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営業部ラプソディ 編
他意はなかった
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彼は自然に私の隣に座り、脚を組むとコーヒーのプルタブを開ける。
「……いただきます」
重ねてのお礼もかねて会釈すると、六条さんは「ん」と頷いた。
私は〝さわやかトマト〟を開け、一口飲む。
六条さんは私に用があって座ったのではなく、コーヒーを飲みきるまでの間、座っているだけのようだ。
でも私にとって、その時間は大切なチャンスに思えた。
(上村さんの事を聞いたら、六条さんを気にしてるって思われるのかな……)
特に何かを求められている訳じゃないのに、私は時間稼ぎをするようにチビチビとジュースを飲む。
六条さんはポケットからスマホを出し、チャットアプリを確認している。
私はいまだに彼の交友関係を知らないし、社外でどんな女性と関わりがあるのか分からない。
だから、興味があって知りたいなら、自分から聞いてみないとこのままだ。
「…………六条さんって友達いるんですか?」
尋ねたら、彼はガクッとわざとらしく項垂れてみせた。
「……あのなぁ。みんなが大好き六条さんに、友達いないと思う?」
「自分で自分の事をそう言えるの、凄いですね」
――あぁ、好きなのにこんな事しか言えないの、本当に終わってる。
「沙根崎だって、友達や彼氏、いるだろ?」
サラッとそう言われ、私はスッ……と真顔になり、高揚していた気持ちが冷めていくのを感じた。
「……私に彼氏がいると思っていたんですか?」
「え? 違ったか? すまん。セクハラだったな」
六条さんは失言したという顔をし、髪を掻き上げる。
――胸が痛い。
彼は私に恋人がいると思っていて、それでも何とも思っていなかったんだ。
彼氏がいるかどうか、カマをかけた可能性もあるけれど、六条さんは私に対して後輩以外の感情を持っていないように思える。
少なくとも、上村さんにちょっかい掛けているような、嬉しそうでワクワクした顔はしていない。
それだけでもう、答えは全部分かったようなものだ。
私は大きな溜め息をつき、脚を組む。
「悪かったって。他意はなかった」
――ええ、そうでしょうとも。
――六条さんは私に対して〝他意〟なんてまったく持ってない。
やさぐれた私は、「今日帰りに飲んでやる」と思いながら、半ばやけくそ気味に言った。
「六条さんこそ、彼女いないんですか? 上村さんにちょっかい掛けてたぐらいだから、勿論いないですよね?」
嫌みたっぷりに言うと、彼は少し驚いたように瞠目する。
「あー……。……いや、彼女はいないけど」
嫌な事を言ってしまったくせに、彼がフリーだと知って喜んでいる自分がいる。
「……俺、そんなに分かりやすかった?」
「あれのどこに、さりげなさがあるんですか? 逆に教えてほしいぐらいです。まるで小学生男子みたいに、気になってる女の子に声を掛けて、からかって……って。見ていて恥ずかしいぐらいですよ」
――あー、もう。
――勝手に憎まれ口叩いてしまうこの口、どうにかならないかな。
私は自分自身に苛立って、腕組みをする。
六条さんは大きな溜め息をつくと、コーヒーを飲み干した。
「……まぁー……、敵わない恋だって分かってるけどな? 一応これでも身の程は知ってるんだよ」
彼の言葉を聞いて、また胸が痛くなる。
篠宮副社長と自分を比べてそう言っているんだろうけど、私にとって六条さんこそが最高に格好いい人なんだから、そんな事言わないでほしい。
「ちょっと大目に見てくれよ。今、少しずつ諦めようと努力してる最中だから。……ま、ぶっちゃけ上村には三年前にフラれてるんだけど」
「えっ? もう告白したんですか!?」
三年前と言ったら、私が入社する前だ。
「当時は速水部長と付き合ってなかったそうだけど、彼氏がいるって言われて、サラッとフラれたよ」
私は突然の展開についていけず、黙りこくる。
「三年前にフラれて今でもちょっかい掛けてんのか、未練がましいって思われるだろうけど、……それぐらい真剣だったし、すぐ風化できる想いでもなかったんだよ。上村に『これからもいつも通り接していいか?』って言ったらOKもらったから、フラれたからってよそよそしくなるのも何か違うし」
