【R-18】やさしい手の記憶

臣桜

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 喉の渇きを覚えて時刻の分からない時にフリッツが意識を戻すと、違和感があった。
 意識が頼りなく浮上と沈没を繰り返す間に、タオルが何度も冷たい物に取り替えられていたのは分かっていたのだが、それとは違うものをぼんやりとした意識の向こうに感じて、久し振りにハッキリと意識が戻った。
「……やだ。これでいいのかしら」
 ぎこちない手つきがフリッツの男芯を擦り、彼の下半身は見事なまでに立派に反り返っていた。
「……なん、だ?」
 フリッツの熱はいよいよ酷くなっていて、女性の存在を初めて認識した時よりもずっと危うくなっている。ガンガンと痛む頭ではまともな思考は働かず、それなのに下半身だけはやたらに興奮している事が、今は朝なのかと錯覚させてしまう。
「大人しくしていて」
 彼女が早口に言って、困ったように目の前で赤黒く腫れ上がっているものを見やるが、彼女が初めて目にする男根というものは、思っていたよりもグロテスクで恐怖を感じる。
 だが、彼女は見知らぬ男性が意識があやふやになっている今だからこそ、こうやって寝込みを襲わないとならない理由があるのだ。
 機会は今しかない。
 自分がはしたない事をしている自覚もあるし、いつも森の中で暮らして自給自足をし、たまに町で買った本を日々の楽しみにするという禁欲的な彼女からすれば、今している事は一か八かの賭けにも近い。
「けど……、待って……、あぁ、きもち……いい」
 名実ともに熱に浮かされた声でフリッツが熱い息を漏らし、敏感な場所をたどたどしい手つきで擦ってくれる優しい手に、気分がうっとりとしてしまう。
「え? 気持ちいいの? これで合ってるのかしら?」
 困惑した声がフリッツの反応に少し安心したような気配を見せ、今までと同じように少しだけ握る力を強めて、妙な気分になりながらそれを上下させ続けた。
 熱い体にその少しだけひやりとした手が気持ちいい。
「もっと……、強くしていいから……」
「こう……かしら?」
 彼女が困りながらシュッシュッと手を上下させると、フリッツの口から「あぁ」と色っぽい声が漏れた。
 一体なにがどうなってこういう状況になっているのかは分からないが、フリッツだって男だ。視界が遮られた中で手を動かし、女性の体を求める。
 差し出された手に髪の毛が触れ、極上の絹糸のようなそれを手に取ると、今まで女性の髪など意識して触れた事はないので、こんなにも気持ちがいいのかと何度も指を滑らせた。
「口でして」
 声が熱を帯びる。
「口で? ……ってなぁに?」
「君がいま手でしてくれている事を、口でするんだ。……出せたら多分、体の熱が出てスッキリする気がする……」
 最後の言葉は自分でもずるいと思ったが、この視界を遮られている状況で、どうにも男性に不慣れな彼女に性処理をして欲しいという男の本能もあった。
「何なのよそれ……」
 彼女が困った声で呟き、迷っているのを表すように指先が亀頭や幹を弄る。
「あ、……早く」
 目元をタオルで覆われたフリッツが呻き、彼女にはそれが苦しそうに思えたので、渋々と顔を近付けて透明な汁が滲み出ている肉色にそっと舌を這わせた。
「ん……」
 変な味。
 しょっぱい。
「歯をたてないで……」
「痛いの?」
「急所なんだ」
 そう言われると彼女も扱いが慎重になり、猫がミルクを舐めるように丁寧にペロペロと舌を這わせ、トロトロと溢れてくる透明な汁に顔をしかめた。
 ゆるゆるとした快楽の中で、フリッツは焼きたてのアップルパイの中身になった気分でいた。
 体は熱くて堪らないのに、気持ちは甘くて甘くて、甘さの中に溺れてしまいそうだ。
 彼女の顔が見たい。
 どんな顔をしているのだろう?
