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チャプター【23】
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3日後のこと、OMEGAにとって、そして久坂にとって、最初の感染者が確保された。
その感染者が、ふらふらと街を歩いていたところを巡回の警察官に発見され、警視庁からOMEGAへ報告が入ったのだ。
感染者は、20代の女性だった。
さっそく血液を調べてみると、女性はまだ感染して間もなかった。
しかし、久坂は、その血液を見て、最初の5人の血液サンプルを見た以上に驚いた。
未知なる細胞体が、遺伝子を書き換えながら分裂していき、増殖していくという話は宮田から聞いていたが、進行していくその速さに、驚かざるを得なかった。
こんなものを相手に、いったいどう対処すればいいんだ。
遺伝子をそっくり書き換えて増殖していくようなものに、どう立ち向かえばいいというんだ。
そんなことが脳裡を駆け抜け、打ち震えてしまっていた。
(だからといって、手をこまねいているわけにはいかない!)
弱気になっている自分に、久坂は発破をかけた。
自分は科学者であり、感染者をふくめ、人類を救うためにこのOMEGAにやってきたのだ。
この未知なる細胞体を撃退することができたなら、人類にとって、多大な貢献(こうけん)をしたことになる。
そうすれば、歴史に名を残すことにもなるだろう。
その思いに久坂はまず、女性に様々な抗体を投与することにした。
しかし、効果は見られず、モノクローナル抗体も無駄に終わった。
それでも、バイスペシフィック抗体を投与したとき、その効果が見られた。
感染の進行が止まったのだ。
これならば、と思ったのもつかの間、10分も経たずに進行がまた始まった。
久坂はもう一度、今度はバイスペシフィック抗体の量を増やして投与してみたが、もう感染の進行が止まることはなかった。
女性の血液から血清を作ろうとしても、ことごとくが失敗に終わった。
感染の進行を止めるのは、皆無と思われた。
そんな中で唯一わかったことは、感染の進行の影響によって、女性の状態に変化が現れるということだった。
感染1日目の女性は、身体に倦怠感があるのか、眼は虚ろで、隔離室にいるときでもほとんど動かず、ぼうっと宙を見つめているだけだった。
食事は摂らず、水だけを口にした。
それが2日目に入ると、とつぜん凶暴になって暴れ出し、かと思えば、ふいに静かになって室内を見回すと、自分 はどうなったのか、どうしてこんなところにいるのか、早く帰してくれ、などと、少し横暴な口調で訴えてきた。
久坂が壁に埋めこまれたスピーカーを通して、氏名や住所、年齢などを訊いていくと、女性はそれに、口調はやはり横暴ではあったが素直に返答した。
そのときの女性は顔色もよく、見るかぎりでは健康体であるように思えた。
だが、数時間が過ぎると、女性はまたも凶暴さを現した。
そのため、室内に睡眠ガスを流し、眠ったところを検査室へと運ばせた。
身体を調べてみると、感染の進行は、肉体の40%を越えていた。
検査後、すぐに隔離室へともどし、眼を醒ました女性は、その日も食事を摂らずに水だけを補給した。
そして3日目なると、女性の凶暴さが増した。
壁を殴り、蹴り、ベッドを壊すなどして暴れに暴れた。
「ここから出せッ! ここから出せー!」
そう叫びながらしばらく暴れていたが、ふと、その動きが止まり、とつぜん苦しみ悶えるように床を転げ回った。
すると、
「あが、あが、おががが……」
女性の身体に異変が起きた。
肉体の至るところがもこもこと蠢きはじめたのである。
蠢くその身体は、しだいに大きくなっていき、着ていた白いパジャマが破け、黒い毛が生えはじめた。
顔までが毛で覆われ、鼻、口、顎(あご)が、メキメキと正面へと迫り出していった。
ゴガォアッ!
