【R-18】やさしい手の記憶

臣桜

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ぬくもり

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 その後フリッツはアメリアの小屋に滞在して三日目にたっぷりと汗を掻きながら解熱し、彼女の献身的な介護もあって四日目の晩には大分気分がスッキリしていた。
 その頃には自分がどの場面でこうなったかという事も大体思い出し、健康に近付いた体が空腹を思い出してアメリアが作ってくれた豆のスープをモリモリと食べる。
「ごめんなさいね、質素なものしかなくて」
「いいや、シンプルな味付けだが、色んな種類の豆がゴロゴロ入っていて、腹持ちもいいし食べ応えもある」
 もぐもぐと口を動かせば豆独特の風味があり、言う通りにシンプルな味付けなのだがそれが素材の味を生かしていて実に美味しい。
 普段王宮で料理人の作った凝った料理ばかりのフリッツには、アメリアが作ってくれる豆のスープが美味しく感じる。町で買ってきたという硬いパンも、アメリアの手製のベリーのジャムをつけると、これだけでこんなにも違うのかという程に美味しい。
「明日にでも近くの町へ連れて行ってあげるわ。傷ももう良さそうだし」
 斜面を転げ落ちた時に作った傷は体中にあり、だがアメリアが常備している森の薬草を使って湿布を作り、そのお陰で大分痛みも引いていた。
「……君とはもうお別れなの?」
「そうね。元気で」
 相変わらずアメリアの対応はサラリとしている。
「……所で、ずっと気になっていた事を訊いてもいい?」
「ん?」
 木の匙で掬った最後の一口を飲んで飲み込む音がし、相変わらず目隠しをされたまま、フリッツは問おうと思って口に出せなかった事を訊いてみた。
 目隠しをされたままという生活も異常なのだが、生活に関わる事は全てアメリアの手と声が導いてくれて、特に体を激しく動かしたりする必要のないフリッツは特に不便を感じていない。
「……どうして……俺に跨ってきたの? 初めてだというのに」
「それは……」
 アメリアが気まずそうに黙り込み、暫くフリッツの耳に外で雨が降り続けている音が聞こえる。
 やや暫くして、ふぅ、と一つ息をついてからアメリアが口を開いた。
「私、王宮に召し抱えられる事になったの。両親は私の存在を公にするつもりは毛頭ないけれど、それでも自分たちみたいな身分の人間の娘が森で自給自足しているだなんて、彼らのプライドが許さないみたい。
 ああいう所で妾っていうのかしら? 貴族の歳のいった人に気に入られたりする事があるらしいわ。だから、そうなる前に処女性というものを捨てておこうと思ったの」
 アメリアの声は苦渋に満ちていた。
 自分だって好きであんな事をした訳ではない。
 理由があるからこそ、大切にしていた初めてを素性も分からない男に捧げ、自由にならない身の上で必死になって抵抗をしていた。
「その相手が俺で良かったのか?」
「あら、私だって人を選ぶわよ? 私に言い寄っていた町長の息子よりも、あなたの方がずっといい男だもの」
 軽やかな笑い声が聞こえてフリッツは少し安心するのと共に、複雑な心境になってしまう。
「……君の人生はそれでいいのか? 両親から遠ざけられて、恋も知らずに己の力だけで生活をして、挙句、道具のように王宮へ送られる」
 フリッツからすれば考えられない人生だ。
 自分はやりたい事をして、やりたくない時はそう伝えれば周囲の者が認めてくれる。
 我侭を言う事はないが、自分の意思を阻もうとする者はおらず、アメリアと比べればやりたい放題の人生なのかもしれない。
「いい……訳じゃないけれど、私が生きられる道はこれしかないもの。あなた、本当は結構いい身分の人なんでしょう? 着ていた物やそういう物言いで分かるわ」
「俺の言うことは嫌味かい?」
 手探りでテーブルの上のマグカップを探し、その中に入っている熱い紅茶に口をつけた。
「少しね。あなたにはきっと人生の選択肢が沢山あって、自分の意思を阻むものがあったら抵抗しようとか思う気力があるんだと思う。……けれど、私は親に従うしかないわ。いう事を聞かなければこの小屋も潰されて、折角耕した畑もグシャグシャにすると脅されているもの」
 雨は数日前の叩き付けるようなものと比べると、シトシトと大人しい雨音になっている。
「……じゃあ、俺と一緒に来ないか? 君となら一緒に楽しい時間が過ごせると思う」
「嫌よ」
 そろりと切り出したフリッツの申し出を、アメリアは取り付く島もなく突っぱねた。
 自分の善意が一蹴され、フリッツはむっとして言い返す。
「どうしてだ。悪い話じゃないだろう。君が嫌いな人種かもわからないから、素性は言わないが、俺だって君を雇える立場にある。それに君の事だって気に入っている」
「情けはかけられたくないの。私の初めてをあげたからと言って、調子に乗ってもらっては困るわ。私はあなたが好きで処女を捧げた訳じゃない。自分の身を守るために利用させてもらったの。そんな相手に情けをかけられる私の気持ちが分かる?」
「情けのつもりじゃない! 俺は」
「大きな声を出さないで!」
 思わず荒くなったフリッツの声にアメリアも大声を出し、それから二人は気まずく押し黙ってしまった。
 外からは変わらず、一定の量の雨が降り続ける音が聞こえる。
「……とにかく、明日になればあなたは私とは関わりのない人になるから、こんな森の中に住んでいる女の事なんて忘れて」
 向かいに座っているアメリアが立ち上がり、暖炉の方へと気配が移動する。火箸で燃えている薪を動かす音がし、新しい薪をくべる音がした。
「……どうして自分を大事にしないんだ」
 暫くの沈黙の後、暖炉を弄る音が止んで、アメリアがこちらを見ているのが分かる気がする。塞がれた視界の中、顔の分からない美女が炎をバックにこちらを見ている――気がした。
「あなたの事は深く知らないけれど、恵まれた環境にいる人が、両親からまともな愛情を受けず、放置され人目を避けて育ってきた人間の気持ちが分かるとは思えないわ。ごめんなさいね」
 言葉は丁寧で冷静だが、アメリアの声の裏側には恵まれたフリッツに対する拒絶がある。
 この人はきっと自分を分かる事はないだろうという気持ちと、彼女の両親が『それなりの身分』であるとはいえ、平民と全く変わらない暮らしをしている彼女が、貴族の様な身なりをしていたフリッツに感じる劣等感。
 アメリアは悪くないのに最後にそうやってサラリと謝る事で、この話はもうこれでおしまいと暗に伝えていた。
「……」
 ふぅ、とフリッツも溜息をついてから紅茶を飲み干し、テーブルに手をついたままゆっくりと立ち上がる。
「もう寝る?」
