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さん

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『昨夜は楽しんだようだな』

教皇様は本日は城に呼ばれているのでお祈りは私一人だ。神様の声は心なしか弾んでいるような気もする。

「えぇ。神様のご加護のお陰です」
『あの男はどうだった?お前の伴侶にはこの世界で一番だと思うぞ』
「まぁ!誰かは存じませんが神様が言うなら相当な御方なのでしょうね」

相手が誰かは神様も教えてくれなかったが、神様イチオシってことだけはわかった。ヤリチンすぎても面倒だしなー。まぁそもそもまた会うかもわからないし。

「じゃあお腹すいたのでお昼食べてきます」

神様に本日の別れを告げ、教会内の食堂へ行くことにした。いつもなら教皇様もといお爺様が一緒だけれど、今日は一人だ。私のハリスとジョセフは聖女邸にいる。

「聖女様!お一人で出歩かれるなんて」

うしろから走ってきたのはラミエル大神官様だ。

「ラミエル大神官様こそ走るなんて珍しいですね」
「聖女様がお一人で行動なさっているからです。いくら教会内とはいえ何があるかわかりませんので」
「えー、じゃあいつも教皇様は私の護衛かなにかだと思ってらっしゃるんですか?」
「いえそのような…」

かわいい人だ。確か私より11年上で、公爵か侯爵の次男坊。学生時代からモテにモテていたらしいこの人は、高い聖力をもって神につかえる道を選んだそうだ。マウントとりたいのか嫌味を言ってくる貴族令嬢や御婦人達が言っていた。そんな人達は大体神様から文字通りの天罰が下っていたが。
そんな方が今日はなんかふにゃふにゃしてる。いつも微笑んではいるけれど、今日はそれに拍車がかかっている。

「なにかいいことでもありましたか?」
「え?な、なぜですか?」
「いつもはキリッとされてるのに今日はなんだか柔らかいかんじが。あっ、すみません」
「いいえ、聖女様が謝ることでは…たしかにいいことはありましたが、顔に出ていましたか?」
「それはもう全身から」

この人のこういったところがモテる要素でもあるのだろう。ギャップだギャップ

「私のことなんていいのです。どちらへ向かわれますか?」
「食堂へ」
「ではランチを御一緒させていただいても?」
「えぇ。ラミエル大神官様と一緒でしたらいつもより美味しく感じられるでしょうね」

まぁ本音だ。お爺様と呼んでいる教皇様とのランチも楽しいが、見目麗しいこの大神官様と2人のランチはさぞ美味しく感じられることだろう。

実際のランチも楽しかった。なによりラミエル大神官様の優雅な所作を見ているだけで私まで優雅な気分になった。

午後はいつもと趣を変えて、街の神殿を巡りながら聖女としてのお勤めをすることにした。それもこれもすべての民が大神殿へ治療や治癒を求めにこれるわけではないからだ。貴族は貴族で金を積めばいいと思うし、そのせいで平民はあとへ回される。私もなるべく皆を診たいが、陽も落ちて暗くなり最後の方は聖力を撒き散らすのかという勢いで爆発させて終わりにしている。貴族滅びろと思うときもなくはないが、我が家も貴族の出身だし、献金で私の生活も保たれているから…こうやって時々街を回りまくることで自分の罪悪感を散らしているのかもしれない。神様は『気持ちと行動力が伴っているのだから気にするな』とは仰ってくれるので少し

付き添いはいつも出世を狙う神官達だが、今日はラミエル大神官様とその彼を崇拝する僕達だった。僕達なんて呼んでいるが彼らに言われたのだ。「私たちは崇高なるラミエル大神官様の信者でございます。どうぞラミエル大神官様の僕と御呼び下さい」と。

「ラミエル大神官様と聖女様はどうぞ御一緒の馬車で」

わざわざ馬車を用意するあたりがこの僕達である。車が便利なのだが、行く場所は車が普及しているわけではない。目立ちたいわけではないのでちょうどよかった。

「さすが崇高なるラミエル大神官様の僕達ですね」
「…聖女様にもそう呼ばせているのですね」
「えぇ。出世だけに目が眩んだ方々よりよほど好感が持てます」
「ありがとうございます…」

