【完結】Switchなんて聞いてない──氷のエリート様が年下の溺愛Domに溶かされるまで──

牛丸 ちよ

文字の大きさ
13 / 55
Subとしての生活

13 Holic【2】

しおりを挟む
 座席はほとんど埋まっていた。
 緊張感のあるBGMから始まったそれは、日常に退屈した凡人がいかにも好きそうなアクション映画だった。

 観終わって劇場を出ると、道を歩きながら杜上は感想を熱く語った。いつになくアツい。

「終盤の怒涛の展開、ハッピーエンドだとわかっていてもハラハラしてしまいました。主人公の機転が格好良くて──」

「本当に映画が好きで観に来たんだな」

 楽しそうだと素直に思っただけなのだが、杜上は「しまった」という顔でシュンと小さくなった。

「すみません。大慈さんも楽しめるように選んだつもりだったんですが、自分ばっかり楽しんで……」

「いやいい。おまえのおかげで映画の味もわかった」

 映画の内容は理解できる。
 ただ、その先に何を感じ取れば良いのかわからなかった。
 杜上の話を聞いてやっとわかったような気になれる。

 俺が機嫌を損ねていないことに安心したのか、杜上はへらりと表情を緩めて荷物になったポップコーンの袋を揺らす。

「誰かと一緒に映画を観るなんて久々で……ひとりで観るのとも一味違って、楽しいですね」

 そういうものなのか?

「……そうだな」

 話を腰を折るのは違う気がして、俺は中身もなく同意の言葉を紡ぐのだった。
 杜上の横顔を眺める。こんなことでこうも幸せそうな顔ができるなんて、おめでたいヤツだな。

「……杜上、まさか休日を遊ぶつもりで俺を呼んだのか?」

「えっ、違うんですか」

 なぜ意外そうな顔をする。
 友達じゃないだろ俺たちは。

「診療室に行きますか?」

「いらん」

「あ、あっちの広場、ライトアップされてますよ。映えですね~。ちょっと寄りましょう」

「子供じゃあるまいし」

 先に行ってしまった彼を追う。

 秋も終わりに近づき、日が暮れるのが早くなった。
 そう遅くない時間だが空はすっかり暗く、地上はネオンで眩しい。

 街中の憩いの場はベンチから街路樹まで電極で飾り付けられ、イマドキのネオンライトオブジェが並んでいる。

「──杜上?」

 一瞬目を離した隙に見失った。と思ったら、見知らぬ若いカップルに声をかけられて写真係をやらされていた。「もう一枚撮りましょうか。違うアングルがいいですよね?」などと言ってカップルと盛り上がっている。

「おい」

 近づいて杜上に声をかけた。
 すると、被写体の女が「ヒッ」と口を抑えて俺の顔を凝視する。なんだ、失礼だな。
 女の顔が赤くなるほど、隣の男の顔が青くなって複雑そうな顔をしていた。

 カップルにスマホを返しながら、杜上は笑う。

「よかれと思ったんですが。大慈さんも罪な人ですねぇ」

「どういう意味だ?」

 さ、行きましょう。そう背中を押されて人気の少ない方へ連れていかれる。
 小休憩としてベンチへ横並びで座り、賑やかな広場を眺めた。

「こんなフォトスポットがあるなんて知りませんでした」

「そうか」

「わかりやすく興味なさそうですね」

「ないからな」

「あっはっは。でも付き合ってくれるんだから、あなたは優しいですよ」

 そんな言葉は皮肉でしか言われたことがない。面白い冗談に聞こえる。

「いま帰ってもやることがないんだ。業務端末を小紅に持っていかれて、ただの半休なのに取引先に休暇メールまで勝手に送られた」

 休暇メールというのは『休みなのでいついつまで連絡とれません。代わりに誰々に連絡してください』というお知らせだ。これを送った手間、俺の名前で電話やメールをすることができない。

