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【Episode 15】
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「やあ、ルーシー。君の美しさは、天文学的だね」
マイケルがルーシーに声をかける。
臆面もなく、彼女を称える言葉を口にする彼が羨ましい。
「ごきげんよう。マイケルさん、ゴン太さん」
「やあ、ルーシー」
相変わらず、吾輩は彼女の眼を見れない。
「今日は、いい日和ですね」
ルーシーの主人が、彼女の首輪からリードを外した。
「あァ。デートをするには最高の日だよ。どうだい、ルーシー。川岸をふたりで散歩するっていうのは」
いとも簡単にデートを誘いかけるマイケルが、つくづく羨ましい。
嫉妬さえ覚えるほどである。
「お誘いはうれしいけど、ご主人が公園を出るのを許さないの」
「それは、ボクのご主人だってそうさ。だけどルーシー。その許されないことをやるからこそ、恋は燃え上がるものなんだよ」
なんともキザな台詞である。
口調までがいつもと違うのだが、違和感を感じないのはマイケルの成せる業だろう。
「でも、マイケルさん? 一瞬に燃え上がる恋って、冷めるのもまたあっという間よ」
(オォ……)
この落ち着いたルーシーの返し。
吾輩は思わず感動する。
「確かに、君の言うとおりさ。でも考えてみてごらんよ。ボクたちの生きる時間はとても短い。それこそ、あっという間だよ。だったら、たとえ一瞬であっても、熱く燃える恋に身をゆだねてみるのも、すばらしいことじゃないかな。だから、ルーシー。君の心の一ページに、ボクとの恋をメモリーしてみないか」
(うむむッ、すごいぞ、マイケル……)
今度は、マイケルの台詞に、吾輩は思わず感動してしまった。
マイケルは天才だ。
吾輩には決して思いつことはない歯の浮くような台詞を、さらっと言ってのけるのだ。この巧みな話術があれば、きっと、犬の世界を変えてしまうのではないだろうか。
「そうしたいところだけど、あいにく、私の心のページには、あなたとの恋をメモリーする容量がないの」
(うおおおッ!)
まともや、見事なまでの返しだ。
マイケルの巧みな口説きを、動じることなくかわしてしまうとは感服する。
「それなら、容量を拡張すればいいじゃないか」
マイケルは食い下がらない。
「いまのところ、拡張する気はないわ」
ルーシーはカウンター・パンチを返す。
マイケルは、それに耐える。
「じゃあ、せめて、我が家で一緒にディナーを堪能しないか」
往生際が悪いとはこのことだ。
「私、ディナー・ドレスを持っていないの。ごめんなさい」
渾身のボディ・ブローを叩きこまれて、さすがのマイケルもダウンを奪われ、がっくりとうなだれてしまった。
ダウンを奪ったルーシーは、すっと吾輩に顔を向けた。
「ゴン太さん、少し歩きましょう」
(えッ、えッ!)
一瞬、吾輩は我が耳を疑った。
「あ、あの、いま、少し歩きましょう、って言った?」
「ええ」
「それって、吾輩とってこと?……」
「そうよ」
ルーシーが誘いをかけてきた。
こんなことがあっていいのだろうか。
奇跡が起きたのだ。
とたんに吾輩は、頭に血がのぼった。
人間であれば、顔が真っ赤になっていることだろう。
思わず踊り出したいところだが、それをなんとか抑えた。
彼女が歩き出す。吾輩はマイケルに眼を向けた。
ルーシーが吾輩を誘ったことで、彼はなおさらこと落ちこんでしまい、その場にへたりこんでしまった。
「マイケル……」
吾輩がそう声をかけると、
「なにしてる。ルーシーはおまえをご指名なんだから、早く行け。恋に敗れたおいらに、情けは無用だ」
マイケルは力なく立ち上がり、うなだれながら、とぼとぼと主人のもとへと歩いていった。
その姿がなんとも哀しい。
吾輩はうしろ髪を引かれる思いで、ルーシーのあとを追った。
それでも、ルーシーの隣に並んで歩きはじめたときには、マイケルのことなど頭の中からどこかへ消えていた。
