死にたがりオーディション

本音云海

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死にたがりオーディション

帰路

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授業が終わり、一目散にオレが向かった先は終夜くんの教室だった。


「終夜くん!」


すかさず終夜くんに声を掛ける。


「と、兎馬くん…っ」


すると、若干気まずそうにしながらも終夜くんはしぶしぶ返事をくれた。


「ね、今日一緒に帰れるよね?」

「い、いいけど…」

「良かった。てっきりまだ怒ってるんじゃないかって心配だったんだけど、もう怒ってないんだね」

「べ…別に、最初から怒ってないよ。僕が勝手に思い込んでただけだから…」

「?思い込んでた…?」

「う、うん…。それより、早く帰ろうよ」

「うん…?」



そう言って終夜くんは急いで荷物をカバンに詰め、そのままオレと終夜くんは教室を後にした。
















「……」

「……」


二人で並んで歩いて帰る。
だけど、会話という会話もない。終始無言。

そんな気まずい雰囲気の中、オレはどう話を切り出していいか迷っていた。

さっき言っていた思い込んでたってどういう意味なんだろう?



「…あ、あのさ、終夜くん…」

「ん?何…?」


オレは思い切って聞いてみることにした。
もしかしたら、オーディションと何か関係あるのかもしれないし。


「…さ、さっき言ってたことなんだけど…」

「さっき?」

「だから、えっと…思い込んでたって…やつ」

「ああ…!」

「…それって、結局なんだったの?」

「え、あ…気になるの?」

「そりゃあ、ね…」


もちろん、気になるよ。
だって終夜くん、様子が変なんだもん。

…オーディションの話をしてから、ずっと。

オレは、オレの知らない終夜くんのことが気になって仕方ないよ。


「…そっか」


終夜くんはそう言って遠くを見た。

そしてオレはそんな終夜くんを見続けていた。

遠く、遠くを見る、終夜くんの目が、オレは綺麗だと思った。

綺麗さ故に危うささえも感じた。


「…ごめん」

「え?なんで兎馬くんが謝るの…?」

「だった、終夜くんがオレに何にも言ってくれないのはオレが頼りないからなんでしょ?」

「そんなこと…」

「…いいんだよ、もう」

「兎馬くん…」


結局、オレは終夜くんにとってその程度の存在だったってことなんだ。

親友だと思ってたのも、きっと…


「…違う、違うんだよ…兎馬くん…っ」


終夜くんはそう言うと足を止めた。


「え、ど…どうしたの…!?」


いきなり立ち止まった終夜くんにオレは慌てて駆け寄った。


「…ごめん。兎馬くんに謝らせるつもりはなかったんだ…。ただ、巻き込みたくないだけで…ッ…ほんと、ごめんね…」

「そんな…終夜くんこそ、謝らないでよ…」


ほんのり涙声だった終夜くんをただひたすら宥めた。


「…でも」

「いいから…ねっ?それより、さっき言ってた巻き込みたくないって…どういう意味なの?」

「そ、それは…」


ああ、また。視線を逸らす。


「…あのね、終夜くん。オレは終夜くんが何を気にしているのか理由は分からないけど…少なくとも巻き込みたくないなんて、そんな寂しいこと言わないでよ。」

「でも…」

「もうっ!でも無し、だよ?だってオレ達、親友でしょ?」

「…親友?ボクと兎馬くんが?」

「う、うん…一応オレはそう思ってるんだけど…嫌だった?」

「……ううん、すっごく嬉しいよ」

「ほ、ほんと?」

「うん!だって、ボクも親友…って思ってるから…そう言ってもらえて、すっごく…嬉しかった」


ああ、ようやくここで終夜くんの目と合うことが出来た。

目と目が合う瞬間、オレは高鳴る鼓動を抑えることに精一杯だった。


「あ、えっと…じゃあ、結局オレはそれについて聞いてもいいの?」


慌てて話題を変える。
とは言っても本題はこっちなんだけど。


「?それって?」

「だ、だから…オーディションのこと、とか…今さっき言ってた巻き込みたくないってやつ。」

「…!兎馬くん…気付いてたの…!?」

「…違うよ。ただの勘。もしかしたらと思って…」

「そっかぁ…あははっ…でも、ほんと兎馬くんてすごいね。そこまで気付いてたんだ…」

「べ、べつに…すごいってわけじゃないよ。今までの話の流れでそう思っただけ」


…もう、笑い事じゃないのに。

だけど、オレの予想は当たっていたんだ。

まぁ誰でも分かりそうなことだけど、確信が持てただけでも良かった。

これで心置きなく終夜くんに話が聞ける。


「そ、そもそも死にたがりオーディションってなんなの?思い込んでたとか、オレを巻き込みたくないとか、そう言った理由もそこにあるんでしょ?ちゃんと言ってよね!」

「わ、わかったよ…っちゃんと言うから…」

「…本当に?」

「うん、もちろん。そりゃあ巻き込みたくないって気持ちもあるけど…兎馬くんはそれが嫌なんでしょ?」

「うん、嫌。だって、親友と思ってる人にそんなことされたら辛いもん」

「…そうだよね。ボクも…辛いと思う。だから、言うよ。兎馬くんには全て話すよ」

「終夜くん…!」

「けど、それは明日」

「へ?」


思わず気の抜けた声が漏れた。

あ、明日!?今じゃないの!?


「な…なんで!?」

「だって…もう夜も遅いし」

「それはそうだけど…」

「じゃあ、また明日連絡するから!今日はこの辺で」

「え!?あ…っ!!」


終夜くんはそのまま駆け足で帰っていった。

オレの声も虚しく闇世の中に消える。

そ、そりゃあまぁ…たしかに。塾帰りだし唯一の明かりは外灯だけで、外は真っ暗だけども…。



「えぇ~…」

ぽつんと一人取り残される。
なんだろう、この虚無感。



「ま、まぁ…べつに良いんだけどさ…」


とりあえず話はしてくれる気になったみたいし…オレも今日は大人しく家に帰ろう。

だけど、この妙に胸がざわつくのは…オレの気のせい?



…それとも、何か別のざわつき?…だったりして、いや…まさかね。
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