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あなたは優しすぎるわ
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「今日は中央宮殿に呼ばれているんだ」
朝練を終え、花の離宮で汗を流したリリアンナがまた月の離宮に向かうと、ディアルトが面倒臭そうに言う。
月の離宮の朝食の席には、ディアルトの母シアナもいる。いつものようにリリアンナも同席し、彼女は紅茶とお茶菓子を頂いていた。
「リリアンナは今日も美しいわね」
「恐縮です、殿下」
シアナは今、四十九歳だ。二十六歳のディアルトの母として妥当な年齢だが、若々しく美しい。それでもやや年波に勝てない小じわや、夫を失いソフィアとの争いに疲れた様子もある。しかしその顔は、先王の妻であったという誇りに満ちていた。
「宮殿の情勢がどうなっても、陛下が殿下のお母上であること、先王の賢妃であったことは変わりありません」
「……ありがとう。リリアンナ」
リリアンナはこの朝食の時間が好きだ。
(ロキアの紅茶は美味しいし、殿下と陛下と穏やかに過ごせる時間はこの上ない至福だわ。家族以外に一緒にいて心穏やかになれるのは、この方々だけ……。でも、そんな思い上がった気持ちを、外に漏らしてはいけないわ。ちゃんと主従の区別はつけないと)
そうリリアンナが思っている傍ら、ディアルトが中央宮殿に行くと聞いたシアナが、少し低い声で言う。
「あなた、またソフィア様たちに何か言われるんでしょう? 何か思うことがあれば、言い返していいのですからね? あなたは本来なら王座に座っている人間です。陛下もそれは了解済みのはずだわ」
カダンはともかく、王妃が絡む話になるとシアナはやや神経質になる。
「分かっていますよ、母上。ただ俺は言い返すほどの気持ちにならないだけです」
何も気にしていないという様子のディアルトは、飄々と答えて半熟のゆで卵をスプーンですくって口に入れる。
「……あなたは優しすぎるわ、ディアルト」
「そんなことありませんよ」
「……もう。……それはそうと、今日もリリアンナとちゃんと訓練できたの?」
「ええ。俺のリリアンナは、今日も華麗で強かったです」
「殿下。誰が『俺のリリアンナ』ですか」
ディアルトの軽口に、リリアンナが思わず突っ込む。
「リリアンナは今日も可愛いわね。私メイドから教えてもらって知ったんだけど、そういうのクーデレって言うんですって?」
(陛下、なんですかそれ! 私、殿下の前でデレてなどいません!)
「存じ上げません」
シアナまでもが乗ってきて、リリアンナは頭が痛くなる。
「あなたがディアルトのお嫁さんになってくれたら、あなたは将来王妃ねぇ。あなたなら美しく強く、賢い王妃になるわ」
「陛下まで……」
心安らぐ時間なのだが、話がこういう方向に逸れるのが少し苦手だ。
(殿下のことは好きだし、陛下のことも尊敬しているわ。でも結婚なんて言われたら……。もう本当に畏れ多くて……。駄目だわ。雑念が多くなってきた。あとで腕立て腹筋背筋をしなければ)
それから話は二人が結婚した後の話になり、リリアンナはとうとう無言になってしまった。
気の合う母子を相手にすると、リリアンナのような不器用な女子は何も言えなくなってしまうのだった。
朝練を終え、花の離宮で汗を流したリリアンナがまた月の離宮に向かうと、ディアルトが面倒臭そうに言う。
月の離宮の朝食の席には、ディアルトの母シアナもいる。いつものようにリリアンナも同席し、彼女は紅茶とお茶菓子を頂いていた。
「リリアンナは今日も美しいわね」
「恐縮です、殿下」
シアナは今、四十九歳だ。二十六歳のディアルトの母として妥当な年齢だが、若々しく美しい。それでもやや年波に勝てない小じわや、夫を失いソフィアとの争いに疲れた様子もある。しかしその顔は、先王の妻であったという誇りに満ちていた。
「宮殿の情勢がどうなっても、陛下が殿下のお母上であること、先王の賢妃であったことは変わりありません」
「……ありがとう。リリアンナ」
リリアンナはこの朝食の時間が好きだ。
(ロキアの紅茶は美味しいし、殿下と陛下と穏やかに過ごせる時間はこの上ない至福だわ。家族以外に一緒にいて心穏やかになれるのは、この方々だけ……。でも、そんな思い上がった気持ちを、外に漏らしてはいけないわ。ちゃんと主従の区別はつけないと)
そうリリアンナが思っている傍ら、ディアルトが中央宮殿に行くと聞いたシアナが、少し低い声で言う。
「あなた、またソフィア様たちに何か言われるんでしょう? 何か思うことがあれば、言い返していいのですからね? あなたは本来なら王座に座っている人間です。陛下もそれは了解済みのはずだわ」
カダンはともかく、王妃が絡む話になるとシアナはやや神経質になる。
「分かっていますよ、母上。ただ俺は言い返すほどの気持ちにならないだけです」
何も気にしていないという様子のディアルトは、飄々と答えて半熟のゆで卵をスプーンですくって口に入れる。
「……あなたは優しすぎるわ、ディアルト」
「そんなことありませんよ」
「……もう。……それはそうと、今日もリリアンナとちゃんと訓練できたの?」
「ええ。俺のリリアンナは、今日も華麗で強かったです」
「殿下。誰が『俺のリリアンナ』ですか」
ディアルトの軽口に、リリアンナが思わず突っ込む。
「リリアンナは今日も可愛いわね。私メイドから教えてもらって知ったんだけど、そういうのクーデレって言うんですって?」
(陛下、なんですかそれ! 私、殿下の前でデレてなどいません!)
「存じ上げません」
シアナまでもが乗ってきて、リリアンナは頭が痛くなる。
「あなたがディアルトのお嫁さんになってくれたら、あなたは将来王妃ねぇ。あなたなら美しく強く、賢い王妃になるわ」
「陛下まで……」
心安らぐ時間なのだが、話がこういう方向に逸れるのが少し苦手だ。
(殿下のことは好きだし、陛下のことも尊敬しているわ。でも結婚なんて言われたら……。もう本当に畏れ多くて……。駄目だわ。雑念が多くなってきた。あとで腕立て腹筋背筋をしなければ)
それから話は二人が結婚した後の話になり、リリアンナはとうとう無言になってしまった。
気の合う母子を相手にすると、リリアンナのような不器用な女子は何も言えなくなってしまうのだった。
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