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食事を終えて、それぞれ 編
マナーとデレ
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「立つ時はボタンを留める、座る時は外す、みたいな、スーツを一番良く見せるための暗黙のルールみたいなものだよ。正直、座っている時にボタンを留めていると、生地が引っ張られて癖やシワがつくからね。知ってると、スーツがクシャクシャにならなくて済むマナーみたいなもん。シワシワのスーツを着ていると、取引先相手にも失礼ととられかねない場合もあるしね」
「へえ、知りませんでした。私、パンツスーツとかよく着ますけど、それも同じルールですか?」
「女性の場合は常時留めてる感じが多いかな」
「そうなんですね。社会人四年目ですけど、もっかいマナー本とかおさらいしたほうがいいんでしょうか」
「まぁ、マナーはマナーだからね。法律で決まってもいない、『こうしておくとスマートですよ』みたいなものだから、あんまり雁字搦めになる必要はないと思うよ」
「とか言っておきながら、涼さんはテーブルマナーとか完璧なんでしょ?」
私はツンツンと彼の胸板をつつく。
「知ってると面白いかもね。食べ終わりにフォークとナイフを揃えて置くでしょ? 日本、アメリカ式では五時の位置に置くけど、フランス式は三時の位置、イギリス式は六時の位置とか、違いがあって面白いよ」
「へぇ~!」
私は興味を持って声を上げる。
「あと、九時の位置に置くと『美味しかった』っていう意味になるとか、ハの字に置いてナイフとフォークをクロスさせておくと『美味しくなかった』とか」
「うぇー、間違えたら恐い」
「基本、そういう細かいのは滅多に使わないけどね。次のお皿を催促する置き方もあるけど、コース料理は急いで食べるものじゃないし、時間に余裕を持って楽しむもので、レストラン側も料理の感覚をきちんとコントロールしているはずだから、余程じゃないと必要じゃない、が俺の持論かな」
「奥が深いんですねぇ……」
「面白いのは、中華を食べる時、大皿の料理は一口分残しておくとかかな。あとはナプキンやテーブルクロスが汚れていると『美味しかった』って意味になるみたいだよ。まぁ、日本人が経営する日本の中華では、特に必要ない知識だと思うけどね。日本人の場合、残さず綺麗に食べてなんぼ、が当たり前になっていると思うし」
「国ごとに違って面白いですね。……それで涼さんは、韓国に行ったらお肉を焼いてくれるオンニがいるんですね」
友達で韓国アイドルに嵌まっている子がいて、ちょっと教えてもらったけど、オンニとは関係の親しい、年上のお姉さんを指す言葉らしい。
同時に、女性の店員さん示す事もあるそうだ。
そしてお店に寄っては、焼き肉を店員さんが焼いてくれる所もあるらしく、涼さんなら美人なお姉さんに、でっかい骨付き肉を焼いてもらってそう……、と思った次第だ。
「なかなか突っ込んだ事を聞いてくれるけど、俺は熟練のオモニムの技術を好むタイプだから」
オモニムは年上のマダムの事だ。
確かに、涼さんだったら美味しい物を食べるのに手を抜かないから、その道何十年のマダムと仲良くなってそうだな……。
「嫉妬してくれたの? 会った事のない、焼き肉屋のスタッフにまで」
「違いますよ! この話、終わり!」
照れくさくなって立とうとすると、グッと涼さんに手首を掴まれた。
「もっと恵ちゃんのデレがほしいな」
「……おかわりには応じてません」
「わんこ蕎麦みたいに『よいしょー』ってキスしてくれたらいいのに」
「そんな明るいキスしませんよ。ありがたみがない」
「……恵ちゃんって、カップルトレーニングとかも嫌いなタイプ?」
急に涼さんがハッとして尋ねてきた。
「なんですかそれ」
単語からしてろくな響きをしてないな……と思いつつ尋ねると、涼さんは握った私の手首を、指でスリスリしながら言う。
「一回腹筋できるごとに、チュッてキスをするとか、男性が立ったまま女性を抱えて、腹筋のお手伝いをするとか」
「はい、却下ー」
サラッと流すと、涼さんはまた「恵ちゃんが冷たい……」とウジウジ我が儘を言い始める。
「……涼さんはいっつも極論なんですよ。私は基本的にかけうどんみたいな女なので、うどんカルボナーラみたいなの出されても、困るんですよ」
「美味しいじゃないか」
「美味しいですけど……」
「まぁ、そんな素朴なところも、恵ちゃんの百八ある魅力の一つだけどね!」
