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チャプター【15】
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そこは、白い壁、白い天井、白い床に囲まれた一室だった。
窓らしきものは、ドアの小窓だけだ。
そのドアはセキュリティ・ロックになっており、開閉は外からしかできなくなっている。
室内からでは、決して開けることはできない。
そして、室内の奥の壁際にベッドが置かれてあり、その反対の壁際には、むき出しになった洋式便器が設置されていた。
ベッドには、蘭が眠っている。その一室は、OMEGA(オメガ)にある研究所内にあった。
国家安全保障省外局治安維持対策局――それが、OMEGAの正式名称だった。
OMEGAは通称で、なぜ、そう呼ばれるようになったのかだが、それは新約聖書の「ヨハネの黙示録」に記された主の言葉、「ALPHA(アルファ)であり、OMEGAである」からきている。
しかし、どうして、最初を意味する「ALPHA」ではなく、最後を意味する「OMEGA」なのか。
理由は、そのときよりさらに半年前に起きた事件に起因する。
半年前、それは桜が満開に咲くころのこと、JAXA(日本国際宇宙機構)種子島宇宙センターから、有人宇宙船(シャトル)つきかげ号が月に向かって打ち上げられた。
その目的は、月に豊富に存在する「ヘリウム3」の探索にあった。
ヘリウム3は、発電用核融合炉の燃料になるのだが、核融合を利用してエネルギーを取り出す方法が、他の核技術と比べて安全であり、持続可能だとされているのだ。
そのうえ、シャトル1機に積載可能な分量のヘリウム3を使って核融合発電をすると、日本全土であれば4年間から5年間の電力を供給できるほどなのである。
それだけに、化石燃料に代わる次世代の燃料として利用しようと、米国、イギリス、ロシア、中国がすでに探索をすませ、採掘に乗り出していた。
月面には、その4ヵ国の基地があり、一歩出遅れた日本もようやく基地が完成し、つきかげ号の打ち上げとなったのだ。
搭乗員(クルー)5名。月面での滞在日程は15日だった。
ミッションを無事に終了したつきかげ号は、滞在日程どおりに地球へと帰還した。
帰還後すぐに、搭乗員たちは身体に異常はないか検査を受けた。
「月へ行く前より気分がいい。まるで、いままでの自分ではないようだよ」
30代前半と思われる、船長(コマンダー)の九鬼兼次(くきかねつぐ)は、検査を受けながらそう言った。
個別に検査を受けている他の搭乗員4名も、やはり九鬼と同じようなことを口にした。
その九鬼の言葉どおり、つきかげ号の搭乗員5名は健康そのものに見えた。
「宮田。もう帰ってもいいだろう?」
検査を終えたとき、船長の九鬼が医師に向かってそう言った。
宮田と呼ばれた医師は、訝るように九鬼を見た。
宇宙飛行規定により、「地球外より帰還した者は、検査の結果が出るまでいかなる場合においても施設内に留まらなければならない」と定められている。
JAXAに籍を置く人間に、それを知らぬ者はいない。
それが宇宙飛行士であるなら、なおのことである。
それだけに、医師――宮田は怪訝な眼を、九鬼に向けたのだ。
宮田のその視線を感じ、
「そんな眼で見るなよ、宮田。ジョークさ、ジョーク」
九鬼は笑って、宮田の肩を叩いた。
宮田のほうも、ジョークと聞いて、口端に苦笑交じりの笑みを浮かべた。
「しかたない。結果が出るまで、窮屈な部屋で待つとするか」
「すぐにでも恋女房に逢いたいのはわかるが、決まりだからな。我慢しろ」
宮田のその言葉に、
「ああ」
そう返すと、九鬼は医療室を出ていった。
その背を見送った宮田と、九鬼は同期だった。
九鬼と入れ替わるように、女性の医療スタッフがやってきて、
「宮田先生。すぐ来てください!」
宮田を呼んだ。
「どうした」
宮田が訊くと、
「谷垣先生が呼んでます」