 手でそっと目の上に載っているタオルをどけようとすると、咄嗟に彼女の手が飛んで来た。
「……それだけは駄目」
「……どうしてだ? 恩人の顔を見せてくれ」
 熱で掠れたフリッツの声は、甘えたような声になっている。
 しかし彼女の手がそれを宥める母親のように、そっと顎や頬を撫でてくれた。
「私の事情も察して」
 フワッと柔らかい布地が腹から胸の辺りにかかり、キシッとベッドが鳴る。
「これ……、どうしたらいいの?」
 彼女が震える声で問いながら、フリッツの怒張したペニスに手を這わせてそっと自分の柔らかい肉に這わせてみた。
 しっとりと濡れている秘密の場所は、彼女の秘めた興奮からかムンムンと熱を持っていたが、彼女はペニスの角度を決めかねていて、尚かつ奥へ導く事を恐れている。
「もしかして……初めてなの?」
「……」
 彼女が黙り込み、フリッツの腹の上に置かれた手がぎゅっと拳を握った。
「……馬鹿にしないで。こんな事ぐらい平気よ」
 怒った様な声がそう言って、何度か入れるべき場所を躊躇って彼女の腰が軽く上下する。
「初めての女性にそんな事させられない。……俺が、上になるから……」
 それは男の本能なのか、フリッツの紳士さなのかはわからないが、彼がゆっくりと体を起こそうとするとやはり彼女がそれを阻んだ。
「だから……! 私の顔を見られたら困るの」
 目元に載ったタオルの上からやや乱暴にギュッと顔を押さえられ、「できるんだから」と彼女が自分自身に向かって言い聞かせるのが、なんともフリッツにしてみては決まりが悪い。
 だが、高熱と酷い頭痛に見舞われているフリッツには、なぜ彼女がこういう事をするのかという原因を突き詰めようとする思考すらなかった。
「……できるんだから」
 もう一度彼女が呟き、何度か浅い呼吸を繰り返すのが聞こえた後に、ゆっくりとフリッツのペニスが呑み込まれていく。
「いたっっ……ぁ、――あ、ぁい……っ」
 彼女の声が悲鳴で歪み、同時にフリッツのペニスがぎゅうっと狭い道に包まれて締め付けられる。
「ぅ、……あっ」
 フリッツが思わず上ずった声を出し、咄嗟に手が女の腰を求めた。
 この際視界は遮られたままでもいいと思い、目元を冷たいタオルに塞がれたまま、彼は熱がある身だというのに自分の腰の上に跨っている彼女の細腰を探り当て、ワンピースを着ている上からそれを両手で鷲づかみにする。
「やっ、……あっ、ちょっと、……待って」
 胎内にフリッツを呑み込んだ彼女が苦しそうな声を出し、本能のままに腰を動かそうとするフリッツを必死になって宥めた。
「待たないよ。……こんな、状況」
 彼が幾らいつも城で貴族の娘達を魅了する温厚な紳士だとは言え、こんな据え膳の状況になって欲望を解き放たない訳にはいかない。
「おね、……がい。……待って、痛い……っ」
 息を吸っては止めて、吐き出して。
 そんな不規則な呼吸が苦しそうな言葉と共にフリッツの耳を打ち、そこでやっと彼は自分が逸り過ぎている事に気付いた。
「……ごめん、すごく気持ちよくて」
「……きもち、……いいの? 私、……っ痛くて堪らないのに……。男女って不平等ね……」
 最後は悔しそうに言う彼女の言葉に理知的なものを感じて、フリッツは内心笑いながら彼女の腰を掴んでいた手を緩め、その代わりに色すらも分からないワンピースのスカートをたくし上げて滑らかな太腿を撫で始める。
「自分のペースでゆっくり動いていいよ」
 ここはどこの天国だろう? など、いまいち現実味のない事を考えながら、目元を塞がれたフリッツが甘く笑う。
「そう……ね、これ、気持ちよくなれるのか分からないけれど……」
 暫く彼女は浅い呼吸を繰り返して自分の体が痛みに慣れるのを待ち、それでもいつまで経っても疼痛は収まらない。