「いいや……。見えないが、まだ宵の口ぐらいなんだろ? あと少し腹がこなれてから寝るよ」
「じゃあソファでゆっくりしていればいいわ。私も座るから狭いけれど」
 アメリアの手がフリッツを導いてくれて彼は室内を移動し、少し粗い生地でできたソファに腰掛けた。フリッツを座らせてからアメリアは本棚の方へ移動し、すぐに戻ってくる。
「さて、どこまで読んだかな、と」
 独り言を言いながらアメリアがソファに身を預け、片手でグイとフリッツの肩を引いて自分にもたれかけさせた。
「……読書、好きなの?」
「好きよ? 色んな事がわかるもの。お金がかかるけれどね」
 読書が好きなら王宮の図書室で好きなだけ読ませてあげられるのに、と思ってフリッツはその言葉を飲み込む。
 アメリアがスカートを穿いているにも関わらず大きく脚を開き、その間にフリッツは背中を預けていた。包み込まれるようにして背後から彼女の香りがし、フリッツは何色か分からないアメリアの長い髪の毛を、そっと指で弄ぶ。
「……君の髪は何色なの?」
「さぁね? 赤毛かもしれないし、金髪かもしれないし、茶色いかもしれないし、黒いかもしれないわ」
「目の色は?」
「どうかしら? 蒼いかもしれないし、茶色いかもしれないし、黒いかもしれないわね」
「ずるいな」
「ふふ」
 フリッツがむくれると、彼の肩に本の背表紙を預けて読んでいるアメリアが笑う。
「いま何の本を読んでるんだ?」
「女性向けの恋愛小説よ。私の読書はリズムがあってね、勉強をしたら娯楽、勉強をしたら娯楽、っていうサイクルがあるの。今は娯楽の時期」
「ふぅん、どういう話?」
「ふふ、ありきたりな話よ? 下町の娘が偶然出会った男が、王子様なの。娘は王子の身分を知らなくて、でも素敵な迎えがあって……まだ途中なんだけれど、きっとハッピーエンドになるわ」
「随分単純なんだね」
「女性の向けの恋愛小説なんてそんなものよ? 適当にロマンスを与えて、読者を幸せな気分にさせて、自分も本の中のヒロインみたいに、成り上がって幸せになれる幻想を一時的に得られればそれでいいの」
 ペラリ、と紙をめくる音がする。
「そういう本を読んでいるにしては、君は随分と夢のない事を言う」
「現実がそんな夢のような世界だったら、きっと浮ついた人間になってしまうわ。私は現実の厳しさを知っている理性ある人間でいたいの」
 アメリアの言う事は尤もで、だがそれを肯定してしまえばフリッツも彼女の言う『浮ついた人間』になってしまう。だから彼は「そうだね」とは言わずにいた。
 王宮で暮らしている自分にだって、自分なりのリアルがある。
 アメリアが手に肉刺を作って土臭い生活をしているのは分かっているし、自分はそういう生活をした事もないが、だからと言って自分の生活に『楽』ばかりがある訳ではない。
 暫く、外の雨が永続的に続くなか、暖炉の火が小さく爆ぜる音、アメリアがページをめくる音だけがする。
 こんな風に何もしない時間というのは、フリッツに今までなかったのではないだろうか?
 暇があればギルベルトの所へ行って彼の部下達とふざけ合い、それ以外は両親の機嫌を取りながら貴族の娘たちにいい顔をして付き合いをする。それ以外は食事の時間だったり、勉強の時間だ。
 雨音に耳を澄まし、アメリアの香りを嗅ぎながらフリッツは口笛を吹き始めた。
 フリッツの勉強には帝王学や英才教育など多岐に渡るが、その中に当然のように音楽もある。鍵盤、弦楽器、笛など満遍なく演奏できるように教育され、飲み込みが良くセンスもいい。
 大人しい宮廷音楽やワルツはあまり好まないが、城下街を散策した時に流れの楽師が街角で演奏している曲は、時に楽しく、時に切なげで気に入っている。
 その時に耳にした曲に似た感じの曲調で、何となく自分で自由にアレンジしたものを適当に唇をすぼめて吹いていると、耳元でパタンと本が閉じられた音がした。
「……邪魔だった?」
「いいえ。素敵な曲ね? どこの曲? 美しい旋律なのにどこか物悲しくて綺麗だわ」
 アメリアに褒められてフリッツは嬉しくなり、少し自慢するような口ぶりで告げる。
「即興で考えた曲だよ」
「まぁ」
 小さなテーブルに本を置く気配があり、アメリアが後ろからフリッツを抱き締めてきた。
「もっと聴かせて?」
「あぁ」
 クールな彼女にそう求められるのは嬉しいのだが、今度はダイレクトに彼女の大きめの胸元に首の裏を当ててしまっている状態だ。
 ふわっとしたボリューミーな肉の谷間に後頭部を埋めるようにして、フリッツの脳裏に浮かんだのは熱に浮かされ頭が酷く痛むあの陽炎のような時間。
 意識と無意識の合間でアメリアの手が動き、自分はどんどん高まってゆく。
 初めてと聴かされて尚更興奮したなか、経験のない場所が包み込み、遠慮なく吸い上げたあの感覚。
 いけない、と思った時には既にフリッツの下半身は反応してしまっていた。
「……」
 気まずくなって黙り込んだフリッツを、アメリアは彼が見えていないと知っていながら後ろから覗き込む。
「どうしたの? メロディーが思いつかない?」
 優しい声が耳朶をくすぐり、フリッツは官能的な吐息をついてから自分を抱いている彼女の手を取り、自分の股間へと導いた。
「えっ?」
「……君がそうやって煽ると、俺はこうなってしまう」
 革のズボンの下に穿いていたぴったりとした吸水性のいい肌着越しでは、その雄のかたちは嫌という程に分かってしまう。
「……」
 今度はアメリアが黙り込み、そんな反応をする彼女はやはり生娘だったのだな、とフリッツがやや諦め、この高ぶりをどうしようかと思い悩んでいた時――。
 フリッツの手に押さえられていたアメリアの小さな手がそっと動き、手全体を使ってフリッツを揉み込んできた。
「アメリア?」
「……欲しいんでしょう? あなたぐらいの若い男性は、精力旺盛だと本に書いてあったわ」
 その声には恥じらいの色が混じり、ほんの少しだけ吐息が震えていて。
 だがそれでもアメリアは、フリッツを気持ちよくさせてくれようとしていた。
「……抱いていいか? 今度はきっと痛くないから」
「いいわよ。どうせなら妊娠させてくれてもいい。その方がお手つきにならなさそうだもの」
 飽くまで自分の今後の事を考えているアメリアにフリッツはそっと笑い、ゆっくりと体を反転させてソファの上にアメリアを組み敷く体勢になる。
「……キス、していいかい?」
 大きな手でアメリアの輪郭を求めると、フリッツの黒一色の視界の中で彼女の衣服が分かるような気がする。
 細腰は編み上げになっているコルセットで締められ、その下にたっぷりとした長めのスカートがある。腰から上へ手を這わせると、薄地だがたっぷりとした袖のオフショルダーのトップスを着ていて、まさぐった肩は露出していた。
