私と夫達は愛すべき夫を止めるのに必死なんです

そいみるくてぃー

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両親(父は何人もいるから両ではないのか?)は怒るでもなく喜ぶでもなく唖然としていた。まぁ立派な不敬だ。デュークを冠する家との婚姻をゴシップの的になりたくないからと一方的に破棄すると告げて娘が戻ってきたのだから。母は額に手を充てて「何を言っているの?待ってちょうだい」そればかりだ。

「私のことは勘当でもなさってくださいませ」
「婚約破棄を宣言したからと?」
「えぇ。あそこまで盛大に婚約パーティーをやったんですもの、娘の我が儘で婚約破棄なのだから勘当するに値すると思います」

何を言うんだ!や、レティシアが国外へいく必要なんてない!、公爵家ごと潰してやる!など父達の発言は外部へ漏れたら処罰されそうな内容ばかりになってくる。

「ジェレミ様のことは好きになれなかったの?」
「いいえ、私には勿体無いくらいいい方ですわ。でも私は政治の道具にされる結婚は嫌なの。お母様もそうでしょう?」
「そうね、でもこの家に生まれた以上貴族としてこなさなければならないこともあるのよ。お父様達のお給料は決して少なくはないけれどどこからでているかわかる?」
「…国民の税からですわ」
「そうね。国民に支えられて私達の生活は成り立っているの。お父様達が魔術師団に属して国を護っているのも、魔術研究をしているのも延いては国民のためよ。貴族としての役割をこなすことも国民のためではなくて?」

そう、わかっている。それがこの婚姻のこともわかっている。でもゴシップの的になって記者やパパラッチに追いかけ回されるなんて絶対に嫌。夫に順位をつけられたり食事やドレスを毎日のように大衆紙に載せられるなんてまっぴらごめんだわ。

「ジェレミ様とお話をしてからどうするか決めなさい。レティシアと話がしたいと御本人が何度も仰っている。二人でが嫌なら私達もついているから」
「本日は体調が優れないからとお断りしてください」
「それだけ話ができて体調が悪いと?」

窓から入ってきたのはジェレミ様だった。公爵家のお坊ちゃんが2階の窓から入ってくるのは想定外。

「ジェレミ様!?どうして!?」
「バルコニーがあるのだからそこを伝ってきた。義父上達や義母上には申し訳無い」
「いいのよジェレミ。ジェレミも家族ですもの。ほら、こちらに座って」

何者面談だろうか。ヴァリアンがいないだけましか。圧倒的に不利ではあるが

「他国に行きたいほど嫌いか?」
「いいえ」
「ならヴァリアンと駆け落ちでもするのか?」
「いいえ」

聞いていたんじゃないの?なんでそんな確認をされるの?
お茶の香りも味も感じない。あぁ早く終わって

「式をしたくない?」
「いいえ、式はしたいですが成人後すぐに夫4人と言うのが嫌なのです」
「俺のことが嫌いとかではなく?」
「えぇ。ジェレミ様のことは嫌いではありません」
「ならなぜ…ジェレミと呼んでくれない」
「…私から破棄を申しましたので」

早くこの話し合いは終わらないかしら。荷物を纏めたいのに。どの国に行こうかしら。隣国?近すぎるわね。海でも越える?船酔いは魔術でどうにかなるのかしら?長時間の馬車は疲れるし酔うし。

「もう一度聞く、俺のことは嫌いか?」
「いいえ」
「では結婚してくれ。レティシアのことを愛しているんだ」
「勿論ですわ!」

勿論と返事をしたのはまさかの母、そのまま立ち上がって父の一人を連れて退出されてしまった。公爵家へ行って打ち合わせの続きをするそうだ。アポなしでよいのだろうか?

「レティシアは?」

父達の前で答えろと?無理だわ。愛していると?なんのプレイよ

「この場では…」
「破棄が前提だからか?」
「違います!」
「では愛しているとこの場で。義父上達の前で言ってもらいたい」

ニヤニヤしている父達に苛立ちを覚える。自分の娘が政略結婚の相手に愛してると言うのの何が楽しいのだろうか。

「…お慕いしております」

父達の喜び様といったらない。言われたジェレミ様より嬉しそうなのだから。そのジェレミ様はあまり表情がかわらない。きっと切れない駒ができたくらいにしか思っていないのだろう。あぁ、私も政治の駒となるのね。侯爵家に生まれてしまったのだから、いつかはそうなると思っていたけれど。
『愛してる』とは便利な言葉だ。私は恐らく心のどこかで信じられなかったのだろう、だからお慕いしているとしか伝えられなかった。









とにかくその日から何かが動くわけでもなく、ヴァリアンがいなかったように扱われることもなかく、ジェレミ様の推薦する2人の夫と会わされることもなかった。侯爵家に公爵子息と男爵子息が婿入りすることだけが発表されているだけだ。嬉しそうなのはヴァリアン、にこにこしているだけのジェレミ様、何がなんだかわからない私。これであと式まで一ヶ月もないのだから

「ヴァリアン、学園生活は順調かい?」
「あぁ。ジェレミの言う通り子爵様はやっぱすげー。その養子がまたすごいんだよ。歳は1つ下なのに誰も敵わない。第3王子のお気に入りだぜ」
「先生に師事しておけばこれから先も困ることはないよ」

学園の話にはそもそもついていけない。女性は学園には通わないから講師の方のことなんてわからない。せめて家名で話してもらいたい。子爵家がいくつあると思っているんだ。

「レティシアのドレスはもう出来そうかい?」
「えぇ。ファヴォリに頼んでありますから安心してお任せしております。来週には納品されるようです」
「魔術入れ込みまくってオーラ出る案は?どうなった?」
「そんなドレスなわけないでしょう?ヴァリアンだけじゃないんだから。王族も参列されるのよ?そんなふざけたドレスでヴァージンロード歩けるわけないじゃない」

ヴァリアンの案は魔術を編み込んだ糸で全面的に刺繍をいれて何色も混ざった魔術のオーラを纏うというふざけた案だった。全員がその場では肯定も否定もせずヴァリアンが帰ったあと即却下された案。
ジェレミは公爵家や侯爵家、男爵家の家紋をアレンジして絹糸で刺繍をしたらどうかと素敵な案をくれたのでそちらを採用したのだ。ティアラはなんと王太后様からお貸し戴くことになっているし、ベールはお母様のお下がり、手袋はヴァリアンのお母様手ずから刺繍をしてくださっている。他のアクセサリーは最近話題の商会の物にする予定だ。自分と同じくらいの年の女性がデザインを手掛けてくれるのはなかなかに嬉しいものである。平民という身分が羨ましいとかではなく、手に職をつけ、その才能を発揮する場があるというのは素晴らしいことだと常々思う。これからも彼女、彼女の商会に世話になることも少なくはないだろう。

今日は屋敷の門まで見送ったが、ヴァリアンも結婚式が終われば我が家に引っ越してくる。父達や母が喜びそうだ。あとは調理場の者達だ。来るたびに作ったものを屈託のない笑顔で「美味しかった!世界一だな!」なんて毎回誉められていれば彼のことがかわいくて仕方なくなるのは言うまでもない。
馬車が見えなくなるとジェレミ様に声をかけられた

「レティシア、少し話がしたい」
「ええ、どちらで?」
「部屋に来てほしい」

彼がこの家に来てから短くはない時間が経っているが、彼の私室ははじめてだ。執事に言ったらバレるので自分の侍従に、料理長になにかいつもと違う茶菓子を用意してくれと頼んでもらうことにした。ドレスは、まぁなんでもいいか。

自分の家の一部だとはわかっていても、所々にこう、気品の良さが見え隠れする。なんだあの陶器の花瓶は。我が家の物ではない。

「こちらにどうぞ」

このテーブルセットもいつ持ってきたんだろう?我が家の家具ではない。ティーセットも。彼は彼で我が家での生活を満喫してくれているのだろう。

「あとで菓子が届きますわ」
「ありがとう」

婚約した当初はもっと砕けた話し方をしていたし、沢山のお話をしていた。時の流れとは残酷である。自分達の婚約は政治的なものであり、お互いが年を重ねるたびに他人行儀になっていった。今では何を話していいのかもわからない。愛してるとは言われるけれど、それも建前なことは数年前から知っている。

