話を纏めて、あとで場所を変えて話すことにしましょう」
「え~。もう、凛子ったら意地悪」
額を押さえて抗議する楢崎先輩のことから目をそらした凛子先輩は、話を切り替えるように幸を見た。
「それでは、幸さんを今日お呼びした本題に入りましょうか。明智さん、申し訳ないけどお茶の準備を頼んでもいいかしら」
「はい」
絵里は返事をしてから生徒会室の出入り口に向かう。
特にこれから人数の必要な大仕事をする、という様子でもない。お茶の準備をお願いするくらいだから、これからする話はそれなりに時間がかかるのだろう。柚鈴は絵里を手伝おうと付いていこうかとしたが、絵里に待っているように促され立ち止まった。
幸と一緒にいて、ということかもしれない。
確かに先輩方3人に囲まれて、1年生一人では心細かろう。
そう気づいて、その場に止まり幸の後ろで見守ることにした。
絵里が出ていくと、凛子先輩は、何やら用紙の束を取り出した。
「あ、それ」
「幸さんが先日、文芸部で書いて生徒会に提出してくれた原稿よ。読ませてもらったわ」
「な、何か、問題がありましたでしょうか」
恐る恐る、と言った様子で幸は聞く。
柚鈴にはいまいち状況が分からない。
文芸部での作品が何で生徒会室にあるのだろうか。
とりあえず手伝いが必要な用事があったわけではなかったらしい。
動揺している幸を安心させるように、凛子先輩は穏やかに笑みを浮かべた。
「そういう話ではないの。これは今年の常葉祭の生徒会作品の為の原稿でしょう?」
「は、はい。ちょっと思いつかなくて軽いノリで書いてしまいました!すみません」
「え?」
何か疚しい気持ちでもあるのだろうか。幸の動揺が伝わってきた。
「まさか生徒会がちゃんと読むなんて思ってなくて」
「もちろん読むわよ」
「しかも書きかけで、締め切りに間に合いませんでした!すみません!!」
「…」
話が少々かみ合っていないのかもしれない。
幸は勢いよく頭を下げてしまったので、凛子先輩は瞬きしてから、少し間をあけてから、ゆっくり言った。
「私ね。常葉祭の生徒会作品の内容はこの作品でお願いしたいのよ」
「ほへ…」
「幸さんの原稿を生徒会で使用させてほしいの」
幸は目を丸くして、変な声を出して驚きの表情のまま固まってしまった。
タイミング良く絵里が戻ってきて、トレイを脇のテーブルに置いてから、ティーポットに入った紅茶をカップに入れていく。
随分早かったな、と思ったら、まだカップに注がれてはいなかったようだ。
ポットに紅茶の葉とお湯だけ入れてきた様子だった。
幸が固まったままなので、しばらくはとぽぽ、という小さなお湯の音だけが響いた。
凛子先輩は、幸の反応を待つつもりのようで急かすこともない。
他の二人の先輩も静かに様子を見守っている。
そのまま絵里が全員に紅茶を配り終えるまで、妙に部屋の中は静かだった。
「まあ、はい。すみません、それで…生徒会のお仕事の後で相談できれば助かるんですけど…」
柚鈴が遠慮がちにいうと、すかさず楢崎先輩は不満そうに声を上げた。
「あら、小鳥遊志奈さまの妹君のことだもの。お悩み相談なら、私もご一緒したいわ。一緒に解決したい~~」
まるでお出かけの置いてきぼりをくらう子供みたいな言い方だ。
な、なんでご一緒するんですか…
恐らくはその場にいる楢崎先輩以外の人は、柚鈴と同じようなことを感じたのだろう。
生徒会室が一瞬妙に静かになった。
「黙りなさいっ」
いち早く反応した山下先輩がぺしっと楢崎先輩の額を叩き、凛子先輩は妙に悟ったように頷いた。
「後にさせてもらいましょう。一先ずこっちの話を纏めて、あとで場所を変えて話すことにしましょう」
「え~。もう、凛子ったら意地悪」
額を押さえて抗議する楢崎先輩のことから目をそらした凛子先輩は、話を切り替えるように幸を見た。
「それでは、幸さんを今日お呼びした本題に入りましょうか。明智さん、申し訳ないけどお茶の準備を頼んでもいいかしら」
「はい」
絵里は返事をしてから生徒会室の出入り口に向かう。
特にこれから人数の必要な大仕事をする、という様子でもない。お茶の準備をお願いするくらいだから、これからする話はそれなりに時間がかかるのだろう。柚鈴は絵里を手伝おうと付いていこうかとしたが、絵里に待っているように促され立ち止まった。
幸と一緒にいて、ということかもしれない。
確かに先輩方3人に囲まれて、1年生一人では心細かろう。
そう気づいて、その場に止まり幸の後ろで見守ることにした。
絵里が出ていくと、凛子先輩は、何やら用紙の束を取り出した。
「あ、それ」
「幸さんが先日、文芸部で書いて生徒会に提出してくれた原稿よ。読ませてもらったわ」
「な、何か、問題がありましたでしょうか」
恐る恐る、と言った様子で幸は聞く。
柚鈴にはいまいち状況が分からない。
文芸部での作品が何で生徒会室にあるのだろうか。
とりあえず手伝いが必要な用事があったわけではなかったらしい。
動揺している幸を安心させるように、凛子先輩は穏やかに笑みを浮かべた。
「そういう話ではないの。これは今年の常葉祭の生徒会作品の為の原稿でしょう?」
「は、はい。ちょっと思いつかなくて軽いノリで書いてしまいました!すみません」
「え?」
何か疚しい気持ちでもあるのだろうか。幸の動揺が伝わってきた。
「まさか生徒会がちゃんと読むなんて思ってなくて」
「もちろん読むわよ」
「しかも書きかけで、締め切りに間に合いませんでした!すみません!!」
「…」
話が少々かみ合っていないのかもしれない。
幸は勢いよく頭を下げてしまったので、凛子先輩は瞬きしてから、少し間をあけてから、ゆっくり言った。
「私ね。常葉祭の生徒会作品の内容はこの作品でお願いしたいのよ」
「ほへ…」
「幸さんの原稿を生徒会で使用させてほしいの」
幸は目を丸くして、変な声を出して驚きの表情のまま固まってしまった。
タイミング良く絵里が戻ってきて、トレイを脇のテーブルに置いてから、ティーポットに入った紅茶をカップに入れていく。
随分早かったな、と思ったら、まだカップに注がれてはいなかったようだ。
ポットに紅茶の葉とお湯だけ入れてきた様子だった。
幸が固まったままなので、しばらくはとぽぽ、という小さなお湯の音だけが響いた。
凛子先輩は、幸の反応を待つつもりのようで急かすこともない。
他の二人の先輩も静かに様子を見守っている。
そのまま絵里が全員に紅茶を配り終えるまで、妙に部屋の中は静かだった。
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