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それで、毒を取り扱う貴族を探していたのですね
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「それに、私に声を掛けないまじめな人は、恐らくイグナット様の死に関係ないと思うの。悪事に荷担する人は、自らあらゆる情報を得ようと人と繋がりを得ているわ。だって情報がなければ人の悪口も言えないもの。社交界の貴婦人たちも、小耳に挟んだ噂を大きく膨らませてどんどん悪口を広めているそうよ」
それは全員が聞いている事実なので、反論する者はいない。
「悪目立ちをして自ら餌になる。そして近付いてきた人たちに慎重に話を聞くわ。絶対にイグナット様が自ら毒を飲まなければいけなくなった理由を、突き止めてみせる」
言い放ったクローディアは、エメラルドグリーンの瞳に強い意思を宿していた。
「奥様一人でどうするんだ! 何かがあった時、対処できるのか? 危険すぎる!」
ミケーラからの付き合いの騎士が、心配して声を上げた。
「大丈夫よ。ラギを私の従者として側に置いておく。私自身、バフェット領に来てからも鍛錬を欠かさなかったわ。その辺の男性に負けるつもりはないの」
「しかし……」
「お願い。協力して。イグナット様が自ら毒を飲んだという事実を、そのままにしておきたくないの。なぜ彼がその選択をしたのか、私は知りたい。それが彼の妻としての、最後の役目だと思うの。すべて解決したあとは、必ずここに戻って立派な女城主となってみせるわ」
告げたあと、クローディアは深々と頭を下げた。
しばらく使用人たちは戸惑った顔でクローディアを見ていたが、やがて女中の一人が明るい声で言った。
「それじゃあ、奥様のお体を採寸して、社交シーズンまでに立派なドレスを作らないといけませんね。それも真っ黒な!」
「そうね!」
男たちよりも女たちの方がたくましかったらしく、針子たちを中心にどんなドレスがいいかという話を早速始めた。
男たちは最初はポカンとして彼女たちの様子を見ていたが、そのうち「しょうがないな」と笑い始める。
「奥様、タウンハウスへはラギ以外にも護衛を連れていくんだろう? とっておきの精鋭を選んでくれ」
「もちろんよ! 私が留守の間、城の事はソルに任せます。皆、今まで通り彼女のいう事を聞いて、城を守ってね。主が不在でも、毎日訓練しているバフェット辺境伯団は、精鋭揃いだと信じています」
「任せてくれ!」
二十年前の戦があってから、この土地が戦火に巻き込まれた事はない。
それでも国境沿いにある土地は、常に他国の侵入に警戒していなければいけない。
クローディアから信じていると言われ、騎士たちも声を上げた。
**
そして現在、クローディアは自分に話し掛けてきたルシオを隣に、王宮の庭園にいる。
長い昔話をしたからか、舞踏会が始まる前に一杯だけ飲んだ酒気は、もう抜けていた。
「……なるほど、バフェット辺境伯の敵討ちですか」
ルシオは呟き、細く長い息を吐いてから改めてクローディアを見てくる。
「やはりあなたには、深い事情があった。その上でこのようにかなりの悪目立ちをしても構わず、目的を果たそうという意志の強さがある。……実に面白いですね」
「でしょう?」
紅を差した唇でにっこり笑うと、ルシオは「参ったな」と本格的に笑い出す。
「……あなたは強いですね。バフェット辺境伯と男女の仲ではなくとも、強い家族としての絆があった。それを喪ってなお、このような出で立ちで見えない敵に立ち向かおうとする、精神的強さがある」
「多少の事ではへこたれない精神なら、幼い頃にミケーラの騎士たちに叩き込まれました」
「ぶふ……っ」
自慢げに笑ったクローディアを見て、ルシオはケラケラと笑う。
「……いや、失礼。妖艶でミステリアスな婦人かと思いきや、その奥にはさっぱりとした少女の顔がある。実に面白い。別の意味でいま私はあなたに夢中ですよ」
「それは光栄です」
化粧を施した顔で、クローディアは無垢な笑みを浮かべる。
ルシオはそんな彼女の外見と内面のアンバランスさに惹かれつつも、話を本題に戻した。
「それで、毒を取り扱う貴族を探していたのですね」
「ええ」
クローディアも真剣な話に戻ったからか、まじめな顔になる。
「残念ですが……と言うと語弊がありますが、私はバフェット辺境伯とは何も関係ありません。それは信じて頂きたいと思います」
「分かりました。信じます。小瓶収集家の側面から、似た趣味をお持ちの方をご存知ありませんか?」
