大賢者居酒屋〜転生した大賢者の居酒屋は、看板娘と共に順調です〜

赤海 梓

文字の大きさ
4 / 7

プロローグ:4 邂逅。九尾の少女

しおりを挟む
「…」

 今は師匠の葬式。

「こいつは気の毒だったな、オリス」

「…ガゼンさん」

「俺もあの大将の死を告げられた時は、もう何が何だか分からなくなっちまった。大将の死は間もなくだって、何となくわかっていたはずなのにな」

「…はい」

「…大将の料理は絶品だった。知識と経験で身につけた感覚から素早く料理を提供する事が出来る。料理の申し子と言っても過言では無い」

「…」

「…ったく、シャキッとしろ。最後に大将はなんか言ってなかったか?どうせあの人の事だ。お前には笑っていて欲しいって言ってたんじゃないのか?」

「…!」

「へっ、図星か。じゃあ笑顔でいろ。ずっと笑顔でいろとは言わない。本当に悲しい時以外は笑ってりゃいい。そうすりゃ勝手に幸福がにじりよって来る」

「…はい…」

「…しゃあねえ。終わったら飲みに行くぞ。俺の奢りだ。たんと飲め」

「…いいんですか?」

「はっ、タダ酒と聞いて口数増えてんじゃねえよ。まぁ、それぐらいがお前には丁度いいがな」

「…馬鹿にして」

「馬鹿になんてしてないさ。お前は要領はいいが、自分の感情に対しての対処が不器用なんだ。だから、酒で全部吐き出すのがお前には似合ってるよ」

「…そうですか」

 そして俺は師匠の葬式が終わった後、ガゼンさんと近くの居酒屋で飲むことになったのだった。

 ◇◇◇

「オリスと飲むのは初めてだな。大将とは一緒に飲んだのか?」

「はい。最初で最後の師匠との晩酌でした。…俺は、あの晩酌だけは絶対に忘れない。忘れられない」

「そうだろうな。俺も未だに初めての時の酒は忘れてねぇ。あの味はクソほど美味かった」

「…」

「…はっ、何暗い空気になってんだ!!大丈夫だ、酒さえ飲みゃ嫌なことはスっと忘れる!パッと笑顔になった方が、天国の大将も喜ぶってもんだ!!」

「…ええ、そうですね!今日は飲みましょう!!すいませーん!生ジョッキ4つお願いします!!」

「おう、俺の分までありがとな」

「いや、4杯全部俺のですけど」

「…そうか。おう」

「さっ、ガゼンさんも頼んで!!今日はヤケ酒ですよ!!」

「…ああ!!もう財布の事はどうでもいい!!好きなだけ飲むぜぇ!!」

 そして俺は酒が届き次第、ジョッキ4杯を数分で空にし、もう5杯頼むのであった。
 ガゼンさんも、5杯くらいを一気飲みしていた。

「お~う、そうだオリス。お前、大将の店は継ぐのか?」

「え…?あ~確かに、あまり考えていなかったなぁ…」

「お前はまだ若いんだし、最低あと1人くらい従業員はほしいんじゃあねえか?」

「う~ん、確かにそうなんだがなぁ~。生憎ずっと店を手伝ってたから、知り合いがあまりいないし、常連さんに従業員頼むのもなぁ~。まぁ何とかなるでしょうよ、とりあえず店は次ぎますよ~」

「おう、本当かオリス!!いや~、あの店がなくなっちまったら俺ァ困るからよ、本当に助かったぜぇ!」

「はっはっは~、別にそんなそんな」

 そこから酒をグイッと飲む。

「えぁっとと、ん?あれ?飲みす…」

 そして俺は倒れる。

「…?」

 まずい、飲みすぎだ…。身体にアルコール、が周りすぎて、もう何、も…考え…られ…な…













































































「…!」

「おう、大丈夫かオリス」

「ここは…?」

「俺の家だ。あの酒場と家が近いんだ」

「そうですか。ありがとうございます…」

 そうして礼を言おうと起き上がった時、

 ビキィッ!!

「痛ってぇ!」

「おう、無理すんな。飲みすぎで頭痛めてんだ。ほら、水持ってきたからゆっくり飲んで休め」

「…すみません、わざわざ」

「良いってことよ。それより腹減ってねえか?なんか適当なもんつくれるぞ?」

「今はあまり、お腹は空いてないです」

「そうか。じゃあもっかい寝てろ」

「…ありがとうございます」

 これで一休み、かと思ったが、ガゼンさんは部屋を出ていかない。どうしたのだろうか。

「昨日は酒の勢いで店を継ぐなんて言っていたが、本気か?正直店の経営というのは大変だ。経営における素人が1人いたところで店は大して回らないぞ」

「…それはなんとかしますよ」

「あやふやにしてはいけない。ここは店を自分で持つにあたって鮮明にしなければならないところだぞ」

「いえ、問題を後回しにしているわけではありません。必死こいて勉強して、従業員も雇って、現状維持が続く程度の平和な店にしてみせる。みんなが酒を飲んでおちゃらける店にする。これは絶対です。私の意地ですから」