本心だ。まぁ嘘をついたところで神様が全部見ているんだけれど。ラミエル大神官様が神様から神託をうけているのは見たことはないが。

『そうか?』

いきなり声をかけてきたのは神様だ。今日は教会を回るから午後はお話できませんよと伝えたはずなのに。

「神様!いきなりお声をかけていただくのは有り難いことではありますが、心臓に悪いです」
『お前の前にいる男はそうでもなさそうだぞ?』 

ラミエル大神官様は手を組んで目をキラキラさせている

「そうであっても」
『私も今一度この男に会いたかったのだ』
「恐悦至極にございます」
『そうかそうか。聖女よ、この男…まぁよい。まだ知られたくないのだろうから』

神様とラミエル大神官様は私にはわからない、きっと神託を与えてうけている。

『では聖女よ、我が民のために今日もがんばるがよい。神官よ、その高き志を忘れるな』

高き志ってやつは私にはないからそれはそれは素晴らしい志なのだろう。

馬車で揺られて、その間も話しかけてくださるが、まぁ気遣いの出来る方だなという印象だ。私が父に売られたも同然だと知っているので、生家の話はほぼないし、子爵様の話もなかった。その代わり私が子爵家の使用人とは良い関係を築いていたので、彼らの話がでるのは楽しかった。ハリスやジョセフは神殿でも愉快に過ごしているらしい。私がお祈りと言う名のお喋りをしている時のことを話してくださったり、神官様や聖騎士の話で盛り上がった。ラミエル大神官様が聖騎士を志していたというのは大変に驚いたし興味深い話ではあった。

「私幼い頃は騎士様のお嫁さんになるのが夢だったんです」

嘘偽りない真実だ。神様にも話したことがあるし、お爺様が聖騎士を紹介すると言われたときはちょっとだけ惹かれたがお断りした。私のタイプの男は神様には筒抜けである。お爺様にはちょっと嘘を付いているところもあるけれど。

「私などではなく外にいる聖騎士との方が楽しかったのかもしれませんね…」
「そ、そんなことはありません!ラミエル大神官様とのお話はとても楽しくて!」

あとその御尊顔ね。目の保養、ビジュがいいどころじゃないもはや造形美と言えようという整ったお顔。

「私はラミエル大神官様のこと「聖女様、大神官様、目的地に着きました」ありがとう」

御顔をお慕いしておりますと言いそびれてしまった。まぁ言わなくてよかったか。先に馬車を降りた彼がどんな顔をしているかはこのときは知らなかったけれど。

「聖女さまぁー!」

子ども達の声でさっきまでのことは忘れた。

思ったより重傷者多くて聖力放出!ってかんじで今日は疲れた。昨日のことがなければ駄々をこねていただろう。ぐったりして馬車へ乗り込めば行きは対面に座っていた大神官様がすぐ隣へ腰掛けてきた。

「聖女様、どうぞ私の肩でも膝でもお使いください。お疲れでしょう?」
「そうなんですよ、昨日ちょっと夜更かししてしまって」
「…そう、ですか。良い夜でしたか?」
「えぇ」

まだ馬車は動いていないけれど限界。肩じゃなくて膝枕してもらおう。たまにはイケメンに膝枕してもらったっていいでしょ神様




「聖女様!聖女様!」

すっごい大きい声で呼ばれて目が覚めた。目の前にはお爺様と呼ぶ教皇様。いつもと違う視界で驚いたらラミエル大神官様にお姫様抱っこされてた

「きゃっ、えっ?あっ!ご!ごめんなさいラミエル大神官様っ!」
「大人しくなさってください。誤って落としたりしてしまったら神に合わせる顔がありません」
「そうです!私の権限でラミエル大神官など教会から永久追放することもできます!」
「やめてください!あとラミエル大神官様どうか下ろしてくださいお願いします」

こう人間の温かみがダイレクトに伝わってくるからはずかしい。騒ぎまくってやっと降ろしてもらえた。

「お疲れになって眠っただけだとラミエル大神官は言いましたが本当ですか?彼に気を使っているのではなく?」
「本当です!ラミエル大神官様には大変申し訳なく思っております」
「いいえ、私達も聖女様に頼りっきりで…今日も聖力が尽きるまで奉仕を…」

堂々巡りになるからなのか神様が出てきて仲介してくれた。

『アリアナは早く寝なさい』

神様に親みたいなことを言われるのは私だけだと思う。
翌日とんでもないことが起きるなんて思いもしないでよく食べてぐっすり寝た。





    
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