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私、ふしだらな女になるわ!
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「気にしないでください。子についてはもう吹っ切れているのです。三十歳になる前、まだお元気だった旦那様がアペッソを訪れられ、食堂にいた私に話し掛けてくださいました。身の上話などをしている間に、バフェット領に来ないかとお誘いを受け、第二の人生を決めました」
「教えてくれてありがとう」
ソルはさらに続ける。
「旦那様とは、それから十五年のお付き合いです。初めは慣れない事も多かったですが、周囲に優しくしてもらえて馴染んでいきました。旦那様と衝突する事もありませんでしたし、他の使用人とも関係は良好だったと思います」
「……そうね。私がここに来てからも、同じ印象だわ」
結婚すると姑からいびられるという話を周囲から聞いていたので、バフェットに来てからの自分の環境がとても恵まれていると自覚していた。
もしかしたら裏があるのでは? と思っていたが、今の話を聞く限りこの城にはドロドロとした人間関係はないのだろうと思っている。
「……この城の者たちと、イグナット様は何ら問題のない関係だった。……ならやはり、外部の者の影響が強いわね」
クローディアは腕を組み、低く呟く。
「……王都にいる貴族たちなら、何か事情を知っているかしら?」
「……かもしれません。確証はありませんが、このバフェットの地にいる者たちより、情報が多く流れているでしょう。意外と、事件があったその土地よりも、外部のほうが事情を知っているという事はありますし」
ソルの言葉を聞き、クローディアは決意した。
「……ねぇ、ソル。私、やりたい事があるの。相談に乗ってもらってもいい?」
まっすぐ彼女を見つめると、ソルはまだ憔悴しきった表情だったが、強い意思を持ったクローディアを眩しそうに見て微笑した。
「私でお役に立てるのなら」
「あなただからお願いするのよ!」
十五年仕えた主を喪ったソルに、クローディアはあえて明るく笑いかけた。
その後、イグナットの葬儀は粛々と行われた。
彼が亡くなったという知らせは、新しく女城主となったクローディアが国王に向けて手紙をしたためた。
冬場なので葬儀はバフェットの者たちで執り行われる。
そして喪服を着たクローディアは、城の者を集めて話をした。
「イグナット様は毒を飲まれていました」
「毒だって!?」
大広間に集まった騎士の一人が声を上げる。
ソルはクローディアが座している城主の席の近くに立っているが、もう取り乱していなかった。
「詳しくは伏せますが、ソルはこの秘密を知りながら、長い間イグナット様の命令により沈黙を守り続けていました。彼女もまた、犠牲者です」
天井の高い大広間の壁際には、バフェットの家紋が描かれたタペストリーが、ハーティリアの国章が刻まれた物と交互に下がっている。
大広間には六か所に暖炉があり、さらに壁に設置されたランプや天井から下がったシャンデリアで明るさもある。
幅広の階段がある壇上で、クローディアは城の者一人一人の顔を確認するように見回す。
「これから奥様はどうされるのですか?」
メイドの声に、クローディアは微笑んだ。
「年を越して社交シーズンになったら、タウンハウスに移って舞踏会に出ます。そこで毒を扱う貴族がいないか情報収集しようと思っています」
「お一人で探るのですか?」
心配する声が聞こえ、クローディアは悪戯っぽく笑ってみせた。
「これでも、ソルと一緒に色々考えたの。いまや女城主となっても、私は傍から見ればただの小娘だわ。色んな人に話を聞こうとしても、舐められて終わるかもしれない。男性には〝未亡人〟として色目で見られ、女性には哀れなものとして扱われるか、夫を亡くして早々舞踏会に来ている不届き者と思われるでしょうね」
考えられる不安要素を述べると、皆口々に「確かに……」と頷く。
「だから、思いきり開き直る事にしたの」
わざと明るい声を上げ、クローディアはパン、と胸の前で両手を合わせた。
「私、ふしだらな女になるわ!」
大きな声で堂々とそんな事を言ったので、ソルとラギ以外の全員がギョッとした顔をする。
「考えてもみて? 未亡人になったばかりの若い私が、胸元も露わな豪華な喪服ドレスを着て、毎晩舞踏会を渡り歩くの。絶対に話題になるわ。それも悪い方のね。けれど、そうれでもしなければ効率よく注目を集める事はできない」