 典型的な村娘スタイルでもある。
 片手でたわわな胸をふかふかと揉み、片手でゆっくりとアメリアの顔を想像しながら辿ってゆく。
 顎は細い。
 唇は下唇がややぽってりとしていて肉感的で、頬はすべすべだ。
 そっと目蓋に触れると、睫毛は人形のように長い。
 スッと通った鼻筋から上へ指先を滑らせ、眉はやや直線的だ。
 額は頭蓋骨の形がいいのだろうな、と思える形の良さで、長く伸ばされている前髪はどうやら真ん中から分けられているらしい。
 心の中で彼女の顔を想像してフリッツは悶え、それなのに彼女の髪の色も目の色もわからない。
 だがフリッツの心の中にあるのは、金髪碧眼の美女だ。
 きっとフースの中央にある湖のように透明で薄いブルーで、金髪も淡い色の綺麗なものに違いない。
 フースには金髪碧眼の者が多いので、フリッツは自然にそういう思考になっていた。
 浮かれた気持ちでアメリアのふっくらとした唇をなぞり、沈黙は肯定とみなしてそっと唇を重ねる。
 紅茶の香りがする吐息を吸い込み、熟した果実のような唇に何度も吸い付いた。
 いつの間にかアメリアの手がフリッツを誘うように肩にかかっていて、彼女が抵抗する意思がないのが分かる。
 それが尚さら男を煽り、フリッツは夢中になってアメリアの唇を貪った。
 ぷちゅ ちゅ ちゅく……
 何度もフリッツの唇がアメリアの唇を食み、いいだけ愛した後にそっと舌が差し込まれる。
「ん……ぁ」
 小さく声を上げたアメリアが可愛く、フリッツは顔の分からない彼女に情熱的なキスを続けた。
 アメリアの下唇を吸い、舌を吸い、歯列をなぞって前歯の裏側を舌先で探ると、アメリアがくすぐったそうに身をよじりながら、力の抜けた声を出す。
「ぁ……ふぁ、ああ……ん」
 いつもクールなアメリアがそんな声を出すというギャップにフリッツは内心悶え、更に深く口付けながらアメリアのコルセットの前ボタンを外してゆく。
 縦に並んだボタンの最後の一つを外すと、その上にある豊満な胸部がゆさっと開放されるのが感じられた。
 スルリと這うようにフリッツの手がブラウスの裾に潜り込み、たっぷりとした布をたくし上げて、期待した手がまろい双丘を望んで滑り上がる。
 フリッツの暗闇の中で指先が鋭敏な感覚を持ってアメリアの肌を求め、柔らかい肌を確認してそっと押し、みずみずしい弾力を持つ滑らかな肌を楽しんだ。
「や……、あまりくすぐらないで。目的はもっと別なんでしょう? 下半身とか」
 愛撫を知らないアメリアがくすぐったそうに身をよじり、肩甲骨が持ち上がるとそちら側の胸も盛り上がる。
「君の体はまだ準備ができていない。先日は相当痛かっただろう? 濡れてもいないのにおまけに初めてで。あのとき俺は熱があったのと体調が悪かったのとで気を遣えずすまない」
「別に気にしないでいいのよ。……あ。……その、その『準備』のために必要な事なら、くすぐられる事もやぶさかではないわ」
 ごくっと唾を飲み込んでアメリアが言い、こんな時にまで理性的な事を考えているアメリアに、フリッツは思わず笑いそうになってしまった。
「これから俺が君にする事は、君を気持ちよくさせる事なんだ。気持ちよくなると女性は濡れて男を受け入れやすくなる。そのための準備でもあるし、一般的にこういう行為は愛し合う男女がする事だからね、愛情を伝えるためでもある」
「ふ……ふぅん、博識なのね」
 自分では沢山読書をしているつもりなのに、自分以外の人間が自分よりも知識があるとアメリアはムッとしてしまう。
 そんな彼女の反応にも、フリッツは少しずつ慣れてきていた。
「こういう事は専門の本にしか書いていないというか……。男が好む本だからね。まぁ、女性もこっそり読んでいるのかもしれないが。けど、女性はそういう事に詳しくなくていいよ。正直女性がそういう事に詳しかったら、引く」
 極上のシルクのような肌をまさぐりながら言い、男の声に女が異議を唱える。
「あら、女は性について無知であるべきと言うの?」
「男尊女卑を言うつもりではないが、せめてベッドの上では男は女性を意のままにしたいと思うものだよ」
「それは……あ」
 何か言いかけたアメリアが言葉を途切れさせてしまったのは、フリッツがアメリアの乳房に吸い付いたからだった。
 先端にフリッツの熱い唇がつき、吸い込みながら舌先で乳首を転がす。
「ん……ぁ、や、……へん」
 赤ん坊が吸い付くようにちゅうちゅうと唇が吸引し、空いた片手がもう一つの果実をまさぐった。
 フリッツが探る双丘は、弾力があるのに柔らかで、指先がどこまでも埋まっていきそうな錯覚に陥る。
 吸い付いた乳房からは甘い香りがし、それが彼女の体臭なのか、それとも母性の象徴の匂いなのかと考察し始め、頭は考えようとしているのにその甘い香りにクラクラしてしまう。
「アメリア……君、凄くいい匂いがする」
「ぁ……しら、……ない」
 甘い吐息をついた唇が切れ切れに紡ぐ声すら、視覚を奪われたフリッツにはこの上なく魅力的に聞こえ、尚更男の本能をくすぐられる。
 見る事を禁止されていれば、見たくなるし、想像する。
 想像は与えられている情報を美化し、彼は自給自足をしている手助けをアメリアにさせている節もあった。
 大きく口を開いて舌を出し、宮中では決してそんな下品な口元はしないフリッツが、乱暴にアメリアという果実を食い散らかす。
 目隠しをされた精悍な顔がアメリアの乳房に埋まり、高い鼻筋が柔らかな肉をつつく。
 手はいつの間にか、たっぷりとした布地のスカートを大胆にめくり上げて滑らかな肌質の太腿をまさぐっていた。
「あ……、くすぐったい……」
「それはきっと、君がまだ知らない『気持ちいい』という感覚だと思うよ」
 自分のシャツのボタンをむしるように外しながら、フリッツが熱に浮かされた声で言う。
「これが……『気持ちいい』なの? 私の知らない事……?」
 アメリアの胸元は大きく上下し、フリッツの指や舌がもたらす感覚を、必死になって理解しようとしていた。
「下……触るよ」
 小さく宣言してフリッツの指先が太腿の付け根に触れ、内側をトントンと打つとアメリアがゆっくりと脚を開く。
「あの、……ぜ、絶対に痛くない?」
「……俺は女性の体のことは一生わからないが、処女喪失というのは大体の女性に一度きりだと思うよ?」
「そ、そう? きっと体が慣れたのかしら?」
 一生懸命冷静を装うアメリアを可愛いと思い、同時に彼女が言う『慣れた』と言ってもまだ二回目なので、多少の違和感はあるだろうな、とフリッツは思う。
 それでもここまで興奮して、彼女の体も開かれつつあるのに、途中でやめるつもりは毛頭なかった。
「……緊張してる?」
 フリッツが手探りでアメリアの下着の腰紐を探り、蝶結びにされてある華奢な紐を引く。
