お待ちしておりました!その"婚約破棄"!

そらねこ

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短編用

8 ご理解を

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「離し『そんなの納得出来ないわ!』て下さい」

    解放を望んだ声は、またもやヴィクトリア嬢の声にかき消されてしまったようです。
    摩っていた手の平は振りが大きくなり、徐々に太ももから横腹まで撫で上げています。

    正直に申しましょう。とても、とても気持ちが悪いです。ですが、今の私は腕の中にすっぽりと収まってしまっておりますし、前方にはそれはもうご令嬢とは思えぬ程の顔をしたヴィクトリア嬢がいらっしゃるので、身動きがとれないのです。


「婚約は『すまないと思っている』白紙に……」

    今度は王子に遮られてしまいました。今の状況に私は何も関わりはないと思うのですが……。

「俺はやはりクレアを愛している。一時の気の迷いだったと今ではわかる。ヴィクトリア、本当にすまなかった」

    気の迷いで済む事では無いと思うのですが、王子が頭を下げております。変わらず私の腰を抱えてはいらっしゃいますが。
    ですが、王族がこのような場で頭を下げるというのは本来許されるべき事ではなく、相応の謝罪かと私は思いました。
    まぁ、私には全く関係の無い事ですが。


「っ!? ……貴女の!貴女のせいよ!」

    王子の姿を見たヴィクトリア嬢は、今度は私に視線を向けて手を振り上げてきました。
    なんというとばっちりでしょうか!ですが、降りかかる火の粉は払わねばなりません。腰を這う手の感触もいい加減限界ですし。

    このような事になるならコルセットをしていればとちょっと後悔もしました。元に戻ってしまうとサイズが合わなくなってしまって不格好になると思ったのですが、その方がまだ良かったと思ってしまいます。

    私は小さく呪文を唱えて、王子の腕を引き剥がし、距離をとってからお二人に向き合いました。

「え?何?なんなのよ!」

「なんだ!どうなってる!」

    お二人共、理解しきれていないようです。

「申し訳ございません。お二人の動きを止めさせていただきましたの。お顔から上は動くかと思いますわ」

「一体どういうつもりなのよ!」

    簡単に説明をすると、ヴィクトリア嬢が射抜かんばかりにこちらを見ました。それはこちらが聞きたい事ですわね。

「自分の身を守る為でございます。ヴィクトリア嬢、その右手はどちらに振り下ろすおつもりで?」

「貴女に決まってるじゃない!」

「ですので、回避の為に行使させていただきました。退出の際には解除致しますので、ご安心下さい」

    私はお二人に、そして護衛で近くまで来て待機していたチャーリー様にお伝えしました。
    チャーリー様は私の視線を受け止め、頷いてくれました。良かったです。危害を加えると判断されれば、切られてしまいますから。

「クレア、俺はお前を傷付けたりなんかしない。なぜ俺まで」

    王子が何か言っていますね。

「婚約者でもない女性の体に気安く触れるような方は、その女性を傷付ける事と同じと思っておりますの。それにもう婚約者でも何でもないのですから、呼び方を改めていただけないでしょうか」

「そんな…。俺は愛してる!許してはくれないのか?」

    何とも軽い"愛"ですこと…。呆れて溜め息しか出てきませんね。

「王子。許すも何もないのです。婚約は白紙になりましたし、お互い干渉しないと記されていたはずです。私とはもう何も関係がないのです」

「ではもう一度結ぼう!今度は気移りする事無く、クレアだけを愛すると誓う!」

    なんだか疲れてきました。王子は本気で仰っているようです。早く家に帰りたい…。

「嫌ですわ」

「なぜ……」

    王子は私を目を見開いて凝視しています。そんなに衝撃を受けるような事を言った覚えはありません。真っ当な返答だと思います。

「王子が愛してるのは容姿であり、私ではありません。それに、"もう一度"も"今度"もありません。二度と婚約をする事も婚姻を結ぶ事も無いのです。これは決して覆る事はありません」

「違う。容姿も美しいと思うが、それだけでは『では、なぜ署名を?』なく…」

    王子はこんな方でしたでしょうか?広い視野で観察し、冷静に判断を下せる頭の良い方だったと思うのですが…。何が彼をそうさせたのかわかりませんが、実に滑稽です。

「私は王子と真摯に向き合ってきたつもりでございます。それは婚約者としていた時も今も、何も変わりはありません。この場で大きな魔法を使ったわけでもなく、雄弁に何かを語ったりもしていません。唯一変わったのは容姿が戻ったという事だけです。責めるつもりはございません。ですが、契約に容姿や能力に惑わされずとありましたように、今更求められましても私はそれを"愛"だとは思えないのです。ご理解いただけたでしょうか?」

    王子は眉を顰めて俯いてしまわれました。どうやら、やっとご理解いただけたご様子です。
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