718 / 792
営業部ラプソディ 編
喧嘩腰
しおりを挟む
(思っていたより、ずっと一途な男だった)
そこがいい、と言えばその通りだ。
六条さんは明るくてみんなに好かれているから、色んな女性をとっかえひっかえしていても、おかしくない雰囲気がある。
だからこそ、凄く一途な男性だと知って「やっぱり六条さんはそうじゃないと」と頷く自分がいるいっぽうで、相手が上村さんだと知って不戦敗するしかないと考える自分もいる。
「……綺麗ですもんね、彼女」
「んー、確かに美人だけど、それだけじゃないんだよな」
六条さんが上村さんに惹かれる理由は、見た目以外にも色々あるのだろう。
けれどそれを掘り下げて知りたいとは思わなかった。
好きな人が想い人の魅力を語るのを聞くほど、私は人間ができていない。
「……想いを風化させてる途中なら、応援しますよ」
「サンキュ」
彼はクシャッと笑い、「はぁ……」と溜め息をついて脚を投げ出す。
「……ありがとな、沙根崎。打ち明けられて、少し気持ちが楽になった」
「誰にも言わないから、安心してください」
「疑ってねーって。お前は義理堅い性格をしてるし、他人の大切な想いを軽んじる行為って、一番嫌うタイプだろ」
まさにその通りな事を言われ、どうしてここまで私の事を理解しているのに、私を好きになってくれないのか、だんだん腹が立ってきた。
「あのですね!」
私は六条さんの袖を掴み、喧嘩腰ギリギリの勢いで彼を見つめる。
「ん?」
彼はいつもとまったく変わりない様子で、パチクリと目を瞬かせた。
――あぁ、ムカつく。
心の中で暴れ馬がいななき、後ろ足で立ちあがった。
「上村さんの事を忘れた頃、私なんてどうですかね!?」
自分の想いは秘めておこうと思っていたはずだったのに、私は気がつけば六条さんの腕をグッと掴み、思いきり彼を睨んで告白していた。
六条さんは呆気にとられた表情で私を見て、しばし言葉を失う。
――勢いで言っちゃったー!
ブワッと変な汗を掻いて後悔するものの、もう遅いので引き続き彼を睨んだ。
六条さんは私を見つめ返したあと、尋ねてくる。
「沙根崎、俺の事好きなの?」
「好きですが、何か?」
照れ隠しで喧嘩腰になるの、本当にやめたい……。
すると彼は小さく笑い、「や、悪い」と断りを入れ、そのあともクスクス笑い続ける。
「ごめんごめん。こんな、喧嘩売るように告白されたの、初めてで……」
「はぁ、愛想がなくてすみません」
謝ったあとに無理矢理笑おうとしてみたけれど、歯を剥きだしにして鼻の頭がピクピクしてしまい、多分子供が見たら泣く顔をしている。
「ぶふ……っ! 無理に笑わなくていいって! はー……、お前を見てると祖父ちゃん家で飼ってた、人に懐かない犬を思いだすよ」
六条さんはそう言ったあと、気持ちをとりなおして笑った。
「ありがとな! 嬉しい」
そう言ってくれたけれど、続く言葉は分かっていた。
「でも、今すぐは応えられない」
「……分かってますよ。いま話を聞いたばっかりですから」
私は返事をし、ジュースをくーっと飲む。
(どこまでもまっすぐで、正直なあなただから好きになったんです。今さら自分を偽って付き合ってもらっても、まったく嬉しくありません)
六条さんは少し考えたあと、私を見て微笑む。
「答えを出すまで待っていてくれるか?」
「多分」
「多分かよ」
「六条さんいわく、私は可愛いほうなんでしょう? いつ告白されるか分かりませんし」
そんな気配なんてまったくないけれど、強がってみる。
本当に自分が可愛くなくて恨めしいけれど、どうにかならないものか、これ……。
「……多分、恋愛ってタイミングなんだろうな。沙根崎みたいに俺を想ってくれている人がいても、すぐにそっちを向けない場合がある」
そう言ったあと、彼は上村さんの事を考えているのだろう、と分かった。
少し前に同じ部署の男性たちが、『上村さんって今フリーなんだって』と言っていたのを聞いた事がある。
その時は『あんな美人でも別れる彼氏がいるんだ』と少し驚いたけれど、六条さんの言う通り、タイミングや条件、色んなものが重なったんだろう。
「……いつか道が交わった時は、宜しく」
実に六条さんらしい返事をもらい、私は溜め息をついてから、空き缶をゴミ箱に放り投げる。
「その間も、私は前進し続けますからね」
「俺もだよ」
彼はクスクス笑い、立ちあがると空き缶を捨てて腕時計を見た。
そこがいい、と言えばその通りだ。
六条さんは明るくてみんなに好かれているから、色んな女性をとっかえひっかえしていても、おかしくない雰囲気がある。
だからこそ、凄く一途な男性だと知って「やっぱり六条さんはそうじゃないと」と頷く自分がいるいっぽうで、相手が上村さんだと知って不戦敗するしかないと考える自分もいる。
「……綺麗ですもんね、彼女」
「んー、確かに美人だけど、それだけじゃないんだよな」
六条さんが上村さんに惹かれる理由は、見た目以外にも色々あるのだろう。
けれどそれを掘り下げて知りたいとは思わなかった。
好きな人が想い人の魅力を語るのを聞くほど、私は人間ができていない。
「……想いを風化させてる途中なら、応援しますよ」
「サンキュ」
彼はクシャッと笑い、「はぁ……」と溜め息をついて脚を投げ出す。
「……ありがとな、沙根崎。打ち明けられて、少し気持ちが楽になった」
「誰にも言わないから、安心してください」
「疑ってねーって。お前は義理堅い性格をしてるし、他人の大切な想いを軽んじる行為って、一番嫌うタイプだろ」
まさにその通りな事を言われ、どうしてここまで私の事を理解しているのに、私を好きになってくれないのか、だんだん腹が立ってきた。
「あのですね!」
私は六条さんの袖を掴み、喧嘩腰ギリギリの勢いで彼を見つめる。
「ん?」
彼はいつもとまったく変わりない様子で、パチクリと目を瞬かせた。
――あぁ、ムカつく。
心の中で暴れ馬がいななき、後ろ足で立ちあがった。
「上村さんの事を忘れた頃、私なんてどうですかね!?」
自分の想いは秘めておこうと思っていたはずだったのに、私は気がつけば六条さんの腕をグッと掴み、思いきり彼を睨んで告白していた。
六条さんは呆気にとられた表情で私を見て、しばし言葉を失う。
――勢いで言っちゃったー!