 その行為は、まるでプレゼントのラッピングを解いている様な気分にさせた。
「い、いいえ? この間もしたんだし、平気よ? もう慣れたわ」
 アメリアが強がり、フリッツは笑いを堪えるのに必死だ。
「アメリア」
「なに?」
「せめて、ベッドへ行こうか。こういう事は寝所でするものだ」
「そ、そうね……」
 言われてアメリアが身を起こそうとすると、フリッツが彼女の膝の裏と背中に手を回し、グイッと抱き上げた。
「えっ?」
「おっと」
 目隠しをしているフリッツが少しよろけて一歩足を下げ、その足がテーブルについて距離感を測る。
「アメリア、ゲームだ。俺をベッドまで上手に誘導して」
 目隠しをされての生活という異様な環境だったが、フリッツは柔軟な性格でもあって既にこの状況を楽しもうというつもりでいた。
 そんな彼をアメリアも微笑ましく思い、「変わった人だな」と内心思いながら両腕でフリッツにしがみつく。
「じゃあ、そのまま右向け右。そこから真っ直ぐに五歩」
「了解、お姫様」
 転んでしまわないようにフリッツがゆっくりと九十度右を向き、慎重に前へ進み始めた。
「あら、不思議。やっぱり視界を塞がれていると、人間って真っ直ぐに進めないのね」
 真っ裸のアメリアが興味深そうな声を出し、だがその声には自分の知っている知識が検証されている事実に面白がっている色もある。
「曲がっているかい?」
「角度を少し左側に修正した方がいいわ」
「君はいい航海士になりそうだな」
「素敵。私、海へ出てみたいわ」
「ここは山間だからね」
 まるで恋人同士のような会話をし、軽やかに笑いながら、二人きりの密室で目隠しの遊戯が行われていた。
「ふふ、まるで王族のお遊戯みたい。私、本で読んだ事があるわ。歴史をなぞったフィクションなんだけれど、こうやって王様に目隠しをして裸の侍女たちとお遊戯をするの。とても淫靡な表現だったわ」
「それは……凄いね」
 随分と作家が妄想を膨らませたフィクションなのだろう。
 フリッツの知る王宮ではそのような事は行われていないし、父親は神経質で真面目すぎてストレス過多の人間だし、母親は楽園の女神のような女性だ。
 執務で疲弊した父が母だけに甘えている姿を知っているし、そんな父がアメリアの言う背徳的な遊戯をしているはずもない。
 しているのなら、父の知らぬところで収賄をしている貴族たちか――。
「でしょう? 王侯貴族ってきっと私の想像できない生活をしているんだわ」
「どうなんだろうね」
 フリッツの膝がベッドに当たり、そこで彼は慎重に腕の中のアメリアを下ろした。
「こういう事を言うと失礼な質問になるかもしれないが、君はボディラインよりずっと軽いね。肉感的な体つきをしているから、もっと重みがあるかと思っていたのに……いや、女性ってこういうものなのかな?」
「本当に失礼ね」
 言葉の割にケロリとした声色でアメリアが言い、彼女の手がフリッツを誘導してベッドの上へ導く。
「さあ、気持ちよくしてくれるんでしょう? 受けて立つわ」
「……君に勇気があるのはわかるが、その言葉と態度はこの状況に相応しくないよ」
「……そう?」
 困惑したアメリアの声に感じられるのは、処女らしい緊張と焦りだった。
 フリッツも今まで問題にならない相手とそういう経験はあったが、彼女の初めての相手が自分で、二度目をちゃんと『初めて』らしく頂けるというのも、男として嬉しい。
「もう一度、キスをするよ」
 優しく囁いてフリッツの手がアメリアの顔を探り、高い鼻梁の下にある柔らかな唇を確認すると、そこに指を触れさせたままキスをした。
「ん……」
 芳しいアメリアの香りを吸い込みながらフリッツは少しずつ舌を絡め、再び彼女の体のラインを愛撫しながら下肢の反応をみる。
 豊かな胸の肉を優しく揉み、指先で軽く引っ掻くように先端を撫でると、次第に硬くなって来た。
 口元からくちゅくちゅという音をさせながら、フリッツは暫く片手で乳首を弄り、片手で優しくアメリアの太腿を撫でていた。
(あれ……)
 人生で初めて男性に抱かれるという状況で、アメリアは自分の体の変化に気付く。
 体が熱い。
 頭がぼんやりとして、いつもの理路整然とした自分がとろけてしまい、先ほどフリッツに言われた『気持ちいい』を理解しようとしながら、アメリアは未知の感覚に震えていた。
「どう? 気持ちいい?」
 キスの最後にアメリアの肉感的な唇をちゅっと食み、フリッツが熱っぽい声で問う。
 彼自身、目隠しをした状態で行為に至るのは初めてで、やけに興奮していた。
「わから……ない、けど……ムズムズするし……、やっぱりくすぐったいわ」
 額がじんじんする。
 まるで風邪を引いて熱を出してしまった時のように、体が熱くて気だるい。
「リラックスして俺を受け入れて」
 フリッツの手がアメリアの体を確認しながらなめらかな肌を滑り、柔らかい腹部の肉で円を描いてから、小さなへその窪みを確かめる。
「くふっ……! くすぐったい」
 くすぐったがるアメリアの反応にフリッツの口元が笑い、彼の唇は優しくアメリアの体にキスを落としながら下がっていった。
 彼女がくすぐったがるへそに舌を這わせると、アメリアの体がピクピクと反応する。
 まるで自分が楽団の指揮者になった気分になり、アメリアという楽団に自分が指示を出すと、彼女の体のあちこちがいい音を出している気持ちになった。
「触るよ」
 紳士らしくちゃんと断り、フリッツはなだらかな腹のラインを辿ってから、何色かも分からない茂みに指先を這わせる。
「あ……」
 アメリアがスゥッと息を吸い込み、か細い声を上げた。
「もう濡れてるね」
 小さな茂みは、ひたひたとしたぬかるみの雫を受けて湿っている。
 嬉しそうなフリッツの金髪を撫でながら、アメリアはボウッとする頭の中で医学書を思い出していた。
「ええと……、それが膣分泌液かしら」
「君は色気がないな」
「だって、官能小説とか読まないもの」
「こっそりとでも読まないの?」
「書店で買うにしても、図書館で借りるにしても、……恥ずかしいわ、っひ」
 むくれたような声音の最後は、フリッツの指が秘められた肉に触れて呼吸が吸い込まれた音に変わった。
「秘めた事だから、こういう事はよけいにエロティックで美しく感じるんだと思うけど?」
「そ……そう、ね。秘め事という言葉もある……っし」
 ごくっと唾を飲み込む音が聞こえ、外の雨が変わらず屋根や窓を叩いている音が聞こえる中、アメリアの息遣いとちゅるちゅるという粘液の音が小さく聞こえる。
「初めて男に愛撫されて感じている感想は?」
 緊張してガチガチになっているアメリアの腹や腿を撫で、フリッツが優しく問う。
 このアメリアという女性には、雰囲気で押し流して抱いてしまうよりは、彼女と対話しながら行為を進めた方がいいと判断したからだ。
