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死にたがりオーディション:一次審査
事故
しおりを挟む「いてて…おい、大丈夫か!?」
「ん、んぅ…あ…っ…?」
声からして、男の人…かな。
それに、なんか頭がボーっとするような…。
「おい!しっかりしろって!!」
「ーうわぷっ!?」
両側の頬を叩かれ、ハッと目が冴える。
ここでようやくオレは相手の顔を認識することが出来た。
「…立てるか?」
「!う、うん…」
手を差し出され、そのまま立ち上がる。
立ち上がって分かったことだけど、この人…めちゃくちゃ身長高いな。
「あ、ありがと…」
「いや、俺がぶつかって来たんだから、そこはお前が礼を言うことじゃねえよ。どっか怪我とかしてねえか?」
「うん、大丈夫…」
あれ、もしかして意外と優しい…というか良い人?
「そっかそっか!お前、ちっこいからなー。ぶつかった衝撃で死んじまったじゃねえかと思って焦ったぜ。いやー良かった良かった」
「…」
彼はそう言いながらオレの頭をモグラ叩きのようにバシバシと叩いて来た。
…前言撤回、良い人どころかわりと失礼だ…この人。
「あ、あの…ところでそんなに急いでどうしたんですか?」
意外なところで終夜くんが突っ込んで来た。
…ちょっとびっくり。
「ん?ああ…実はオレ、ここのオーディションを受けに来たんだけどよ…って、今何時だっ!!?」
「うええ!?く、9時30分過ぎですけど…」
この人、図体もデカいけど声もデカい!!
終夜くん以上にオレも驚いた。
「や、やっべええ!!受付時間過ぎてないよな!?ちょっオレ急ぐわ!!」
彼はすぐさま背を向け慌てて受付に向かおうとした。
けど、すかさず終夜くんがフォローを入れる。
「いや、あの受付時間は10時までだからまだ余裕で間に合うかと…」
終夜くんがおそるおそる答えると、彼は安心したのか後ろを振り返ってこう言った。
「…つーことはなんだ…お前らも…この、死にたがりオーディション受けんのか?」
今までの荒っぽい口調から一変して、彼はもの静かな口調でそう尋ねて来た。
もちろん、この答えはイエスだ。
オレと終夜くんは、返答の代わりに大きく頷いた。
「…そうか。なら、そういうことなら話は別だ!」
「?別って何が…?」
何やら彼は一人で納得しているようだった。
「よーし!んじゃあ、そこの小っこいのと細っこいの!ちっとだけ、そこで待ってろ!」
「え?え?ま、待ってろ…って、な、何で!?」
「いいから!すぐ受付してくっからよー!あーけど、待つつってもオーディション受ける他のヤツの邪魔にならないように端の方でな!」
「ええ…そ、そんな勝手な…!!」
と、オレの声も虚しく彼には届かなかった。
別に受付といったってそんなに離れた距離にあるわけじゃないのに…絶対オレの声は聞こえたはずだ。
…聞こえてた上でこの仕打ちって、なんて強引な人なんだ。
「兎馬くん兎馬くん…ねえ向こうからさ、少しずつこっちに人来てるね…」
「!ほんとだ…」
それは明らかだった。
数十人という数の人が、列のこそはバラバラだが真っ直ぐこちらに向かって来るのが見える。
「…どうする?」
終夜くんの言うこのどうするの意味は、彼に言われた通り待つか待たないかの選択をオレに委ねるということだ。
確かにここで彼を待つ理由はないんだけど…どっちみちこの後も長い時間を待たなきゃいけないんだよな…。
…だったら、時間潰しもかねて彼と話すのも悪くないのかも。
「…じゃあ、待ってようか」
オレがそう答えると終夜くんは笑顔で頷いてくれた。
「あ、なら…ちょっとだけここから離れよっか」
「そうだね…」
完全に入り口を塞いでいるわけでないとはいえ、ここはあくまでも小さな塾だ。
そんな広いわけでもないから、邪魔になるのは明白だった。
「うわ…どんどん人が入っていくね…」
「う、うん…」
それは景色が一変した瞬間だった。
ついさっきまでオレ達だけだったのに、次々と人が集まっていく。
…本当にあの数十人という人達がこのオーディションを受けるために集まったんだ。
まさに圧巻というべきだろう。
オレと終夜くんもここに来てようやく、ことの重大さを実感する。
「…ッ…彼…なかなか出てこないね…」
「うん…」
彼はまだ…受付しているんだろうか。
もうそろそろ戻ってきても良い頃だと思うんだけど。
「…ね、今更なんだけどさ。ちょっと聞いてもいい?」
「ん?終夜くん、どうしたの?改まって」
「あのね…さっき彼が言ってた、細っこいのって僕のことなのかな?」
「……まぁ少なくとも小っこいのは間違いなくオレだから、消去法でいくと自然とそうなるんじゃない?」
「………そっかぁ…気にしてるのになぁ…」
しゅんとした顔で落ち込む終夜くん。
少し反応が遅すぎる気もするけど、終夜くんでもそういうこと気にするんだね。
「…筋トレしよう」
「え」
終夜くんがボソッと呟いたこと、それだけは全力で阻止しようとオレは心に固く誓ったのだった。
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