ブワッと変な汗を掻いて後悔するものの、もう遅いので引き続き彼を睨んだ。
六条さんは私を見つめ返したあと、尋ねてくる。
「沙根崎、俺の事好きなの?」
「好きですが、何か?」
照れ隠しで喧嘩腰になるの、本当にやめたい……。
すると彼は小さく笑い、「や、悪い」と断りを入れ、そのあともクスクス笑い続ける。
「ごめんごめん。こんな、喧嘩売るように告白されたの、初めてで……」
「はぁ、愛想がなくてすみません」
謝ったあとに無理矢理笑おうとしてみたけれど、歯を剥きだしにして鼻の頭がピクピクしてしまい、多分子供が見たら泣く顔をしている。
「ぶふ……っ! 無理に笑わなくていいって! はー……、お前を見てると祖父ちゃん家で飼ってた、人に懐かない犬を思いだすよ」
六条さんはそう言ったあと、気持ちをとりなおして笑った。
「ありがとな! 嬉しい」
そう言ってくれたけれど、続く言葉は分かっていた。
「でも、今すぐは応えられない」
「……分かってますよ。いま話を聞いたばっかりですから」
私は返事をし、ジュースをくーっと飲む。
(どこまでもまっすぐで、正直なあなただから好きになったんです。今さら自分を偽って付き合ってもらっても、まったく嬉しくありません)
六条さんは少し考えたあと、私を見て微笑む。
「答えを出すまで待っていてくれるか?」
「多分」
「多分かよ」
「六条さんいわく、私は可愛いほうなんでしょう? いつ告白されるか分かりませんし」
そんな気配なんてまったくないけれど、強がってみる。
本当に自分が可愛くなくて恨めしいけれど、どうにかならないものか、これ……。
「……多分、恋愛ってタイミングなんだろうな。沙根崎みたいに俺を想ってくれている人がいても、すぐにそっちを向けない場合がある」
そう言ったあと、彼は上村さんの事を考えているのだろう、と分かった。
少し前に同じ部署の男性たちが、『上村さんって今フリーなんだって』と言っていたのを聞いた事がある。
その時は『あんな美人でも別れる彼氏がいるんだ』と少し驚いたけれど、六条さんの言う通り、タイミングや条件、色んなものが重なったんだろう。
「……いつか道が交わった時は、宜しく」
実に六条さんらしい返事をもらい、私は溜め息をついてから、空き缶をゴミ箱に放り投げる。
「その間も、私は前進し続けますからね」
「俺もだよ」
彼はクスクス笑い、立ちあがると空き缶を捨てて腕時計を見た。
609
あなたにおすすめの小説
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。
BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。
父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した!
メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
某国王家の結婚事情
小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。
侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。
王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。
しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。
地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます
久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」
大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。
彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。
しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。
失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。
彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。
「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。
蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。
地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。
そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。
これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。
数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。
王子様への置き手紙
あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
縁の鎖
T T
恋愛
姉と妹
切れる事のない鎖
縁と言うには悲しく残酷な、姉妹の物語
公爵家の敷地内に佇む小さな離れの屋敷で母と私は捨て置かれるように、公爵家の母屋には義妹と義母が優雅に暮らす。
正妻の母は寂しそうに毎夜、父の肖像画を見つめ
「私の罪は私まで。」
と私が眠りに着くと語りかける。
妾の義母も義妹も気にする事なく暮らしていたが、母の死で一変。
父は義母に心酔し、義母は義妹を溺愛し、義妹は私の婚約者を懸想している家に私の居場所など無い。
全てを奪われる。
宝石もドレスもお人形も婚約者も地位も母の命も、何もかも・・・。
全てをあげるから、私の心だけは奪わないで!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる