fateful meeting(フェイトフル ミーティング)~職業【遊び人】になってしまった僕だけど幸せになります!~

星 陽月

文字の大きさ
8 / 28

【第6話】

しおりを挟む
 酔って火照った顔に触れる、三多さんの冷たい手が心地よく気持ちいい。
 僕の顔についた公園の砂や嘔吐物を拭ってくれているのだ。

 なんてやさしいんだ……。

 いいや、騙(だま)されてはいけない。

 僕は、君の正体を知っているんだぞ……。
 モラハラめ……。

 僕が酩酊(めいてい)するほどに酔ったその要因は、三多さんによる精神的暴力があったからに他ならないのだ。
 そんなことを思っていると、

「クス」

 三多さんが笑った。
 それはまるで、僕の心を見透かしたような笑みだ。
 すると、

「小島さん。先ほどは大変失礼しました。私、あなたを見直しました」

 三多さんはそう言い、顔を近づけてきて僕の眼を覗き込んできた。
 不意のことに僕は恥ずかしくなって、三多さんの視線から逃れるように眼をそらし、

「それって、あのおじさんを助けたことですか? それだったら、ただ単に酔った勢いですよ」

 そう言った。

「フフ、勢いであっても、素敵でした。あなたのクリスマスプレゼントも、とっても美味しかったです」
「え、あ、唐揚げ食べたの? さっきは、僕みたいな男の作ったものなんて食欲が失せるって言ってたのに」
「私、実はいま、ダイエット中なんです。なのに、あんな美味しそうないい香りをさせる唐揚げを持ってくるんですもの、少しイラっとしてしまって。嫌な態度を取ってしまって、ごめんなさい」

 ちらりと見た三多さんの瞳は、キラキラとしていた。

 そうだったのか……。

 その瞳に嘘はない。
 僕は、あっという間に三多さんを信じた。
 
「ついでに白状すると、今回の合コンは、私が知人に頼んでセッティングしてもらったんです」
「え、そうだったの? じゃあ、三多さんも彼氏ほしいんだ」

 僕はドキドキしてきた。

「いえ、私がほしいのは、彼氏じゃなく勇者です。誠実でやさしい勇気のある人を求めていたんです。ほんとは14~15歳くらいの少年が理想だったんですけど、それだと若すぎるし何かと……」
「???……」

 三多さんが言っていることがわからない。

「なかなかイメージに合う人っていないんですよね。だから、もう仕方ないから小島さんでいっかァって感じで……」
「…………」

 もう仕方ないから小島さんでいっかァ、って何んでだよ!
 そうツッコミたいのを僕は堪(こら)えた。

「でも、小島さんてやさしそうだし男気をみせる勇気も見せてもらったし、失礼はことを言ったお詫びもかねて――」
「あ、あの、話が見えてこないんだけど、それって、もしかして三多さんの勇者に僕になれっとこと?」

 僕は、三多さんが話し終えるのを待てずに言った。

「いえ、違います。それより、もう起き上がれますか?」
「あ、ごめん」

 僕が身体を起こすと、三多さんは持っていたバッグからPCを取り出し、キーボードを打ち始めた。
 そして僕に、あれこれと質問をくり返してきた。
 生年月日、身長、体重、血液型、etc。
 いったい、何なんだろうか。
 僕に興味を示しているのだろうか。
 それなら、うれしいんだけれど。

「では、最後の質問です。小島さんの将来の夢ってなんですか? これは必須事項なので、具体的に答えてくださいね」
「必須事項、ですか……。でも、恥ずかしくて言いたくないな」
「自分の将来の夢を語れないほうが、よほど恥ずかしいことだと思いますけど」

 僕は少しムッとした。

「だからって、僕にはわざわざ自分の将来の夢を口にする義務はないですよね」
「っていうか、もう時間がないんです。だから早く教えてくだ!」
「そう言われたって、意味も分からないし……」
「ごねないで、早く! ほんとに時間がないんだってば!」
「そんな急かされたら、言えるものも言えなくなりますよ」
「あー、もうじれったい! なら、教えてくれたら、いいことしてあげるから」

 いいことしてあげる、という言葉に僕は見事につられ、

「自分の店を持つことです!」

 将来の夢が、口から滑り出していた。

「お店って、それ、お弁当屋さん?」
「はい。どうしてわかったんですか? 僕が弁当屋を――あ、そうか、唐揚げでわかったんですね」
「まあね、ほとんど当てずっぽうだったけどね」

 三多さんは、PCのディスプレイに眼を向けたまま、キーボードを叩いている。

「あの、どうして弁当屋をやるのか、その理由とか訊かないんですか?」
「理由は必須ではないから。でも一応聞いておこうかしら」

 一応という言葉にちょっとだけカチンときたが、

「ひとりだけの力で僕を育ててくれた母さんを、楽にさせてあげたいんです。三浪もしたっていうのに大学を諦めて、そのあげくに弁当屋でバイトをしてる僕を、責めることなく見守ってくれてる母さんにはとても感謝してるから……。そして、いつになるかはわからないけど、こんな僕でもいいって言ってくれる女性がいたら、母さんに孫を抱かせてやりたい。それが僕の夢です」

 僕は思いのままに、理由を話した。

「そう、いいじゃない。その理由。素敵な夢だわ」

 馬鹿にされるかと思ったが、三多さんはやさしい顔をして微笑んでいた。
 そしてまた、PCに何か打ち込むと、

「さてと、これで入力のすべてが完了しました。最後に小島さん、電話番号を教えてください。ラインをしましょう」

 そう言った。

 え、女性とラインッ!!
 母さんと、バイト先のパートのおばちゃんたち以外の女性は、誰もメモリーに登録されていない僕のスマホに、ついに……。

 僕くは慌ててスマホを手にし、

「ぜ、是非、お願いします!」

 そう返していた。
 そして三多さんも電話番号を教えてくれると、

「小島さん、深夜0時になったら、あなたを異世界に転送します。あなたにとって都合のいい場所を設定しておいたので、安心してください」

 訳のわからぬことを言ってきた。

「なんですか、それ? まったく意味不明なんですけど」
「そんなことより、もうすぐ0時ですからね」

 そう言われてスマホの時刻を見ると、23時58分だった。
 もうすぐ0時である。

「ウフフ、実は私、サンタクロースなんです。三多だけに、読み方を替えるとサンタになるでしょ。ということで、良い人の小島さんに運命の出逢いを会いをプレゼントしましょう。お楽しみに。では行ってらっしゃい」

 その言葉を聞いたとたん、僕の意識は遠のいたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

処理中です...