女性が吼(ほ)えた。
しかし、そこにいる女性は、もう人間と言える肉体の原型を留めていはなかった。
彼女は、獣に変異していたのだった。
黒く光沢を持った毛が、全身を覆っている。
その顔はまさに獣のそれであり、眼は緑色の光を帯び、口から覗く犬歯が鋭く伸びていた。
その感染者が、ふらふらと街を歩いていたところを巡回の警察官に発見され、警視庁からOMEGAへ報告が入ったのだ。
感染者は、20代の女性だった。
さっそく血液を調べてみると、女性はまだ感染して間もなかった。
しかし、久坂は、その血液を見て、最初の5人の血液サンプルを見た以上に驚いた。
未知なる細胞体が、遺伝子を書き換えながら分裂していき、増殖していくという話は宮田から聞いていたが、進行していくその速さに、驚かざるを得なかった。
こんなものを相手に、いったいどう対処すればいいんだ。
遺伝子をそっくり書き換えて増殖していくようなものに、どう立ち向かえばいいというんだ。
そんなことが脳裡を駆け抜け、打ち震えてしまっていた。
(だからといって、手をこまねいているわけにはいかない!)
弱気になっている自分に、久坂は発破をかけた。
自分は科学者であり、感染者をふくめ、人類を救うためにこのOMEGAにやってきたのだ。
この未知なる細胞体を撃退することができたなら、人類にとって、多大な貢献(こうけん)をしたことになる。
そうすれば、歴史に名を残すことにもなるだろう。
その思いに久坂はまず、女性に様々な抗体を投与することにした。
しかし、効果は見られず、モノクローナル抗体も無駄に終わった。
それでも、バイスペシフィック抗体を投与したとき、その効果が見られた。
感染の進行が止まったのだ。
これならば、と思ったのもつかの間、10分も経たずに進行がまた始まった。
久坂はもう一度、今度はバイスペシフィック抗体の量を増やして投与してみたが、もう感染の進行が止まることはなかった。
女性の血液から血清を作ろうとしても、ことごとくが失敗に終わった。
感染の進行を止めるのは、皆無と思われた。
そんな中で唯一わかったことは、感染の進行の影響によって、女性の状態に変化が現れるということだった。
感染1日目の女性は、身体に倦怠感があるのか、眼は虚ろで、隔離室にいるときでもほとんど動かず、ぼうっと宙を見つめているだけだった。
食事は摂らず、水だけを口にした。
それが2日目に入ると、とつぜん凶暴になって暴れ出し、かと思えば、ふいに静かになって室内を見回すと、自分 はどうなったのか、どうしてこんなところにいるのか、早く帰してくれ、などと、少し横暴な口調で訴えてきた。
久坂が壁に埋めこまれたスピーカーを通して、氏名や住所、年齢などを訊いていくと、女性はそれに、口調はやはり横暴ではあったが素直に返答した。
そのときの女性は顔色もよく、見るかぎりでは健康体であるように思えた。
だが、数時間が過ぎると、女性はまたも凶暴さを現した。
そのため、室内に睡眠ガスを流し、眠ったところを検査室へと運ばせた。
身体を調べてみると、感染の進行は、肉体の40%を越えていた。
検査後、すぐに隔離室へともどし、眼を醒ました女性は、その日も食事を摂らずに水だけを補給した。
そして3日目なると、女性の凶暴さが増した。
壁を殴り、蹴り、ベッドを壊すなどして暴れに暴れた。
「ここから出せッ! ここから出せー!」
そう叫びながらしばらく暴れていたが、ふと、その動きが止まり、とつぜん苦しみ悶えるように床を転げ回った。
すると、
「あが、あが、おががが……」
女性の身体に異変が起きた。
肉体の至るところがもこもこと蠢きはじめたのである。
蠢くその身体は、しだいに大きくなっていき、着ていた白いパジャマが破け、黒い毛が生えはじめた。
顔までが毛で覆われ、鼻、口、顎(あご)が、メキメキと正面へと迫り出していった。
ゴガォアッ!
女性が吼(ほ)えた。
しかし、そこにいる女性は、もう人間と言える肉体の原型を留めていはなかった。
彼女は、獣に変異していたのだった。
黒く光沢を持った毛が、全身を覆っている。
その顔はまさに獣のそれであり、眼は緑色の光を帯び、口から覗く犬歯が鋭く伸びていた。
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