「あなたの話に出てくる小紅さんという方、頼もしいですね」

「先の利益を考えて動く男だ。借りを作りすぎたくないんだがな」

 賑やかな話し声が近づいてきた。
 見ると、動画撮影中らしい若者グループが向こうから歩いてくる。

「あっちに行きましょうか」

 カメラに映らない方へ歩き、広場を出ようとしたとき声をかけられた。
 杜上が写真を撮ってやったカップルだ。

「あのっ、すみません、あんまりにもヤバかったんで撮っちゃいました。データ送らせてください」

 ヤバかった、ってどういう意味だ。
 女がスマホの画面を見せてきた。そこにはベンチに座る俺と杜上が映っている。動画じゃないか。
 ベンチの後ろの壁でプロジェクションマッピングが動いていて、確かに映える。だが盗撮とは良い度胸だな。

 俺が文句を言おうとしたのを察した杜上が「まあまあ」と間に入る。

「ベンチに座るとこんな風に演出されるなんて、撮ってもらわなきゃ気付かなかったですよ。──こうやって思い出を残せるのは現代の良いところですよね。せっかくですからデータもらいましょうよ」

 ね、大慈さん。そう人懐っこく微笑まれると毒気を抜かれてしまう。
 好きにしろとそっぽを向く。

 データを受け取った杜上は俺に「あとで共有しますね」と言い、カップルへは「SNSにアップしないでくださいね」と釘を刺していた。

 広場を出て道を歩く。

「さっきの人たち、僕たちが光の中にいるのがドラマのワンシーンみたいって褒めてましたよ」

「他人を撮ってなにが楽しいんだか」

「あなたはもう少し自分のビジュぢからを自覚したほうがいいと思いますけどねえ」

「ビジュぢからってなんだ」

「ビジュぢからはビジュぢからですよ」

 なにを言ってるんだこいつは。

 ……そういえば、俺たちはどこに向かっているんだ?
 なんとなく杜上について歩いていたが、目的地を何も聞いていない。

「あ、ここですよ、大慈さん」

 しばらく歩いていると、答え合わせのタイミングがやってきた。どこだ。そこか。
 ──彼が歩いていく先にあるのは、俺でも知っている人気のレストランだった。
 ポップコーン持って入るところじゃないぞ。そもそも予約してあるのか、おい。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

世界で一番優しいKNEELをあなたに

珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。 Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。 抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。 しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。 ※Dom/Subユニバース独自設定有り ※やんわりモブレ有り ※Usual✕Sub ※ダイナミクスの変異あり

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

イケメン幼馴染に執着されるSub

ひな
BL
normalだと思ってた俺がまさかの… 支配されたくない 俺がSubなんかじゃない 逃げたい 愛されたくない  こんなの俺じゃない。

共の蓮にて酔い咲う

あのにめっと
BL
神原 蓮華はΩSub向けDom派遣サービス会社の社員である。彼はある日同じ職場の後輩のαSubである新家 縁也がドロップしかける現場に居合わせる。他にDomがいなかったため神原が対応するが、彼はとある事件がきっかけでαSubに対して苦手意識を持っており…。 トラウマ持ちのΩDomとその同僚のαSub ※リバです。 ※オメガバースとDom/Subユニバースの設定を独自に融合させております。今作はそれぞれの世界観の予備知識がないと理解しづらいと思われます。ちなみに拙作「そよ風に香る」と同じ世界観ですが、共通の登場人物はいません。 ※詳細な性的描写が入る場面はタイトルに「※」を付けています。 ※他サイトでも完結済

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

愛されSubは尽くしたい

リミル
BL
【Dom/Subユニバース】 玩具メーカーの取締役開発部長Dom(37)×元子役の大学生Sub(20) かつて天才子役として名を馳せていた天使 汐は、収録中にSub drop(サブドロップ)に陥り、生死の境をさまよう。 不安定になっていた汐を救ったのは、スーツ姿の男だった。 素性や名前も知らない。でも、優しく撫でて「いい子」だと言ってくれた記憶は残っている。 父親の紹介で、自身の欲求を満たしてくれるDomを頼るものの、誰も彼も汐をひたすらに甘やかしてくる。こんなにも尽くしたい気持ちがあるのに。 ある夜、通っているサロンで不正にCommand(コマンド)を使われ、心身ともにダメージを負った汐を助けたのは、年上の男だ。 それは偶然にも15年前、瀕死の汐を救った相手──深見 誠吾だった。 運命的な出会いに、「恋人にもパートナーにもなって欲しい」と求めるも、深見にきっぱりと断られてしまい──!? 一筋縄ではいかない17才差の、再会から始まるラブ! Illust » 41x様

処理中です...