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【Episode 53】
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まったく、なんだってんだよ……。
吾輩のギャグが恐怖だって?
ふざけるのも大概にしろ……。
おまえがそんなだから、子供までギャグのセンスがわからないんだよ……。
吾輩のギャグは一級品だっての……。
吾輩のギャグで笑わないのは、この界隈でだれひとりとして、いない――はずだ……。
いや、ひとりやふたりは……。
と言うか、もう少しいるかも知れないが……。
フン、だ!
くそったれ!
ニューヨークへ行けば、吾輩はきっと大ウケするに違いないのだ……。
吾輩のギャグはインター・ナショナルに、その……。
ま、とにかく、ギャグのセンスは最先端を行きまくりすぎているから、ついてこられなくても致しかたないのである。
(ワッ、ハッ、ハッ、ハッ。ハハー……。はァ……、ううッ……)
あまりの情けなさに、おのれが哀れに思えてきた。
吾輩は一気にヘコんだ。
おかげで暑さが尚のこと、身体に堪えた。
(アヅイー……)
兎にも角にも暑い。
暑い……。
暑い……。
暑すぎる!
尋常ではないその暑さに、吾輩は仰向けでぐったりする。
このままでは、散歩を待たずに、吾輩はきっと、スルメのように干物になってしまうであろう。
すると、
ママが玄関から出てきて庭へと回り、ドラム式のホースを出してきた。
(お、あれは! やったー、水を撒くんだ!)
ホースの先にはシャワーの器具が取りつけてあり、ママは放水をはじめた。
シャワーの水が、勢いよく植えこみの木々に降り注ぐ。
みるみる息を吹き返す木々たちは、命の水をその身にまとい、きらきらと耀いている。
吾輩は犬小屋を出ておすわりをし、その光景を眺める。
猛烈な大気の熱が、瞬く間に下がっていく。
(あー、生き返るー!)
「ゴン太。あなたも暑いわよね」
ふいにママは、天に向けて放水した。
シャワーが雨のように落ちてくる。
「どう? 気持ちいいでしょう」
『ええ、とっても気持ちいいです。ママ、ありがとう』
吾輩はうれしくて、シャワーの雨の中で飛び跳ねた。
陽の光が水滴に反射して、小さな虹を作った。
ママは吾輩がびしょ濡れにならない程度に天へと放水すると、庭から玄関前にもくまなく水を撒いた。
吾輩は全身をブルブルブルっとさせて身体の水滴をふり払い、ママが入れ替えてくれた容器の水を音を立てて飲んだ。
「ずいぶん涼しくなったわね」
『はい。おかげさまで、干物にならずにすみましたよ』
吾輩はママを見上げた。
「ゴン太、もう少し待ってね。今日は私が散歩に連れてってあげるから」
ママはホースを片づけると、玄関の中に入っていった。
(今日はママと散歩か……)
吾輩は犬小屋に入り、散歩の時間を待つことにした。
ママと散歩に行くのは、ずいぶんと久しぶりだ。
春になった頃から、散歩の担当はほとんどが奈美になった。
その散歩に、真紀がついてきたりついてこなかったりというところだ。
そして、休日がパパの担当である。
だからママと散歩をするのは、五ヵ月ぶりということになる。
ママとの散歩は実にいい。
ママは散歩の途中で無理にリードを引っ張ったりせず、吾輩が進むままに歩いてくれる。
吾輩のペースに合わせてくれるのだ。
パパのように、そのときの気分で、河川敷の土手の近くまで来ているというのに引き返すことなどない。
そして、吾輩の用便の最中、真紀のように尻の穴を覗きこむようなことも、決してないのである。
それだけに、週に一度か二度くらい、ママに散歩へ連れてってほしいと思うのだ。
そう思うのは、吾輩の我儘であろうか。
知らず知らずにうとうととまどろんでいると、散歩の時間がやってきた。
吾輩のギャグが恐怖だって?
ふざけるのも大概にしろ……。
おまえがそんなだから、子供までギャグのセンスがわからないんだよ……。
吾輩のギャグは一級品だっての……。
吾輩のギャグで笑わないのは、この界隈でだれひとりとして、いない――はずだ……。
いや、ひとりやふたりは……。
と言うか、もう少しいるかも知れないが……。
フン、だ!
くそったれ!
ニューヨークへ行けば、吾輩はきっと大ウケするに違いないのだ……。
吾輩のギャグはインター・ナショナルに、その……。
ま、とにかく、ギャグのセンスは最先端を行きまくりすぎているから、ついてこられなくても致しかたないのである。
(ワッ、ハッ、ハッ、ハッ。ハハー……。はァ……、ううッ……)
あまりの情けなさに、おのれが哀れに思えてきた。
吾輩は一気にヘコんだ。
おかげで暑さが尚のこと、身体に堪えた。
(アヅイー……)
兎にも角にも暑い。
暑い……。
暑い……。
暑すぎる!
尋常ではないその暑さに、吾輩は仰向けでぐったりする。
このままでは、散歩を待たずに、吾輩はきっと、スルメのように干物になってしまうであろう。
すると、
ママが玄関から出てきて庭へと回り、ドラム式のホースを出してきた。
(お、あれは! やったー、水を撒くんだ!)
ホースの先にはシャワーの器具が取りつけてあり、ママは放水をはじめた。
シャワーの水が、勢いよく植えこみの木々に降り注ぐ。
みるみる息を吹き返す木々たちは、命の水をその身にまとい、きらきらと耀いている。
吾輩は犬小屋を出ておすわりをし、その光景を眺める。
猛烈な大気の熱が、瞬く間に下がっていく。
(あー、生き返るー!)
「ゴン太。あなたも暑いわよね」
ふいにママは、天に向けて放水した。
シャワーが雨のように落ちてくる。
「どう? 気持ちいいでしょう」
『ええ、とっても気持ちいいです。ママ、ありがとう』
吾輩はうれしくて、シャワーの雨の中で飛び跳ねた。
陽の光が水滴に反射して、小さな虹を作った。
ママは吾輩がびしょ濡れにならない程度に天へと放水すると、庭から玄関前にもくまなく水を撒いた。
吾輩は全身をブルブルブルっとさせて身体の水滴をふり払い、ママが入れ替えてくれた容器の水を音を立てて飲んだ。
「ずいぶん涼しくなったわね」
『はい。おかげさまで、干物にならずにすみましたよ』
吾輩はママを見上げた。
「ゴン太、もう少し待ってね。今日は私が散歩に連れてってあげるから」
ママはホースを片づけると、玄関の中に入っていった。
(今日はママと散歩か……)
吾輩は犬小屋に入り、散歩の時間を待つことにした。
ママと散歩に行くのは、ずいぶんと久しぶりだ。
春になった頃から、散歩の担当はほとんどが奈美になった。
その散歩に、真紀がついてきたりついてこなかったりというところだ。
そして、休日がパパの担当である。
だからママと散歩をするのは、五ヵ月ぶりということになる。
ママとの散歩は実にいい。
ママは散歩の途中で無理にリードを引っ張ったりせず、吾輩が進むままに歩いてくれる。
吾輩のペースに合わせてくれるのだ。
パパのように、そのときの気分で、河川敷の土手の近くまで来ているというのに引き返すことなどない。
そして、吾輩の用便の最中、真紀のように尻の穴を覗きこむようなことも、決してないのである。
それだけに、週に一度か二度くらい、ママに散歩へ連れてってほしいと思うのだ。
そう思うのは、吾輩の我儘であろうか。
知らず知らずにうとうととまどろんでいると、散歩の時間がやってきた。
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