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Subとしての生活
9 Attract【3】 *R18
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Attractとは《魅力せよ》というCommandだ。
歌唱など「得意なことを披露しろ」の意で使われることもあるが、もっぱら性的な意味で用いられる。
俺は自分の腰ベルトを外し、スラックスの前を開けた。
下着を押しのけて性器が頭を持ち上げる。
いくらか躊躇はしたが、状況は行為を許可している。
(こんなの、映画よりずっと……変態じゃないか……)
「《僕の言葉に応えようとしてくれてますね》」
冷静になってしまいそうなところを甘い声でかき乱される。
頬を撫でられるとつい頭を彼の手のほうへ傾けて欲しがってしまう。
(Subなんて嫌いだ)
緩く脚を開き、誘惑に負けてそれを握った。
思い通りにならない自分自身に腹を立てながら手を動かす。
「ふ、ぅぅ……っ、ぁ、ぁっ……」
扱くほど快感の輪郭がはっきりしていく。
興奮を示すように先走りがあふれ、手の内側がいやらしく湿っていった。
これで満足かと見やれば、小さく息を呑む姿が見える。
まばたきも忘れていそうな男の表情に少しだけ胸がすく。
「はっ、ぁ、……っ」
こんな行為を人に見せたことなどないし、見せるつもりもなかった。
Commandがあるからとはいえ、自分が実行するなんていまもまだ信じられない。見られて興奮していることも。
杜上の目は俺のことしか見えていない。俺の一挙一動がいまの彼のすべてだ。
見つめられるだけで肯定を得ているようなものだった。
こうやって自身を慰めるのはいつぶりだろう。
精神力も体力も仕事に注ぎ込み、他にわりふる余力など残さなかった。
家は仮眠所扱いだし、自分に性欲があることを長らく忘れていた。
だからだろうか。前のときも、今回も、刺激が強すぎる。
「とがみっ……もう……っ」
「イきそうですか?」
こくりと頷いて見せた。
「《Look》」
高揚した状態でCommandを受けると、考えるよりも先に従ってしまう。
すかさず褒められればこんなに嬉しいことはない。
「《良い子ですね》。大慈さん、《とても綺麗ですよ》」
「……っ、……ふぅっ、ぅっ……、あぁ……っ」
本能に従う陶酔が瞳に溶けて頬を伝う。
彼の瞳を覗き込んだまま夢中で扱いた。
もうイってしまう。その前に命じて欲しいのに、言ってくれない。
俺の物欲しそうな顔に気付いているだろうに。
「はぁ、ぁ……っ、とが、っぁ、~~~んぅぅっ……!」
熟しきった恍惚が弾け、手の中に精液が散る。
射精許可もないままイってしまったのがもったいなく思えて、どことなく消化不良な余韻に浸かった。
その間も目を逸らさない。逸らせない。
同じように真っ直ぐ俺を見る杜上のギラついた瞳から、Lookの命令がまだ生きているとわかるから。
「大慈さん」
「と、がみ……」
汗ばんだ頬を撫でる彼の手が移動し、片耳を覆うように当てられた。
手のひらから杜上の早い鼓動が聞こえてくる。
どくん、どくん。伝わってくる熱い血潮の音がRewardに思える。
彼もそのつもりで俺に聞かせているのだろう。
物足りなかった心に充足感が満ちていく。
「とても良くできていましたよ」
そう言って離れようとする杜上の腕を、とっさにつかんだ。
「……おまえのそれはどうするんだ」
俺の視線が彼の股間に向いていることに気付いたようで、さっと背中を向けられた。
「僕はそのうち落ち着くので──」
そっけない返事だった。心なしか動揺しているように見える。
「──今日はここまでです。お手洗いは出て左にありますから、寄ってからロビーへどうぞ」
矢継ぎ早にそう言われてティッシュ箱を差し出されれば、俺から言えることは特にない。
「……わかった」
汗ばんだ身体にワイシャツが張り付き、スーツの内側が蒸れて落ち着かない。
杜上も妙に無口だし、ティッシュで手を拭く数秒が気まずかった。
Playの後ってこんな空気になるものなのか?
「なぁ、杜上。おまえはどんな患者にもこういうことをするのか?」
ふとした疑問を口にすると、杜上はこちらを振り向いた。
「僕は──」
彼が何かを言おうとしたとき、デスクの内線電話が鳴った。
通話は一分もなかった。
「……はい、わかりました」
受話器を置いた杜上は申し訳なさそうにこちらを見る。
「すみません、行かないと」
どうやらロビーで患者が暴れており、受付からのSOSがあったらしい。
俺は頷いて先に部屋を出ると、手洗いに向かった。
■
「はぁ……」
トイレの洗面台の前で溜め息を吐く。
蛇口のハンドルをひねれば、静かな空間に水の音が響いた。
煩悩ごと手を洗いながらひとりごちる。
「なんにもわからん……」
杜上が時折見せるあの目はなんなんだ。
本当に業務としてDomの役割を果たしている目なのか?
……いや、変に勘繰るだけSubとして初心なのかもしれない。
あいつが俺を特別扱いする理由なんてないし、Careありきの精神科医っていうのはこいうものなのだろう。
彼の言う通り、恥じらったりなんだり余計なことを考えるだけ無駄なのかも。
歯医者の定期健診くらいに思えばいい。
本当に?