 諦めて動いたらマシになるのかと思い、フリッツの腹に置いた手が体重がかかりすぎない様に気をつけながら、ゆっくりと腰を上下させ始めた。
「あっ……、ぃ、た……ぁっ」
 だがすぐに痛みに負けて、彼女が動くのをやめてしまう。
「痛いの?」
「うん……、とっても痛くて……」
 ガンガンと痛む頭の向こうで、彼女の内壁がひくひくと収縮してフリッツのペニスを吸い上げてゆく。正直、それだけでも物凄く気持ちよかった。
「じゃあ……タオルは外さないから、服を脱いで俺の体の上に倒れて」
「どうして?」
「少しでも気持ちよくしてあげるから」
「……」
 フリッツのいう事はあまり分からないものの、彼女は言われた通りにワンピースのファスナーを下げ、その下に着ているオフショルダーの薄地のブラウスから腕を抜く。
 外気に触れた肌が少し敏感になり、つんと胸の先が尖った。
「はぁ……」
 ゆっくりと彼女が体を倒し、下腹部から腹がゆっくりとフリッツの熱を持った体に重なり、最後にたわわな質感を誇る胸が優しくたわむ。
「ウエストは細いのに……意外と胸は豊かなんだね」
「知り合いの男の子から、メロンが詰まってるって言われたわ」
 不満そうに言う彼女の口調がおかしくて、フリッツは熱がある頭で少し気持ちが高揚していたのかもしれない。そのまま断る事もせずに、手を伸ばしてぎゅっと彼女の丸い尻の肉を掴んだ。
「ここも……肉感的なんだね。本当に……君の顔が見たい」
「だめよ」
 そのままフリッツは滑らかな肌を撫で回し、彼女の尻たぶを撫で回す。
「ん……、あぁ……」
 と、彼女がこれまでとは違ったか細い声を上げ、フリッツは自分の思惑通りになったのを感じる。
「気持ちいい?」
「あなたの体……熱い。ごめんなさいね、熱があるのに」
 彼女を貫いている楔も、肌に直接触れている肌も、何もかもが熱い。
「俺は動かなくてもこのままで気持ちいいから、君も気持ちよくなって」
 そう囁いてフリッツは指先で彼女の輪郭を辿り始めた。そっと尻の肉の柔らかな感触を楽しみ、和毛を撫でて接合部を弄り始める。
「んぁっ……、あ、……なに、……これ……っ」
 ピクッ、ピクッと彼女が震え、その度に中がきゅうきゅうと締め付けて来る。
 その反応はフリッツが思った通りだった。
 初めて男を知ったのなら、恐らくは愛撫にも慣れていないはずだ。なので彼は痛がっている彼女をこうして優しく愛撫し、少しでも快楽を与えようとしている。
「ぁっ……、……あ」
 フリッツの耳元で不規則な呼吸と小さな喘ぎ声がし、胸元から首に掛けて女の長い髪がしっとりと広がった。
 その髪の色を知る事ができれば、と思うものの、額から鼻の辺りまでを覆っているタオルの間からは、鼻の下を伸ばしても彼女の姿を窺うことはできない。
 分かるのは熱に浮かされた意識の中、心地良く思える少しひやりとした手、大人しそうな印象の声、長い髪、細身なのにふるいつきそうになる様な魅力的な体だという事。
「一人で……した事ないの?」
「なに、……を」
 やはり苦しそうな声を出す彼女に、フリッツは悪戯心を出して彼女の菊座にそっと指先を触れさせた。
「こういう事だよ」
「あぁっ!」
 途端、ぎゅうっとより一層中が締まり、反射的にフリッツは中で吐精してしまう。
「くっ、……ぁ、……あ」
 胎の奥でフリッツが震え、その度に熱い迸りが彼女を襲った。
「んっ……、ぁ、……あぁ……」
 彼女は達していないが慣れない事に疲れてしまい、そのままクタリとフリッツの上で脱力してしまう。
「は……」
 フリッツが熱の所為だけではない熱い吐息を吐き、ゆっくりと彼女の背に手を回したまま横を向いた。
 咄嗟に彼女がフリッツの顔のタオルを押さえ、そこまでの頑なな態度に思わずフリッツが笑ってしまう。
「どうしても顔を見られてはいけないの?」
 嫌になるほど頭が痛いというのに、なぜか彼女といると楽しくて堪らない。
