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Subとしての生活
8 Attract【2】
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無意識のうちにペン先で杜上の頬のラインをなぞり、顎から首筋をたどっていた。
そっくりそのまま愛撫されて、顔が熱くなるのがわかる。
「…………っ」
そんなとき、ペン先がワイシャツの第一ボタンに当たったのは偶然だった。
なのに彼は、俺のネクタイを緩めてワイシャツのボタンをひとつ外してしまう。
彼の指先が喉を撫でると、俺は息を呑む。なんでこんなに緊張してるんだ?
ペンを動かせずに固まっていると、既に許可をした腰を触られる。
彼はなだめるつもりで撫でているのかも知れないが……くそ、下肢がうずうずしてくる。
「大丈夫、《上手にできていますよ》。僕の言葉をよく聞いてくれていますね」
「う……」
褒美のCommandを脳に流し込まれると、いよいよ身体がほてって汗ばんでくる。
こうなると、頭も身体も自分の思い通りにならなくなっていく。こんな、こんなことが。
「恥ずかしがらないで。教えてもらえるとあなたに尽くせるから嬉しい。僕にもっと、大慈さんを喜ばせる方法を教えてください」
やはりこいつは俺の警戒心を解くのがうまいと感じる。職業訓練で習うんだろうか。
安らぎに身を任せてしまいたい誘惑と、SubとしてPlayに組み込まれたくない気持ちがざわつく。
「……っ、こんなのがCareなのか?」
やっぱり、服従したくない。なけなしの反抗心からペンを下ろした。
杜上は目をぱちくりさせたが、すぐに切り替えた様子で雑談モードになる。
「映画を観たんでしょう? 主人公のPlayは信頼関係の構築から始まっていませんでしたか?」
半券には映画のタイトルが記載されている。杜上も観た映画だったらしい。
「そうだったかもしれないが……あれはフィクションだろう」
「Careの様子はリアリティがあると思っていますよ。理想的な胸キュン……とレビューされてましたし」
そうなのか?
抱き合うにもキスするにもいやらしい注文をつけて、ただの変態じゃないか。
「仕事でならやるが、あれを楽しむとはおぞましいな」
「いまどき珍しいですね。学生恋愛とかしなかったんですか? あなたほどの見目と優秀さなら告白のひとつやふたつあったでしょうに」
「勉学で忙しかった」
「うわぁ。その感じでいくつの初恋を打ち砕いたんだろう。同じ学校じゃなくて良かった」
軽口を叩く杜上に対し、俺は煮え切らない反応を返す。
身体のくすぶりは冷めるどころかどんどん強くなっていて、雑談に集中できなかった。
中断させたのは俺だ。再開しないのかなんてとても聞けない。
診療を終了するならするで早くして欲しい。スラックスの内側で窮屈そうにする性器が痛いから。
「──あ」
杜上を見て気付いてしまった。
彼も俺と同じようにそこを膨らませている。Subが被支配本能を持つように、Domには対極の支配本能がある。いくら彼でも業務と割り切れる限界があったようだ。
「おまえ、それ」
ついペン先でそこを示してしまった。その行為が鏡になっていることをすっかり忘れて。
「日頃フォローしている側なので堂々とすべきなんですが……」
眉根を下げて恥ずかしそうにする杜上は、おもむろに起き上がると俺を簡易ベッドに押し倒した。
「おい? あっ、違、さっきのは」
「僕の身体に注目してる場合じゃないですよ」
きつい股座を布越しに撫でられ、思わず声が出てしまう。
「違う、触らなくていい!」
「じゃあ、自分で触ってみますか?」
「はっ?」
こいつ、いまなんて言った?
Subとしてのガス抜きで有効な内容だとしても、馬鹿を言うなよ。
「僕が言おうとしているCommand、Domでもあるあなたならわかりますよね」
わかる。わかるが。
俺が言うべきことは、出題への正答ではなく【Red】だろう。
そうでなければ耐えがたい展開になってしまう。
Subの愉悦なんて知りたくない。
日常に支障が出ない程度にCareさえ受けられればそれでいいんだ。
彼の指先が、触れるか触れないかの位置にある。
爪先が膨らみをくすぐる。なんて意地の悪い──杜上の顔を見上げて、ドキリとした。
予想外なことに、彼は深い色をした瞳にどろりと欲望をたたえ、そこを見つめている。
彼の睫毛が揺れて目が合うと、物欲しそうなDomの顔がそこにあった。
おまえみたいなのが、そんな余裕のないそぶりをして良いのか。なぁ。
「……Attract」
呟いてしまう。
彼が耳元で同じ言葉を囁く。
鼓膜が揺れる、脳が揺れる。Subを求める彼の欲望が流れ込んでくる。
Domの懇願とはこういうものなのかと、興奮してしまった。
そっくりそのまま愛撫されて、顔が熱くなるのがわかる。
「…………っ」
そんなとき、ペン先がワイシャツの第一ボタンに当たったのは偶然だった。
なのに彼は、俺のネクタイを緩めてワイシャツのボタンをひとつ外してしまう。
彼の指先が喉を撫でると、俺は息を呑む。なんでこんなに緊張してるんだ?
