拝啓、お姉さまへ

一華

文字の大きさ
274 / 282
第四章 6月

お姉さま、心から大切にしたいものって、何ですか? 1

しおりを挟む
常葉学園大学部の図書館のロビーの一角。
学生のフリースペースとしても解放されているその空間は、ガラス張りの為、初夏の自然光が差し込んでいる。
室内である故の空調も行き届き、なかなか快適な空間であると言える。

小鳥遊志奈は、そこにあるソファでのんびりと寛ぎつつ、教科書を眺めていた。
少々行儀が悪いが、ひじ掛けに寄りかかり、肘を預ける用に少し高めの位置で教科書をキープして、熱心にその内容の理解と暗記に努めている。
ふとしたタイミングで、ふんわりとした長い髪が肩から流れ落ちる様子でさえ美しく、初夏の日差しが中でなんとも絵になる光景に思える。
そしてそこにはもう一人絵になる人がいる。しかし、こちらは明らかに行儀悪く志奈の膝を枕にして、ソファに横たわり悠々と微睡んでいる岬紫乃舞だ。

2人の様子は見る人が見れば、思わず息を吐き、しかし声を掛けて邪魔をしてはいけないような、どこか幻想的な美しさがあった。

「まあ、熱心だねぇ」
目をつぶったまま、志奈をからかうように紫乃舞が言った。
志奈の体勢は、この横たわっている紫乃舞が眠るのに、邪魔にならないように、という気遣いの上でのものなのに、気にした様子など全くない。
「ええ。柚鈴ちゃんにも頑張ると言ったし、真美子も一緒してくれるようだしね」
志奈もさして気にしてないように答える。
以前に真美子に持ち掛けた、助言者メンターを作らない柚鈴の助けとなる手段。
そのために今、志奈は努力しているを、紫乃舞も知っていて、多少の揶揄いはもはや日常的なものなのだ。

「真美子はそれに関しては頑張ってるようでもないけどねぇ」
ニヤニヤと笑う言葉の意味を、志奈は正しく理解して肩を竦めた。

「そうね。でも、私は真美子やしのみたいに優秀ではないもの。頑張るところは頑張らないと」
「ははあ。だから普通に努力するってわけ、か」
自分が優秀である、と言う言葉には否定もしない。口元を歪めるように笑う相手に、志奈はにっこり笑い返した。
「そう。普通に頑張るの。楽しい姉妹関係を育てるためになら、私は努力は惜しまないわ」
「へえ、好きだねえ」
全く気のない返事だが、志奈は気にしたようでもなかった。実に幸せそうに頷く。
「好きよ。私は妹である柚鈴ちゃんが本当に大好き」
「私とどっちが?」
「柚鈴ちゃん」
あっさりと返ってきた言葉に、紫乃舞はククッと笑った。
ここまで迷わずはっきり言われれば、逆に小気味が良い。

それから目を開き、探るように志奈を見た。
「あの子がいれば、寂しくない?」
何かを確かめるような言葉に、志奈は何のことか、などと確認をすることはなかった。

孤独、とは縁遠い程、人の中にいる志奈に対して。
寂しいか、などという質問は、彼女を知るほとんどの人が意味が分からないだろうが。

志奈には何を聞かれているかすぐに分かった。
紫乃舞は志奈がを知っているのだから。

「寂しいわ」
先ほどの質問の答えと同じように、あっさりと答える。
紫乃舞は少し考えてから、一度志奈の髪にくるくると指を絡めた。
さらりと指をすり抜けるのを見てから、再び瞳を閉じる。
「欲張りだね」
「誰かの代わりに誰かがなれるわけじゃないもの」
「じゃあ、手の内にずっと囲っておけば良いじゃない」
その手を離さずに、と言う意味合いを込めて。
それが出来ると言わんばかりの言葉に、志奈は不思議そうに小さく小首を傾げた。
表情も穏やかなまま、どこか無垢に思える仕草で。
やがて唇に微笑みを浮かべたまま、口を開いた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

処理中です...