 肉体は苦しさと快楽を同時に感じ、それを嫌だと思わず彼女と一緒なら心地良いとすら思える自分が、どこかおかしいのではとも思ってしまう。
「……私の両親が平民なら別にいいのよ。でも、私はただの混血じゃなくて俗に言う『不義の子』という目で認識されているわ。だから人目につくのは危険なの」
 彼女に目元を押さえられたままフリッツは重たい体でゆっくりとペニスを抜き、抱き枕の様に彼女の体に腕をかける。
「何だか……スッキリしたな……」
 体も心も少し楽になった。
 体の中で燻っていた熱は多少開放されたような気がするし、ここは王宮ではないので女性に対して気取った態度でいなくてもいい。
「寝ている間にごめんなさい。またタオルを取り替えてあげるわ。まだまだ具合が悪いでしょう? ゆっくり休んで」
 フリッツの腕をスルリと抜けて彼女が布団から出て、シーツの上に置かれていた華奢な手を咄嗟にフリッツが握った。
「待って」
「なぁに? すぐに戻ってくるから安心して?」
 子供が母親にすがるような声に彼女が少し笑い、優しい手がフリッツの金髪を撫でてくれる。
「君の顔を見てはいけないのは分かったから……、せめて呼び名を教えて。偽名でもいい。色々と不便だし、俺に君の名前を呼ばせて欲しい」
 フリッツの熱い指が彼女の細い指に絡み、そっと指先で愛撫をして懇願する。
「そう……ね。不便ね。少し待って、偽名を考えるから」
 そこで彼女が考え込んだのに、フリッツは多少落胆を感じた。
 素直に本名を教えてくれないという事は、自分に完全に気を許してくれていないという事だからだ。
「……じゃあ、アメリアって呼んで頂戴」
「分かったよ、アメリア。……俺はフリッツ。順番がすっかり狂ってしまったが、助けてくれてどうもありがとう」
 嬉しそうに礼を言うフリッツの髪をアメリアがまた撫でて、それからスルリと彼女の手が抜けてゆく。
「待っていて、今タオルを冷たい物に取り替えてあげる」
 彼女の気配が遠くなっていくのを感じ、温くなって顔に置かれているという感覚があまりなくなってしまったタオルの下で、フリッツはそっと呟く。
「……アメリア」
 舌の上で転がした名前は、今までできた事のない恋人を呼ぶように甘い。
 見知らぬ家の顔も知らない女性を相手に、フリッツは今やすっかり彼女に骨抜きにされているのを感じていた。
 体の興奮が収まってくると、少し冷静になった頭で今度は今の自分の状況を判断し始める。
 窓を強い雨が叩き続け、今が昼間なのか夜なのかもわからない。
 酷い熱があるのは確かで、先ほどの興奮が冷めるとまた形容のし難い具合の悪さが襲ってくる。風邪を引いたという感じではないが、酷くだるくて寒気がし、体を動かそうとするとあちこちが痛む。その痛さは熱の所為もあるだろうし、外傷的な痛さでもあった。
 そっと顔の上のタオルを摘まんで部屋の中の様子を窺おうとした時、小さな足音が聞こえて彼女が戻ってきたのが分かり、フリッツは諦めを感じて手を戻す。
 ベッドの横に小さな音がして恐らく水を張った盥が置かれ、新しいタオルが水を絞られる音がする。
「ちゃんと目を閉じていて」
「わかったよ」
 フリッツが子供のように少し唇を尖らせると、彼女が少し笑った。
「でも、タオルだけじゃあ困ったわね」
「え?」
「熱が下がっても大丈夫なように、何か目隠しのできる布を探しておくわ」
「ちょっと待ってくれ。ここで過ごす間、目隠しするのは何よりも最優先なのか?」
「当たり前よ」
「熱が下がって動けるようになったら?」
「森の外れまで、私が手を繋いで導いてあげる。そこからは一人で自分がいるべき場所へ戻って?」
「随分と冷たいな」
「私はこういう性格の女なの」
 サラリと答えるその声が、フリッツには新鮮で堪らない。
「ぎゅっと目を瞑って」