ペンを動かせずに固まっていると、既に許可をした腰を触られる。
彼はなだめるつもりで撫でているのかも知れないが……くそ、下肢がうずうずしてくる。
「大丈夫、《上手にできていますよ》。僕の言葉をよく聞いてくれていますね」
「う……」
褒美のCommandを脳に流し込まれると、いよいよ身体がほてって汗ばんでくる。
こうなると、頭も身体も自分の思い通りにならなくなっていく。こんな、こんなことが。
「恥ずかしがらないで。教えてもらえるとあなたに尽くせるから嬉しい。僕にもっと、大慈さんを喜ばせる方法を教えてください」
やはりこいつは俺の警戒心を解くのがうまいと感じる。職業訓練で習うんだろうか。
安らぎに身を任せてしまいたい誘惑と、SubとしてPlayに組み込まれたくない気持ちがざわつく。
「……っ、こんなのがCareなのか?」
やっぱり、服従したくない。なけなしの反抗心からペンを下ろした。
杜上は目をぱちくりさせたが、すぐに切り替えた様子で雑談モードになる。
「映画を観たんでしょう? 主人公のPlayは信頼関係の構築から始まっていませんでしたか?」
半券には映画のタイトルが記載されている。杜上も観た映画だったらしい。
「そうだったかもしれないが……あれはフィクションだろう」
「Careの様子はリアリティがあると思っていますよ。理想的な胸キュン……とレビューされてましたし」
そうなのか?
抱き合うにもキスするにもいやらしい注文をつけて、ただの変態じゃないか。
「仕事でならやるが、あれを楽しむとはおぞましいな」
「いまどき珍しいですね。学生恋愛とかしなかったんですか? あなたほどの見目と優秀さなら告白のひとつやふたつあったでしょうに」
「勉学で忙しかった」
「うわぁ。その感じでいくつの初恋を打ち砕いたんだろう。同じ学校じゃなくて良かった」
軽口を叩く杜上に対し、俺は煮え切らない反応を返す。
身体のくすぶりは冷めるどころかどんどん強くなっていて、雑談に集中できなかった。
中断させたのは俺だ。再開しないのかなんてとても聞けない。
診療を終了するならするで早くして欲しい。スラックスの内側で窮屈そうにする性器が痛いから。
「──あ」
杜上を見て気付いてしまった。
彼も俺と同じようにそこを膨らませている。Subが被支配本能を持つように、Domには対極の支配本能がある。いくら彼でも業務と割り切れる限界があったようだ。
「おまえ、それ」
ついペン先でそこを示してしまった。その行為が鏡になっていることをすっかり忘れて。
「日頃フォローしている側なので堂々とすべきなんですが……」
眉根を下げて恥ずかしそうにする杜上は、おもむろに起き上がると俺を簡易ベッドに押し倒した。
「おい? あっ、違、さっきのは」
「僕の身体に注目してる場合じゃないですよ」
きつい股座を布越しに撫でられ、思わず声が出てしまう。
「違う、触らなくていい!」
「じゃあ、自分で触ってみますか?」
「はっ?」
こいつ、いまなんて言った?
Subとしてのガス抜きで有効な内容だとしても、馬鹿を言うなよ。
「僕が言おうとしているCommand、Domでもあるあなたならわかりますよね」
わかる。わかるが。
俺が言うべきことは、出題への正答ではなく【Red】だろう。
そうでなければ耐えがたい展開になってしまう。
Subの愉悦なんて知りたくない。
日常に支障が出ない程度にCareさえ受けられればそれでいいんだ。
彼の指先が、触れるか触れないかの位置にある。
爪先が膨らみをくすぐる。なんて意地の悪い──杜上の顔を見上げて、ドキリとした。
予想外なことに、彼は深い色をした瞳にどろりと欲望をたたえ、そこを見つめている。
彼の睫毛が揺れて目が合うと、物欲しそうなDomの顔がそこにあった。
おまえみたいなのが、そんな余裕のないそぶりをして良いのか。なぁ。
「……Attract」
呟いてしまう。
彼が耳元で同じ言葉を囁く。
鼓膜が揺れる、脳が揺れる。Subを求める彼の欲望が流れ込んでくる。
Domの懇願とはこういうものなのかと、興奮してしまった。
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