「母が気に入っている茶葉なんだけど、どうだい?」
「香りもよくとても美味しいですわ」
「レティシアも気に入ってくれたならよかったよ」

会話が続かなくなったところで調理場からお菓子が届いてひと安心だ。お菓子の話題で会話ができる。
しかしお菓子をメインにした話では途切れる。わかっていた。早く本題を切り出してくれないだろうか

「婚姻の話なんだけど」

今更破棄か?いいだろう。私は破棄されても構わない。ファヴォリのドレスが惜しいのであれば次に彼の妻になる方にお譲りしてもいい。あれだけの出来はなかなかないだろうから

「結婚式が終わってからでもいい、やはりもう2人夫を増やしてもらえないだろうか」

まさかそっちとは思わなかった。諦めたものだと思っていたけれどまだ拘っていたのか。

「二人でも十分だと思っていますが、ちなみになぜかお伺いしても?」
「君を守るためにはヴァリアンと二人だけでは足りないからだ」
「ジェレミ様の政治的な駒としてですか?」
「それは二の次だ。レティシア、あなたが思っている以上に立場というものは上なんだよ?侯爵令嬢は五家しかない侯爵家でも2人しかいない、一人は第三王子妃に内定しているから次期公爵夫人。もう一人はレティシアだ」

そんなことは知っている。幼い頃から嫌というほど聞かされてきているのだから。私は第二王子と同じ年頃ではあるが、彼は元より他国へ婿へ行くことが決まっていた。幸運なことに王家に入る必要はないから自分の家のこと、社交界のことを学ぶことができた。父達と母は少し変わり者だけれど、幸せに生きてこれた。第三王子妃が内定している彼女は私より年下だけれど、私よりもっと大変だったことだろう。同情はするが変わってあげたいとは全く思わない。

「社交界でうまく立ち回っているのは知っている、しかし妬みや嫉みというのは思いもよらぬところからくるものだ。それに加え俺は継承する家はないとは言え公爵子息、しかもデュークだ。爵位はなくとも王室との繋がりは絶対に消えない。ヴァリアンだって今はあんなだが、将来は有望だ。」

ヴァリアンのことを評価してくださっているとは意外だった。夫同士争われるより仲がいいほういいんだけれども。

「しかしヴァリアンは向こう見ずな人だからな。君が苦労するのも目に見える。俺一人では護りきれないと判断してもう二人夫を娶ってほしいというわけだ。」

短すぎる説明だけれどよくわかった。いや、わからなくてはいけないというか今まで見てみぬふりをしてきた問題を突きつけられただけだ。ヴァリアンはいい男ではあるが正直物事を深く考えるタイプではない。初対面からだ。恋に落ちると同時に、この人は大丈夫だろうかと思った。それをたかが数年の付き合いのジェレミ様はすべてわかった上で夫を増やせということだ。これは…折れるしかないのだろうが

「言っていることも理解しました。しかし一度、その夫候補の方のことをお聞かせ願えないでしょうか?家名を聞けばわかると思いますが」
「そうだろうな。さすが侯爵令嬢」

聞かされたのは思ったより上位貴族だった。侯爵子息と伯爵子息。侯爵家の方は例の第三王子の婚約者の兄。伯爵家のほうは次男。文官と騎士。バランスはとれていると思う。

「私がお受けしなくてもいくらでも縁談がありそうな方達ですが」
「いい男だからな。見た目も仕事の面でも。だからこそずっとレティシアの夫として迎えたかったんだ」

妬み嫉みといわれたが、まさにそうだ。ジェレミ様とヴァリアンだけでも結構なものだがその2人が加われば倍のようなものだ。嫌だ、すごく嫌だ。しかしそうともいっていられない。このような時にいつも思う、なぜこの身分にうまれてしまったのかと。大半の人に羨ましい悩みと言われ誰も聞いてはくれないが、身分というものを呪うようなときはないわけではないのだから。

「お返事は御本人達に?それともジェレミ様に?」
「まずは俺が聞こう。いい返事であれば顔を合わせなくてはならないな」
「父達の了承が得られているなら結構ですわ。お受けいたします。結婚式は別でやっていただけると有り難いですが。」
「あぁ。それはそのように計らうよ。向こうも侯爵家と伯爵家だからね。」

本当は嫌だけれどもう仕方ない。これから身を守っていくなら夫が2人では足りない。自分の親を見ていれば嫌でもわかる。



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