涼さんは訳の分からない事を言い、私の腕を引っ張って抱き締めてきた。
「わっ……」
胸板の上にムギュッと顔を押しつけてしまった私は、とっさに起き上がろうとする。
けれど、「だーめ」と抱きすくめられ、脚を絡められてしまった。
「へえ、知りませんでした。私、パンツスーツとかよく着ますけど、それも同じルールですか?」
「女性の場合は常時留めてる感じが多いかな」
「そうなんですね。社会人四年目ですけど、もっかいマナー本とかおさらいしたほうがいいんでしょうか」
「まぁ、マナーはマナーだからね。法律で決まってもいない、『こうしておくとスマートですよ』みたいなものだから、あんまり雁字搦めになる必要はないと思うよ」
「とか言っておきながら、涼さんはテーブルマナーとか完璧なんでしょ?」
私はツンツンと彼の胸板をつつく。
「知ってると面白いかもね。食べ終わりにフォークとナイフを揃えて置くでしょ? 日本、アメリカ式では五時の位置に置くけど、フランス式は三時の位置、イギリス式は六時の位置とか、違いがあって面白いよ」
「へぇ~!」
私は興味を持って声を上げる。
「あと、九時の位置に置くと『美味しかった』っていう意味になるとか、ハの字に置いてナイフとフォークをクロスさせておくと『美味しくなかった』とか」
「うぇー、間違えたら恐い」
「基本、そういう細かいのは滅多に使わないけどね。次のお皿を催促する置き方もあるけど、コース料理は急いで食べるものじゃないし、時間に余裕を持って楽しむもので、レストラン側も料理の感覚をきちんとコントロールしているはずだから、余程じゃないと必要じゃない、が俺の持論かな」
「奥が深いんですねぇ……」
「面白いのは、中華を食べる時、大皿の料理は一口分残しておくとかかな。あとはナプキンやテーブルクロスが汚れていると『美味しかった』って意味になるみたいだよ。まぁ、日本人が経営する日本の中華では、特に必要ない知識だと思うけどね。日本人の場合、残さず綺麗に食べてなんぼ、が当たり前になっていると思うし」
「国ごとに違って面白いですね。……それで涼さんは、韓国に行ったらお肉を焼いてくれるオンニがいるんですね」
友達で韓国アイドルに嵌まっている子がいて、ちょっと教えてもらったけど、オンニとは関係の親しい、年上のお姉さんを指す言葉らしい。
同時に、女性の店員さん示す事もあるそうだ。
そしてお店に寄っては、焼き肉を店員さんが焼いてくれる所もあるらしく、涼さんなら美人なお姉さんに、でっかい骨付き肉を焼いてもらってそう……、と思った次第だ。
「なかなか突っ込んだ事を聞いてくれるけど、俺は熟練のオモニムの技術を好むタイプだから」
オモニムは年上のマダムの事だ。
確かに、涼さんだったら美味しい物を食べるのに手を抜かないから、その道何十年のマダムと仲良くなってそうだな……。
「嫉妬してくれたの? 会った事のない、焼き肉屋のスタッフにまで」
「違いますよ! この話、終わり!」
照れくさくなって立とうとすると、グッと涼さんに手首を掴まれた。
「もっと恵ちゃんのデレがほしいな」
「……おかわりには応じてません」
「わんこ蕎麦みたいに『よいしょー』ってキスしてくれたらいいのに」
「そんな明るいキスしませんよ。ありがたみがない」
「……恵ちゃんって、カップルトレーニングとかも嫌いなタイプ?」
急に涼さんがハッとして尋ねてきた。
「なんですかそれ」
単語からしてろくな響きをしてないな……と思いつつ尋ねると、涼さんは握った私の手首を、指でスリスリしながら言う。
「一回腹筋できるごとに、チュッてキスをするとか、男性が立ったまま女性を抱えて、腹筋のお手伝いをするとか」
「はい、却下ー」
サラッと流すと、涼さんはまた「恵ちゃんが冷たい……」とウジウジ我が儘を言い始める。
「……涼さんはいっつも極論なんですよ。私は基本的にかけうどんみたいな女なので、うどんカルボナーラみたいなの出されても、困るんですよ」
「美味しいじゃないか」
「美味しいですけど……」
「まぁ、そんな素朴なところも、恵ちゃんの百八ある魅力の一つだけどね!」
涼さんは訳の分からない事を言い、私の腕を引っ張って抱き締めてきた。
「わっ……」
胸板の上にムギュッと顔を押しつけてしまった私は、とっさに起き上がろうとする。
けれど、「だーめ」と抱きすくめられ、脚を絡められてしまった。
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