「そ、……そうね。後学のためにちゃんとした感想を持っておいた、ほうっ、が、……いいのかも……」
 秘唇は既に愛液にまみれていた。
 フリッツは目が見えない分指先への感覚を鋭敏にさせ、彼女の形を体に覚えさせようとしている。
 つるつるとした柔らかい肉は、急所でもあるそこを守る分泌液で守られていた。
 それを指先につけてそっと指を滑らせ、アメリアの息遣いや体の筋肉にかかる緊張などを、注意深く観察してゆく。
「体の力を抜いた方がいいよ」
「そ、その方が……男性は気持ちいいのかしら?」
 こんなにまで緊張しておいて、アメリアは最初の自分の言葉の通り、フリッツの欲を叶えようとしていた。
「それはあるが、今は君を気持ちよくさせる時だ。君の体の余計な緊張が解けた方が、俺の指も舌も、快楽も受け入れやすくなる」
「……」
 ふぅ、ふぅ、とアメリアは浅い呼吸を繰り返していたが、大きく吸って吐いてから意図的に体から余分な力を抜こうとする。
 雨が窓を叩く音がする中、フリッツはゆっくりと指を小さな孔の中へ差し入れていった。
「んっ……! っく」
「痛い?」
「ううん……。続けて」
 自分の体の中に異物が入って来る違和感にアメリアは思わず呻き、フリッツがそれを心配する。
 けれど、彼女の言葉に従ってフリッツは優しく彼女の肉体の門を暴いていった。
「あなたの髪……、綺麗ね。光を受けて輝いているわ」
「そうかい? ありがとう。……俺は君の髪の色を知らないけれどね」
「ぁ……、はぁ。それは……秘密、だもの……」
 男性の指というものは、こんな風に女性に『気持ちいい』を与えるものだったのだろうか?
 逆に、女性の体というもの――フリッツがいま指を入れている場所――も、男性にどのような快楽を与えているのだろう?
 それを考えると、アメリアは数日前の夜には感じた事のない初めての快楽に涙目になりながら、男女というものは不思議にできていると思うのだった。
「指、入ってるのが分かる?」
 アメリアの中でフリッツの指が動き、ゆっくりと壁を押すときゅう、と彼女の中が収縮する。
「わかる……、わ。変な……感じ。……でも」
 そこまで言ってアメリアが言葉を途切れさせてしまい、彼女の手が優しくフリッツの短髪を撫で回す。
「でも?」
「その……、もう少し……刺激を頂戴?」
 震えるアメリアの声がそうねだり、フリッツの下半身は痛いほどに反応していた。
「……じゃあ、君に快楽をあげるから、君はその優しい手で俺を撫でて」
「え? あの……あそこを撫でるの?」
「あぁ、それもいいが……君がそうやって優しく髪を撫でてくれるのが気持ちよくて」
「ふぅん……、変なの」
 アメリアの視界に映るのは、温かい照明に照らされて乳白色に輝くフリッツの肌。
 鍛えてあるのか筋肉がしっかりとしていて、アメリアの知る美術史の図説にあるブロンズ像とは少し違い、筋肉のついた肩などには丸みがあり、彼の腹筋というものも六つに分かれているのかと思いきや、力の入り加減で線が入ったり入らなかったりする。
 初めて触れた若い異性の肌は弾力があり、彼女が町で親しくしている老夫婦などとは肌の質が違う。
 アメリアの嫌う町長の息子に手を握られたりした事もあったが、正直その感触は覚えていない。
「あなたの肌……白くて綺麗な色ね。髪の色も色素が薄くて……王子様みたい」
 最後の単語にフリッツの胸がドキリとし、もし自分の立場をアメリアが知ったら、このクールな彼女が自分への態度を変えてしまうのが怖く、彼女の言葉を誤魔化した。
「そうか? 俺は王子というガラではないよ」
「そうね、王子様ってこんなにガツガツしてなさそう」
 小さく吐息を乱しながらアメリアが笑い、フリッツも笑いながらアメリアの胸元に唇を落とす。
「俺は生身の男で多少ゴツゴツしているからこそ、君にこうやって初めての『気持ちいい』を与えられる。それが嬉しいんだ」
「……そうね、私も初めて『女でよかった』って思っているわ」
 フリッツの指はスムーズに動くようになっており、アメリアは彼の指がもたらしてくれる快楽に集中しようと、目を瞑って感覚を研ぎ澄ませていた。
「あ……気持ち……い、い」
 脳みそがピンク色になってトロトロになり、それをいい香りのするオイルをまぶした手で、ゆっくりマッサージされているような感覚。
 時おり微弱な電気がピリッと流れてそのピンク色の脳みそを刺激し、普段は変化や刺激を望まない彼女なのに、今のアメリアは貪欲にフリッツがもたらしてくれる快楽をむさぼろうとしていた。
 フリッツが指を動かす度にくぴくぴと小さな音がし、アメリアはそれが恥ずかしいのだが気持ちよくて文句が言えない。
「気持ちいい? ……俺の事も気持ちよくして」
 顔を上げて頭を撫でてくれている手にフリッツが高い鼻をこすりつけると、思い出したようにアメリアがフリッツの短髪を撫でる。
「変なの……、ぁ、私の手が……そんなにいいの?」
 脳がじんじんする。
「俺は君の外見情報を何も知らないから……、君が知的な女性だという事と、料理上手、手がとても優しい事と、……ここの感度がいいという事ぐらいしか知らないよ」
 くっ、とアメリアの中でフリッツの指先が動き、咄嗟に「あっ」と朱唇から小さな悲鳴が漏れた。
 ぬるぬるした壁が愛液にまみれ、フリッツの男らしい無骨な指を咥え込んだまま、アメリアの秘部が涎を垂らして形を変える。
「やっ、ぁっ、なかっ、……そこ、や、……っあ」
 思わずアメリアの脚が振りあがってフリッツを蹴ってしまい、咄嗟に謝ろうとするアメリアだったが、フリッツはその脚を掴んで上へ上げてしまった。
「えっ? ちょっ……」
 目隠しをしているものの、フリッツに対して局部をはしたなく晒してしまうポーズになり、アメリアは咄嗟にフリッツの金髪を掴む。
「謝らないよ」
 髪の毛を掴まれているのにフリッツは痛がる素振りも見せず、手探りで女の中心を探り当てて、そっと舌を這わせ始めた。
 ぴちゃ……っ ちゅるっ
「ひっ……、ぁっ」
 人に触れられるのも初めての場所を、まさか舐めるなど予想すらしていなかったのか、アメリアがそれまでよりも上ずった声を出して、必死になってフリッツの頭をグイグイと押しやる。
「ちょっ……、あのっ、やめてっ……、そこっ、そこは駄目よっ」
「手」
 しかし返ってきた返事は、すべすべとした肌に立てられた爪と歯だった。
「いっ……! った」
 今度は痛みにびっくりしたアメリアが悲鳴をあげ、確かに自分は悲鳴を上げたのに、その中に入ってしまった薔薇色の吐息を自覚し、それに二重の意味で驚いてしまう。

 痛い――、のに。
 何だろう? 今の感覚は。

 もっとして欲しい……、と思ってしまったのは変なのだろうか?
