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【第8話】
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あのときの、あの微笑みをいまでも僕は鮮明に憶えています。
そして僕は中学1年を終えるまでの6年間を、その施設で送ることになるのですが、そこでは、あなたから受けた体罰以上の、残酷な虐めが待っていたのです。
ともにそこで暮らす中学生たちの手によってくり返される虐めは、それはもう拷問と言ってもいいほどで、まさに地獄そのものでした。
その記憶は、やはり消えることのない傷となって僕の中に残っていて、思い出すだけで苦痛と吐き気を覚えるほどです。
それだけ施設での6年間は、あまりにも惨く、そして辛い日々だったのです。
母さん。僕は悪い子でした。
あなたの望む素直な子になれず、その挙句に施設に入れられてしまうような、そんな子供になってしまったのですから。
でも母さん。
僕は、そんな僕なりにあなたをこの世で一番愛していたのです。
どんな体罰を受けようと、僕はあなたを愛し、そして、憎んでもいました。
僕はあなた愛する分だけ、憎んでいたのです。
だってそうでしょう。
僕がどんなに手をつけられない子供だったとはいえ、僕が施設に入れられたのは、まだ7歳になったばかりだったのですから。
どうして僕は、施設に入れられなければならなかったのか。
どうして僕は、惨い虐めを受けなければならないのか。
涙の中で僕は思いつづけ、そしてその思いは徐々にあなたへの憎しみになったのです。
まだ7歳という年齢だった僕には、施設に入った理由が自分にあるのだということなど考えられず、それどころか、僕をそんな境遇に追いやったのはあなたなのだと思うようになり、だから僕は、あなたを憎むようになっていったのです。
それでも、僕はあなたを憎みながらもやはり愛していて、年に2度、帰郷を許される冬休みや夏休みになる数週間前から、その日になることを、あなたに会えることだけを待ちつづけていました。
帰郷できる前日は嬉しさのあまりに胸が昂ぶって、瞼をきつく閉じても眠ることができず、頭の中で数を百まで数えたり、あなたの顔を思い浮かべたり、家の前に広がる風景を思い描いたりしていました。
それでも朝の訪れは遅く、
このまま朝がこなかったらどうしよう……。
僕はそんな不安に駆られながら、カーテンの隙間から覗く夜の闇に眼を馳せたりしたのでした。
辛く地獄そのものといえた日々が6年もつづき、そして僕はやっと施設から解放されて、あなたのもとにもどることができたのでした。
その頃にはもう、家は一戸建てに引っ越していて、僕は中学2年になっていました。
あなたの躾の厳しさは尚も変わらず、それでも僕の身体や精神は思春期へと成長していて、益々あなたに反抗していきました。
そんな僕に負けまいと、あなたは体罰を与える手に力をこめ、僕はそれを撥ね退けるように向かっていきました。
力ではさすがに太刀打ちできなくなったことに知ると、
「親に歯向かうとはなんだ! お前は前より悪くなってるじゃないか。こんなことなら、施設にずっと入れておくんだったよ」
あなたは僕に罵声を浴びせましたね。
その言葉は、あなたへの憎しみを蒼白き炎に変え、そして母さん、僕はそんなあなたに、殺意さえ覚えるようになったのです。
母さん。
あなたにはわかりますか。
あなたを愛していながら、それなのに、あなたを憎んでいく自分を止められない辛さが。
それでも僕は、親不孝者です。
育ててくれたあなたを、愛するあなたを、ほんの一瞬であれ殺意を覚えるなど、人間として、人の子としてあってはならないことなのですから。
とは言っても僕は、自分の中に芽生えた殺意を実行に移すことなどできるわけもなく、ただあなたが、僕の前から消えてしまえばいい、そう祈ったりしました。
でも一度だけ、ほんの一瞬のことでしたが、僕はあなたを、刺してしまおうと思ったことがあったのです。
そして僕は中学1年を終えるまでの6年間を、その施設で送ることになるのですが、そこでは、あなたから受けた体罰以上の、残酷な虐めが待っていたのです。
ともにそこで暮らす中学生たちの手によってくり返される虐めは、それはもう拷問と言ってもいいほどで、まさに地獄そのものでした。
その記憶は、やはり消えることのない傷となって僕の中に残っていて、思い出すだけで苦痛と吐き気を覚えるほどです。
それだけ施設での6年間は、あまりにも惨く、そして辛い日々だったのです。
母さん。僕は悪い子でした。
あなたの望む素直な子になれず、その挙句に施設に入れられてしまうような、そんな子供になってしまったのですから。
でも母さん。
僕は、そんな僕なりにあなたをこの世で一番愛していたのです。
どんな体罰を受けようと、僕はあなたを愛し、そして、憎んでもいました。
僕はあなた愛する分だけ、憎んでいたのです。
だってそうでしょう。
僕がどんなに手をつけられない子供だったとはいえ、僕が施設に入れられたのは、まだ7歳になったばかりだったのですから。
どうして僕は、施設に入れられなければならなかったのか。
どうして僕は、惨い虐めを受けなければならないのか。
涙の中で僕は思いつづけ、そしてその思いは徐々にあなたへの憎しみになったのです。
まだ7歳という年齢だった僕には、施設に入った理由が自分にあるのだということなど考えられず、それどころか、僕をそんな境遇に追いやったのはあなたなのだと思うようになり、だから僕は、あなたを憎むようになっていったのです。
それでも、僕はあなたを憎みながらもやはり愛していて、年に2度、帰郷を許される冬休みや夏休みになる数週間前から、その日になることを、あなたに会えることだけを待ちつづけていました。
帰郷できる前日は嬉しさのあまりに胸が昂ぶって、瞼をきつく閉じても眠ることができず、頭の中で数を百まで数えたり、あなたの顔を思い浮かべたり、家の前に広がる風景を思い描いたりしていました。
それでも朝の訪れは遅く、
このまま朝がこなかったらどうしよう……。
僕はそんな不安に駆られながら、カーテンの隙間から覗く夜の闇に眼を馳せたりしたのでした。
辛く地獄そのものといえた日々が6年もつづき、そして僕はやっと施設から解放されて、あなたのもとにもどることができたのでした。
その頃にはもう、家は一戸建てに引っ越していて、僕は中学2年になっていました。
あなたの躾の厳しさは尚も変わらず、それでも僕の身体や精神は思春期へと成長していて、益々あなたに反抗していきました。
そんな僕に負けまいと、あなたは体罰を与える手に力をこめ、僕はそれを撥ね退けるように向かっていきました。
力ではさすがに太刀打ちできなくなったことに知ると、
「親に歯向かうとはなんだ! お前は前より悪くなってるじゃないか。こんなことなら、施設にずっと入れておくんだったよ」
あなたは僕に罵声を浴びせましたね。
その言葉は、あなたへの憎しみを蒼白き炎に変え、そして母さん、僕はそんなあなたに、殺意さえ覚えるようになったのです。
母さん。
あなたにはわかりますか。
あなたを愛していながら、それなのに、あなたを憎んでいく自分を止められない辛さが。
それでも僕は、親不孝者です。
育ててくれたあなたを、愛するあなたを、ほんの一瞬であれ殺意を覚えるなど、人間として、人の子としてあってはならないことなのですから。
とは言っても僕は、自分の中に芽生えた殺意を実行に移すことなどできるわけもなく、ただあなたが、僕の前から消えてしまえばいい、そう祈ったりしました。
でも一度だけ、ほんの一瞬のことでしたが、僕はあなたを、刺してしまおうと思ったことがあったのです。
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