【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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食事を終えて、それぞれ 編

マナーとデレ

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「立つ時はボタンを留める、座る時は外す、みたいな、スーツを一番良く見せるための暗黙のルールみたいなものだよ。正直、座っている時にボタンを留めていると、生地が引っ張られて癖やシワがつくからね。知ってると、スーツがクシャクシャにならなくて済むマナーみたいなもん。シワシワのスーツを着ていると、取引先相手にも失礼ととられかねない場合もあるしね」

「へえ、知りませんでした。私、パンツスーツとかよく着ますけど、それも同じルールですか?」

「女性の場合は常時留めてる感じが多いかな」

「そうなんですね。社会人四年目ですけど、もっかいマナー本とかおさらいしたほうがいいんでしょうか」

「まぁ、マナーはマナーだからね。法律で決まってもいない、『こうしておくとスマートですよ』みたいなものだから、あんまり雁字搦めになる必要はないと思うよ」

「とか言っておきながら、涼さんはテーブルマナーとか完璧なんでしょ?」

 私はツンツンと彼の胸板をつつく。

「知ってると面白いかもね。食べ終わりにフォークとナイフを揃えて置くでしょ? 日本、アメリカ式では五時の位置に置くけど、フランス式は三時の位置、イギリス式は六時の位置とか、違いがあって面白いよ」

「へぇ~!」

 私は興味を持って声を上げる。

「あと、九時の位置に置くと『美味しかった』っていう意味になるとか、ハの字に置いてナイフとフォークをクロスさせておくと『美味しくなかった』とか」

「うぇー、間違えたら恐い」

「基本、そういう細かいのは滅多に使わないけどね。次のお皿を催促する置き方もあるけど、コース料理は急いで食べるものじゃないし、時間に余裕を持って楽しむもので、レストラン側も料理の感覚をきちんとコントロールしているはずだから、余程じゃないと必要じゃない、が俺の持論かな」

「奥が深いんですねぇ……」

「面白いのは、中華を食べる時、大皿の料理は一口分残しておくとかかな。あとはナプキンやテーブルクロスが汚れていると『美味しかった』って意味になるみたいだよ。まぁ、日本人が経営する日本の中華では、特に必要ない知識だと思うけどね。日本人の場合、残さず綺麗に食べてなんぼ、が当たり前になっていると思うし」

「国ごとに違って面白いですね。……それで涼さんは、韓国に行ったらお肉を焼いてくれるオンニがいるんですね」

 友達で韓国アイドルに嵌まっている子がいて、ちょっと教えてもらったけど、オンニとは関係の親しい、年上のお姉さんを指す言葉らしい。

 同時に、女性の店員さん示す事もあるそうだ。

 そしてお店に寄っては、焼き肉を店員さんが焼いてくれる所もあるらしく、涼さんなら美人なお姉さんに、でっかい骨付き肉を焼いてもらってそう……、と思った次第だ。

「なかなか突っ込んだ事を聞いてくれるけど、俺は熟練のオモニムの技術を好むタイプだから」

 オモニムは年上のマダムの事だ。

 確かに、涼さんだったら美味しい物を食べるのに手を抜かないから、その道何十年のマダムと仲良くなってそうだな……。

「嫉妬してくれたの? 会った事のない、焼き肉屋のスタッフにまで」

「違いますよ! この話、終わり!」

 照れくさくなって立とうとすると、グッと涼さんに手首を掴まれた。

「もっと恵ちゃんのデレがほしいな」

「……おかわりには応じてません」

「わんこ蕎麦みたいに『よいしょー』ってキスしてくれたらいいのに」

「そんな明るいキスしませんよ。ありがたみがない」

「……恵ちゃんって、カップルトレーニングとかも嫌いなタイプ?」

 急に涼さんがハッとして尋ねてきた。

「なんですかそれ」

 単語からしてろくな響きをしてないな……と思いつつ尋ねると、涼さんは握った私の手首を、指でスリスリしながら言う。

「一回腹筋できるごとに、チュッてキスをするとか、男性が立ったまま女性を抱えて、腹筋のお手伝いをするとか」

「はい、却下ー」

 サラッと流すと、涼さんはまた「恵ちゃんが冷たい……」とウジウジ我が儘を言い始める。

「……涼さんはいっつも極論なんですよ。私は基本的にかけうどんみたいな女なので、うどんカルボナーラみたいなの出されても、困るんですよ」

「美味しいじゃないか」

「美味しいですけど……」

「まぁ、そんな素朴なところも、恵ちゃんの百八ある魅力の一つだけどね!」

 涼さんは訳の分からない事を言い、私の腕を引っ張って抱き締めてきた。

「わっ……」

 胸板の上にムギュッと顔を押しつけてしまった私は、とっさに起き上がろうとする。

 けれど、「だーめ」と抱きすくめられ、脚を絡められてしまった。
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