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死にたがりオーディション:一次審査
支度
しおりを挟む翌日。
オレと終夜くんは互いにリビングで目覚めた。
「…おはよう、兎馬くん…」
「おはよう…ふわぁ…ッ」
目覚めたのは、朝の7時。
スマホのアラームによってオレ達は起こされた。
起こされたなんて変な言い方をつい使ってしまった。
というもの、本来なら今日だって平日だから学生のオレ達は学校に行かなかればならない。
だからこそというか、アラームの設定をそのまま7時に設定したままだったから、半ば強制的に起きただけの話なんだけどね。
「…ごめんね、アラームの設定そのままにしてて…」
「大丈夫!なんたって、今日は待ちに待った死にたがりオーディションの一次審査の日なんだもん!」
「朝からテンション高いなあ…」
目覚めとは思えないほどのテンションの高さだ。
「そうかな?でもやっぱり嬉しくってさ!」
「まぁ…終夜くんはそうだろうね」
「まだ一次審査のこと気にしてるの?大丈夫だよ!一次審査くらい絶対に受かるって!」
「そうだったらいいんだけどね…」
「本当に兎馬くんは心配性だなぁ…あ、だったら今日の一次審査早めに会場に行っておく?開始時間は、10時からだけど」
「あ、そうなの?よくよく考えたら開始時間とか全然気にしてなかった…」
「ええ…」
あれ、なんかわりとマジで引かれてる気がする。
そんな、ないわーみたいな顔でオレを見ないで欲しい。
「えっと…じゃあ早めにさ9時頃にでも行っておかない?」
「9時…っていうと、一時間も前に?」
「うんそう!もしかしたら、他に面接に来た人とかに会えるかもしれないし」
「そんな早くから来る人はいない気もするけど…でも、それで兎馬くんが安心出来るなら行ってもいいよ!」
「あはは…ありがとう…」
なんか今日の終夜くん…珍しく正論吐くなあ…。
もしかして、オレ…わりと緊張してる?
一時間も前に行ったところで確かに意味ないかもしれないけど…やっぱり場所が場所だけに早めに確認しておきたい。
「じゃあ、のんびりしてる時間はあまりないね」
「うん…じゃあ軽く朝ごはんでも食べよっか。食パンと牛乳くらいしかないけど…」
「何言ってるの?朝からからご馳走だよ!昨日のカップ麺といい朝ごはんといいお世話になっちゃってごめんね」
「いいよ。それにオレ達は一心同体なんだから…」
終夜くんが前に言った言葉をあえて使う。
そうすると、終夜くんは満面の笑みでそう頷いた。
そう…一心同体であり、運命共同体でもある…オレはそう自分に言い聞かせた。
「よし、じゃあ軽くパン焼くね」
「はーい!焼いたパンとか初めて食べるよ!」
こうして、オレ達はひとときの朝の時間を過ごした。
なんてことない。
オーディション当日だっていうのに、昨日の夕ご飯と変わらず穏やか時間だった。
そして、ご飯を食べてひと段落したら、そろそろ良い時間にもなる。
「…さて、準備はもう平気?」
「うん…ねぇ、服だけど自分の学校の学生服でも大丈夫だよね?」
「大丈夫じゃない?どっちにしろオレちゃんとした正装な服なんて持ってないし…」
「だよね…まぁメールにも特に指定とかなかったし、いいよね」
「そうそう、持ち物は特にいらないって書いてあったし。それにしつこいくらい言うけど終夜くんは気にしなくてもいいでしょ?」
「もう!それあんまり言わないでよ!ちょっとは気にしてるんだから…」
「ごめんごめん。じゃあそろそろ行こっか」
「ーあ、ちょっと待って!」
オレが玄関のドアに手を掛けたその時、終夜くんがいきなり大声を上げた。
突然の声の大きさに反射的に手が止まる。
「ちょ、もう…なに?」
「ごめんね、ほら…兎馬くんにはこれ渡しておこうと思って」
「…?」
そう言って、終夜くんはあるものを手渡してきた。
「これ…っ!」
それは、オレだけに入っていた…あのチラシだった。
「……幸福の黄色いチラシ」
「うん…一応御守り代わりにどうかなって。なんか…結構緊張しているみたいだし…」
「…終夜、くん…」
彼なりに気遣ってくれてるんだろうか。
正直、こんなもの渡されても何の慰めにもならないんだけど…。
…なんだろう。不思議と、嫌な気持ちはしない。
「……ありがと、もう…大丈夫だから」
「ほんと!?絶対兎馬くんだって合格出来るから!」
「はいはい…」
思わず顔がにやけてしまう。
不器用というか、変な優しさがおかしくって仕方ない。
でも…今なら本当に大丈夫な気さえしてくる。
「じゃ、行こっか」
「うん!」
こうして、オレ達は死にたがりオーディションの会場であるーー
カミ塾に向かったのだった。
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