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短編用
9 最後のお礼に
しおりを挟むどうやら王子にはご納得いただけたようで何よりですね。正直に言うと、本当に面倒でございました。
私は一つお礼をしたく、チャーリー様へと歩を進めました。チャーリー様は戸惑ったご様子ですが、何もしませんよの意を込めて、笑みを返し目の前でご挨拶のカーテシーをしました。
「チャーリー様。こうやってお話しをするのは、お久しぶりですね」
「え?あ、そう…ですね」
チャーリー様の目に動揺の色が浮かんでいらっしゃいます。
私から話し掛ける事は数える程しかなかったので、無理もないですね。
「いつも気にかけて下さって、本当にありがとうございました。私、最後にチャーリー様にだけはお礼をしたいと思っておりますの。受け取っていただけないでしょうか?」
「え?……あ。いや、そんな礼をいただけるような事ではありません。捨て置いて下さい。感謝を述べられただけでも余るくらいです」
チャーリー様は何の事かと思ったようですが、思い至って下さったようです。
ですが、困ったような笑顔で今の言葉だけで十分と言われてしまいました。
「それでは私の気が済みませんの。どうか受け取って下さいませ」
「待って下さい!どうかお顔を上げてください。受取ります!受け取りますから!」
深く頭を下げた私に、焦った声が降ってきました。
「良かったです」
顔を上げた私は、心からそう思い口にしました。
チャーリー様は眉を下げて、申し訳なさそうな顔をしてしまっておりますが…。それでも私は、彼にお礼を送りたいのです。
たった一言、動作の一つ、私をずっと気遣い、気にかけて下さっていたこの方に。
チャーリー様は元騎士団長のご子息の三男で、長男の方は現騎士団長、次男の方は陛下の近衛として、武に秀でた家系です。
その腕を見込まれ歳の近い王子の専属護衛となり、いずれは側近として仕えるでしょう。
王子とお会いする時は必ず傍らにいらっしゃいましたが、学園に入ってからは王子以上に私と関わった唯一の方だと思います。
一緒に通学しないと言われた時、「きっと待たせてしまうのが嫌なのです。貴女に要らぬ苦労をかけたくないのでしょう」と、名を呼ぶなと言われた時も、「気に病む事はありません。きっと恥ずかしがっているだけですから」と。
私から距離を置く王子と共にいるので、チャーリー様とお話しする事も無くなってしまいましたが、私の姿を見つけると必ず頭を下げて、ご挨拶して下さいました。
エスコートをしないと告げられた私より余程驚いた顔で、今にも倒れそうな顔色をして、「どうか、どうかお気を確かに」と声を震わせながら、私を元気づけようとして下さった方なのです。
「まだ婚約者様はいらっしゃらないのですか?」
「あぁ~、そうですね」
チャーリー様はバツが悪そうに笑みを浮かべております。
まだ私が王宮へ通っていた頃、交わした会話の中でチャーリー様自身が言っていたのです。まだ婚約者がいない事、三男で爵位も継げないから難しいだろうと。
「では、お礼の際に少し触れる事になりますが、問題はないですね」
「え?あぁ、問題はない…ですが……」
確認をすると、チャーリー様は言いにくそうに語尾を弱めてしまいました。
私ったら、彼がいつも優しく接して下さるからと、一番に確認しなければならない事を忘れていたようです。
「あ、私に触れられるのは嫌だったかしら」
「そんな!決してそんな事ではありません!」
「まぁ!ふふ。では、是非受け取っていただきたいですわ」
身長も高く、護衛として凛としている事の多い彼が目を見開いて必死な顔になるものだから、その差に少し驚きました。
「チャーリー様は背がお高いので…。申し訳ないのですが、このくらいまで屈んで下さいますか?」
「あ…と。このくらい、でしょうか?」
自分の首元の前に手の平を下にして高さを希望すると、チャーリー様は膝を曲げて腰を落とし、視線を向けて確認して下さいました。
いつも見上げてた方に上目遣いで見られると、何とも可愛らしく思えてしまいますわね。
「はい。ありがとうございます。では、受け取って下さい。あ、目線は下げておいて下さい」
視線下がった事を確認して、私は丁寧に言葉を紡ぎました。
「《この先、チャーリー・アディントンに大きな病や怪我も無く、最愛の人と結ばれ、笑顔に溢れた人生を送る事をここに願う》」
チャーリー様の額に掛かる髪を指で持ち上げ、露になったそこに唇を落としながら力を行使しました。
「《贈り物》」
ゆっくりと離した唇の触れていた箇所が淡く光り、額に吸い込まれるようにして消えていく。
どこまで効くかはわからないけど、お父様直伝の"お礼"はどうやら成功したようです。
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