歌唱など「得意なことを披露しろ」の意で使われることもあるが、もっぱら性的な意味で用いられる。
俺は自分の腰ベルトを外し、スラックスの前を開けた。
下着を押しのけて性器が頭を持ち上げる。
いくらか躊躇はしたが、状況は行為を許可している。
(こんなの、映画よりずっと……変態じゃないか……)
「《僕の言葉に応えようとしてくれてますね》」
冷静になってしまいそうなところを甘い声でかき乱される。
頬を撫でられるとつい頭を彼の手のほうへ傾けて欲しがってしまう。
(Subなんて嫌いだ)
緩く脚を開き、誘惑に負けてそれを握った。
思い通りにならない自分自身に腹を立てながら手を動かす。
「ふ、ぅぅ……っ、ぁ、ぁっ……」
扱くほど快感の輪郭がはっきりしていく。
興奮を示すように先走りがあふれ、手の内側がいやらしく湿っていった。
これで満足かと見やれば、小さく息を呑む姿が見える。
まばたきも忘れていそうな男の表情に少しだけ胸がすく。
「はっ、ぁ、……っ」
こんな行為を人に見せたことなどないし、見せるつもりもなかった。
Commandがあるからとはいえ、自分が実行するなんていまもまだ信じられない。見られて興奮していることも。
杜上の目は俺のことしか見えていない。俺の一挙一動がいまの彼のすべてだ。
見つめられるだけで肯定を得ているようなものだった。
こうやって自身を慰めるのはいつぶりだろう。
精神力も体力も仕事に注ぎ込み、他にわりふる余力など残さなかった。
家は仮眠所扱いだし、自分に性欲があることを長らく忘れていた。
だからだろうか。前のときも、今回も、刺激が強すぎる。
「とがみっ……もう……っ」
「イきそうですか?」
こくりと頷いて見せた。
「《Look》」
高揚した状態でCommandを受けると、考えるよりも先に従ってしまう。
すかさず褒められればこんなに嬉しいことはない。
「《良い子ですね》。大慈さん、《とても綺麗ですよ》」
「……っ、……ふぅっ、ぅっ……、あぁ……っ」
本能に従う陶酔が瞳に溶けて頬を伝う。
彼の瞳を覗き込んだまま夢中で扱いた。
もうイってしまう。その前に命じて欲しいのに、言ってくれない。
俺の物欲しそうな顔に気付いているだろうに。
「はぁ、ぁ……っ、とが、っぁ、~~~んぅぅっ……!」
熟しきった恍惚が弾け、手の中に精液が散る。
射精許可もないままイってしまったのがもったいなく思えて、どことなく消化不良な余韻に浸かった。
その間も目を逸らさない。逸らせない。
同じように真っ直ぐ俺を見る杜上のギラついた瞳から、Lookの命令がまだ生きているとわかるから。
「大慈さん」
「と、がみ……」
汗ばんだ頬を撫でる彼の手が移動し、片耳を覆うように当てられた。
手のひらから杜上の早い鼓動が聞こえてくる。
どくん、どくん。伝わってくる熱い血潮の音がRewardに思える。
彼もそのつもりで俺に聞かせているのだろう。
物足りなかった心に充足感が満ちていく。
「とても良くできていましたよ」
そう言って離れようとする杜上の腕を、とっさにつかんだ。
「……おまえのそれはどうするんだ」
俺の視線が彼の股間に向いていることに気付いたようで、さっと背中を向けられた。
「僕はそのうち落ち着くので──」
そっけない返事だった。心なしか動揺しているように見える。
「──今日はここまでです。お手洗いは出て左にありますから、寄ってからロビーへどうぞ」
矢継ぎ早にそう言われてティッシュ箱を差し出されれば、俺から言えることは特にない。
「……わかった」
汗ばんだ身体にワイシャツが張り付き、スーツの内側が蒸れて落ち着かない。
杜上も妙に無口だし、ティッシュで手を拭く数秒が気まずかった。
Playの後ってこんな空気になるものなのか?
「なぁ、杜上。おまえはどんな患者にもこういうことをするのか?」
ふとした疑問を口にすると、杜上はこちらを振り向いた。
「僕は──」
彼が何かを言おうとしたとき、デスクの内線電話が鳴った。
通話は一分もなかった。
「……はい、わかりました」
受話器を置いた杜上は申し訳なさそうにこちらを見る。
「すみません、行かないと」
どうやらロビーで患者が暴れており、受付からのSOSがあったらしい。
俺は頷いて先に部屋を出ると、手洗いに向かった。
■
「はぁ……」
トイレの洗面台の前で溜め息を吐く。
蛇口のハンドルをひねれば、静かな空間に水の音が響いた。
煩悩ごと手を洗いながらひとりごちる。
「なんにもわからん……」
杜上が時折見せるあの目はなんなんだ。
本当に業務としてDomの役割を果たしている目なのか?
……いや、変に勘繰るだけSubとして初心なのかもしれない。
あいつが俺を特別扱いする理由なんてないし、Careありきの精神科医っていうのはこいうものなのだろう。
彼の言う通り、恥じらったりなんだり余計なことを考えるだけ無駄なのかも。
歯医者の定期健診くらいに思えばいい。
本当に?
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