鼓動が、胸にジャブの連打を打ってくる。
沈黙の中でふたりは歩く。
マイケルがルーシーに声をかける。
臆面もなく、彼女を称える言葉を口にする彼が羨ましい。
「ごきげんよう。マイケルさん、ゴン太さん」
「やあ、ルーシー」
相変わらず、吾輩は彼女の眼を見れない。
「今日は、いい日和ですね」
ルーシーの主人が、彼女の首輪からリードを外した。
「あァ。デートをするには最高の日だよ。どうだい、ルーシー。川岸をふたりで散歩するっていうのは」
いとも簡単にデートを誘いかけるマイケルが、つくづく羨ましい。
嫉妬さえ覚えるほどである。
「お誘いはうれしいけど、ご主人が公園を出るのを許さないの」
「それは、ボクのご主人だってそうさ。だけどルーシー。その許されないことをやるからこそ、恋は燃え上がるものなんだよ」
なんともキザな台詞である。
口調までがいつもと違うのだが、違和感を感じないのはマイケルの成せる業だろう。
「でも、マイケルさん? 一瞬に燃え上がる恋って、冷めるのもまたあっという間よ」
(オォ……)
この落ち着いたルーシーの返し。
吾輩は思わず感動する。
「確かに、君の言うとおりさ。でも考えてみてごらんよ。ボクたちの生きる時間はとても短い。それこそ、あっという間だよ。だったら、たとえ一瞬であっても、熱く燃える恋に身をゆだねてみるのも、すばらしいことじゃないかな。だから、ルーシー。君の心の一ページに、ボクとの恋をメモリーしてみないか」
(うむむッ、すごいぞ、マイケル……)
今度は、マイケルの台詞に、吾輩は思わず感動してしまった。
マイケルは天才だ。
吾輩には決して思いつことはない歯の浮くような台詞を、さらっと言ってのけるのだ。この巧みな話術があれば、きっと、犬の世界を変えてしまうのではないだろうか。
「そうしたいところだけど、あいにく、私の心のページには、あなたとの恋をメモリーする容量がないの」
(うおおおッ!)
まともや、見事なまでの返しだ。
マイケルの巧みな口説きを、動じることなくかわしてしまうとは感服する。
「それなら、容量を拡張すればいいじゃないか」
マイケルは食い下がらない。
「いまのところ、拡張する気はないわ」
ルーシーはカウンター・パンチを返す。
マイケルは、それに耐える。
「じゃあ、せめて、我が家で一緒にディナーを堪能しないか」
往生際が悪いとはこのことだ。
「私、ディナー・ドレスを持っていないの。ごめんなさい」
渾身のボディ・ブローを叩きこまれて、さすがのマイケルもダウンを奪われ、がっくりとうなだれてしまった。
ダウンを奪ったルーシーは、すっと吾輩に顔を向けた。
「ゴン太さん、少し歩きましょう」
(えッ、えッ!)
一瞬、吾輩は我が耳を疑った。
「あ、あの、いま、少し歩きましょう、って言った?」
「ええ」
「それって、吾輩とってこと?……」
「そうよ」
ルーシーが誘いをかけてきた。
こんなことがあっていいのだろうか。
奇跡が起きたのだ。
とたんに吾輩は、頭に血がのぼった。
人間であれば、顔が真っ赤になっていることだろう。
思わず踊り出したいところだが、それをなんとか抑えた。
彼女が歩き出す。吾輩はマイケルに眼を向けた。
ルーシーが吾輩を誘ったことで、彼はなおさらこと落ちこんでしまい、その場にへたりこんでしまった。
「マイケル……」
吾輩がそう声をかけると、
「なにしてる。ルーシーはおまえをご指名なんだから、早く行け。恋に敗れたおいらに、情けは無用だ」
マイケルは力なく立ち上がり、うなだれながら、とぼとぼと主人のもとへと歩いていった。
その姿がなんとも哀しい。
吾輩はうしろ髪を引かれる思いで、ルーシーのあとを追った。
それでも、ルーシーの隣に並んで歩きはじめたときには、マイケルのことなど頭の中からどこかへ消えていた。
鼓動が、胸にジャブの連打を打ってくる。
沈黙の中でふたりは歩く。
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