「はぁ……」
私は大きな溜め息をつき、両手で顔を覆う。
「……いただきます」
重ねてのお礼もかねて会釈すると、六条さんは「ん」と頷いた。
私は〝さわやかトマト〟を開け、一口飲む。
六条さんは私に用があって座ったのではなく、コーヒーを飲みきるまでの間、座っているだけのようだ。
でも私にとって、その時間は大切なチャンスに思えた。
(上村さんの事を聞いたら、六条さんを気にしてるって思われるのかな……)
特に何かを求められている訳じゃないのに、私は時間稼ぎをするようにチビチビとジュースを飲む。
六条さんはポケットからスマホを出し、チャットアプリを確認している。
私はいまだに彼の交友関係を知らないし、社外でどんな女性と関わりがあるのか分からない。
だから、興味があって知りたいなら、自分から聞いてみないとこのままだ。
「…………六条さんって友達いるんですか?」
尋ねたら、彼はガクッとわざとらしく項垂れてみせた。
「……あのなぁ。みんなが大好き六条さんに、友達いないと思う?」
「自分で自分の事をそう言えるの、凄いですね」
――あぁ、好きなのにこんな事しか言えないの、本当に終わってる。
「沙根崎だって、友達や彼氏、いるだろ?」
サラッとそう言われ、私はスッ……と真顔になり、高揚していた気持ちが冷めていくのを感じた。
「……私に彼氏がいると思っていたんですか?」
「え? 違ったか? すまん。セクハラだったな」
六条さんは失言したという顔をし、髪を掻き上げる。
――胸が痛い。
彼は私に恋人がいると思っていて、それでも何とも思っていなかったんだ。
彼氏がいるかどうか、カマをかけた可能性もあるけれど、六条さんは私に対して後輩以外の感情を持っていないように思える。
少なくとも、上村さんにちょっかい掛けているような、嬉しそうでワクワクした顔はしていない。
それだけでもう、答えは全部分かったようなものだ。
私は大きな溜め息をつき、脚を組む。
「悪かったって。他意はなかった」
――ええ、そうでしょうとも。
――六条さんは私に対して〝他意〟なんてまったく持ってない。
やさぐれた私は、「今日帰りに飲んでやる」と思いながら、半ばやけくそ気味に言った。
「六条さんこそ、彼女いないんですか? 上村さんにちょっかい掛けてたぐらいだから、勿論いないですよね?」
嫌みたっぷりに言うと、彼は少し驚いたように瞠目する。
「あー……。……いや、彼女はいないけど」
嫌な事を言ってしまったくせに、彼がフリーだと知って喜んでいる自分がいる。
「……俺、そんなに分かりやすかった?」
「あれのどこに、さりげなさがあるんですか? 逆に教えてほしいぐらいです。まるで小学生男子みたいに、気になってる女の子に声を掛けて、からかって……って。見ていて恥ずかしいぐらいですよ」
――あー、もう。
――勝手に憎まれ口叩いてしまうこの口、どうにかならないかな。
私は自分自身に苛立って、腕組みをする。
六条さんは大きな溜め息をつくと、コーヒーを飲み干した。
「……まぁー……、敵わない恋だって分かってるけどな? 一応これでも身の程は知ってるんだよ」
彼の言葉を聞いて、また胸が痛くなる。
篠宮副社長と自分を比べてそう言っているんだろうけど、私にとって六条さんこそが最高に格好いい人なんだから、そんな事言わないでほしい。
「ちょっと大目に見てくれよ。今、少しずつ諦めようと努力してる最中だから。……ま、ぶっちゃけ上村には三年前にフラれてるんだけど」
「えっ? もう告白したんですか!?」
三年前と言ったら、私が入社する前だ。
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「三年前にフラれて今でもちょっかい掛けてんのか、未練がましいって思われるだろうけど、……それぐらい真剣だったし、すぐ風化できる想いでもなかったんだよ。上村に『これからもいつも通り接していいか?』って言ったらOKもらったから、フラれたからってよそよそしくなるのも何か違うし」
「はぁ……」
私は大きな溜め息をつき、両手で顔を覆う。
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