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第3章
21節 蛇①
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「グ、ぶ……?」
雷の魔将ルニアが、苦しげに口から血を吐く。その胸部から、小さな白い手が生えている。いや、生えたわけじゃない。誰かに背後から貫かれているんだ。
ルニアの背後にはいつの間にかもう一人、小柄な少女の姿があった。気づかぬうちにルニアの影から――というより地面から抜け出るように現れ、彼女の身体を素手で貫いている。先刻の嫌な気配は、少女から発せられる魔力だったようだ。直前まで気付けなかったそれが、今ははっきりと感じられた。
少女は、抜けるような白い肌に黒いドレスを纏い、金色の髪をなびかせる頭部からは左右に二本の角を生やしている。その姿には、どこかで見覚えが――
「……これは、これは、カーミエ様……お久しぶりで、ございます。生きておられた、のですね……あぁ……鋭い刃物の痛みも素敵ですが……力任せに肉を裂き、内臓を抉られる痛みも、味わい深いものがありますね……」
「てめぇは相変わらず気持ち悪ぃな」
ルニアが口から血と共にこぼした名で、背後の存在が誰なのかに今さら気がついた。
『岩石』のカーミエ。以前、とある場所でわたしたちと出会い、戦い、そしてからくも撃退した、石の魔将の名だ。
「……ですが、これは……一体、どのような真似でしょうか……? 互いに良好とは言い難い間柄ではありますが、一応私たちは仲間、の、はずですが……?」
ルニアが漏らすもっともな問いに、しかしカーミエは吐き捨てるように言葉を返す。
「仲間だぁ? ハっ! あたしからすりゃ、てめぇもイフも目障りな邪魔者でしかねぇよ。てめぇらがいる限り、あたしが魔将の上に上り詰めることはできねぇんだからな」
「おや……困り、ましたね……神剣が顕現し、イフ様も敗れた今、残された私たちで協力して対処すべき、なのですが……」
「あたしの知ったことじゃねぇな。あたしは上に行ければそれでいいし、そのためなら手段は選ばねぇ」
「そのために……私の隙を突くために……様子を窺っていた、と……?」
「ああ。そっちの人間――あぁ、人間じゃなくて半魔だったか。そいつがあっさりやられた時はどうしようかと思ったけどな。結果的には予想以上に上手く働いてくれたぜ。キヒヒヒ!」
笑い声を上げると共に、カーミエの腕を通して、魔力が流れ込んでいく。あれは……〈クルィーク〉と同じように、魔力を、吸ってる……?
やがてカーミエは、胸部を貫いていた手を勢いよく引き抜いた。それにつられてルニアの身体が後方に引っ張られ、そのまま力なく倒れる。
「これで邪魔な陰気女は始末できた。後は、てめぇらにこの間の借りを返すだけだ」
「……素直にやられるつもりはないし、借りならこっちにもあるんだけど?」
勝ち誇った笑みを浮かべる石の魔将に、わたしは〈弧閃〉を握りながら精一杯の虚勢を張ってみせる。けれど……
「キヒ! いじらしく剣も直してきたみてぇだが、それを扱う身体のほうがもうボロボロじゃねぇか。そんなざまであたしに勝てる気かよ」
様子を窺っていただけあって、やっぱりわたしの負傷についても把握されている。
実際、ここから続けて別の魔将とやり合わなくちゃいけないのは相当に辛い。ルニアとの戦闘で負った傷がズキズキと痛む。だけど、泣き言は言っていられない。抵抗しなければ、死ぬだけだ。
「キヒヒ……この間の借り、特にてめぇにはたっぷり返させてもらうぜ。こいつで嬲り殺しにしてやる!」
カーミエが手を前方に突き出すと、その先の地面から大小様々な石が掘り出され、宙に浮かび上がる。そして……こちらに向けて、高速で撃ち放たれる。
「っ!」
痛みと倦怠感を訴える体に鞭を打ち、その場を飛び退いて石礫を回避する。先刻までわたしがいた地面を抉るように、飛来した石が突き刺さっていた。ただの石ではあるが、魔将の魔術で操られたものだ。当たれば骨の一本や二本は持っていかれるかもしれない。
その後も礫はこちらを、特にわたしに狙いを定め、間断なく放たれ続ける。避けられはするものの、反撃に出るのは難しい石の雨。嬲り殺しにするとか言ってたし、こちらの足を止めさせずに疲労を蓄積させるつもりかもしれない。
わたしはそれらを避けながら、飛んできた石の一つを左手で――つまり〈クルィーク〉で掴み取り、魔力を吸収。そして、ただの石になったそれを即座に、石の魔将に向けて投げ返す。
ビシュ!
