【完結】Switchなんて聞いてない──氷のエリート様が年下の溺愛Domに溶かされるまで──

牛丸 ちよ

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新しい生活

28 Let go of

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 一ヶ月経ち、まだDomのままでいられている。

 会社から定期通院と結果の報告を強く言われているため、とがみクリニックに来ていた。
 穏やかな音楽が流れる待合室でソファに座り、壁紙の模様を眺める。
 本当は通院先を大学病院に戻したかったが予約がとれず、他の病院にも初診は半年先と言われ、千裕のところへ行くしかなかった。
 居候をやめてから連絡も特に取っていなかったから、どういう顔で会えばいいか……。まあいい。診察なんてどうせ五分くらいだ。

 番号を呼ばれて診療室に入る。
 椅子に座り、白衣を着た千裕は、前となにも変わっていなかった。

「お久しぶりです」

「今日は会社への建前で来た」

「ということは、身体は大丈夫そうですね」

「ああ、変わりない」

 俺は目を合わせられない。千裕とSubのころの記憶が結びつきすぎていて、ふとしたらSubに戻ってしまうような不安にかられる。
 この一ヶ月、彼のことを考えるたび慌てて意識から追い出す生活をしていた。
 そういった情けない悩みも彼は傾聴してくれるだろう。けれど話す気にはなれない。

 黙っていると、千裕が机の引き出しを開けた。一通の封筒を取り出し、俺へ差し出す。

「……これは?」

「紹介状です。元の大学病院はタイミングが悪く受け入れがむずかしいようなので、近くの信頼できるところを」

 転院しろということらしい。俺の心境など言わずともか。
 彼は彼で気まずいからよそに行け、というのもあるのかもしれない。そういうふうには見えないが。

「わかった」

 これで本当に縁が切れるのだな。この二年足らずの濃密さをふまえると、あっけないものだ。
 封筒を受け取って椅子から立ち上がった。千裕に背を向け、ドアのほうへ歩いていく。

「大慈さん。……疲れたら、僕のところへ来てください」

 背中にかけられた言葉がひどくさみしげに聞こえて、思わずドアノブに手をかけたまま振り返る。やっと彼の顔を見た。
 だが、彼がここまで気を使って距離を置こうとしてくれているのに、いまさら交わす言葉などあるだろうか。

「──千裕、おまえには助けられた。ありがとう」

 それだけ伝えて、俺はDomとしての日常に戻った。
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