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【Episode 29】
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「出てきても大丈夫だぞ」
サラがそろそろと犬小屋から出てきた。
「はあ、助かったわ。アイツ、しつこいったらないんだから」
そう言いながらも、周囲を警戒する。
「ともかく、無事でよかったな」
「よく言うわよ。ほんとは助ける気なんてなかったくせに」
「そんなことはない。家族じゃないか」
「フン、白々しい。鶏の唐揚げに釣られただけじゃないか」
「ハハハ、これはこれは、面目ない」
「って、認めちゃったよ。まったく。でも、いいわ。なんにしても、助けてくれたんだから」
「それで、その鶏の唐揚げは、いつ持ってきてくれるんだ?」
それがいちばん肝心なことである。
「あ、それはウソよ」
「ん? なになに? それはミソをからめた唐揚げなのか。美味そうだな」
想像しただけで、よだれが溢れ出した。
「アンタ、ほんとうにバカね。私は、ウソだって言ったの」
「あ、そうか。ミソではなく、ウソをからめてあるのか、うんうん――って、ウソかよ!」
「なんなのよ、そのノリツッコミもどきは。ぜんぜん笑えない」
「いや、笑えないのは一向にかまわないが、ウソというのはウソだろ?」
「いいえ、それはほんとよ。内山のおばあちゃんが鶏の唐揚げをくれたのも、ほんと。でも、食べちゃったわ。とってもジューシーで美味しかったァ」
サラは口をぺろりと舐めた。
「いやいや、サラ。それこそ笑えない冗談だぞ」
「まったく、アンタのオツムはどうなってるの? 冗談なんかじゃないわよ」
「なな、なにィ! 冗談ではないということは、真ということではないか!」
怒りがこみ上げる。
「だから、そう言ってるでしょうが。もう、アンタとつき合ってると、こっちまでバカが移りそうよ。じゃ、そういうことだから。バイバイ」
「バイバイ、って、おい、待て。こら、もどって来い!」
サラはシカトしたまま庭へと入っていき、縁側に上がって毛繕いを始めた。
(くそ、サラのやつ……)
アイツの言うことを信じた吾輩が馬鹿であった。
こんなことなら、助けるのではなかった。
ポン吉の餌食になっていればよかったのだ。
どうにも悔しくてならないので、吾輩は犬小屋の横を掘り返して骨型のガムを噛むことにした。
ひたすらガムを噛みに噛み、歯もきれいになったところで土の中に埋め直す。
そのガムもずいぶんと小さくなってきた。
もう少し小さくなったら、埋めずに犬小屋の前に置いておこう。
そうすれば家族のだれかが気づいて、新しいガムを買ってくれるだろう。
(さてさて、どうしたものか……)
吾輩は地に伏せ、前脚に顎(あご)を載せて考える。
散歩に連れ出してもらうまでの時間をどう潰すか、をだ。
毎日がそのくり返しである。
退屈極まりない時間をどう乗り切るか。
それが吾輩の日課であるが、もういいかげん辟易(へきえき)している。
生きているということは、どうしてこうも退屈なのであろうか。
TVでもあれば、十分退屈しのぎになるのだが、そうもいかない。
ストレス解消の相手となる郵便配達員も、ここ3日ほど姿を見ていない。
配達する郵便物がないのであれば致しかたないが、もしかすると、吾輩にビビって仕事を放棄しているのではないだろうか。
ストレスといえば、その要因には退屈が比重を占めていると言っていい。
何もすることがないということは、それだけでストレスが溜まっていくのだ。
退屈ほど苦痛なものはないのである。
ボーっとすることも、あれやこれやと妄想を膨らませることも、ただただ退屈をしのぐための一環ではあるが、もうほとほと飽きた。
だからお願いだ。
この退屈という地獄から、吾輩を助け出してほしい。
神様、お願いです……。
たったひとつだけでいいから、願いを聞いてください……。
退屈から飛び立てる、翼を与えてくれませんか……。
それがダメならば、首輪を外してくれるだけでもかまいません・・・・・・。
ああ、それと、ついででかまわないので、食事のドッグ・フードをちょっとだけ、豪華なものにしてもらえませんか……。
あ、あとですね……。
真紀のあの暴力的なところを、なくしていただければありがたいなァ……
それとそれと、最後にひとつだけ……。
できれば、あの、ルーシーと幸せになりたい、なーんて思ったりしているわけで、そこのところをお願いできればと……。
ハハハ、願い事が増えちゃいましたが、そこは神様のご配慮でどうかひとつ……。