「うぉ!?」
カーミエが顔を逸らしてこちらが投げた石を回避する。それで集中が途切れたのか、雨のように降り注いでいた魔術による石礫が、ようやく止む。
「(今のうちに……!)」
石の魔将は再び手を前方に掲げ、改めて魔術を発動させようとしていた。まだ術が完成していないのか、目の前で石が浮かび上がる様子はない。完成すれば、接近するのは一層困難になるだろう。
遠い距離では勝負にならないし、近づくために激しく動き回るのも今は難しい。このチャンスは逃せない。
〈クルィーク〉の能力で魔力の短剣を生み出し、それを投擲しながら、緩やかに回り込むように走る。相手の魔術を避けつつ、辿り着いた時に側面から攻撃できるように。しかし――
前方のカーミエが、ニヤリと笑みを浮かべた気がした。同時に、魔覚に嫌な気配を感じて――
「アレニエさん、後ろ!」
ここで唐突に、リュイスちゃんからの警告が飛んでくる。え、後ろ?
ゴア――!
ちらりと振り向いた後方からいつの間にか、人一人を丸ごと呑み込めそうなほどの大蛇が、宙を飛び、牙をむいて、わたしに襲い掛かってきていた。
「なっ……!?」
咄嗟に〈クルィーク〉を盾にしながら横に飛び、大蛇の一撃をなんとか回避する。しかし、頭は相当に混乱していた。
こんな巨大な生き物、どこから現れたの……!? 戦闘の最中だったって言っても、こんなのが現れたならさすがに気配で気づけるはず……
そうして目を凝らすうちに、勘違いに気づく。わたしが大蛇だと思っていたものは……
「(大量の石が集まって、生き物みたいに、動いてる……? 石の、蛇……?)」
ガラガラと石が擦れる音を響かせながら、多量の石が宙を流れ、一つの姿を形作る。
大きく横に裂けた口。尖った牙。それらを模った頭部や、そこから伸びる長い胴体は、まさしく蛇だ。それが、先ほどの石礫の時のように宙に浮かび、空を這っている。
おそらくこれも、カーミエの魔術によるものなんだろう。つまりさっき使おうとしていた術は石礫じゃなくて、こっちのほうだったんだ。でも、こんな大量の石、どこから……?
「(……もしかして、さっきから撃ってた石礫で……?)」
思い立ち、先刻わたしがいた場所を見てみれば、地面に突き立っていたはずの石は綺麗になくなり、抉られた跡だけを残していた。石蛇の材料になったとみて間違いないだろう。
それよりも問題は、あの『蛇』の厄介さだ。
『蛇』は今、カーミエを護るようにその周囲でとぐろを巻いている。ああされては魔将に接近しようとしても、その前にどこかで『蛇』が邪魔をしてくるだろう。かといって……
「……ふっ!」
バヂン!
試しに魔力で編んだ短剣を投げてみるが、素早く動く『蛇』の巨体と、それを覆う魔将の魔力に弾かれてしまう。通常のスローイングダガー等を投げても、おそらく結果は似たようなものだろう。
『蛇』を構成している魔力を〈クルィーク〉で食べれば、解体できるだろうか? ……いや。それをするには相手が大きすぎる。食べ切る前にこちらが石に圧し潰されてしまう。
ならばとわたしは〈弧閃〉を鞘にしまい、左腰に提げたもう一本の剣、〈ローク〉を引き抜く。
〈ローク〉は、『魔術を制御・先鋭化する』という能力を持つ魔具だ。これをわたしが左手で握った場合、〈クルィーク〉の『魔力の吸収』という魔術が制御・先鋭化され、魔力だけでなく、魔力を付与された物質まで喰い裂くことができるようになる。制御された魔術は〈ローク〉の剣身を通して発揮されるため、刃の周辺で魔力を喰らう形になる。
以前の戦いでカーミエが石巨人を生み出した際には、巨人の足元を喰い裂いてバランスを崩させ、文字通りその場に倒すことで勝利することができた。今回も同様のことができれば――
ダっ!
