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第四章 6月
お姉さま、心から大切にしたいものって、何ですか? 2
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「…それでは違うの」
「違う?」
「引き止めたり、何かで縛ってから思い通りにするのではなくて、ただ当たり前のようにそこにいるような関係がいいの」
「へえ」
分かっているのか分かっていないのか。そんな軽い返事に対して、志奈はしみじみと言った。
「…姉妹っていいわね。ずうっと姉妹だもの」
「なるほどねえ」
また適当な相槌が返ってくる。
とはいえ、紫乃舞のその表情は、今はどこかしたり顔だ。
柚鈴と最初に話した時のことが頭にあるから。
この子なら大丈夫だろうと思った。
志奈を好きではあるだろうが、陶酔しているわけでもなく、ただ振り回されているだけ。
紫乃舞にとってはそんな普通の反応をする、普通ではない志奈の義妹。
だから。
紫乃舞が柄でもなく気になっていたことを解決するためのお願い事もしなかった。
お願いしなくても、きっと志奈に何かあったときには、その時に相応しい普通の反応をしてくれるはずである。
それこそが、彼女が一番望んでいるであろうもことも感じている。
「ずっと当たり前に変わらないってのも良いねぇ」
軽口のように。しかしこれには多少本音が漏れた。
志奈はすぐにそれに気付いて、クスクスと笑う。
「しのと、誰かさんみたいにね」
「おやおや」
誰かさんが誰とは言わない。
だがそれが何のことか考えるまでもなく、表情には決して出さないが、紫乃舞は少々苦々しい気持ちになる。
自分にとって一つの弱みとも言える部分を当然のように理解をされているのは、この場合に限り、あまり気持ちのいいものではなかった。
状況の把握能力と、巡りあわせのようにそのための場面に出くわす運を持っている相手。
だからこそ面白いし、気に入っているのも事実ではある。
だからこそ、志奈の本心をたまに突いて、揶揄おうとするのだが。
そんな、どこか拮抗する関係を紫乃舞は好むのだ。
志奈の側はなんだかんだで居心地が良かった。
「私とどっちが好き?」
悪戯めいて。
志奈からお返しのように聞き返される。誰かさんと比べてみろと。
「そりゃ志奈でしょ」
嘯いて言うと志奈は楽しそうに笑った。
気持ちはお見通しと言わんばかりに。
「ふふ。私もしのが好きよ。きっとあなたが私を好きなのと同じくらい」
「いいねえ」
満足そうな答えを返す。
同じくらい好き、というのは中々真を突いている。
好きの深さというよりも、形が違う。
好きか?と聞かれて、答えることの出来る好きという形と大きさは意外と限られている。
少ないわけではないが、聞かれて答えることが適さない好意というものは多いものだ。
誰かさん、に対する気持ちは、紫乃舞にとって聞かれて答えるのには不似合で面倒なものだった。適当にあしらう方がよほど良い。
志奈に対する好きの方が手軽に口にしやすかった。
志奈が紫乃舞への好きをどう思ってるかは、こちらが考えるところではないが、明確に口にして『好き』というのには、柚鈴の方が大正解だったのも分かる。
だが、お互いで同じくらい好き。
表現の仕方や、自分らしい形の好きはそれぞれでも、同じくらいと言えてしまう図々しさ。
それを言えてしまうのが、友としての関係の一つだろうと思えて、中々気に入った。
つまり。
ある意味、深いところでは分かり合っているということ。
だから良いのだ。
日差しとこの場の温かさを、紫乃舞は好ましく感じて楽しそうに笑った。
それから何事もなかったように。
ゆっくりと呼吸をして微睡むことを再開した。
「違う?」
「引き止めたり、何かで縛ってから思い通りにするのではなくて、ただ当たり前のようにそこにいるような関係がいいの」
「へえ」
分かっているのか分かっていないのか。そんな軽い返事に対して、志奈はしみじみと言った。
「…姉妹っていいわね。ずうっと姉妹だもの」
「なるほどねえ」
また適当な相槌が返ってくる。
とはいえ、紫乃舞のその表情は、今はどこかしたり顔だ。
柚鈴と最初に話した時のことが頭にあるから。
この子なら大丈夫だろうと思った。
志奈を好きではあるだろうが、陶酔しているわけでもなく、ただ振り回されているだけ。
紫乃舞にとってはそんな普通の反応をする、普通ではない志奈の義妹。
だから。
紫乃舞が柄でもなく気になっていたことを解決するためのお願い事もしなかった。
お願いしなくても、きっと志奈に何かあったときには、その時に相応しい普通の反応をしてくれるはずである。
それこそが、彼女が一番望んでいるであろうもことも感じている。
「ずっと当たり前に変わらないってのも良いねぇ」
軽口のように。しかしこれには多少本音が漏れた。
志奈はすぐにそれに気付いて、クスクスと笑う。
「しのと、誰かさんみたいにね」
「おやおや」
誰かさんが誰とは言わない。
だがそれが何のことか考えるまでもなく、表情には決して出さないが、紫乃舞は少々苦々しい気持ちになる。
自分にとって一つの弱みとも言える部分を当然のように理解をされているのは、この場合に限り、あまり気持ちのいいものではなかった。
状況の把握能力と、巡りあわせのようにそのための場面に出くわす運を持っている相手。
だからこそ面白いし、気に入っているのも事実ではある。
だからこそ、志奈の本心をたまに突いて、揶揄おうとするのだが。
そんな、どこか拮抗する関係を紫乃舞は好むのだ。
志奈の側はなんだかんだで居心地が良かった。
「私とどっちが好き?」
悪戯めいて。
志奈からお返しのように聞き返される。誰かさんと比べてみろと。
「そりゃ志奈でしょ」
嘯いて言うと志奈は楽しそうに笑った。
気持ちはお見通しと言わんばかりに。
「ふふ。私もしのが好きよ。きっとあなたが私を好きなのと同じくらい」
「いいねえ」
満足そうな答えを返す。
同じくらい好き、というのは中々真を突いている。
好きの深さというよりも、形が違う。
好きか?と聞かれて、答えることの出来る好きという形と大きさは意外と限られている。
少ないわけではないが、聞かれて答えることが適さない好意というものは多いものだ。
誰かさん、に対する気持ちは、紫乃舞にとって聞かれて答えるのには不似合で面倒なものだった。適当にあしらう方がよほど良い。
志奈に対する好きの方が手軽に口にしやすかった。
志奈が紫乃舞への好きをどう思ってるかは、こちらが考えるところではないが、明確に口にして『好き』というのには、柚鈴の方が大正解だったのも分かる。
だが、お互いで同じくらい好き。
表現の仕方や、自分らしい形の好きはそれぞれでも、同じくらいと言えてしまう図々しさ。
それを言えてしまうのが、友としての関係の一つだろうと思えて、中々気に入った。
つまり。
ある意味、深いところでは分かり合っているということ。
だから良いのだ。
日差しとこの場の温かさを、紫乃舞は好ましく感じて楽しそうに笑った。
それから何事もなかったように。
ゆっくりと呼吸をして微睡むことを再開した。
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