死にたがりオーディション

本音云海

文字の大きさ
23 / 29
死にたがりオーディション:一次審査

受付

しおりを挟む
 

「着いたね…」

「うん…」


道中はいつもと同じだった。

なんたってここは、オレ達がいつも通っているカミ塾なのだから。

…にしても、本当にここで死にたがりオーディションの一次審査があるんだろうか?


「なんか…見た感じ、いつもと一緒だね…」

「そりゃあいつも通ってたわけだし、そんな大きな変化はないと思うけど…」


いざ着いてみると、外観自体も何ら変わっていなかった。

せめて貼り紙とか目印になるものくらい置いてあってもいいくらいなのに。


「…やっぱり、早く着き過ぎたのかな」

「んー…まだ僕たち以外に誰も来てないみたいだね」


外をざっと見渡しても誰もいない。

と、すると…中はどうだろう?

いくらなんでもオーディションをするくらいだから、それに関わってる人くらい、いるはず…

…そう、例えばオーディション事務局の人とか。

おそるおそるクリアタイプのドア越しから中を覗いてみる。


「…あら」


目があった。

…いやこの場合は目があったというより、あくまで目線があったと言った方が正しいかもしれない。

なんせこの声を掛けて来た人は、一面真っ暗い仮面らしきものを付けていたから、目があったとは言えなかった。

むしろオレはあまりの怪しさに目を背けた。


「と、兎馬くん…あれ、事務局の人かな…?」


さすがの終夜くんもこの怪しさには怖気付いてるみたいだ。

…だけど、声を掛けられた以上無視は出来ない。


「と、とりあえず入ってみようか…受付、とかもしなきゃだし…」

「う、うん…」


恐れながらも、扉を開けゆっくりと中に入っていく。



「あなたたち…死にたがりオーディションを受けに来た人?」

「は、はい…そうです…ね?終夜くん…」


終夜くんはこくこくと頷いた。

声といい…体格といい…仮面を付けてるから素顔はわからないけど、女性のように思えた。


「こちらへどうぞ」


こうして、真っ暗い仮面を付けた女性らしき人にオレ達は案内された。


「どうぞ、お座りください」


入り口から少し行った先に小さなローテーブルとどこにでもあるパイプ椅子がある。

おそらくここは受付なんだろうけど、一万人も受ける膨大なオーディションにしてはやけに雑なように思えた。

だけど、断るわけにも行かず…しぶしぶ案内された椅子に座った。



「お早いんですね、まだオーディション開始まで一時間もありますよ」

「え!あの…そ、そうですか…?」

「ええ、普通は皆さん時間ギリギリに来ますから」

「ははは…そうなんですか…」


まさかこんな会話が始まるなんて思ってもいなかったから、上手く言葉が続かない。

というか何でさっきから終夜くんは黙ったまんまなんだ?


「緊張されてます?」

「いやぁ…その…」


というか、なんでこの人こんなにもグイグイくるんだろう。

死にたがりオーディションの受付をしてるくらいだから、事務局の関係者だとは思うんだけど。

…普通こんなに気さくに話すものなんだろうか?

電話の時みたいな淡々とした、あの緊張感みたいなものが全然感じられないんだけど…。

それにこの声なんか…どっかで聞き覚えがあるんだよなぁ…。



「あの…受付、なんですよね?僕たち…早く済ましたいんです…」


そんなことを考えていると、ここにきてようやく終夜くんの口が開いた。


「あら、ごめんなさい。じゃあお名前教えてもらえますか?」

「入原終夜です…」

「オレは…月鎖兎馬…」

「入原終夜くんと、月鎖兎馬くんね…はい、たしかに。承っております。こちらをお受け取りください」

「!これは…」


そう言って手渡されたのは、受験番号のついた名札だった。

肝心の番号を見てみるとーー


「え…よ、44番!?大体こういうのって受け付け順じゃないんですか!?」

「ごめんなさい、番号はあらかじめ決められているらしいんです」


…ん?らしい?


「あ…そう、ですか…」


なんとなく言い方は気になったけど、それ以上に44番目という番号にわりとショックを受けていた。

ふ、不吉だ…しかも44番って今日だけで、どれくらいオーディションを受ける人がいるんだろう?


「兎馬くん兎馬くん!僕、77番だった!!」

「はっ!?な、77番!?」


てっきり早くに請求した終夜くんが早い番号だと思ったのに…。

いやでも今さっき受付順じゃないって言ってたし…あんまりそれは関係ないのかな。

てか77番って。オレなんかよりめちゃくちゃ待たないと駄目じゃん。



「77番って待つの大変だね…」

「え、別に平気!だってラッキーセブンだし!」

「あ、そう…」


いやいやその間どうやって時間潰す気だよ…。

まぁ終夜くんは嬉しそうだし、べつに良いけど。



「ここでお待ちになりますか?まだ開始時間まで30分くらいありますが…」


スマホの時計を見てみると、時刻は9時30分を指していた。

手荷物はいらないとはいえ一応スマホだけは持って来たけど、やっぱり持ってきて良かった。



「あの…因みに自分の番が来たら呼び出しとかしてもらえるんですか?」

「ええ、もちろん。月鎖くんは、14時。入原くんは、17時を目処にこちらに戻ってきていただければ後は大丈夫ですよ」

「え、自由にして良いんですか?」

「はい、受付と確認は済んでますので。」

「はあ…分かりました。」


なんというか、あっさりとした受付だった。


「ねえねえ、この後どうする?」

「んー…」


とりあえずは提示された時間さえ守れば後は問題ないらしい。

…けど、その後のことは何にも考えていなかった。

手荷物不要と言われた手前、手元にはスマホしかないわけだし…



「とりあえず、一旦出よっか。」

「りょーかい」


悩んでても仕方ない。

ひとまず塾から離れようとしたーーその時だった。


「うわああああっ!!どいてくれー!!!」


入り口のドアを開けると、向こうから凄い勢いで走ってくる人が近づいて来るのがわかった。


「っ!!?え、ちょま…」


車は急に止まれないーー

と、言わんばかりの猛スピードで走ってきて、この後はまさにお約束の展開だった。


そう、オレと、その人は…まるで交通事故のように正面衝突。

勢いよくぶつかる羽目となった。



「と、兎馬くん!?大丈夫っ!?」



そして、薄れゆく意識の中…終夜くんの声だけが鮮明に頭の中に響いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/2/5:『かれー』の章を追加。2026/2/12の朝頃より公開開始予定。 2026/2/4:『あくむ』の章を追加。2026/2/11の朝頃より公開開始予定。 2026/2/3:『つりいと』の章を追加。2026/2/10の朝頃より公開開始予定。 2026/2/2:『おばあちゃん』の章を追加。2026/2/9の朝頃より公開開始予定。 2026/2/1:『かんしかめら』の章を追加。2026/2/8の朝頃より公開開始予定。 2026/1/31:『うしろ』の章を追加。2026/2/7の朝頃より公開開始予定。 2026/1/30:『かお』の章を追加。2026/2/6の朝頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

処理中です...