クローディアの説明を聞き、城の者たちは心配そうな顔をしつつも一理あるという顔をしている。
「教えてくれてありがとう」
ソルはさらに続ける。
「旦那様とは、それから十五年のお付き合いです。初めは慣れない事も多かったですが、周囲に優しくしてもらえて馴染んでいきました。旦那様と衝突する事もありませんでしたし、他の使用人とも関係は良好だったと思います」
「……そうね。私がここに来てからも、同じ印象だわ」
結婚すると姑からいびられるという話を周囲から聞いていたので、バフェットに来てからの自分の環境がとても恵まれていると自覚していた。
もしかしたら裏があるのでは? と思っていたが、今の話を聞く限りこの城にはドロドロとした人間関係はないのだろうと思っている。
「……この城の者たちと、イグナット様は何ら問題のない関係だった。……ならやはり、外部の者の影響が強いわね」
クローディアは腕を組み、低く呟く。
「……王都にいる貴族たちなら、何か事情を知っているかしら?」
「……かもしれません。確証はありませんが、このバフェットの地にいる者たちより、情報が多く流れているでしょう。意外と、事件があったその土地よりも、外部のほうが事情を知っているという事はありますし」
ソルの言葉を聞き、クローディアは決意した。
「……ねぇ、ソル。私、やりたい事があるの。相談に乗ってもらってもいい?」
まっすぐ彼女を見つめると、ソルはまだ憔悴しきった表情だったが、強い意思を持ったクローディアを眩しそうに見て微笑した。
「私でお役に立てるのなら」
「あなただからお願いするのよ!」
十五年仕えた主を喪ったソルに、クローディアはあえて明るく笑いかけた。
その後、イグナットの葬儀は粛々と行われた。
彼が亡くなったという知らせは、新しく女城主となったクローディアが国王に向けて手紙をしたためた。
冬場なので葬儀はバフェットの者たちで執り行われる。
そして喪服を着たクローディアは、城の者を集めて話をした。
「イグナット様は毒を飲まれていました」
「毒だって!?」
大広間に集まった騎士の一人が声を上げる。
ソルはクローディアが座している城主の席の近くに立っているが、もう取り乱していなかった。
「詳しくは伏せますが、ソルはこの秘密を知りながら、長い間イグナット様の命令により沈黙を守り続けていました。彼女もまた、犠牲者です」
天井の高い大広間の壁際には、バフェットの家紋が描かれたタペストリーが、ハーティリアの国章が刻まれた物と交互に下がっている。
大広間には六か所に暖炉があり、さらに壁に設置されたランプや天井から下がったシャンデリアで明るさもある。
幅広の階段がある壇上で、クローディアは城の者一人一人の顔を確認するように見回す。
「これから奥様はどうされるのですか?」
メイドの声に、クローディアは微笑んだ。
「年を越して社交シーズンになったら、タウンハウスに移って舞踏会に出ます。そこで毒を扱う貴族がいないか情報収集しようと思っています」
「お一人で探るのですか?」
心配する声が聞こえ、クローディアは悪戯っぽく笑ってみせた。
「これでも、ソルと一緒に色々考えたの。いまや女城主となっても、私は傍から見ればただの小娘だわ。色んな人に話を聞こうとしても、舐められて終わるかもしれない。男性には〝未亡人〟として色目で見られ、女性には哀れなものとして扱われるか、夫を亡くして早々舞踏会に来ている不届き者と思われるでしょうね」
考えられる不安要素を述べると、皆口々に「確かに……」と頷く。
「だから、思いきり開き直る事にしたの」
わざと明るい声を上げ、クローディアはパン、と胸の前で両手を合わせた。
「私、ふしだらな女になるわ!」
大きな声で堂々とそんな事を言ったので、ソルとラギ以外の全員がギョッとした顔をする。
「考えてもみて? 未亡人になったばかりの若い私が、胸元も露わな豪華な喪服ドレスを着て、毎晩舞踏会を渡り歩くの。絶対に話題になるわ。それも悪い方のね。けれど、そうれでもしなければ効率よく注目を集める事はできない」
クローディアの説明を聞き、城の者たちは心配そうな顔をしつつも一理あるという顔をしている。
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