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短編用
7 噛み合わないのです
しおりを挟む何やら王子は考え込んでいるようで、目が据わっていて怖いです。
「え…と、ではこの辺でよろしいでしょうか」
もうお暇しようかと思いそう言うと、王子の定まらなかった目線が私を捉えました。
「やはり…俺を謀っていたのだな」
「はい?」
ちょっと間抜けな声を出してしまいました。婚約が白紙になっても、この場では令嬢としてきちんとしていようと思ったのに!
ですが、今の話聞いてました?!と叫ばなかっただけ良しとします。
「えと…。ですから、初めから契約にあった事ですし、謀ったと仰るなら陛下も含まれる事かと……」
不敬だと思われようと、本当の事ですよね!
「そうではない!婚約者であるにも関わらず、お前は署名した事を喜んでいたではないか!」
「……」
「お前は容姿も能力も隠しながら、自分に相応しくないと腹の中で俺を笑っていたのだろう!」
開いた口が塞がらないとはこの事だと初めて知りました。口は開いていませんけども。
「あの……。仰っている意味がわかりません」
素直に言葉にしました。
結果は白紙撤回となりましたが、今婚約破棄を告げられたのは私の方であり、ご自分で確認されて署名したはずです。例えそれを私が喜んだとしても、腹の中で笑っていたとしてもご希望は叶えられたはずです。
「お前は婚約者でいた時から、俺の事を好いてなどいなかったということではないのか!」
この方は一体何を言っているのでしょうか……。
「王子。私は学園に入るまで、慣れない公務をしてお忙しいのだと思っておりました」
王子は肩が揺らしたものの、鋭い表情で私を見つめています。
「ですが、それは思い違いのようでした。名を呼ぶなと言われたり、話し掛けて欲しくないとも仰いましたよね?好いていたというものとは違いますが、少なくとも王子と幼き頃に過ごした時間はとても楽しく、嬉しいものでしたし、真剣に学び鍛錬に励んでいる姿は好ましいと思っておりました」
何かに期待するように王子の目が輝きを取り戻したように見えます。
言外に、好いていなかったのは王子の方ではないですか?ということなのですが……。
王子は理解できる方だと思っておりましたが、きちんと伝わっているのか不安になってしまいますね。
「契約にあるように、20歳で王子に娶られるのだと思っておりました」
「それでは!」
「学園へ入るまでは」
区切ったのがいけなかったのか、途中で王子が何かを言ったようです。それではと聞こえましたが……何か言いたかったのでしょうか。表情が硬まっていて、よくわかりませんね。
「……ヴィクトリア嬢とお幸せにお過ごし下さい」
「嫌だ」
何も仰らないのでこんな話の後では気まずかろうと、私の事は気になさらなくて良いとお二人に送った言葉は、王子によって拒絶されてしまいました。
「悪かった!許してくれ。20歳まで待つ。俺の妃になってくれ」
どうこの場を収めようかと考えていると、なぜか王子は高揚したように早口で長い脚を動かし近付いてきました。
怖い怖い怖い!そして言ってる意味もわからない!
「落ち着いて下さい!そしてそれ以上近付かないで下さい!」
「どういう事ですの!ナサニエル様!今の言葉は聞き捨てなりませんわ」
堪らず私は叫びましたが、重なるようにヴィクトリア嬢の叫びも聞こえ、ヒールが床を叩く音もします。
鬼人のような形相でこちらへ向かってくるヴィクトリア嬢に、釘付けになってしまいました。
「すまないヴィクトリア。俺はクレアを妃とする」
ヴィクトリア嬢を凝視していたので、王子が近付いている事に気付くのが遅れてしまいました。
王子はヴィクトリア嬢にそう言いながら、うっとりと私を見つめて撫でるように腰を抱き、あまつさえ腰骨を摩ってきました。
その感触に肌が粟立ち、悲鳴すらも上げられませんでした。
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