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【チャプター 3】
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中沢は妻を信じようとした。
愛するがゆえに、妻が裏切ったりするわけがないと信じたかった。
だが、そんな中沢の想いが届くわけもなく、妻は日ごとに美しくいき、そしてその美しさは彼のためのものではなかった。
中沢はひとり苦しんだ。
問いただすこともできずに月日だけが流れ、妻が美しくなっていくほどに、彼の心は憎しみに囚われていった。
その苦しみを、妻は知る由もない。
(この女はだれだ……)
ときおり、妻は微笑みを向けてくる。
その微笑みが、偽りだということもわかっている。
なぜなら、身ぶり手ぶりを交えながら話す妻の眼は、僕を見つめていながら見ておらず、その瞳に僕の姿は映っていなかった。
何もかもが偽りだった。
妻のやさしさも、この生活も、すべてが偽りの中にある。
その偽りの生活の中で、半年ものあいだ耐えてきた。
だが、もう、そんなことはどうでもいい。
この美しい妻の顔も、これで見納めなのだから。
中沢は決意していた。
今夜のうちに妻を殺害することを。
いまのうちに微笑むがいいさ。
思う存分、しゃべりたいだけしゃべればいい。
明日からは、微笑むこともしゃべることもできないのだ。
ただ永遠に、眠りつづけるだけだ。
ゆっくりと爛れ、腐乱し、朽ち果ててゆきながら。
中沢は妻に微笑み返そうとした。
だがそれは上手くいかず、頬を引きつらせただけだった。
と、そのとき、妻の顔がふいにゆがんだ。
そう思うそばから視界が揺れた。
(な、なんだ……)
瞼を閉じ、指先で目頭を押さえた。
(酔ったのか……)
細めた眼をデカンタに向ける。
ワインは、デカンタの底にわずかに残っているだけだ。
妻のグラスは、最初に注いだときからいくらも減っていない。
飲んだのは、ほとんど中沢ひとりだった。
(こんな、いつの間に……)
知らず知らずのうちにこれほど飲んだということは、よほど神経が昂っていたのだろう。
それもそうだ。
人ひとりを殺害する決意をしたのだ。
神経が昂るのも当然のことだ。
中沢は立ち上がろうとし、視界が揺れるとともに身体までが揺れた。
かなり酔ったらしい。
「あなた!」
妻が慌てて中沢を支えた。
「酔ったみたいだ」
「そうね。あなた、疲れているのよ。それに、私も勧めすぎたみたい。さ、寝室に行きましょう」
中沢は妻に支えられながら2階の寝室に向かった。
寝室に入ると、中沢は崩れるようにベッドへ倒れこんだ。
仰向けになると天井がぐるりと回った。
(あのくらいのワインで、これほど酔うとは……)
そう思ったのもつかの間、中沢は眼を閉じたとたん、急速に闇へと引きこまれていった。
愛するがゆえに、妻が裏切ったりするわけがないと信じたかった。
だが、そんな中沢の想いが届くわけもなく、妻は日ごとに美しくいき、そしてその美しさは彼のためのものではなかった。
中沢はひとり苦しんだ。
問いただすこともできずに月日だけが流れ、妻が美しくなっていくほどに、彼の心は憎しみに囚われていった。
その苦しみを、妻は知る由もない。
(この女はだれだ……)
ときおり、妻は微笑みを向けてくる。
その微笑みが、偽りだということもわかっている。
なぜなら、身ぶり手ぶりを交えながら話す妻の眼は、僕を見つめていながら見ておらず、その瞳に僕の姿は映っていなかった。
何もかもが偽りだった。
妻のやさしさも、この生活も、すべてが偽りの中にある。
その偽りの生活の中で、半年ものあいだ耐えてきた。
だが、もう、そんなことはどうでもいい。
この美しい妻の顔も、これで見納めなのだから。
中沢は決意していた。
今夜のうちに妻を殺害することを。
いまのうちに微笑むがいいさ。
思う存分、しゃべりたいだけしゃべればいい。
明日からは、微笑むこともしゃべることもできないのだ。
ただ永遠に、眠りつづけるだけだ。
ゆっくりと爛れ、腐乱し、朽ち果ててゆきながら。
中沢は妻に微笑み返そうとした。
だがそれは上手くいかず、頬を引きつらせただけだった。
と、そのとき、妻の顔がふいにゆがんだ。
そう思うそばから視界が揺れた。
(な、なんだ……)
瞼を閉じ、指先で目頭を押さえた。
(酔ったのか……)
細めた眼をデカンタに向ける。
ワインは、デカンタの底にわずかに残っているだけだ。
妻のグラスは、最初に注いだときからいくらも減っていない。
飲んだのは、ほとんど中沢ひとりだった。
(こんな、いつの間に……)
知らず知らずのうちにこれほど飲んだということは、よほど神経が昂っていたのだろう。
それもそうだ。
人ひとりを殺害する決意をしたのだ。
神経が昂るのも当然のことだ。
中沢は立ち上がろうとし、視界が揺れるとともに身体までが揺れた。
かなり酔ったらしい。
「あなた!」
妻が慌てて中沢を支えた。
「酔ったみたいだ」
「そうね。あなた、疲れているのよ。それに、私も勧めすぎたみたい。さ、寝室に行きましょう」
中沢は妻に支えられながら2階の寝室に向かった。
寝室に入ると、中沢は崩れるようにベッドへ倒れこんだ。
仰向けになると天井がぐるりと回った。
(あのくらいのワインで、これほど酔うとは……)
そう思ったのもつかの間、中沢は眼を閉じたとたん、急速に闇へと引きこまれていった。
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