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しおりを挟む初めての出会いはまだ6歳だった頃、我が家でのガーデンパーティーだった。
お姫様みたいになりたいという希望通りのふわふわのドレスにハーフアップの髪型、お母様とお揃いで作ってもらったティアラにペンダント。今日の主役は私だと周囲も自分も疑わなかった。
そろそろお開きかという頃にあの事件が起きた。
穏やかな場にそぐわない大きな水音。噴水の方だ。見てみれば正装をした同じ年頃の男の子が水浸しになっている
「やっべ!本物の水だった!」
大笑いしてる子よそにその子の親と思われる人達は慌てているが他の皆は温かい目で見守っている。
「本物の水じゃないと思ったのかい?」
そんな彼に声をかけたのは主催者の一人である私の父だ。自分が濡れることも厭わず噴水に入って尻餅をついたままの彼に手を差し伸べる。
「侯爵様は魔法使いの親玉だから水も魔法かと思ったんだ!、です。」
自分で侯爵と話していることに気付いたのか言葉遣いを直そうとしている様は本当におもしろい。
「魔法使いの親玉、ね。おもしろい表現だね。研究職だからそう思うのかな?ちなみに魔法使いじゃなくて魔術師だよ。そっちのほうが格好いいだろう?」
「格好いい!ですっ!」
「じゃあ君に1つ魔術をつかってあげよう」
男の子と一緒に噴水から出た父は彼と自分に魔術をかけて乾かしていた。「すげー!侯爵様すげー!!!」とぴょんぴょん跳ねながら喜ぶ彼がキラキラ輝いて見えた。彼がどこの家の子なのか知りたい、この時私は初恋をした。
そんな私の婚約が決まったのは8歳の時、公爵家の長男とだ。彼の父が王族公爵なので我が家は王家とは親戚になる。びっくりするような婚約パーティーが開かれた。婚約者となる彼は綺麗なブロンド、瞳は青く、整った顔立ちをされていた。いまいち実感が湧かないのは私はこのとき別の人に恋をしていたからだ。我が家によく来ては父と遊び回っている自称父の友達の彼に2年前から恋をしている。
「レティシア、レティシア」
立食パーティーなので壁際に避難していたらテラスからよく聞く声で呼ばれた
「なぁにヴァリアン」
「こっち来て」
1つ年下の彼は彼の両親が招待されているからこのパーティーにいたのだ。本人は父の友達だからだと言っているが。
「ヴァリアンはケーキ食べられた?」
「うん。端から端まで。あとで料理長のところにお土産用もちょうだいって頼むよ」
彼にはまだまだ小さい弟が2人いる。侯爵家へ遊びにいくとお土産にお菓子を持たせてもらえるので今日も遊びに来た感覚なのだろう。きっと幼児向けの土産を料理長たちは用意しているはずだ。
「レティはさ、うん…あのさ、」
「なによ?どうかしたの?」
「結婚って本当か?」
「当たり前じゃない。なんのためのこのパーティーなの?」
「でもあいつ公爵だって」
「彼のお父様が陛下の弟だからよ。うちの国の公爵は王族じゃない。家庭教師から習っていないの?」
常識の話だと思うのだが。この国の公爵はプリンス公爵しか存在しないのを忘れているのだろうか?大方座学は興味ないとか言われるんだろうけれど。
「俺もレティの夫になりたいのに」
唇の端にキスをされてヴァリアンは走って会場へ戻ってしまった。
なにが起きたというの?なに?ヴァリアンは私に何をして何を言ったの?
物語でしか知らないキスというものかしら?手の甲にされるものなら爵位の関係であるけれど、え??
赤くなった顔を元に戻すにはテラスという場所は最適だったかもしれない。室内であればこの赤みがひくのに時間がかかっただろう。
「お父様にお話してみようかしら」
男爵って別に長男が継がなくてもなんとかなるわよね?
そんな私達の様子を会場の中からジェレミ様が見ていたなんて思いもしなかった。
会場に戻った私をお母様が心配してくれる。テラスで外の空気を吸っていただけと答えたらほっとした様子だった。確かに王弟の息子と婚約なんてとてつもない行事だからなにか粗相があってはならないという気持ちもわかる。先程思い立ったことをお父様に相談しようにもこの場では駄目なことはかっている。先にお母様のお耳にだけでもと思うが高位貴族が周りにいるのでそれも出来ない。どうしようかしら。
「レティシア嬢」
「ジェレミ様」
私達の婚約パーティーなのにまだ距離がある。仕方ない、私がジェレミ様にお会いするのは今日が初めてだったのだから。
「あら可愛いカップルですこと。私は飲み物を取りにいきますわね。婚約されたのですから敬称はやめてみたらどう?レティシア貴女からでも」
「不敬にあたりますわ」
「旦那様になるのですからいいんですよ。そして私の義理の息子にも。ねぇジェレミ」
「えぇ奥様」
「いやだわ、お義母様と呼んでちょうだい」
笑顔を浮かべながらお母様はお父様達のところへ向かわれた。初対面なのに何を話せばいいの?なにか言いたそうな顔してるしなに?不本意ながらお前と婚約してやったが愛さないとかよくありそうなやつかしら?お母様の書庫にあったわ
「レティシア…と呼んでも構わないか?」
「え、えぇ。勿論ですわ。未来の旦那様ですもの」
素敵な方。陛下にもそれとなく似ているし背も高い。彼くらいの人なら王家の持ってる爵位をもらって子爵や男爵として新しく家を興してもいいくらいなのに。なぜうちに婿入りなんだろう?
