8 / 74
【第8話】
しおりを挟む
公園に着くと紀子は、思っていたよりも人が多いことに、今日が日曜日であることをあらためて実感した。
そんな実感にため息をつき、ノーメイクで出てきてしまったことを悔いた。
それでも、清々しい風が頬を吹き抜けて、その爽やかさに紀子は少しだけ気持ちが晴れた。
気づくと頭痛も取れている。
そこは、「自然の森公園」というだけあって面積が広く、舗装された遊歩道に沿って小川が流れ、小さな庭園めいたものや池あって、その傍らには水車があった。
独り暮らしを始めて紀子は1年になるが、その公園に足を運んだのは、そのときが初めてだった。
家族連れやカップルが眼につく。
自分以外は皆、幸せに見えてしまうのは錯覚だろうか。
またまたブルーになっていく自分に気づいて、紀子はひとつ深呼吸をして遊歩道を歩き出した。
(それにしても、いい日和だわ……)
そんなことを思いながら、ゆっくり歩みを進めていく。
わずかに歩いたばかりのそのとき、紀子は見つめくる視線を感じた。
(だれ? 私に視線を向けるのは……)
紀子は周囲を見渡す。
ダメ! 私はノーメイクなの……。
眉毛がないのは、前髪で隠しているけど……。
でもダメ。やっぱりダメ……。
見ないで、お願い……。
なおも紀子は周囲に眼を凝らす。
あの男?
いや違う……。
じゃあアイツ?
ううん、違うわ……。
アイツは犬を連れている女のコの胸元を見てるじゃない……。
わ、スケベ丸出し……。
最ッ低!
でも、あのコのオッパイ大きいわ……。
あのコのがメロンなら、私は……。
紀子は自分の胸と較べて、落ちこんだ。
なによ……。
女は胸の大きさじゃないわ……。
さて、お次は……。
わッ、なにアイツ……。
超ミニのギャルふたりにコソコソとついていくあの男……。
やだ、ニヤけてる……。
キモイ、キモすぎる……。
カメラを手にしてシャッター・チャンス、って、まさか盗撮!
あなたのようなキャラはこんなところにいないで、アキバに行きなさい!
それで、こっちの男は?
おっと、イケメン発見!
だけど私には眼もくれず、そこに彼女が登場、って……。
フン! カップルは無視よ、無視!
うわ、可愛い!
乳母車に乗せられてやってくるあなたは、円らな瞳のエンジェル!
あなたなの?
私を見つめていたのは……。
って、えッ!
どうして?
私が顔を覗きこんだら泣き出した!
もう、感じ悪い!
今度はなに?
あの男の子……。
私に向かって、アッカンベー!
って、なんなのよ!
え? なによ……。
ブス?
私がブスだっていうの!
あ、逃げた!
超ムカつく!
フン、だ!
それにしても、私ったら、どうして人間ウォッチングなんかしてるんだろ……。
だけど、ほんとにだれなの?
この私に、視線の矢を向けているのは……。
そのとき、紀子の視界に、ベンチに坐るひとりの老人の姿が入ってきた。
えッ、まさか。まさかよね……。
紀子は一度その老人から視線を外し、そしてあらためて眼を向けた。
ゲッ!
そのまさかが的中!
ピンポンピンポン!
ビンゴ!
大当たり!
ってバカ……。
そんな場合じゃないでしょ!
紀子は確認のために、うしろをふり返ってみた。
でも、だれもいない。
もう一度老人に眼を向けてみる。
やっぱり……。
あのおじいさん、ほんとに私を見てる……。
いったい、なに?
どういうこと?
もしかして、おじいさん私をナンパするつもり?
お嬢さん、お茶でもどうですか。なんて?
ひえー、やめて……。
そんなの無理!
絶対に無理だから!
ね、おじいさん考え直そ……。
私とおじいさんじゃ、とてもつり合わないから……。
っていうか、なに先走ってるんだろう……。
そんなのあるわけないじゃない……。
どうかしてるわ……。
それにあの歳じゃ、男の役目は卒業って感じだし……。
って、やだ、なんか微笑んじゃってる……。
ちょっと、もォ……。
そんなににっこりとされたら、私困っちゃうじゃない……。
これでも、お年寄りには弱いんだから……。
といってもわかるでしょ?
あくまで違う意味で、だからね……。
こうなったら、もうシカトよ、シカト。それがいちばんだわ!
紀子は、老人から顔を背けた。
それでも、どうしても気になって、横目でちらりと老人を見る。
でも、あの懐かしむような、初恋の人にでも出逢ったような、哀愁たっぷりの眼差しはなに? なんか放っておけなくなっちゃうじゃないの!