その緊迫した顔を見て、宮田はただ事ではないことを察し、医療スタッフのあとについていった。
窓らしきものは、ドアの小窓だけだ。
そのドアはセキュリティ・ロックになっており、開閉は外からしかできなくなっている。
室内からでは、決して開けることはできない。
そして、室内の奥の壁際にベッドが置かれてあり、その反対の壁際には、むき出しになった洋式便器が設置されていた。
ベッドには、蘭が眠っている。その一室は、OMEGA(オメガ)にある研究所内にあった。
国家安全保障省外局治安維持対策局――それが、OMEGAの正式名称だった。
OMEGAは通称で、なぜ、そう呼ばれるようになったのかだが、それは新約聖書の「ヨハネの黙示録」に記された主の言葉、「ALPHA(アルファ)であり、OMEGAである」からきている。
しかし、どうして、最初を意味する「ALPHA」ではなく、最後を意味する「OMEGA」なのか。
理由は、そのときよりさらに半年前に起きた事件に起因する。
半年前、それは桜が満開に咲くころのこと、JAXA(日本国際宇宙機構)種子島宇宙センターから、有人宇宙船(シャトル)つきかげ号が月に向かって打ち上げられた。
その目的は、月に豊富に存在する「ヘリウム3」の探索にあった。
ヘリウム3は、発電用核融合炉の燃料になるのだが、核融合を利用してエネルギーを取り出す方法が、他の核技術と比べて安全であり、持続可能だとされているのだ。
そのうえ、シャトル1機に積載可能な分量のヘリウム3を使って核融合発電をすると、日本全土であれば4年間から5年間の電力を供給できるほどなのである。
それだけに、化石燃料に代わる次世代の燃料として利用しようと、米国、イギリス、ロシア、中国がすでに探索をすませ、採掘に乗り出していた。
月面には、その4ヵ国の基地があり、一歩出遅れた日本もようやく基地が完成し、つきかげ号の打ち上げとなったのだ。
搭乗員(クルー)5名。月面での滞在日程は15日だった。
ミッションを無事に終了したつきかげ号は、滞在日程どおりに地球へと帰還した。
帰還後すぐに、搭乗員たちは身体に異常はないか検査を受けた。
「月へ行く前より気分がいい。まるで、いままでの自分ではないようだよ」
30代前半と思われる、船長(コマンダー)の九鬼兼次(くきかねつぐ)は、検査を受けながらそう言った。
個別に検査を受けている他の搭乗員4名も、やはり九鬼と同じようなことを口にした。
その九鬼の言葉どおり、つきかげ号の搭乗員5名は健康そのものに見えた。
「宮田。もう帰ってもいいだろう?」
検査を終えたとき、船長の九鬼が医師に向かってそう言った。
宮田と呼ばれた医師は、訝るように九鬼を見た。
宇宙飛行規定により、「地球外より帰還した者は、検査の結果が出るまでいかなる場合においても施設内に留まらなければならない」と定められている。
JAXAに籍を置く人間に、それを知らぬ者はいない。
それが宇宙飛行士であるなら、なおのことである。
それだけに、医師――宮田は怪訝な眼を、九鬼に向けたのだ。
宮田のその視線を感じ、
「そんな眼で見るなよ、宮田。ジョークさ、ジョーク」
九鬼は笑って、宮田の肩を叩いた。
宮田のほうも、ジョークと聞いて、口端に苦笑交じりの笑みを浮かべた。
「しかたない。結果が出るまで、窮屈な部屋で待つとするか」
「すぐにでも恋女房に逢いたいのはわかるが、決まりだからな。我慢しろ」
宮田のその言葉に、
「ああ」
そう返すと、九鬼は医療室を出ていった。
その背を見送った宮田と、九鬼は同期だった。
九鬼と入れ替わるように、女性の医療スタッフがやってきて、
「宮田先生。すぐ来てください!」
宮田を呼んだ。
「どうした」
宮田が訊くと、
「谷垣先生が呼んでます」
その緊迫した顔を見て、宮田はただ事ではないことを察し、医療スタッフのあとについていった。
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