〈ローク〉を両手で構えたわたしは、石の魔将に向かって駆け出した。すると予想通り、『蛇』が素早く体をくねらせ、次には牙をむいて襲い掛かってくる。
横に跳んでかわしながら、〈ローク〉ですれ違いざまに『蛇』を斬る。飛び掛かる相手の勢いを利用し、横に裂けた口を更に切り裂き、その先の胴体まで傷を広げる。魔力を食べたことでいくつかの石は魔術の効力を失い、地に落ちる。が……
「(……ダメ! 一部を切り裂いただけじゃ、止まらない……!)」
『蛇』の動きは止まらなかった。悠々と、空を泳ぐように蛇行し、再びわたしを喰らおうと襲い掛かる!
「くっ!」
大蛇の牙が地面に突き立つ。その場の土が抉られ、土砂が舞い散る。それを回避し、わたしは仕方なく魔将と距離を取った。
こちらが離れたのを察すると、『蛇』は再び魔将を護るように、その周囲に身体を置く。あくまで主からはあまり離れないつもりらしい。
「(これじゃ、近づけない……)」
〈クルィーク〉の魔術を〈ローク〉に乗せた場合、切れ味は確実に上がる反面、範囲自体は狭くなってしまう。凝縮し、鋭くなった分、〈ローク〉の刃先周辺でしか魔力を食べられなくなってしまうのだ。
今回の『蛇』のような全身を使って移動する相手の場合、一部だけを喰らっても、その他の大部分は止められない。そもそも生物ですらないので、多少の傷では意味がない。そして空を這い回る相手じゃ、巨人の時のように重心を崩させることもできやしない。
まずい。ここからの手立てが思いつかない。負傷や疲労のせいもあってか、上手く頭が働いてくれない。どうする? どうしよう――
「アレニエさん!」
悩むわたしの元に、リュイスちゃんが駆けてくる。
「よかった……無事みたいですね」
そう言う彼女にも、目立った外傷はない。石礫も上手く避けてくれたみたいだ。
「なんとかね。……この後どうするかを悩み中だけど」
「あの『蛇』の対処、ですね? ……もしかしたら、なんですけど……私、少しの間なら、なんとかできるかもしれません」
「え、ほんとに?」
「はい。……ただ、アレニエさんにも協力してもらううえに、負担が大きい方法なんですが……」
雷の魔将ルニアが、苦しげに口から血を吐く。その胸部から、小さな白い手が生えている。いや、生えたわけじゃない。誰かに背後から貫かれているんだ。
ルニアの背後にはいつの間にかもう一人、小柄な少女の姿があった。気づかぬうちにルニアの影から――というより地面から抜け出るように現れ、彼女の身体を素手で貫いている。先刻の嫌な気配は、少女から発せられる魔力だったようだ。直前まで気付けなかったそれが、今ははっきりと感じられた。
少女は、抜けるような白い肌に黒いドレスを纏い、金色の髪をなびかせる頭部からは左右に二本の角を生やしている。その姿には、どこかで見覚えが――
「……これは、これは、カーミエ様……お久しぶりで、ございます。生きておられた、のですね……あぁ……鋭い刃物の痛みも素敵ですが……力任せに肉を裂き、内臓を抉られる痛みも、味わい深いものがありますね……」
「てめぇは相変わらず気持ち悪ぃな」
ルニアが口から血と共にこぼした名で、背後の存在が誰なのかに今さら気がついた。
『岩石』のカーミエ。以前、とある場所でわたしたちと出会い、戦い、そしてからくも撃退した、石の魔将の名だ。
「……ですが、これは……一体、どのような真似でしょうか……? 互いに良好とは言い難い間柄ではありますが、一応私たちは仲間、の、はずですが……?」
ルニアが漏らすもっともな問いに、しかしカーミエは吐き捨てるように言葉を返す。
「仲間だぁ? ハっ! あたしからすりゃ、てめぇもイフも目障りな邪魔者でしかねぇよ。てめぇらがいる限り、あたしが魔将の上に上り詰めることはできねぇんだからな」
「おや……困り、ましたね……神剣が顕現し、イフ様も敗れた今、残された私たちで協力して対処すべき、なのですが……」
「あたしの知ったことじゃねぇな。あたしは上に行ければそれでいいし、そのためなら手段は選ばねぇ」
「そのために……私の隙を突くために……様子を窺っていた、と……?」
「ああ。そっちの人間――あぁ、人間じゃなくて半魔だったか。そいつがあっさりやられた時はどうしようかと思ったけどな。結果的には予想以上に上手く働いてくれたぜ。キヒヒヒ!」
笑い声を上げると共に、カーミエの腕を通して、魔力が流れ込んでいく。あれは……〈クルィーク〉と同じように、魔力を、吸ってる……?
やがてカーミエは、胸部を貫いていた手を勢いよく引き抜いた。それにつられてルニアの身体が後方に引っ張られ、そのまま力なく倒れる。
「これで邪魔な陰気女は始末できた。後は、てめぇらにこの間の借りを返すだけだ」
「……素直にやられるつもりはないし、借りならこっちにもあるんだけど?」
勝ち誇った笑みを浮かべる石の魔将に、わたしは〈弧閃〉を握りながら精一杯の虚勢を張ってみせる。けれど……
「キヒ! いじらしく剣も直してきたみてぇだが、それを扱う身体のほうがもうボロボロじゃねぇか。そんなざまであたしに勝てる気かよ」
様子を窺っていただけあって、やっぱりわたしの負傷についても把握されている。
実際、ここから続けて別の魔将とやり合わなくちゃいけないのは相当に辛い。ルニアとの戦闘で負った傷がズキズキと痛む。だけど、泣き言は言っていられない。抵抗しなければ、死ぬだけだ。
「キヒヒ……この間の借り、特にてめぇにはたっぷり返させてもらうぜ。こいつで嬲り殺しにしてやる!」
カーミエが手を前方に突き出すと、その先の地面から大小様々な石が掘り出され、宙に浮かび上がる。そして……こちらに向けて、高速で撃ち放たれる。
「っ!」
痛みと倦怠感を訴える体に鞭を打ち、その場を飛び退いて石礫を回避する。先刻までわたしがいた地面を抉るように、飛来した石が突き刺さっていた。ただの石ではあるが、魔将の魔術で操られたものだ。当たれば骨の一本や二本は持っていかれるかもしれない。
その後も礫はこちらを、特にわたしに狙いを定め、間断なく放たれ続ける。避けられはするものの、反撃に出るのは難しい石の雨。嬲り殺しにするとか言ってたし、こちらの足を止めさせずに疲労を蓄積させるつもりかもしれない。
わたしはそれらを避けながら、飛んできた石の一つを左手で――つまり〈クルィーク〉で掴み取り、魔力を吸収。そして、ただの石になったそれを即座に、石の魔将に向けて投げ返す。
ビシュ!
「うぉ!?」
カーミエが顔を逸らしてこちらが投げた石を回避する。それで集中が途切れたのか、雨のように降り注いでいた魔術による石礫が、ようやく止む。
「(今のうちに……!)」
石の魔将は再び手を前方に掲げ、改めて魔術を発動させようとしていた。まだ術が完成していないのか、目の前で石が浮かび上がる様子はない。完成すれば、接近するのは一層困難になるだろう。
遠い距離では勝負にならないし、近づくために激しく動き回るのも今は難しい。このチャンスは逃せない。
〈クルィーク〉の能力で魔力の短剣を生み出し、それを投擲しながら、緩やかに回り込むように走る。相手の魔術を避けつつ、辿り着いた時に側面から攻撃できるように。しかし――
前方のカーミエが、ニヤリと笑みを浮かべた気がした。同時に、魔覚に嫌な気配を感じて――
「アレニエさん、後ろ!」
ここで唐突に、リュイスちゃんからの警告が飛んでくる。え、後ろ?
ゴア――!
ちらりと振り向いた後方からいつの間にか、人一人を丸ごと呑み込めそうなほどの大蛇が、宙を飛び、牙をむいて、わたしに襲い掛かってきていた。
「なっ……!?」
咄嗟に〈クルィーク〉を盾にしながら横に飛び、大蛇の一撃をなんとか回避する。しかし、頭は相当に混乱していた。
こんな巨大な生き物、どこから現れたの……!? 戦闘の最中だったって言っても、こんなのが現れたならさすがに気配で気づけるはず……
そうして目を凝らすうちに、勘違いに気づく。わたしが大蛇だと思っていたものは……
「(大量の石が集まって、生き物みたいに、動いてる……? 石の、蛇……?)」
ガラガラと石が擦れる音を響かせながら、多量の石が宙を流れ、一つの姿を形作る。
大きく横に裂けた口。尖った牙。それらを模った頭部や、そこから伸びる長い胴体は、まさしく蛇だ。それが、先ほどの石礫の時のように宙に浮かび、空を這っている。
おそらくこれも、カーミエの魔術によるものなんだろう。つまりさっき使おうとしていた術は石礫じゃなくて、こっちのほうだったんだ。でも、こんな大量の石、どこから……?
「(……もしかして、さっきから撃ってた石礫で……?)」
思い立ち、先刻わたしがいた場所を見てみれば、地面に突き立っていたはずの石は綺麗になくなり、抉られた跡だけを残していた。石蛇の材料になったとみて間違いないだろう。
それよりも問題は、あの『蛇』の厄介さだ。
『蛇』は今、カーミエを護るようにその周囲でとぐろを巻いている。ああされては魔将に接近しようとしても、その前にどこかで『蛇』が邪魔をしてくるだろう。かといって……
「……ふっ!」
バヂン!
試しに魔力で編んだ短剣を投げてみるが、素早く動く『蛇』の巨体と、それを覆う魔将の魔力に弾かれてしまう。通常のスローイングダガー等を投げても、おそらく結果は似たようなものだろう。
『蛇』を構成している魔力を〈クルィーク〉で食べれば、解体できるだろうか? ……いや。それをするには相手が大きすぎる。食べ切る前にこちらが石に圧し潰されてしまう。
ならばとわたしは〈弧閃〉を鞘にしまい、左腰に提げたもう一本の剣、〈ローク〉を引き抜く。
〈ローク〉は、『魔術を制御・先鋭化する』という能力を持つ魔具だ。これをわたしが左手で握った場合、〈クルィーク〉の『魔力の吸収』という魔術が制御・先鋭化され、魔力だけでなく、魔力を付与された物質まで喰い裂くことができるようになる。制御された魔術は〈ローク〉の剣身を通して発揮されるため、刃の周辺で魔力を喰らう形になる。
以前の戦いでカーミエが石巨人を生み出した際には、巨人の足元を喰い裂いてバランスを崩させ、文字通りその場に倒すことで勝利することができた。今回も同様のことができれば――
ダっ!
〈ローク〉を両手で構えたわたしは、石の魔将に向かって駆け出した。すると予想通り、『蛇』が素早く体をくねらせ、次には牙をむいて襲い掛かってくる。
横に跳んでかわしながら、〈ローク〉ですれ違いざまに『蛇』を斬る。飛び掛かる相手の勢いを利用し、横に裂けた口を更に切り裂き、その先の胴体まで傷を広げる。魔力を食べたことでいくつかの石は魔術の効力を失い、地に落ちる。が……
「(……ダメ! 一部を切り裂いただけじゃ、止まらない……!)」
『蛇』の動きは止まらなかった。悠々と、空を泳ぐように蛇行し、再びわたしを喰らおうと襲い掛かる!
「くっ!」
大蛇の牙が地面に突き立つ。その場の土が抉られ、土砂が舞い散る。それを回避し、わたしは仕方なく魔将と距離を取った。
こちらが離れたのを察すると、『蛇』は再び魔将を護るように、その周囲に身体を置く。あくまで主からはあまり離れないつもりらしい。
「(これじゃ、近づけない……)」
〈クルィーク〉の魔術を〈ローク〉に乗せた場合、切れ味は確実に上がる反面、範囲自体は狭くなってしまう。凝縮し、鋭くなった分、〈ローク〉の刃先周辺でしか魔力を食べられなくなってしまうのだ。
今回の『蛇』のような全身を使って移動する相手の場合、一部だけを喰らっても、その他の大部分は止められない。そもそも生物ですらないので、多少の傷では意味がない。そして空を這い回る相手じゃ、巨人の時のように重心を崩させることもできやしない。
まずい。ここからの手立てが思いつかない。負傷や疲労のせいもあってか、上手く頭が働いてくれない。どうする? どうしよう――
「アレニエさん!」
悩むわたしの元に、リュイスちゃんが駆けてくる。
「よかった……無事みたいですね」
そう言う彼女にも、目立った外傷はない。石礫も上手く避けてくれたみたいだ。
「なんとかね。……この後どうするかを悩み中だけど」
「あの『蛇』の対処、ですね? ……もしかしたら、なんですけど……私、少しの間なら、なんとかできるかもしれません」
「え、ほんとに?」
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