 今、してもらっている『気持ちいい』と、同列にしてしまってはいけないものなのだろうか?

 初めて知った自分の知らない一面に驚き、アメリアは戸惑う。
 自分はこんなにはしたない子だったのだろうか?
 こういう事は『その時』がくれば何とかなると思っていたのに――。
 ずっと、フリッツと一緒にいて色んな『気持ちいい』を教えて欲しい。

「あっ……、あっ」
 ちゅぴちゅぴと花びらが肉厚な舌で嬲られ、先ほどまでの指を入れられていたのとはまた違う『気持ちいい』がアメリアを襲う。
「気持ちいい……?」
 むんむんと香る彼女の香りは甘酸っぱく、可憐であろう花びらを見られないというのは男にとって拷問に近い。
「あっ、……き、もち……い、……ぃ」
 きゅっ、きゅっ、と括約筋に力が入り、その反応がアメリアは恥ずかしくて堪らず、フリッツは可愛いと思って堪らない。
 舌に唾液をまとわせて花芯に優しく上下させ、二人分の粘液でべチョべチョになったそこを、唇を震わせて蜜を吸い込んだ。
 じゅるっ じゅるるっ
「ぅっ、あ、――ぁあっ、やぁぁっ」

 はずかしい。
 ゆるして。

 こんな気持ちになったのは初めてだ。
 こんな『気持ちいい』を知ったのも初めてで。

「もう……、大丈夫かな」
 口元をネトネトにしたフリッツが顔を離し、また手探りでアメリアの秘部を指先で確認する。
 そこにあるのはただ、彼女を大切にしたいという労わりの気持ち。
 痛い思い、辛い思いはさせたくないという、確かな愛情があった。
 顔も知らない彼女の事を愛しているのかと言われれば素直に答えられないが、フリッツにとってアメリアは命の恩人で、興味深い対象で、初めて身近な異性として意識した対象なのは確かだ。
 欲に突き動かされた今の自分の状態では彼女への正確な気持ちは分からないが、ただの肉欲や性処理だけでないのは分かっている。
 差し入れる指を二本に増やし、その出入りがスムーズなのを確認してから、フリッツは下穿きを乱暴に脱ぎ捨てた。
 既に臨戦体勢になっているペニスを握り、少し乱暴にしごくと興奮していた肉棒は、更に怒張してメキメキと硬くなる。
「……改めて、それ、凄いわね……」
 色を含んだアメリアの声が興奮しているのが分かった。
「触ってみるかい?」
 体の位置を上へずらし、アメリアの方へ手を彷徨わせると、ひたりと華奢な手が握り返してくる。
「いい子だ」
 呟いて、フリッツは優しく握ったアメリアの手を、自分の股間へ誘導していった。
 アメリアの目から見たフリッツのそこは、彼の通常の皮膚の色とはまた異なる色をしている。少し擦れたような、言ってしまえば少し赤黒くなっているような色。
 根元は彼の金髪と同じ色の陰毛に守られているのは、そこが急所たる所以なのだろう。
 ひたり
 小さく震えるアメリアの指先が、それに触れた。
「……あたたかい」
「女性にはないものだが……、感想は?」
「……実に不思議な形状をしているわね。私が寝込みを襲った時、初めはこんなに大きくなかったもの。それに……血管が浮いていて少しグロテスクだわ。ごめんなさいね」
「性的興奮を得ると膨張するんだ。興奮とは別に朝勃ちという現象もあるがね」
「ああ、それは医学書で読んだ事があるわ。医学書と言っても専門ではないけれど」
 アメリアと話を進めていて、フリッツは内心しまったと思っていた。
 彼女が知的好奇心旺盛な女性なのは分かっているのに、こうやっていざ挿入する寸前になって、自分がムードのない話題のきっかけを与えてしまった。
「握って手を上下させてみて」
「あ、それなら知ってるわ」
 指示された事が自分の知識の範囲内だと分かり、アメリアが少し嬉しそうに手淫を始める。
 しゅっしゅっ、とアメリアの手とフリッツのペニスが擦れる音がし、視界が塞がれたこの異常な状況下で、フリッツはこの上ない興奮を覚えていた。
 目が見えないのは誰だって怖い。
 どこに何があるのか分からないし、触れたものが痛かったり、食べたものが辛かったり苦かったり、不味かったり、どんなものを食べさせられるのかという恐怖がある。
 だが、この奇妙な小屋生活でフリッツが得たものは、熱で浮かされた後に訪れた怪我の痛みと、それに引き換えても今までに得た事のない安らぎと甘い胸の疼きだった。
 今まで自分のペニスをこうして慰めた女は、親友ギルベルトの繋がりで口の固い高級娼婦が数人いたが、アメリアのようにフリッツの心を動かし、心身ともに快楽を与えるという女性は初めてだ。
「あ……、気持ちいい……」
「そう? 良かったわ」
 上ずったフリッツの声にアメリアが満足そうに笑い、きっと彼女はチャーミングに笑っているのだろうと思う。
「この先端から出ているのは、精液なの?」
「いいや、でもその先走りの汁にも微量だが精子は入っているらしいよ」
「ふぅん」
 また会話の方向性に危機を感じたフリッツは、「もういいよ」と優しくアメリアの手を撫でてから開放し、両手を彷徨わせて彼女の体をまさぐり、アメリアが自分を受け入れる体勢になっているのを再確認した。
「もう終わり? 男性の体のことよく知らないから、もっと教えて?」
 そんなアメリアらしい言葉に、フリッツは苦笑しながらペニスの先端を宛がう場所を求めて少し彷徨わせる。
「今度は実際に挿入して、男のこれを受け入れたら女性の君がどうなるのか、君自身が体験して学習すればいい」
「あら、そうね。じゃあ……早く、入れて」
「……」
 フリッツが固まった。
 アメリアの言葉と、その無邪気な声音と、「早く」という言葉の通りペニスに添えているフリッツの手を、そっと撫でる彼女の手。
