fateful meeting(フェイトフル ミーティング)~職業【遊び人】になってしまった僕だけど幸せになります!~

星 陽月

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【第5話】

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 僕はガタガタと震えるおじさんの背に、自分が来ていたジャンパーを掛けてやった。

「ちょっと汚しちゃったけど、我慢して」

 そしておじさんの隣に坐り、まだ酔いで眼が回っていたのでそのまま横たわった。

「あ……、あり、がとう……」

 よほど寒かったのだろう、おじさんは歯をガチガチと鳴らしていた。

「あ、あんたは、さ、さ、さっき、唐揚げをくれた兄さんだね」
「え、あ、うん……」
「俺みたいな男に親切にくれて、ほんとに、ありがとなァ」
「僕はたいしたこと、してないよ」
「あの唐揚げ、美味かったな~」
「そんなに美味かった?」
「ああ、美味かった。あんなに美味いものを食ったのは久々だったよ」
「そうなんだ」

 僕はすごくうれしくなった。
 いままで、僕が揚げた唐揚げを、「美味かった」と言ってくれた客はひとりもいなかった。

「あの唐揚げ、僕が揚げたんです」

 思わず、僕はそう言ってしまった。

「へ~、あの唐揚げ、兄さんが揚げたのかい。すごいな、兄さんは……。それに比べて俺は、あいつらに服を無理やり脱がされ、水をかけられて、もう俺はここで死ぬんだなって思ったよ。だけど、最後にあんな美味いものが食べられて、良かったって感謝した。思い残すことはないってね」 

 ジャンパーを羽織ったことで寒さが和らいだのか、おじさんの震えは止まっていた。

「…………」

 僕は無言だった。
 おじさんの言葉に涙が出そうになって、それを堪(こら)えるために歯を食いしばったからだ。
 すると、おじさんは勘違いしたらしく、

「おい、大丈夫か? ずいぶんと飲んだんだな。いま水を汲んできてやるから、待ってな」

 少年が捨てていったペットボトルを拾って、水を汲みに行こうとした。
 そのとき、

「水ならここにありますよ」

 そう言う声が聴こえた。
 その声には聞き覚えのある女性の声だった。
 
 どうして彼女がここに……。

 その女性は三多さんだった。
 また僕を馬鹿にするために、わざわざ来たのだろうか。
 僕が起き上がろうとすると、

「無理をしたらいけませんよ」

 三多さんが地に膝をついて、僕の頭をその膝に載せた。

 え、膝枕……?

「彼は私が介抱をします。あなたも寒いでしょう。早く帰って、身体を温めください」

 三多さんが、おじさんに向けて言うと、

「ああ、そうだな。そうさせてもらうよ。兄さん、ほんとうにありがとう」

 そう言うと、おじさんは去っていった。

 あ、ジャンパー……。
 でも、返せなんて言えないな……。

 僕のジャンパーを羽織ったおじさんを眼で見送りながら、帰る家はあるのかなと、そんな心配をした。

 それにしても……。

 おじさんのことを心配しながらも、別のことが脳裏をよぎった。
 それは当然、三多さんのことだ。

 あの三多さんと、ほんとうに同一人物なのか……?

 そう思ってしまうほど、まるで別人のように三多さんはやさしくなっていた。
 その三多さんの膝に、いや、正確には太ももに載った僕の頭の中には「?」マークがいっぱいになっていた。
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