fateful meeting（フェイトフル ミーティング）～職業【遊び人】になってしまった僕だけど幸せになります！～

【第21話】

　毛布と小麦粉と塩、そして干した海藻を抱えて村を出ると陽が西に傾いていた。
　チェルシーちゃんの家に着くころには真っ暗になっているだろう。
　スライムしかいないとはいえ、夜の森は恐い。
　僕は小走りになって急いだ。

（こんなに遅くなる予定じゃなかったんだけどなぁ…）

　木々の合間から差し込む夕陽を眺めながら、ふとネルさんのことが脳裡に浮かぶ。
　あのとき、ネルさんは言わなかったけれど、きっと彼は、チェルシーちゃん母であり、同じ仲間だった女性戦士ミルフィーのことが好きだったに違いない。
　だから、僕らのいた世界にもどる方法も探さずに、いつまでも彼女がいた子の異世界にとどまっているのだろう。
　レーベンさんから、過労のために亡くなったミルフィーの話を何も言わずに聞いていたネルさんの姿は、見ていてとても痛々しかった。
　ルミエールさんはミルフィーのことをとても愛していたらしいが、生活するためにやらなければならないことは、すべてミルフィーに頼っていたそうだ。
　家事に畑仕事、育児に魔物退治…。
　そのうえ、浜辺の村の人たちの手伝いもしていた。
　元々が農家の出だから、漁業のみで生計を立てていたこの村に、畑を作って、麦や芋を育てるノウハウを伝授したのは彼女だったらしい。
　明るくてやさししく、頼まれれば嫌とは言えない人だったから、身体がきつくても無理をしてしまい、それがたたって倒れてしまったのだという。
　村人に慕われていたミルフィー。
　そんな彼女の、残された家族。
　ルミエールさんとチェルシーちゃんを憐れんで、村人は力になろうとした。
　それなのに、ルミエールさんは恩を仇で返す真似をしてしまったのだ。
　愛する妻を失い、悲しみのあまり廃人のようになってしまった彼は、昼夜とはず海に向かって歌を唄いつづけた。
　その調べは、とても胸を打つものだった。
　それだけに、聴く者は皆、ルミエールさんに同情したが、しかし、それはあのときのように再びダーククラーゲンが現れるまでだった。
　ルミエールさんの唄声に引き寄せられたダーククラーゲンは、海で漁をしていた船を瞬く間に沈め、船から投げ出された人間を捕らえて喰った。
　愛する家族や恋人を失った村人たちは、怒り、ルミエールさんとチャルシーちゃんを吊るし上げて、ダーククラーゲンへの贄（にえ）にしようとした。
　それを止めて、村からの追放処分にしたのが、ネルだったのだ。
　ネルは、

「この村を豊かにしてくれたミルフィーの娘に罪はない。悪いのはルミエールだ！　だが、母親を失って悲しむこの娘の父親を、奪うようなこともできない。だから、このふたりの命だけは助けてやってくれ。その代わりに、俺がこの村に残って一生皆のために、この身を捧げるから、頼む、助けてやってくれ」

　村人に向かって、そう言った。
　そんなネルを　僕はすごいと思う。
　よほどミルフィーさんに想いをよせていたのだろう。

　そっか……。

　僕は感慨深けに思い、

（僕も、ネルのように想いを寄せる女性が現れるだろうか……）

　そんなことを考えていた。