「へぇ…。良い眼してるな。いいぜ。お前の覚悟は充分に伝わったよ。お前の飯は酒の次に美味いんだ。期待しとくぜ」

 そしてガゼンさんは部屋を出る。
 窓の外は涼しい快晴だ。とても心地が良い。

「…寝るか」

 そんなこんなで俺は、師匠の店を継ぐ決心をしたのだった。


 ◇◇◇

 翌日、俺は店に戻っていた。外には休業中の張り紙を張り、冷蔵庫の食材も捨てたり加工したりして、処理をした。腐らせるのはもったいないからな。師匠にげんこつされちまう。

 それから今俺はとある重要な問題に直面していた。

よく考えたら俺友達いなさすぎるナッスィングフレンズ問題ーー!」

 そりゃあそうだ。この世界に来てからは師匠とお客さん以外だと、買い出しの時によく会う売店のおばちゃんくらいだ。
 人の温もりとかを求めてこの世界に来たのに、歳上のおじさん等々としか話していないーー!
 これはマズイ。なかなかにマズイ。そもそもこんな人間関係では従業員を雇うだなんて夢のまた夢だ。

 ガンガンガン

「くっそ、なにか対策を考えなければ…」

 ガン、ドンドンッ

「俺が友達を作る?無理だ。初対面の人との談笑は無理すぎる」

 ドンドンドンドンドン

「何年ぼっちやってきてると思ってんだ。1500年ぞ?」

 ゴンゴンドンドン

「なにか他の手立てを考えなければ」

 ガンガンガ

「るっさいわ!ドア壊れるっての!…って、お前」

 ドアを必死に叩いていたのは、同い年か少し年下程度の少女だった。

「入れて…匿って…お願いっ…!」

 俺は迷った。どう考えてもこの子は普通じゃない。そりゃそうだ。

 金髪で九つの尾を持つ狐の獣人なんて、初めて見たのだ。明らかにこの世界では…いや、全知を語っていた前世の頃ですら異様な姿であったのだった。

「…いいよ、入れ」

 でも俺は断れなかった。断りたくなかった。俺は知っている。人の温もりを知れずに人生を送った人の冷たい瞳を。

「あ…ありがとうございますっ…!」

 彼女はそそくさと店の中へ入り、厨房まで逃げ、頭を抱えてうずくまった。

「…どうしたんだ?」

「私、今追われてて、ごめんなさい、迷惑ならここから出ていくんですけど、裏社会の人間が、そして…」

「落ち着け。まずはさっき作ったスープだ。根菜がいっぱい入ってるし、温まるぞ」

「あっありがと…いただきます…」

 …この子は多分悪い子ではないだろう。俺の経験談だがわかるのだ。食材に対して感謝を述べ、どんな時でも「いただきます」を言える人は美しい。この子はいい子だ。

「もう1回だ。具体的に、落ち着いて、何があったか教えてくれるか?」

「…私は気がつけば森の中にいました。最近知ったのですが、1万年に1度産まれるという幻の聖女『九尾』という種族なのだそうです」

 1万年に1人…!だから今まで聞いた事も無かったわけだ。

「ここ最近までは森で平和に暮らしていました。動物たちと戯れて、木の実や山菜で毎日過ごしてきました。ですが、珍しいからと私を狙う人間が出てきました。私は魔術の才に恵まれてるので追い払えたのですが、いつの間にか私を狙う人間は増え、死体でもいいと言い始める人まで出てきたのです」

「それで、裏社会というのは?」

「…私の髪の毛は催眠効果があるみたいで、それを悪用しようとしてる人間がどうやら反社会的勢力らしくて…」

「…そっか」

 この瞳に嘘偽りは無い。この子は信用できる。

「いいよ。好きなだけここにいればいい」

「本当ですか!助かりま…」

「だけど1つ、条件がある」

「条件…まさか、身体を差し出せと申すのですか!?」

「そんな訳ないだろ」

「…すみません」

 顔が真っ赤になっていて愛らしい。…じゃなくて、

「この店は丁度従業員が1人しかいなくなってまともに経営ができない状況に陥ってしまっているんだ。だからここで提案だ」

「提案…?」

「うちの従業員になれ。雑用を大体任せるつもりだ」

「雑用…」

「それから衣食住と賃金は渡す。どうだ。悪くない提案だろ」

「…!!大丈夫です。私、やっぱり大丈夫な気がするので森に帰りますね…!」

「急にどうし…」

 いや、わかるぞ。この気配は明らかに普通の人間じゃない。闇の気配…殺気…!

「大丈夫だ。俺が守ってみせるからな」

「…!!」

 俺は彼女を守ることを決めて、覚悟を決めるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

処理中です...