「俺…あー、私…やっぱだめだ。ごめん。畏まった話し方してると何も伝わらなさそうだから崩させて」
「ふふっ平気ですわ。」
「ありがとう。こんなかわいい子と結婚できるんなら公爵家に生まれてよかったって思えるよ。俺と結婚してください」
目の前に差し出されたのは一輪の花。あら薔薇。綺麗にラッピングされて渡されたのは初めてたので嬉しい。この人となら幸せな家庭を築いていける。そう思えた。
「こちらこそ喜んで」
このときは平和だった。このときは。
また数年経って今度は14歳の年、そろそろ15歳になろうかという時。来年16歳になったら正式に結婚することになっているジェレミとの関係はとても良い。周囲からの評判もいいはず。ジェレミは学園が終わって魔術師団に所属しながらも我が家に住み、侯爵家の仕事を父達と一緒にこなしている。
「こーしゃくさーまーー!!!!!」
門はスルーできるヴァリアンが玄関の扉を叩いている。我が家の使用人達は皆笑いながら執事の到着を待つ
「これはこれはヴァリアン殿、本日は旦那様へご用ですかな?」
「あぁそうだ!これ、母上が持っていきなさいって」
彼がバスケットに入れてきていたのは彼の家で彼の母君が育てているハーブだった。
「相変わらず素晴らしいハーブですね。皆様お喜びになられますよ」
「そうか!母上に伝える!レティは?」
「お嬢様でしたらあちらに、ほら、おられましたよ」
「レティ!」
走って抱きついてきた彼は昔とは違う。背も私より高くなったし鍛えているのかすこしゴツゴツしたかんじもする。あとは今まで抱き締めていたのが、抱き締められるようになったのも違う点だ。
「今日は侯爵様にお願いがあってきたんだ。レティも来てくれる?」
「あら?なにかしら」
「まだ内緒」
腕を差し出されてびっくりした。今までは手を繋いでいたのにエスコートをしてくれるようになったのか。年下だからいつまでも弟のようなものだと思っていたけれどヴァリアンはヴァリアンで成長しているのだと感慨深い。
玄関で騒いでいたから父はヴァリアンが来ることはわかっていた。お茶にお菓子がすでに部屋に用意されて父と母はソファに腰掛けていた。
「侯爵様方、御無沙汰しております」
「ヴァリアン!久し振りね!きちんと挨拶もできるようになって素晴らしいわ!」
「久し振りか?3日前も来てるぞ?」
「あら?私には知らせてくれなかったじゃない、あなたばかりずるいわ」
「ヴァリアンは魔術師になるために来てくれているんだ。君に見つかったらヴァリアンとレティシアを陽が暮れるまで独占するだろう?」
「それはそうだけど…ほら二人とも座って」
母に促され向かいのソファに座ろうとしたヴァリアンがその場で膝をついた
「ちょっと、なにをしてるのヴァリアン!?」
「今日は侯爵様にお話があって参りました。夫人にも聞いていただきたいのです」
私はどうしろと?
「なんだ言ってみろ」
「この度学園の魔術学部に入学が決まりました。侯爵様、レティシアのことを愛しています。レティシアとの結婚を御許しください」
「まぁ!まぁ!ヴァリアン!あなた、聞いた?なんて幸せなことなの!ヴァリアンまで私の義理の息子になるの!?男爵家に使いを出さなくちゃ!」
母が嬉しすぎて父の腕をバシバシ叩いたあと、すごい勢いで部屋を出ていった。他のお父様達を大声で呼んでいるのが聞こえるからよっぽど嬉しいのだとおもう。
「いいとは言っていないんだが…」
「侯爵様!」
「はぁ…レティシアはいいだろうがジェレミに聞かなくてはな」
「いいですよ」
「本当に!?ジェレミ様ありがとう!レティ、僕たち一緒になれるよ!」
「その代わりといってはなんですが、あと2人夫を増やしていただきたい。目処はついています。結婚式は5人でできますね」
ヴァリアンが喜んでいるところ申し訳ないのだが夫が一気に4人?成人前にここまで人数が増えるとは思っていなかったし結婚式に新郎が4人?嫌だわ、絶対大衆紙に面白可笑しくかかれるわ
「考えさせてちょうだい」
「レティ!なんで!?」
「公爵家の嫡男と侯爵家の成人したばかりの娘の婚姻なんて記者が来ないわけがないわ。そこで夫が4人?嫌よ、世間の注目の的になってしまうじゃない」
「じゃあ別々にしたらいいじゃん!僕はレティと二人だけで愛を誓う」
「男爵家の皆様はどうするんだい?自分達の息子が侯爵家に入るのに盛大な式もなかったなんてそんなのは家族が悲しむよ?幼馴染みなんだろう?レティシア」
私に言われても困るわ。ジェレミが夫をもう2人用意していることだって知らなかった。結局愛のある結婚ではなく政治の道具としての結婚だったのかしら。そう思ったら鼻の奥がツンと痛んだ。泣いては駄目だ。侯爵令嬢が人前で涙を流すなど
「いいわ、すべての話をなかったことにしましょう。私はここで失礼致しますわ。ヴァリアンは転移で帰れるわよね?」
「待つんだレティシア、すべてとは」
「公爵家とのご結婚もすべてですわ。ごきげんようジェレミ様」
廊下で控えていた我が家の侍従を連れ、後ろが煩いから遮音の魔術をかけて自分の部屋へ戻る。これからは…そうね、他国に亡命でもしようかしら。その前にお父様達とお母様に話をしなければならないわ。
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