んー、どうしよー……。
紀子は思いっきり思い悩む。
ま、いいか……。
どうせ私はヒマだしね……。
時間潰しにはいいかも……。
でも、待って……。
あのくらいの歳なら、私くらいの孫がいてもおかしくないわよね……。
あ、そうか。私を孫と間違えてるんだ。きっとそうだわ……。
紀子はそう納得し、さらに、
(それに、もしかすると、イケメンの孫もいるかもしれないわ……)
そんな期待が頭をもたげて、老人に向かって歩き出していた。
「こんにちは」
気軽に老人に声をかけると、紀子は隣に腰を下ろした。
そんな実感にため息をつき、ノーメイクで出てきてしまったことを悔いた。
それでも、清々しい風が頬を吹き抜けて、その爽やかさに紀子は少しだけ気持ちが晴れた。
気づくと頭痛も取れている。
そこは、「自然の森公園」というだけあって面積が広く、舗装された遊歩道に沿って小川が流れ、小さな庭園めいたものや池あって、その傍らには水車があった。
独り暮らしを始めて紀子は1年になるが、その公園に足を運んだのは、そのときが初めてだった。
家族連れやカップルが眼につく。
自分以外は皆、幸せに見えてしまうのは錯覚だろうか。
またまたブルーになっていく自分に気づいて、紀子はひとつ深呼吸をして遊歩道を歩き出した。
(それにしても、いい日和だわ……)
そんなことを思いながら、ゆっくり歩みを進めていく。
わずかに歩いたばかりのそのとき、紀子は見つめくる視線を感じた。
(だれ? 私に視線を向けるのは……)
紀子は周囲を見渡す。
ダメ! 私はノーメイクなの……。
眉毛がないのは、前髪で隠しているけど……。
でもダメ。やっぱりダメ……。
見ないで、お願い……。
なおも紀子は周囲に眼を凝らす。
あの男?
いや違う……。
じゃあアイツ?
ううん、違うわ……。
アイツは犬を連れている女のコの胸元を見てるじゃない……。
わ、スケベ丸出し……。
最ッ低!
でも、あのコのオッパイ大きいわ……。
あのコのがメロンなら、私は……。
紀子は自分の胸と較べて、落ちこんだ。
なによ……。
女は胸の大きさじゃないわ……。
さて、お次は……。
わッ、なにアイツ……。
超ミニのギャルふたりにコソコソとついていくあの男……。
やだ、ニヤけてる……。
キモイ、キモすぎる……。
カメラを手にしてシャッター・チャンス、って、まさか盗撮!
あなたのようなキャラはこんなところにいないで、アキバに行きなさい!
それで、こっちの男は?
おっと、イケメン発見!
だけど私には眼もくれず、そこに彼女が登場、って……。
フン! カップルは無視よ、無視!
うわ、可愛い!
乳母車に乗せられてやってくるあなたは、円らな瞳のエンジェル!
あなたなの?
私を見つめていたのは……。
って、えッ!
どうして?
私が顔を覗きこんだら泣き出した!
もう、感じ悪い!
今度はなに?
あの男の子……。
私に向かって、アッカンベー!
って、なんなのよ!
え? なによ……。
ブス?
私がブスだっていうの!
あ、逃げた!
超ムカつく!
フン、だ!
それにしても、私ったら、どうして人間ウォッチングなんかしてるんだろ……。
だけど、ほんとにだれなの?
この私に、視線の矢を向けているのは……。
そのとき、紀子の視界に、ベンチに坐るひとりの老人の姿が入ってきた。
えッ、まさか。まさかよね……。
紀子は一度その老人から視線を外し、そしてあらためて眼を向けた。
ゲッ!
そのまさかが的中!
ピンポンピンポン!
ビンゴ!
大当たり!
ってバカ……。
そんな場合じゃないでしょ!
紀子は確認のために、うしろをふり返ってみた。
でも、だれもいない。
もう一度老人に眼を向けてみる。
やっぱり……。
あのおじいさん、ほんとに私を見てる……。
いったい、なに?
どういうこと?
もしかして、おじいさん私をナンパするつもり?
お嬢さん、お茶でもどうですか。なんて?
ひえー、やめて……。
そんなの無理!
絶対に無理だから!
ね、おじいさん考え直そ……。
私とおじいさんじゃ、とてもつり合わないから……。
っていうか、なに先走ってるんだろう……。
そんなのあるわけないじゃない……。
どうかしてるわ……。
それにあの歳じゃ、男の役目は卒業って感じだし……。
って、やだ、なんか微笑んじゃってる……。
ちょっと、もォ……。
そんなににっこりとされたら、私困っちゃうじゃない……。
これでも、お年寄りには弱いんだから……。
といってもわかるでしょ?
あくまで違う意味で、だからね……。
こうなったら、もうシカトよ、シカト。それがいちばんだわ!
紀子は、老人から顔を背けた。
それでも、どうしても気になって、横目でちらりと老人を見る。
でも、あの懐かしむような、初恋の人にでも出逢ったような、哀愁たっぷりの眼差しはなに? なんか放っておけなくなっちゃうじゃないの!
んー、どうしよー……。
紀子は思いっきり思い悩む。
ま、いいか……。
どうせ私はヒマだしね……。
時間潰しにはいいかも……。
でも、待って……。
あのくらいの歳なら、私くらいの孫がいてもおかしくないわよね……。
あ、そうか。私を孫と間違えてるんだ。きっとそうだわ……。
紀子はそう納得し、さらに、
(それに、もしかすると、イケメンの孫もいるかもしれないわ……)
そんな期待が頭をもたげて、老人に向かって歩き出していた。
「こんにちは」
気軽に老人に声をかけると、紀子は隣に腰を下ろした。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる