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そんなことがあって、ラエとコホラは身体を繋げなくなった。魔法戦だけはしていたがそれが終わるとラエはそれ以上何もせず帰るようになった。
そのうちラエは二十歳になり、コホラは二十一歳になった。
その日、ラエは塔長に呼ばれていた。藤の椅子に座った塔長が言う。
「ラエ、君には今年の『空降ろしの儀』の主役をしてもらいます。『空』から魔力を回収する大役です。必要な魔力はこちらで配給しますので心して挑みなさい」
「はい」
ラエは大役をもらって嬉しいと思えなかった。どうしてもコホラが頭にちらつくのだ。もし、コホラが普通の火山のふもとの塔の人間だったらこの役目はコホラが受けていたかもしれない。
コホラに公式魔法戦に出る機会があったら、ラエは連続で優勝などしていなかったかもしれない。
今年の公式魔法戦で、ラエは連続優勝記録を伸ばした。接戦となって会場は盛り上がったらしい。ラエにとって試合内容はガタガタだったと記憶している。
主に精神面で、ラエは不調だった。
コホラがそれに嬉しそうな顔をする。コホラがそれを喜んでいる。ラエが地獄にいるのを喜んで見つめている。嵐のような不調の中でコホラの目だけが穏やかに笑っている。
コホラと魔法戦を、飽きずにしている。もう互いに繋ぎ止めるものがそれしかないから。それでしか心を燃やすことが出来ないから。
「幸せだ……」
苦しそうにラエが言う。コホラにはその気持ちが分かるだろうか。こんなにも心にはコホラしかいない。コホラ以外は形を成していない。それが幸せだと思う。こんなに苦しいのに辛いのに幸せだと思う。
「地獄みたいな幸せだな」
コホラは言う。彼は分かっている。きっと彼はずっとそのように生きてきたから。ラエと飽きることなく魔法戦がしたくて、もうそれしかなくなるくらいの心でコホラはここまできたのだから。
公式魔法戦が終わった一週間後、『空降ろしの儀』がある。『空降ろしの儀』の当日午前まで、ラエはコホラと魔法戦をし続けた。食事と睡眠以外を魔法戦に費やしていた。
「ラエ、『空降ろしの儀』の主役おめでとう。身体洗っていけよ。多分いま、俺らすごく臭う……」
「ん……」
さすがに魔法戦のやりすぎでおかしくなっている気がする。身体とか、頭とか。
交代で風呂に入る。コホラが風呂に入っている間に彼が風呂の前で脱いだ靴の底にラエは古い魔力液の小瓶を見つけた。ラエはつまんで中身を透かす。濃縮型の魔力液、三分の一ほど残っている。コホラが風呂の扉を勢いよく開けた。
「……!」
「それ、凍土の丘の塔からこっちに来る時に持ってた残り。俺の全財産。返して」
「ああ」
ラエはコホラに小瓶を渡した。
互いに風呂から上がって、部屋を出て会議室へ向かう。
「コホラが魔力を持てないかもう一度聞いてみる」
「俺は自分の魔力なんていらないのに?」
「俺が嫌だから」
「今のままで幸せなのに?」
「夢は覚める」
「そう?」
コホラはラエについてくる。二人で午後の茹だるような暑さの中、塔長の部屋へと赴く。塔長の部屋に入ると塔長が藤の椅子から立ち上がり二人を見た。
「ラエ……、コホラに魔力を与えることはありませんよ」
塔長が言う。ラエが何か言う前に塔長は先を読んだようだった。どこかうんざりした様子でラエを見やる塔長。
「それよりラエはそろそろ準備をしなければなりません」
塔長はラエに言う。
そこに、急ぎの様子で一人の魔法使いが入ってきた。
「塔長!大変です!!」
「どうしました」
塔長が言葉を返した。『空降ろしの儀』の直前である。時期が時期なだけに繊細な対応が求められる。
「突然、凍土の丘の塔から宣戦布告の文面が!!」
その言葉に塔長が目を見開く。その書簡を受け取り魔法使いの扱う古代語で書かれた文面を塔長は読んだ。塔長は空を仰ぐように上を見て、それから言う。
「コホラ、私の予期していたことが起きてしまいました」
「俺を匿っていることを理由に突然宣戦布告してきたのですね。おそらく『空降ろしの儀』で取れる魔力が目的でしょう。どこも魔力不足なんですね」
コホラがそう言って部屋から出ようとする。ラエが言った。
「どこに行くんだ?!」
「向こうの力を少しでも削ぐことが出来たらいい。全財産の使い道が見つかった」
「コホラ!!」
止めようとしたラエが、しかしそれ以上言葉を紡ぐことが出来なかった。言葉にすれば最後、それはコホラの枷となる。
コホラが部屋を出ていった。
「ラエ、君には役目があります。コホラが火山のふもとの塔のために凍土の丘の塔の者達を迎え撃つのなら、君は彼に報いるために役目を全うしなさい」
塔長が言った。それから伝達してきた魔法使いに言う。
「これから会議を開きます」
そのうちラエは二十歳になり、コホラは二十一歳になった。
その日、ラエは塔長に呼ばれていた。藤の椅子に座った塔長が言う。
「ラエ、君には今年の『空降ろしの儀』の主役をしてもらいます。『空』から魔力を回収する大役です。必要な魔力はこちらで配給しますので心して挑みなさい」
「はい」
ラエは大役をもらって嬉しいと思えなかった。どうしてもコホラが頭にちらつくのだ。もし、コホラが普通の火山のふもとの塔の人間だったらこの役目はコホラが受けていたかもしれない。
コホラに公式魔法戦に出る機会があったら、ラエは連続で優勝などしていなかったかもしれない。
今年の公式魔法戦で、ラエは連続優勝記録を伸ばした。接戦となって会場は盛り上がったらしい。ラエにとって試合内容はガタガタだったと記憶している。
主に精神面で、ラエは不調だった。
コホラがそれに嬉しそうな顔をする。コホラがそれを喜んでいる。ラエが地獄にいるのを喜んで見つめている。嵐のような不調の中でコホラの目だけが穏やかに笑っている。
コホラと魔法戦を、飽きずにしている。もう互いに繋ぎ止めるものがそれしかないから。それでしか心を燃やすことが出来ないから。
「幸せだ……」
苦しそうにラエが言う。コホラにはその気持ちが分かるだろうか。こんなにも心にはコホラしかいない。コホラ以外は形を成していない。それが幸せだと思う。こんなに苦しいのに辛いのに幸せだと思う。
「地獄みたいな幸せだな」
コホラは言う。彼は分かっている。きっと彼はずっとそのように生きてきたから。ラエと飽きることなく魔法戦がしたくて、もうそれしかなくなるくらいの心でコホラはここまできたのだから。
公式魔法戦が終わった一週間後、『空降ろしの儀』がある。『空降ろしの儀』の当日午前まで、ラエはコホラと魔法戦をし続けた。食事と睡眠以外を魔法戦に費やしていた。
「ラエ、『空降ろしの儀』の主役おめでとう。身体洗っていけよ。多分いま、俺らすごく臭う……」
「ん……」
さすがに魔法戦のやりすぎでおかしくなっている気がする。身体とか、頭とか。
交代で風呂に入る。コホラが風呂に入っている間に彼が風呂の前で脱いだ靴の底にラエは古い魔力液の小瓶を見つけた。ラエはつまんで中身を透かす。濃縮型の魔力液、三分の一ほど残っている。コホラが風呂の扉を勢いよく開けた。
「……!」
「それ、凍土の丘の塔からこっちに来る時に持ってた残り。俺の全財産。返して」
「ああ」
ラエはコホラに小瓶を渡した。
互いに風呂から上がって、部屋を出て会議室へ向かう。
「コホラが魔力を持てないかもう一度聞いてみる」
「俺は自分の魔力なんていらないのに?」
「俺が嫌だから」
「今のままで幸せなのに?」
「夢は覚める」
「そう?」
コホラはラエについてくる。二人で午後の茹だるような暑さの中、塔長の部屋へと赴く。塔長の部屋に入ると塔長が藤の椅子から立ち上がり二人を見た。
「ラエ……、コホラに魔力を与えることはありませんよ」
塔長が言う。ラエが何か言う前に塔長は先を読んだようだった。どこかうんざりした様子でラエを見やる塔長。
「それよりラエはそろそろ準備をしなければなりません」
塔長はラエに言う。
そこに、急ぎの様子で一人の魔法使いが入ってきた。
「塔長!大変です!!」
「どうしました」
塔長が言葉を返した。『空降ろしの儀』の直前である。時期が時期なだけに繊細な対応が求められる。
「突然、凍土の丘の塔から宣戦布告の文面が!!」
その言葉に塔長が目を見開く。その書簡を受け取り魔法使いの扱う古代語で書かれた文面を塔長は読んだ。塔長は空を仰ぐように上を見て、それから言う。
「コホラ、私の予期していたことが起きてしまいました」
「俺を匿っていることを理由に突然宣戦布告してきたのですね。おそらく『空降ろしの儀』で取れる魔力が目的でしょう。どこも魔力不足なんですね」
コホラがそう言って部屋から出ようとする。ラエが言った。
「どこに行くんだ?!」
「向こうの力を少しでも削ぐことが出来たらいい。全財産の使い道が見つかった」
「コホラ!!」
止めようとしたラエが、しかしそれ以上言葉を紡ぐことが出来なかった。言葉にすれば最後、それはコホラの枷となる。
コホラが部屋を出ていった。
「ラエ、君には役目があります。コホラが火山のふもとの塔のために凍土の丘の塔の者達を迎え撃つのなら、君は彼に報いるために役目を全うしなさい」
塔長が言った。それから伝達してきた魔法使いに言う。
「これから会議を開きます」
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