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225話 お土産(2)
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「クレハ様、申し訳ありませんでした。うちの父が……」
「ううん。リズは忠告してくれてたのに私が真面目に取り合わなかったせいだよ。ごめんなさい」
厨房に到着すると、私たち3人は出入り口の隙間からこっそりと中の様子を伺った。時間的にもそろそろ昼食の準備に取り掛かっていてもおかしくない。忙しいところに乱入するのは避けたかったので、入る前にしっかりと確認した。
厨房の中にはいくつかの人影があったけど、大柄なオーバンさんの姿はすぐに発見することが出来た。幸いなことに、彼はまだ調理を始めてはいなかったようだった。今すぐお願いすれば献立の希望を叶えて貰えるかもしれない。私たちはいそいそと厨房の中に足を踏み入れたのだ。
「あはは、リズのお父さん面白い人だったな。親子なだけあってリズに似ててさ」
「えっ……私、父に似てますか?」
「おう、そっくり」
「父のことは大好きですけど……似てるんだ、そっかぁ……」
今しがた厨房で行われたやり取りを思い出し、ルイスさんは楽しそうに笑っている。オーバンさんと似ていると言われて、やや複雑そうな顔をしているリズがおかしかった。ワイルドで逞しい見た目をしているオーバンさんとそっくりだという評価は、年頃の女の子であるリズからしたら受け入れ難いものなのだろう。でもルイスさんが言っているのは容姿のことじゃないと思う。
「リズの言った通りになったのはびっくりしたけど、お土産喜んで貰えて良かった」
「人によって程度の差はあるかもしれないですけど、喜ばないはずがないんですよ。ですよね? ルイスさん」
「うん。当たり前だけど俺も嬉しかったよ。レナードなんて額に入れて部屋の壁に飾ってんだぜ」
「えっ、壁にですか……しかも額に入れて?」
「それは素敵ですね!! 私もレナードさんの真似させて貰おうかな。我が家の家宝ですよ」
実は私もリズとオーバンさんが似た者親子だと感じる時がある。床に膝をついて泣き出してしまったオーバンさんの姿がリズと重なって見えたのだ。感情が高まって自分の世界に入ってしまうと、しばらく周りの声が聞こえなくなってしまう。そんなところがそっくりだった。そして、私のことを身内に負けないくらい気にかけてくれる優しいところも……
「それはそうと、料理のリクエストきいて貰えて良かったね。姫さん」
「はい。食材が都合よく有るかどうかも分からなかったので運が良かったです」
ここだけはリズの予想が外れてくれて助かった。お土産に感動して泣いてしまったオーバンさんだけど、決して使いものにならなくなるなんてことはなく、泣き止んで落ち着きを取り戻した後は、私のお願いにしっかりと耳を傾けて快く応じてくれたのだった。
最近のお父様の落ち込みようにはオーバンさんも憂いていたという。食欲もあまりなく、料理を残す日も多かったのだと……。お痩せになったのが一目で分かるくらいだったものね。思い出してまた胸が苦しくなった。
オーバンさんとも相談して、昼食のメニューを決めた。お父様は鶏肉料理がお好きなので、蒸し鶏と野菜のレモンソースがけを作って貰うことにした。弱っている体には脂っこくてこってりとした味付けの物よりも、さっぱりとした物が食べやすいだろう。更にこの料理は、以前同じ物を食べたお父様が美味しいと絶賛していたという実績もあるのだ。
「よし、料理はOK。次は花だったな」
「ジェフェリーさんは中庭でお仕事をしているはずです。行ってみましょう」
料理の次はお花だ。ひとつ目の目的を無事に達成することができた私たちは中庭へと向かった。
ジェフェリーさん……彼に向けられていた疑いが晴れて本当に良かった。しかし、ニュアージュの魔法使いと接触していたというのは事実なので、当分の間は軍の監視がつくのだそうだ。これまでと同じように生活はできるし、行動を制限されたりすることはないけれど、精神的な負担になるのは避けられない。
ジェフェリーさんが魔法使いと関わりを持つに至った経緯はセドリックさんの報告書に加え、リズからの口頭説明で大体把握している。事件とは無関係だと判断されたからいいようなものの……親切心から困っている人に手を差し伸べただけで、このようなことになってしまい気の毒でならない。
レオンはジェフェリーさんとどんな話をするつもりなのか。きっとニュアージュの魔法使い『エルドレッド』について更に詳しく聞き出そうとするはずだ。名乗った名前や年齢は正しいかどうか当てにはならないけれど、容姿はそう簡単に変えられるものではない。体格や人相はどうだったのか。エルドレッドと『グレッグ』の間には何かしらの繋がりがあるのかどうか……
「クレハ様ー、中庭に行きますよ。大丈夫ですか?」
「う、うん。平気」
いけない。また考えごとに集中していた。リズに声をかけられ慌てて足を動かす。
私もレオンと一緒に話を聞かせて貰いたいな。エルドレッド少年が事件とは関係無かったとしても、グレッグと同様ニュアージュに数十人しか存在しない魔法使いなのだ。
エルドレッドと彼に与していると見られる『カレン』と『ノア』……。この3人について詳しく調べていくことで、グレッグの正体を明らかにするヒントが得られるかもしれない。
「ううん。リズは忠告してくれてたのに私が真面目に取り合わなかったせいだよ。ごめんなさい」
厨房に到着すると、私たち3人は出入り口の隙間からこっそりと中の様子を伺った。時間的にもそろそろ昼食の準備に取り掛かっていてもおかしくない。忙しいところに乱入するのは避けたかったので、入る前にしっかりと確認した。
厨房の中にはいくつかの人影があったけど、大柄なオーバンさんの姿はすぐに発見することが出来た。幸いなことに、彼はまだ調理を始めてはいなかったようだった。今すぐお願いすれば献立の希望を叶えて貰えるかもしれない。私たちはいそいそと厨房の中に足を踏み入れたのだ。
「あはは、リズのお父さん面白い人だったな。親子なだけあってリズに似ててさ」
「えっ……私、父に似てますか?」
「おう、そっくり」
「父のことは大好きですけど……似てるんだ、そっかぁ……」
今しがた厨房で行われたやり取りを思い出し、ルイスさんは楽しそうに笑っている。オーバンさんと似ていると言われて、やや複雑そうな顔をしているリズがおかしかった。ワイルドで逞しい見た目をしているオーバンさんとそっくりだという評価は、年頃の女の子であるリズからしたら受け入れ難いものなのだろう。でもルイスさんが言っているのは容姿のことじゃないと思う。
「リズの言った通りになったのはびっくりしたけど、お土産喜んで貰えて良かった」
「人によって程度の差はあるかもしれないですけど、喜ばないはずがないんですよ。ですよね? ルイスさん」
「うん。当たり前だけど俺も嬉しかったよ。レナードなんて額に入れて部屋の壁に飾ってんだぜ」
「えっ、壁にですか……しかも額に入れて?」
「それは素敵ですね!! 私もレナードさんの真似させて貰おうかな。我が家の家宝ですよ」
実は私もリズとオーバンさんが似た者親子だと感じる時がある。床に膝をついて泣き出してしまったオーバンさんの姿がリズと重なって見えたのだ。感情が高まって自分の世界に入ってしまうと、しばらく周りの声が聞こえなくなってしまう。そんなところがそっくりだった。そして、私のことを身内に負けないくらい気にかけてくれる優しいところも……
「それはそうと、料理のリクエストきいて貰えて良かったね。姫さん」
「はい。食材が都合よく有るかどうかも分からなかったので運が良かったです」
ここだけはリズの予想が外れてくれて助かった。お土産に感動して泣いてしまったオーバンさんだけど、決して使いものにならなくなるなんてことはなく、泣き止んで落ち着きを取り戻した後は、私のお願いにしっかりと耳を傾けて快く応じてくれたのだった。
最近のお父様の落ち込みようにはオーバンさんも憂いていたという。食欲もあまりなく、料理を残す日も多かったのだと……。お痩せになったのが一目で分かるくらいだったものね。思い出してまた胸が苦しくなった。
オーバンさんとも相談して、昼食のメニューを決めた。お父様は鶏肉料理がお好きなので、蒸し鶏と野菜のレモンソースがけを作って貰うことにした。弱っている体には脂っこくてこってりとした味付けの物よりも、さっぱりとした物が食べやすいだろう。更にこの料理は、以前同じ物を食べたお父様が美味しいと絶賛していたという実績もあるのだ。
「よし、料理はOK。次は花だったな」
「ジェフェリーさんは中庭でお仕事をしているはずです。行ってみましょう」
料理の次はお花だ。ひとつ目の目的を無事に達成することができた私たちは中庭へと向かった。
ジェフェリーさん……彼に向けられていた疑いが晴れて本当に良かった。しかし、ニュアージュの魔法使いと接触していたというのは事実なので、当分の間は軍の監視がつくのだそうだ。これまでと同じように生活はできるし、行動を制限されたりすることはないけれど、精神的な負担になるのは避けられない。
ジェフェリーさんが魔法使いと関わりを持つに至った経緯はセドリックさんの報告書に加え、リズからの口頭説明で大体把握している。事件とは無関係だと判断されたからいいようなものの……親切心から困っている人に手を差し伸べただけで、このようなことになってしまい気の毒でならない。
レオンはジェフェリーさんとどんな話をするつもりなのか。きっとニュアージュの魔法使い『エルドレッド』について更に詳しく聞き出そうとするはずだ。名乗った名前や年齢は正しいかどうか当てにはならないけれど、容姿はそう簡単に変えられるものではない。体格や人相はどうだったのか。エルドレッドと『グレッグ』の間には何かしらの繋がりがあるのかどうか……
「クレハ様ー、中庭に行きますよ。大丈夫ですか?」
「う、うん。平気」
いけない。また考えごとに集中していた。リズに声をかけられ慌てて足を動かす。
私もレオンと一緒に話を聞かせて貰いたいな。エルドレッド少年が事件とは関係無かったとしても、グレッグと同様ニュアージュに数十人しか存在しない魔法使いなのだ。
エルドレッドと彼に与していると見られる『カレン』と『ノア』……。この3人について詳しく調べていくことで、グレッグの正体を明らかにするヒントが得られるかもしれない。
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