幽霊になっても、俺は娘に逢いにゆく

星 陽月

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【第2話】

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 フフン……。
 これは神の啓示どころか、ツキの女神が微笑みかけているようだぜ……。

 高木は漠然とそう思った。
 そう、高木は常に漠然とそう思う。
 それは、いまに始まったことではない。
 とにかく性格というものが単純にできているから、ツイていると思えば勢い勇んでパチンコ店へと向うのだ。
 だが、ものの一時間足らずでがっくりと肩を落として出てくるのが関の山で、

「なんだってんだ、クソッ!」

 天を仰ぎ、ツキの女神はどこにいった、ばかやろう、と悪態をつくのが現実であった。
 だがしかし、その日の高木は違った。
 それからというもの、彼は神がかったようにあれよあれよとツキまくったのである。
 まずは開店と同時に入った錦糸町駅前のパチンコ店では、2千円を使わずして大当たりを引いた。
 それも今朝TVを点けたとき、モニターに表示された時刻とおなじ数字の「5・5・5」の確率変動で当たったのだ。
 その確変は8連チャンし、時短モード突入後、またも確変を引きもどして今度は12連チャンした。

 今日のツキは本物だぜ……。

 月に一度、いやいや、3ヵ月に一度あるかどうかの大連チャンである。
 そう思っても不思議ではない。
 積み重ねられたドル箱を、高木は満足げに見下ろした。
 だがすぐに、緩んだ気持ちを引き締める。
 この先いつ訪れるかしれないこのツキを、パチンコだけで使い果たしたくはない。
 そう思うや否や高木はさっそく出玉を換金し、すぐさま向かったのはJRAのウインズだった。
 今日の俺はだれにも止められないぜ、とばかりにふだん買うことなどない万馬券を購入する。
 するとそれが見事に的中した。

 ハッ、ハッ、ハッ、これが俺の実力さ……。

 運も実力のひとつであるから、高木のその自負は決して間違いではない。
 だが、得てして自信過剰になったとたん、どつぼにハマるのがギャンブルというものである。
 ツキの女神は気まぐれだ。
 それまでどんなにツキまくっていたとしても、彼女がそっぽを向いたらひとたまりもない。
 つかんだツキは、手からするりとすり抜けていく。
 そうとは知らずに「勝負はこれからだ」などと思っていると、財布に残るのは瞬く間に小銭だけとなる。
 そしてがっくしと肩を落とし、

「なんだってんだ、クソッ!」

 天を仰いで、ツキの女神はどこにいった、ばかやろう、となるのが関の山なのである。
 だが、今日の高木はいつもとは違うのである。
 完全に調子づいている。
 事実その後も馬券を買えば、的中の嵐であった。
 それはもう、怒涛の如くであり、向かうところ敵なしであり、神が憑いているとしかいいようがなかった。
 最終レースも終わり、JRAをあとにした高木は、300万を越える現金を手にしていた。
 そこまでツキまくると怖いくらいだが、高木は「まだまだイケる」そう思った。
 欲が出ると歯止めが利かないというのも彼の性格なのである。
 とはいえ、レースは終了してしまったのだし、だからといって300百万を手にしてまたもパチンコという気にはなれない。

 しかたねえな、このツキは取っておこう……。

 ツキを取っておくことなど決してできるわけはないのだが、高木は至極まじめにそう思った。

「だれか誘って、飲みにでも行くか」

 独りごちながら、数少ない知人に電話をしようとスマート・フォンを手にしたとき、視界の先に宝クジ売り場があった。

 オー、いいね……。

 高木は電話を掛けるのをやめ、吸い寄せられるようにその売り場へと向かった。
 ありきたりの宝クジを買ってもつまらない。
 ロト6やビンゴ5も同様である。
 そう思った高木は、物は試しとその場で当たり外れのわかる「スクラッチ」を20枚購入した。
 小銭を1枚だし、売り場の横でスクラッチを削りはじめた。
 だがしかし、これが当たらない。
 10枚を削り、20枚すべてを削り終えたが当たったのは5等の200円2本だった。

 20枚じゃ、当たるわけもないか……。

 安易にそう思った高木は、さらに30枚を買った。
 しかし、やはり当たらない。
 削りに削り、まったく当たりが出ないまま最後の1枚となった。

 むむむむ……。

 高木は一呼吸いれて、最後の1枚を削り始めた。
 スクラッチ印刷のひとつを削る。
 すると、一等100万の当たりマークが姿を現した。

 おおッ! 
 きた! 
 そうだよそうだよ、そうこなくちゃ……。

 高木は逸る気持ちを抑えながら、ふたつ目を削っていった。

 おおおッ!

 出た。
 同じマークがふたつ。
 高木は歓喜した。
 手のひらに汗を掻く。
 この緊張感がなんともいえない。
 鼓動が「バクバク」と胸を打つ。

 落ち着け、落ち着くんだ……。

 歓ぶのはまだ早い。
 一等を手にするには、同じマークがあとひとつそろわなければならない。
 汗ばむ手のひらをジーンズで拭い、今度は大きく息を吸い込むと、高木は三つ目を削り始めた。
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