 その全てが穢れを知らない少女の反応そのもので、これから自分は無垢なものを俗世へ引き摺り下ろすという罪悪感と、ただ単純に男としての性を奮い立たされて、彼は呼吸するのもままならないぐらいに興奮していた。
「どうしたの? ほら、早く」
 そんな風に男をねだる声は、彼の知る高級娼婦が言うのなら色欲にまみれていると思うのに、アメリアが口にするともっとそういう言葉を言わせたくなる。
 なので、逆にフリッツが彼女の言葉をねだろうとした。
 ぬりゅ……
 先端をぬかるみに擦りつけ、挿入すると見せかけてはすぐに腰を引き、焦らせる。
「ぁんっ、……あ、ちょっと……、や、……ぁ、はや……く」
 アメリアがもぞもぞと腰を動かし、甘く掠れた声で男を誘う。

 それだ。

 興奮したフリッツは更なる女の婀娜声を求め、ほんの少しの間アメリアに性的に焦れるという体験をさせてから、ゆっくりと彼女の体の中へ入っていった。
「あっ……、ぁ……。すご……い、入ってくるわ」
 アメリアの声も興奮していて、セリフだけならフリッツの知っている官能小説のマダムのようなのに、可憐な少女の声は未知の快楽を純粋に学習しようとしているのがわかる。
 性に奔放なようでいて、実は色を知らない真っ白なキャンバス。
 絵の具があるのを知っていて、どの色がどんな色彩を持つのかを知っているのに、アメリアというキャンバスは誰にも筆先を許した事がない。
 先日自ら筆を求めた時は、上手なやり方を知らずに予想していない筆跡がついてしまったが、今はフリッツという画家が上手に色を載せられる。
「どう……だい? アメリア。ちゃんとした手順で男に抱かれるのは」
「あの……、ぁ、……あ、すごい、わ。さっきより……、『気持ちいい』が強くて……っ、これ、さっきの指や舌みたいに動いたらどうなるのかしら? ……少し、怖い」
 彼女らしい感想を耳にし、フリッツは汗でしっとりとしたアメリアの肌をまさぐる。
 括れたウエストを探り当ててから、後で掴むべき場所を確認した手がまたシーツに着く。
「動くよ」
 アメリアの耳元でフリッツが囁き、初めて発情した彼女はそれだけで体の中のフリッツを締め付けてしまう。
 きゅう、と反応した彼女の体に、目隠しをされたフリッツの唇が笑って、ゆっくりと腰が前後し始めた。
「ぅ……っ、あうっ、あ、……あっ、なに、……こ、っれ……、あ」
 ゴクッと唾を飲み込む音が聞こえ、苦しそうなアメリアの声が聞こえる。
 先日は体に異物を咥え込んだ時、痛くて苦しくて堪らなかったのに、今はとても……そう、『気持ちいい』。
「辛い?」
 本当は真っ赤になって喘いでいるであろう彼女の顔がみたい。
 けれど、それは禁じられている事だ。
 禁じられているからこそ、フリッツは尚更燃え立つ。
「ううんっ、あぁっ……、あっ、もっと、もっとして……っ」
 フリッツの背中にアメリアの指先が立てられ、若々しい太腿が左右から男の逞しい体を挟みこむ。
「アメリア、あまり俺の動きを封じると上手く動けないよ」
「やぁぁっ」
 最早、普段の理知的な姿を失ってしまったアメリアが甘い声を上げ、フリッツの腰を締め付けていた脚を広げ、替わりに両の腕が必死になって彼の頭や背中を撫でさする。
 熱い楔が女を穿ち、処女を捨てたばかりの彼女は男がもたらす快楽を、貪欲に貪っていた。
 接合部から聞こえる音は、アメリアが今まで聞いた事のないいやらしい音で、頭は既にピンク色のゼリーに支配されている。
 フリッツが律動する度に、体の中を快楽の波が凄まじい勢いで脳天までを駆け上がってゆく。
 何度も、何度も打ち込まれ、アメリアの脳天でまるで天使の輪のように快楽が弾け、狭い小屋の空気に溶けてゆく――気がした。
「やっ……、あっ、ぁ、あ、なにっ、……こ、れ……っ、ぁ」
 手放しでその快楽に飛び込むにはアメリアは知識で頭でっかちになっており、自分が理解していないものを裸で受け入れるのには恐怖がある。
 自分が感じている『気持ちいい』をそのまま馬鹿のように受け入れるのも勇気が要り、アメリアはただただ戦慄していた。
「は……、は、……あぁ、……あ」
 一方額に汗を浮かべたフリッツは、目の見えない状態でアメリアの感度を自分の体で確かめつつ、彼女を突く強弱を図っていた。
 それにしても……、気持ちいい。
 今まで抱いた彼女たちがどうとか、アメリアが未体験だからとかじゃない。
 気持ち。
 自分がアメリアをどうにも思っていなかったら、こんなに気持ちいいと思って夢中にはなっていないのは自覚している。

 ――好きなんだ。

 その気持ちがコトリとパズルのピースのように心の奥底にはまった時、フリッツは狂おしい気持ちを抱いたまま体を伏せ、唇で彼女の顔の輪郭を辿ってからキスをした。
「んっ、ん、ぅ、うーっ」
 声を封じられたアメリアが苦しそうに呻き、体の深部を突かれて脚をバタバタとさせる。
 その行き場のない彼女の快楽と脚を、フリッツは自分の腰に絡めるように誘導し、自らも覚悟を決めた。
 前回は意識が朦朧としていて準備のない状態だったが、今は自分の意思で言うことができる。
 このまま彼女の中で果てて彼女が孕んだとしても、必ず自分はこの場所へ戻ってきて彼女と子供を引き取る、と。
 ちゅ、ちゅ、と何度も唇を併せてはアメリアの柔らかい唇を舐め、食む。
「んむぅっ、ふ、ぅ、あ、ぁんんっ、ぁ、あんっ」
 快楽で最早思考の整理ができていないアメリアが色っぽい声が啼き、誘導された脚は必死になってフリッツの腰に絡んでいる。
 温かい肌と肌がこすれ合い、吐息が絡み、熱と熱が体の最奥で溶け合って一つになってゆく。
 ぞわり
 這い上がってくる快楽の高まりに、アメリアは今まで以上の恐怖を感じた。
 必死になって小さな拳がフリッツの背中を叩き、開放された唇が今にも泣き出しそうな声で助けを求める。