 指示している事は自分を見る事を拒否しているのに、アメリアの声は優しくフリッツの金髪を撫でてくれる手も優しい。
「……瞑ったよ」
 ふてくされたフリッツがタオルの下でぎゅっと目蓋に力を入れると、顔の上に載っていたタオルが取り替えられて、新しい物がひやりとフリッツの額を冷やす。
「これでいいわ。後はゆっくり休んで」
「……今、朝? 昼? 夜?」
「あなたがここへ来て、三晩目よ。ご家族が心配?」
「……余計に心配している者なら……大勢いるかもしれない」
「それなら早く動けるようになって、帰らないとね?」
「……そう、だね」
 クールな彼女の言葉に、フリッツは歯切れの悪い言葉しか返せない。
 アメリアが言っている事はその通りだし、事実自分の行方が分からなくなっている今、城の者やギルベルトが躍起になって探しているかもしれない。もしかしたら、ただ捜索する以上の騒ぎになっているかもしれない。
 けれども、フリッツはどこか今のこの状況がずっと続けばいいと思っていた。
「……眠るから、側にいてくれないか? 知らない場所で一人で寝るのは寂しい」
 冷たいタオルを載せられたフリッツが手を差し出すと、それをアメリアの少し冷たい手が握ってくれる。
「いいわよ。ほんの少しの間お世話をする人が滞在しているだけだし、病人とか弱い者には優しいつもりよ? 私」
「……弱い者?」
 騎士団とも互角に渡り合える剣の腕を持ち、狩りでも獲物を外さない。
 そんな自分を『弱者』というアメリアに腹を立てる所か、フリッツはそれが新鮮で彼女の存在が面白くて堪らない。
「例えあなたが実はとてつもない猛者だとしても、今は弱って私のベッドに横になっている。違う?」
 優しく優位に立つアメリアの存在が、もう既に面白くて仕方がない。
「これは君のベッドなの? すまない」
「ううん、いいの。ソファで眠れるし、あなたの世話をしながらゆっくり読書ができるわ。この長雨だと畑の世話もできないし」
「じゃあ……、一緒に寝よう? 君の寝床を占領しているのは申し訳ないし、君の肌があればこの熱も早く下がる気がする」
 握った手に少し力を加えると、「仕方がないわね」という声と共に布団がめくられ、アメリアが狭いベッドに体を滑り込ませてきた。
「反対側の横を向いて」
 温かくて滑らかな肌を感じてフリッツが言われた通り横を向くと、パサリと顔のタオルが落ち、思わず目を開いたフリッツの目に入ったのは、質素な暮らしが窺い知れる小屋の中だ。
 王宮で暮らしているフリッツから見れば、山小屋のような――だが、暮らしている者が快適に過ごしているのが分かる、そんな室内だった。
 木製の小屋の中、所々に見えるカーテンや部屋を仕切る布はアメリアの手製らしいパッチワーク。古そうなソファが暖炉の前に置かれていて、壁際には手作りの本棚にぎっしりと本が詰まっていた。
 もっと詳細を知ろうとした時、フリッツの視界にぬっと白い手と黒い布が現れ、そのまま彼は目隠しをされてしまう。
「ちょっと……アメリア?」
「これなら熱が下がっても安心していられるわ」
 キュッと後頭部で布が縛られる音がし、フリッツは大きな溜息をついてアメリアの方を向いた。
「なるほど、何も見えないよ」
 随分と厚地の布なのか、室内を見る事ができたランプらしき明かりがあるというのに、目の前にあるはずのアメリアの顔は見事なまでに認識できない。
「さぁ、寝て? 私も久し振りにベッドで眠れる」
 そう言われて優しい手が腕にかかると、フリッツも仕方がないなという気持ちになってしまい、ゆっくりと手でアメリアの体の輪郭を辿りながら次第にまた眠りの淵に囚われてゆく。
「大丈夫、私は側にいるわ」
 優しい声に誘導され、意識が羽根の様にふわりふわりと自由落下していった。
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