「そうですね……。私の場合、物によっては毒の瓶になってしまいますので、あまり他言していない趣味なのです。それでも人に見せても大丈夫な物……香水などは、キャビネットに入れて客に見せています。『綺麗な小瓶が好き』という話から、噂が広がったと思うのですが……」
そう言い、ルシオはさらに考える。
それは全員が聞いている事実なので、反論する者はいない。
「悪目立ちをして自ら餌になる。そして近付いてきた人たちに慎重に話を聞くわ。絶対にイグナット様が自ら毒を飲まなければいけなくなった理由を、突き止めてみせる」
言い放ったクローディアは、エメラルドグリーンの瞳に強い意思を宿していた。
「奥様一人でどうするんだ! 何かがあった時、対処できるのか? 危険すぎる!」
ミケーラからの付き合いの騎士が、心配して声を上げた。
「大丈夫よ。ラギを私の従者として側に置いておく。私自身、バフェット領に来てからも鍛錬を欠かさなかったわ。その辺の男性に負けるつもりはないの」
「しかし……」
「お願い。協力して。イグナット様が自ら毒を飲んだという事実を、そのままにしておきたくないの。なぜ彼がその選択をしたのか、私は知りたい。それが彼の妻としての、最後の役目だと思うの。すべて解決したあとは、必ずここに戻って立派な女城主となってみせるわ」
告げたあと、クローディアは深々と頭を下げた。
しばらく使用人たちは戸惑った顔でクローディアを見ていたが、やがて女中の一人が明るい声で言った。
「それじゃあ、奥様のお体を採寸して、社交シーズンまでに立派なドレスを作らないといけませんね。それも真っ黒な!」
「そうね!」
男たちよりも女たちの方がたくましかったらしく、針子たちを中心にどんなドレスがいいかという話を早速始めた。
男たちは最初はポカンとして彼女たちの様子を見ていたが、そのうち「しょうがないな」と笑い始める。
「奥様、タウンハウスへはラギ以外にも護衛を連れていくんだろう? とっておきの精鋭を選んでくれ」
「もちろんよ! 私が留守の間、城の事はソルに任せます。皆、今まで通り彼女のいう事を聞いて、城を守ってね。主が不在でも、毎日訓練しているバフェット辺境伯団は、精鋭揃いだと信じています」
「任せてくれ!」
二十年前の戦があってから、この土地が戦火に巻き込まれた事はない。
それでも国境沿いにある土地は、常に他国の侵入に警戒していなければいけない。
クローディアから信じていると言われ、騎士たちも声を上げた。
**
そして現在、クローディアは自分に話し掛けてきたルシオを隣に、王宮の庭園にいる。
長い昔話をしたからか、舞踏会が始まる前に一杯だけ飲んだ酒気は、もう抜けていた。
「……なるほど、バフェット辺境伯の敵討ちですか」
ルシオは呟き、細く長い息を吐いてから改めてクローディアを見てくる。
「やはりあなたには、深い事情があった。その上でこのようにかなりの悪目立ちをしても構わず、目的を果たそうという意志の強さがある。……実に面白いですね」
「でしょう?」
紅を差した唇でにっこり笑うと、ルシオは「参ったな」と本格的に笑い出す。
「……あなたは強いですね。バフェット辺境伯と男女の仲ではなくとも、強い家族としての絆があった。それを喪ってなお、このような出で立ちで見えない敵に立ち向かおうとする、精神的強さがある」
「多少の事ではへこたれない精神なら、幼い頃にミケーラの騎士たちに叩き込まれました」
「ぶふ……っ」
自慢げに笑ったクローディアを見て、ルシオはケラケラと笑う。
「……いや、失礼。妖艶でミステリアスな婦人かと思いきや、その奥にはさっぱりとした少女の顔がある。実に面白い。別の意味でいま私はあなたに夢中ですよ」
「それは光栄です」
化粧を施した顔で、クローディアは無垢な笑みを浮かべる。
ルシオはそんな彼女の外見と内面のアンバランスさに惹かれつつも、話を本題に戻した。
「それで、毒を取り扱う貴族を探していたのですね」
「ええ」
クローディアも真剣な話に戻ったからか、まじめな顔になる。
「残念ですが……と言うと語弊がありますが、私はバフェット辺境伯とは何も関係ありません。それは信じて頂きたいと思います」
「分かりました。信じます。小瓶収集家の側面から、似た趣味をお持ちの方をご存知ありませんか?」
「そうですね……。私の場合、物によっては毒の瓶になってしまいますので、あまり他言していない趣味なのです。それでも人に見せても大丈夫な物……香水などは、キャビネットに入れて客に見せています。『綺麗な小瓶が好き』という話から、噂が広がったと思うのですが……」
そう言い、ルシオはさらに考える。
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