死にたがりオーディション

本音云海

文字の大きさ
24 / 29
死にたがりオーディション:一次審査

事故

しおりを挟む
 

「いてて…おい、大丈夫か!?」

「ん、んぅ…あ…っ…?」


声からして、男の人…かな。
それに、なんか頭がボーっとするような…。


「おい!しっかりしろって!!」

「ーうわぷっ!?」


両側の頬を叩かれ、ハッと目が冴える。

ここでようやくオレは相手の顔を認識することが出来た。


「…立てるか?」

「!う、うん…」


手を差し出され、そのまま立ち上がる。

立ち上がって分かったことだけど、この人…めちゃくちゃ身長高いな。


「あ、ありがと…」

「いや、俺がぶつかって来たんだから、そこはお前が礼を言うことじゃねえよ。どっか怪我とかしてねえか?」

「うん、大丈夫…」


あれ、もしかして意外と優しい…というか良い人?


「そっかそっか!お前、ちっこいからなー。ぶつかった衝撃で死んじまったじゃねえかと思って焦ったぜ。いやー良かった良かった」

「…」


彼はそう言いながらオレの頭をモグラ叩きのようにバシバシと叩いて来た。

…前言撤回、良い人どころかわりと失礼だ…この人。


「あ、あの…ところでそんなに急いでどうしたんですか?」


意外なところで終夜くんが突っ込んで来た。

…ちょっとびっくり。


「ん?ああ…実はオレ、ここのオーディションを受けに来たんだけどよ…って、今何時だっ!!?」

「うええ!?く、9時30分過ぎですけど…」


この人、図体もデカいけど声もデカい!!

終夜くん以上にオレも驚いた。


「や、やっべええ!!受付時間過ぎてないよな!?ちょっオレ急ぐわ!!」


彼はすぐさま背を向け慌てて受付に向かおうとした。

けど、すかさず終夜くんがフォローを入れる。


「いや、あの受付時間は10時までだからまだ余裕で間に合うかと…」


終夜くんがおそるおそる答えると、彼は安心したのか後ろを振り返ってこう言った。


「…つーことはなんだ…お前らも…この、死にたがりオーディション受けんのか?」


今までの荒っぽい口調から一変して、彼はもの静かな口調でそう尋ねて来た。

もちろん、この答えはイエスだ。

オレと終夜くんは、返答の代わりに大きく頷いた。


「…そうか。なら、そういうことなら話は別だ!」

「?別って何が…?」


何やら彼は一人で納得しているようだった。


「よーし!んじゃあ、そこの小っこいのと細っこいの!ちっとだけ、そこで待ってろ!」

「え?え?ま、待ってろ…って、な、何で!?」

「いいから!すぐ受付してくっからよー!あーけど、待つつってもオーディション受ける他のヤツの邪魔にならないように端の方でな!」

「ええ…そ、そんな勝手な…!!」


と、オレの声も虚しく彼には届かなかった。

別に受付といったってそんなに離れた距離にあるわけじゃないのに…絶対オレの声は聞こえたはずだ。

…聞こえてた上でこの仕打ちって、なんて強引な人なんだ。


「兎馬くん兎馬くん…ねえ向こうからさ、少しずつこっちに人来てるね…」

「!ほんとだ…」


それは明らかだった。

数十人という数の人が、列のこそはバラバラだが真っ直ぐこちらに向かって来るのが見える。


「…どうする?」


終夜くんの言うこのどうするの意味は、彼に言われた通り待つか待たないかの選択をオレに委ねるということだ。

確かにここで彼を待つ理由はないんだけど…どっちみちこの後も長い時間を待たなきゃいけないんだよな…。

…だったら、時間潰しもかねて彼と話すのも悪くないのかも。


「…じゃあ、待ってようか」


オレがそう答えると終夜くんは笑顔で頷いてくれた。


「あ、なら…ちょっとだけここから離れよっか」

「そうだね…」


完全に入り口を塞いでいるわけでないとはいえ、ここはあくまでも小さな塾だ。

そんな広いわけでもないから、邪魔になるのは明白だった。



「うわ…どんどん人が入っていくね…」

「う、うん…」


それは景色が一変した瞬間だった。
ついさっきまでオレ達だけだったのに、次々と人が集まっていく。

…本当にあの数十人という人達がこのオーディションを受けるために集まったんだ。

まさに圧巻というべきだろう。

オレと終夜くんもここに来てようやく、ことの重大さを実感する。



「…ッ…彼…なかなか出てこないね…」

「うん…」


彼はまだ…受付しているんだろうか。

もうそろそろ戻ってきても良い頃だと思うんだけど。



「…ね、今更なんだけどさ。ちょっと聞いてもいい?」

「ん?終夜くん、どうしたの?改まって」

「あのね…さっき彼が言ってた、細っこいのって僕のことなのかな?」

「……まぁ少なくとも小っこいのは間違いなくオレだから、消去法でいくと自然とそうなるんじゃない?」

「………そっかぁ…気にしてるのになぁ…」



しゅんとした顔で落ち込む終夜くん。

少し反応が遅すぎる気もするけど、終夜くんでもそういうこと気にするんだね。



「…筋トレしよう」

「え」


終夜くんがボソッと呟いたこと、それだけは全力で阻止しようとオレは心に固く誓ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/16:『よってくる』の章を追加。2025/12/23の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/15:『ちいさなむし』の章を追加。2025/12/22の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/14:『さむいしゃわー』の章を追加。2025/12/21の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/13:『ものおと』の章を追加。2025/12/20の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...