あの日の思い出 part2

那智

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③バスの中で

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 高校に入ってしばらくした頃、いつもは友と二人で登校するのだが、その日は一人だった。

 利用していたバス停は、市営と民営の二種類のバスが停まり、私は市営バスを利用していた。朝は、二~三台が連なって停まるのも珍しくなかった。

 私は、いつも通りのバスに乗り込んだつもりだった。いつも通り真っ直ぐ、真っ直ぐ、目的の停留所まで一直線。

 ところが、町の真ん中でそのバスは曲がり始めた。

 「まずい。いつものバスじゃない。降りなきゃ。遅刻しちゃう」
と思うが、路線も運営会社も違うバス。定期は使えないから財布を探すが見つからない。

 早く降りなきゃと、気ばかりあせる私の横に座っていたご婦人が、状況を察したらしく、
 「これ使って」
とお金を渡してくれた。
 「バスの事務所にお金を返しておけばいいですか?」
と確認すると、
 「返さなくていいから、同じように困っている人がいたらその人に返してあげて」
と言われた。

 私はお礼を言いお金を受け取ると、バスを乗り換え遅刻することなく登校出来た。

 小学校で教わった、
 「人に受けた恩は、その人に返せなくても、別の人に返せばいい」
ということを、身を持って体験したのは初めての事だった。

 お金を渡すという機会はあまりないが、困っている人に手を差し伸べる機会がある度、あの女性を思い出す。
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