あの日の思い出

那智

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落ちた

①箱形ブランコ

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 幼稚園か小学校低学年の頃、母の実家に頻繁に遊びに行っていた。父も一緒に行く時は夜が多かったが、母と二人の時は明るい内に行く事が多かった。

 当時、母の実家は田舎らしい昔ながらの家で、玄関を入るとすぐ台所があり居間と床が続き、共に板の間で居間には掘りごたつがあり、そこでご飯を食べたり寛いだりしていた。畳部屋は居間の隣とその奥。奥の畳部屋は広かったが祖母と叔母の寝室となっており、手前の畳部屋は子供の遊び場になっていた。

 台所を奥に進むと二階に行く階段があり、上らずに更に進むと離れたところにトイレ、更に進むと裏庭になり、広い土間付きの離れがあった。そこには、二つ上の従姉母子が住んでいた。

 遊びに行くと、母は母屋で過ごし、私は離れに行き従姉が留守でも彼女の母親とお喋りをしたり、従姉の本棚にある本を読んだりと自由に過ごしていた。

 その日は従姉が近くの公園に行ってるというので私もすぐに追いかけて遊ぶ事にした。
 
 公園はそれ程広くはなかったが、鉄棒にブランコやシーソー、そして今は影を潜めた箱型ブランコ等そこそこ遊具は揃っていた。私達はそれぞれの遊具で遊ぶと箱型ブランコに移動した。

 最初は二人で向き合って普通に揺らしていたが、そこは女の子が二人だけ。非力でなかなか大きく揺らすのは難しかった。そのうち、椅子の上に立ってこぎ始める。少し大きく揺れ始めたので調子付いて背もたれに立ってこいでみると益々大きく揺れ、従姉は椅子に座ったが私はもっと揺らそうと、自分の方に大きく揺れたと同時に足を離し、反対側に揺れると同時に足をのせ体重をかけてさらに大きく揺らすというのを繰り返し楽しんでいた。

 何度か繰り返した時、足を踏み外し、両手は宙に浮いた体を支えきれずそのまま落ちてしまった。どういう体勢で落ちたかは記憶に無いが、地面に落ちた時はうつ伏せになっており、一度頭の上をブランコが通り過ぎたのを記憶している。

 従姉は直ぐブランコから降りて、状況を把握し「起きるな」と叫ぶも、体の痛みもなかった私が反射的に起き上がるのと同時だった為、ものの見事にブランコの足置きの部分が頭に当たってしまった。従姉はすぐさまブランコを止め、私はブランコから離れぶつかった部分を触ると既にコブになっていた。

 家に戻るまで、従姉は「起きるなって言ったのに」とぶつぶつ言っていた。今思えば、実際に落ちた私よりそばで目撃した従姉の方が、恐くて心配でたまらなかったのだと思う。

 家に着いて叔母に事の次第を説明すると、頭のコブを触り傷が無い事を確認し、トチ水というトチの実で作った自家製漢方薬を塗ってくれた。今でもそうだが、ここの家の人達は物事に動じず、状況を把握した上で殆どの事は笑い飛ばしてしまう。

 子供は遊ぶ事を楽しみたい。遊びながら冒険することで、ヒヤヒヤしたり自信を付けたり、友達を思いやる機会を持てたり。私の場合は調子にのり過ぎてしまった失敗例だが、それでも、落ちたら直ぐに動かず様子を見て判断するという事を学んだ。それは、命があったからこそだ。

 一時、箱型ブランコから落ちて大ケガをしたり死亡した事故が頻繁にニュースとなった。公園から箱型ブランコが消えたり、姿を変えて残ったりと様々であるが、楽しいはずの遊具が一瞬で子供の命を奪ってしまった事は非常に残念であり、亡くなった子供、その家族の悲しみ、一緒に遊んでいた子供たちの動揺が如何様であったかを思わずにはいられない。

 あの時、従姉の「起きるな」の声を聞いたのと、すぐに従姉がブランコを止めてくれたから最小限の怪我で済んだのだと思うから。

 この事は、息子が子供の頃にも聞かせてきた。恐がらせる為ではなく、そうなった時の対処の仕方として一つでも覚えておいてほしかったからだが、嫁ぎ先で箱型ブランコを目にする事はなかった。           (完) 
 

 
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