「あのっ、あの、こわいのっ、なんか、くるわっ、どうしようっ、あの、こわいのっ」
 快楽と恐怖でグシャグシャになった声がそう懇願し、フリッツは彼女が絶頂を迎えようとしているのを察して微笑んだ。
「なに、わ、笑ってるのよっ、あっ、あぁっ、わ、私っ、こわいんだからっ」
 とうとうアメリアが嗚咽し始め、フリッツは手探りで彼女の額を確認し、そこにキスを落として頭をなでる。
「大丈夫だよ、それは『気持ちいい』の延長だから。一段階上の『気持ちいい』だと思っていい。そのままリラックスして俺を受け入れて」
 もう、止められない。
 俺はこの子の中で出す。
「けど……っ、わたしっ、自分じゃないのっ、へんなのっ、こわいのっ」
 アメリアの頭の奥でピンクの小川がサーと清流の音を聞かせていた。
 鼓動が頭の中で煩く鳴り、心臓は不必要なまでに激しく動いていう事をきいてくれない。
 これが運動によるものなのか、
 初めて異性に抱かれるという行為へのときめきなのか、
 恐怖を前にした緊張なのか、
 物知りだと自負していたアメリアには全くわからない。
「たす……っ、けっ……、――ぁっ」
 苦しそうに呻いたアメリアの言葉尻が高くなって吸い込まれ、そのままアメリアは全身を震わせて真っ白な世界へと意識を手放した。
 フリッツの敏感な場所を含んでいた場所が痙攣し、同じく高まっていたフリッツもアメリアの胸元に強く噛み付き、果てる。
「あああっ」
 痛い――。
 気持ちいい――。
 ただでさえ初めての絶頂に震えていたアメリアが、更なる刺激を与えられて飛んだ。
 ガクッと体が弛緩して脱力し、気を失ってなお男を迎えようとひくひくと収縮を繰り返す中だけが、彼女の意思とは別に動き続ける。
「っく……、ぁ」
 アメリアの胎内に白い花を咲かせたフリッツが荒い息をつき、繋がったまま彼女の隣にドサリと寝転がった。
「はぁ……」
 気持ちよかった。
 今までこんなに気持ちいい交わりはなかったんじゃないだろうか?
 ピンクがかった意識のなかでぼんやりと思うなか、屋根や窓を叩く雨音が心地良く思える。
 ずっとこのままでいたい……。
 きっとそれを口にしたらアメリアが怒ってしまうだろう事を思い、フリッツは溜息をつきかけてふと我に返った。
 今なら。
 今ならこの目隠しを取って、アメリアの姿をちらりと盗み見る事が可能なのではないか?
 ズルリと役目を終えたペニスを抜いて、フリッツは手を目隠しにかけて暫く考え込んだ。
 見たいか、見たくないかと言われれば、見たいに決まっている。
 彼女が自分が想像していたよりも平凡な顔立ちだったり、髪の色が想像と違っても構わない。
 好奇心がむくむくと頭をもたげ、禁忌の蓋に触れた手が震える。
 見たい――。
 見てしまおうか――?
「……」
 暫く悩んだあとに、フリッツの手が目隠しから離れた。
「なにやってるんだ、俺……」
 自分の欲に素直に生きるのは簡単だ。
 今だって男として反応してしまったのを、アメリアに相手をしてもらったばかりなのに、それ以上の事を彼女に要求してどうなるだろう?
 第一に彼女が気にしている約束を反故してしまえば、一時身を寄せている居場所だとしても信頼関係に亀裂が生じる。
 何よりもフリッツ一個人が、好意を寄せているアメリアに嫌われる事を恐れていた。
「見えないっていうのも……色々刺激されるよな……」
 嘆息混じりに呟いて手探りでアメリアの髪に触れ、つるつるとしたその感触を楽しむ。
 これは恋なのか。
 それとも特殊な状況下におかれてでの幻想なのか。
「風邪を引かせてはいけないな」
 手探りで毛布を探すと、足元の方に二つ折りになっていたのでそれを二人の体にかけた。
 怪我をしたらしい箇所は腕、腹、脚だが、全て打撲で、そこはアメリアの手製湿布薬で楽になっている。
 顔にもすり傷はあるみたいだが、それもアメリアが常備している塗り薬を塗ってくれた。
 こんな風にどこの誰とも知らない男を献身的に介護してくれて、彼女はそんなつもりはないだろうが、体までも許してくれて、自分は何ができるのだろう?
 王宮に召し抱えられると言っていたが、そこで自分が何かしらの便宜を図ることは可能だろうか?
「……ない、よな」
 ついさっき、夕食が終わったテーブルで口論になりかけたばかりだ。
 彼女は自分の好意を『情け』だと言った。
 そう解釈するという事は、彼女自身のプライドが高く、無自覚な部分での劣等感というものも強いのだろう。
 アメリアの話では彼女の両親は『いい身分』らしく、それなのにその実子である彼女は森暮らしだ。
 どうして自分が、という気持ちも少なからずはあるのだろう。
 けれど聡い彼女はそれを言わないし、恐らく言わせてもらえない環境だったのだ。
 そしてその鬱憤は書物の世界へと篭って貪欲に知識を漁り、自分の中で吐き出し口を求めて渦巻いていた欲望を果たしたのだろう。
 そして、アメリアという頭でっかちで純情な生娘ができあがった。
 何ともいえない話である。
 恐らくこの小屋はフースとロシェの国境のどちらか側にあり、彼女の言う『王宮』とは……。
 だが、言葉が通じる事を考えると、彼女が召し抱えられるのはフースの王宮という可能性が高いのではないだろうか?
 それならば……。
「この生活が終わっても、また会える可能性があるのか……?」
 五感は一つ失われれば、他の四つが余計に発達する。
 フリッツはもう既にアメリアの匂いを覚え、彼女の声も、輪郭も、秘められた味も覚えていた。
「きっと見つけてみせる」
 そう呟き、アメリアのしなやかな体を抱き締めたまま、フリッツも意識を闇の中に手放した。
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