拝啓、お姉さまへ

一華

文字の大きさ
266 / 282
第四章 6月

お姉さま、予想外です! 13

しおりを挟む
凛子先輩は、恐れをなしてしまった柚鈴を見てから苦笑してみせた。

「でも、和の意見はあながち悪くもないわ」
「凛子?」
「ペア作りを促進する活動も生徒会の仕事ではあるけれど、上級生の圧力があると判断される時には下級生側のフォローをするのも生徒会の仕事でしょう?昨年の生徒会長の義妹になった小鳥遊柚鈴さんが、上級生から学園生活に支障が出る程度に干渉を受けているなら、何か手立てを講じるのも私たちの仕事と言うことよ」
「だからってバッチを渡すことが最善でもないでしょう」
「まあねえ」

凛子先輩は紅茶を飲んで、考えこんだ。

「あの、ちょっと案があります」
言い出したのは幸だった。
「なにかしら?」
「ブロンズのバッチなら、柚…小鳥遊さんが持っているので、その上で提案なんですけど」

え?幸ちゃん、何を言い出すの?
急に言い出され、驚いて聞き返す前に「え?」と声を上げて凛子先輩と山下先輩が柚鈴を振り返った。
「持っているってどういうことなの?」
その勢いに柚鈴は出かけた言葉をひっこめた。
一度息を飲んでから答える。
「あ、あの。入学する前に志奈さんに貰いました」
「志奈さんに?」
「はい。お守りだって言われて」
頷くと、二人の先輩は驚いたように目を見合わせた。
幸はそれでですね、と言葉を繋いだ。

「いけないかもしれないですけど、提案したいんです。小鳥遊さんは生徒会のお手伝いをする。そして生徒会のバッチをつけるんです」
「え?」
凛子先輩が聞き返すと、幸は一気に自分の案の説明を始めた。

「つまりですね。生徒会のブロンズバッチをきちんと申請して受け取ると、ゆ…小鳥遊さんは大変なんですよね?だから元生徒会長のブロンズのバッチを勝手に付けて生徒会のお手伝いをしてしまって、その上でペアのお誘いはお断りするんです。バッチを見せてお断りしますと言えば、普通は生徒会のお手伝いをしてるって思いますよね?生徒会の先輩方は知らなかったことにしてしまって…」
「ち、ちょっと待って」
山下先輩は勢いづいた幸を慌てて止める。
「それって、生徒会は関係ないことにして、周りを騙すってこと?」
「騙す、ことにはなりますけど」
幸は突っこまれた言葉には申し訳なさそうい一度目を伏せてから、しかし気持ちを持ち直したようにまっすぐに目線を上げた。

「こういう言い方をしてはなんですけど。今回急に声を掛けてきた先輩方は、別に柚鈴ちゃ…小鳥遊さん自身に興味があるわけでもないようですから、おあいこにじゃないですか??きっとある程度時間がたてば興味なんて薄れるんじゃないかって思うんです」
「まあ、確かに」
柚鈴は頷いた。
自分で認めてしまうのも問題かもしれないけれど、東郷先輩は置いておくとして、柚鈴は本来地味で上級生がメンティにしたいと大勢押し掛けるような生徒ではない。
一度無理だと思わせてしまえば、しばらくした後でばれたとしてもその間に別の1年生をペアの相手に見つける可能性だってあるかもしれない。
行き当たりばったりではあるが、生徒会のお手伝いをしている間は身の安全があり、しかもくだんの同窓会会長殿に見込まれる危険を回避できるというならば、かなり好条件な気がした。

生徒会の手伝いをする。
志奈さんのバッチを襟元に付ける。
そしてお誘いを断る。
実にシンプルだ。

「生徒会である私たちの役割は、黙認するってことね」
「勿論、生徒会でお手伝いをするときはバッチは外すようにして、知らなかったことにしてしまえばご迷惑は掛からないと思います。多少周りが勘違いするような態度は取ってほしいのですけど」
「前生徒会長が義妹に渡したバッチを学園内でしていた。そしてペアの申し出を断った」
山下先輩は考え込むように一瞬黙ったが、凛子先輩の様子を伺うように目線を送った。

「まあ、文化祭が終わるくらいまでなら、いいんじゃない?万が一があったらバッチを渡した小鳥遊先輩に罪をかぶせてしまえば、結局誰も文句言わないでしょう」
「確かにね」
凛子先輩は苦笑してから、頷いた。
柚鈴は志奈さんを思い浮かべた。

誰も文句を言わない。
それが本当なのかどうかはわからないから、少しだけ罪悪感を感じる。
少しだけ迷う気持ちが浮かんだ。

だが、凛子先輩の言葉の方は早かった。
「幸さんの提案を受け入れましょう」

その言葉には全く迷いがなかった。だから柚鈴も迷う気持ちを飲み込んだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...