吾輩はうしろ脚で立ち、バランスを取りながら、前脚で合掌した。
と、サラが庭から歩いてきた。
サラがそろそろと犬小屋から出てきた。
「はあ、助かったわ。アイツ、しつこいったらないんだから」
そう言いながらも、周囲を警戒する。
「ともかく、無事でよかったな」
「よく言うわよ。ほんとは助ける気なんてなかったくせに」
「そんなことはない。家族じゃないか」
「フン、白々しい。鶏の唐揚げに釣られただけじゃないか」
「ハハハ、これはこれは、面目ない」
「って、認めちゃったよ。まったく。でも、いいわ。なんにしても、助けてくれたんだから」
「それで、その鶏の唐揚げは、いつ持ってきてくれるんだ?」
それがいちばん肝心なことである。
「あ、それはウソよ」
「ん? なになに? それはミソをからめた唐揚げなのか。美味そうだな」
想像しただけで、よだれが溢れ出した。
「アンタ、ほんとうにバカね。私は、ウソだって言ったの」
「あ、そうか。ミソではなく、ウソをからめてあるのか、うんうん――って、ウソかよ!」
「なんなのよ、そのノリツッコミもどきは。ぜんぜん笑えない」
「いや、笑えないのは一向にかまわないが、ウソというのはウソだろ?」
「いいえ、それはほんとよ。内山のおばあちゃんが鶏の唐揚げをくれたのも、ほんと。でも、食べちゃったわ。とってもジューシーで美味しかったァ」
サラは口をぺろりと舐めた。
「いやいや、サラ。それこそ笑えない冗談だぞ」
「まったく、アンタのオツムはどうなってるの? 冗談なんかじゃないわよ」
「なな、なにィ! 冗談ではないということは、真ということではないか!」
怒りがこみ上げる。
「だから、そう言ってるでしょうが。もう、アンタとつき合ってると、こっちまでバカが移りそうよ。じゃ、そういうことだから。バイバイ」
「バイバイ、って、おい、待て。こら、もどって来い!」
サラはシカトしたまま庭へと入っていき、縁側に上がって毛繕いを始めた。
(くそ、サラのやつ……)
アイツの言うことを信じた吾輩が馬鹿であった。
こんなことなら、助けるのではなかった。
ポン吉の餌食になっていればよかったのだ。
どうにも悔しくてならないので、吾輩は犬小屋の横を掘り返して骨型のガムを噛むことにした。
ひたすらガムを噛みに噛み、歯もきれいになったところで土の中に埋め直す。
そのガムもずいぶんと小さくなってきた。
もう少し小さくなったら、埋めずに犬小屋の前に置いておこう。
そうすれば家族のだれかが気づいて、新しいガムを買ってくれるだろう。
(さてさて、どうしたものか……)
吾輩は地に伏せ、前脚に顎(あご)を載せて考える。
散歩に連れ出してもらうまでの時間をどう潰すか、をだ。
毎日がそのくり返しである。
退屈極まりない時間をどう乗り切るか。
それが吾輩の日課であるが、もういいかげん辟易(へきえき)している。
生きているということは、どうしてこうも退屈なのであろうか。
TVでもあれば、十分退屈しのぎになるのだが、そうもいかない。
ストレス解消の相手となる郵便配達員も、ここ3日ほど姿を見ていない。
配達する郵便物がないのであれば致しかたないが、もしかすると、吾輩にビビって仕事を放棄しているのではないだろうか。
ストレスといえば、その要因には退屈が比重を占めていると言っていい。
何もすることがないということは、それだけでストレスが溜まっていくのだ。
退屈ほど苦痛なものはないのである。
ボーっとすることも、あれやこれやと妄想を膨らませることも、ただただ退屈をしのぐための一環ではあるが、もうほとほと飽きた。
だからお願いだ。
この退屈という地獄から、吾輩を助け出してほしい。
神様、お願いです……。
たったひとつだけでいいから、願いを聞いてください……。
退屈から飛び立てる、翼を与えてくれませんか……。
それがダメならば、首輪を外してくれるだけでもかまいません・・・・・・。
ああ、それと、ついででかまわないので、食事のドッグ・フードをちょっとだけ、豪華なものにしてもらえませんか……。
あ、あとですね……。
真紀のあの暴力的なところを、なくしていただければありがたいなァ……
それとそれと、最後にひとつだけ……。
できれば、あの、ルーシーと幸せになりたい、なーんて思ったりしているわけで、そこのところをお願いできればと……。
ハハハ、願い事が増えちゃいましたが、そこは神様のご配慮でどうかひとつ……。
吾輩はうしろ脚で立ち、バランスを取りながら、前脚で合掌した。
と、サラが庭から歩いてきた。
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