4 / 29
死にたがりオーディション
帰路
しおりを挟む授業が終わり、一目散にオレが向かった先は終夜くんの教室だった。
「終夜くん!」
すかさず終夜くんに声を掛ける。
「と、兎馬くん…っ」
すると、若干気まずそうにしながらも終夜くんはしぶしぶ返事をくれた。
「ね、今日一緒に帰れるよね?」
「い、いいけど…」
「良かった。てっきりまだ怒ってるんじゃないかって心配だったんだけど、もう怒ってないんだね」
「べ…別に、最初から怒ってないよ。僕が勝手に思い込んでただけだから…」
「?思い込んでた…?」
「う、うん…。それより、早く帰ろうよ」
「うん…?」
そう言って終夜くんは急いで荷物をカバンに詰め、そのままオレと終夜くんは教室を後にした。
*
「……」
「……」
二人で並んで歩いて帰る。
だけど、会話という会話もない。終始無言。
そんな気まずい雰囲気の中、オレはどう話を切り出していいか迷っていた。
さっき言っていた思い込んでたってどういう意味なんだろう?
「…あ、あのさ、終夜くん…」
「ん?何…?」
オレは思い切って聞いてみることにした。
もしかしたら、オーディションと何か関係あるのかもしれないし。
「…さ、さっき言ってたことなんだけど…」
「さっき?」
「だから、えっと…思い込んでたって…やつ」
「ああ…!」
「…それって、結局なんだったの?」
「え、あ…気になるの?」
「そりゃあ、ね…」
もちろん、気になるよ。
だって終夜くん、様子が変なんだもん。
…オーディションの話をしてから、ずっと。
オレは、オレの知らない終夜くんのことが気になって仕方ないよ。
「…そっか」
終夜くんはそう言って遠くを見た。
そしてオレはそんな終夜くんを見続けていた。
遠く、遠くを見る、終夜くんの目が、オレは綺麗だと思った。
綺麗さ故に危うささえも感じた。
「…ごめん」
「え?なんで兎馬くんが謝るの…?」
「だった、終夜くんがオレに何にも言ってくれないのはオレが頼りないからなんでしょ?」
「そんなこと…」
「…いいんだよ、もう」
「兎馬くん…」
結局、オレは終夜くんにとってその程度の存在だったってことなんだ。
親友だと思ってたのも、きっと…
「…違う、違うんだよ…兎馬くん…っ」
終夜くんはそう言うと足を止めた。
「え、ど…どうしたの…!?」
いきなり立ち止まった終夜くんにオレは慌てて駆け寄った。
「…ごめん。兎馬くんに謝らせるつもりはなかったんだ…。ただ、巻き込みたくないだけで…ッ…ほんと、ごめんね…」
「そんな…終夜くんこそ、謝らないでよ…」
ほんのり涙声だった終夜くんをただひたすら宥めた。
「…でも」
「いいから…ねっ?それより、さっき言ってた巻き込みたくないって…どういう意味なの?」
「そ、それは…」
ああ、また。視線を逸らす。
「…あのね、終夜くん。オレは終夜くんが何を気にしているのか理由は分からないけど…少なくとも巻き込みたくないなんて、そんな寂しいこと言わないでよ。」
「でも…」
「もうっ!でも無し、だよ?だってオレ達、親友でしょ?」
「…親友?ボクと兎馬くんが?」
「う、うん…一応オレはそう思ってるんだけど…嫌だった?」
「……ううん、すっごく嬉しいよ」
「ほ、ほんと?」
「うん!だって、ボクも親友…って思ってるから…そう言ってもらえて、すっごく…嬉しかった」
ああ、ようやくここで終夜くんの目と合うことが出来た。
目と目が合う瞬間、オレは高鳴る鼓動を抑えることに精一杯だった。
「あ、えっと…じゃあ、結局オレはそれについて聞いてもいいの?」
慌てて話題を変える。
とは言っても本題はこっちなんだけど。
「?それって?」
「だ、だから…オーディションのこと、とか…今さっき言ってた巻き込みたくないってやつ。」
「…!兎馬くん…気付いてたの…!?」
「…違うよ。ただの勘。もしかしたらと思って…」
「そっかぁ…あははっ…でも、ほんと兎馬くんてすごいね。そこまで気付いてたんだ…」
「べ、べつに…すごいってわけじゃないよ。今までの話の流れでそう思っただけ」
…もう、笑い事じゃないのに。
だけど、オレの予想は当たっていたんだ。
まぁ誰でも分かりそうなことだけど、確信が持てただけでも良かった。
これで心置きなく終夜くんに話が聞ける。
「そ、そもそも死にたがりオーディションってなんなの?思い込んでたとか、オレを巻き込みたくないとか、そう言った理由もそこにあるんでしょ?ちゃんと言ってよね!」
「わ、わかったよ…っちゃんと言うから…」
「…本当に?」
「うん、もちろん。そりゃあ巻き込みたくないって気持ちもあるけど…兎馬くんはそれが嫌なんでしょ?」
「うん、嫌。だって、親友と思ってる人にそんなことされたら辛いもん」
「…そうだよね。ボクも…辛いと思う。だから、言うよ。兎馬くんには全て話すよ」
「終夜くん…!」
「けど、それは明日」
「へ?」
思わず気の抜けた声が漏れた。
あ、明日!?今じゃないの!?
「な…なんで!?」
「だって…もう夜も遅いし」
「それはそうだけど…」
「じゃあ、また明日連絡するから!今日はこの辺で」
「え!?あ…っ!!」
終夜くんはそのまま駆け足で帰っていった。
オレの声も虚しく闇世の中に消える。
そ、そりゃあまぁ…たしかに。塾帰りだし唯一の明かりは外灯だけで、外は真っ暗だけども…。
「えぇ~…」
ぽつんと一人取り残される。
なんだろう、この虚無感。
「ま、まぁ…べつに良いんだけどさ…」
とりあえず話はしてくれる気になったみたいし…オレも今日は大人しく家に帰ろう。
だけど、この妙に胸がざわつくのは…オレの気のせい?
…それとも、何か別のざわつき?…だったりして、いや…まさかね。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/16:『よってくる』の章を追加。2025/12/23の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/15:『ちいさなむし』の章を追加。2025/12/22の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/14:『さむいしゃわー』の章を追加。2025/12/21の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/13:『ものおと』の章を追加。2025/12/20の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語
kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。
率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。
一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。
己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。
が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。
志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。
遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。
その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。
しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる